第73話 帰ってきましたいつものダンジョン(まずは新機能のテストから)

「ラークの町が見えたぞ」


 スレイオさんの声に馬車の幌から顔を出すと、街道の先に町が見えてきた。


「おー、戻って来たー」


 ラークの町、それは私がこっちの世界に転移して来たダンジョンのある町だ。

 そしてリドターンさん達の本拠地でもある。

 馬車が町に入ると、私達は馬車から降りる。


「では馬車を売ってきます」


 町まで戻って来て馬車が不要になったので、ストットさんは馬ごと馬車を売りに向かう。

 せっかく買ったのに売るのはなんだかもったいないと思ったんだけど、ストットさん曰く、馬は生き物だから買い続けるにはご飯を上げないといけないし、町に居る時は厩舎に預ける必要がある。それに馬車も置き場に困るから、さっさと売ってしまった方が良いのだという話だった。


「ちなみにこれは俺達みたいな一度の冒険で結構な額を稼げる冒険者のやり方だからな。普通はその都度乗合馬車に乗るか、馬車を買うなら長く使う事を考えて計画を立てる。何せ売る時は買う時よりも安く買い叩かれるもんだからな」


「うぐっ、ご迷惑おかけしました……」


 何せストットさんが馬車を買ったのは私が原因だからなぁ。


「ああ気にするな。むしろお前に関わったおかげで小銭を稼ぐよりもはるかに価値のあるモノを得たからな」


「そうなんですか?」


 お金よりも遥かに価値のあるモノってなんだろ? 私と一緒に冒険してる時に何か特別な素材を見つけてたとか?


「そもそもストットのヤツが売るんだ。間違っても損をする心配なんか知る必要ねーよ」


 それ、僧侶とか神官に対してする信頼じゃないですよね? 寧ろ商人に対する信頼なのでは?


「では我々は宿に戻るが、アユミはどうする?」


 ストットさんを待つつもりのないリドターンさん達はこのまま宿に戻るつもりのようで、

私はどうするのかと尋ねてくる。


「私も町に戻ったらやりたい事があったのでこれで失礼します」


 まずは攻略されたダンジョンの再構築が終わっているか調べないとね。

で、マイホームこと隠し部屋が残っているのか確認しないと。


「そうか。だが旅を終えて帰って来たばかりだから無自覚な疲れも堪っているだろう。あまり無理をするなよ」


「はい!」


 リドターンさんからしっかり休むようにと念を押され、皆と別れようとした私の肩をキュルトさんが掴む。


「アユミよ」


「何ですかキュルトさん?」


「また転移する時は絶対に儂を呼ぶんじゃぞ。絶対じゃぞ」


「あはは、分かりましたって」


 キュルトさん、ルドラアース製のスキルを取得できたかもしれないマジックアイテムを買いそびれて滅茶苦茶残念がっていたからなぁ。


「絶対じゃぞー!」


「はーい!」


 漸く解放された私は、ダンジョンへと向かう。


 ◆


「おー、ちゃんと人が入ってる」


 どうやらダンジョンの再構築は終わっていたらしく、冒険者達がダンジョンへと入ってゆく姿が見える。


「さて、それじゃあ行こうか」


 ダンジョンに入る冒険者達に混ざると、何人もの冒険者達が私をチラリと見てくるけれど、それ以上に騒ぐことはなかった。

 うん、特訓の成果が出てるね。

 私は自分の背中にマントのように張り付いた羽の先をチラリと視界の隅に捕らえる。


 そう、妖精に進化した私は、背中から生えた羽の影響で超絶目立つ外見になってしまったのだ。

 髪の毛はフードで隠せばいいけど、羽はそうもいかない。

 なので私は必死で羽を畳んで服の一部っぽくみせかける様に訓練したのである。


 元々持っていない器官だった為にその制御には凄く苦労したけれど、馬車の旅の間に頑張って訓練した結果、私は『身体制御』のスキルを取得することに成功したのである。


 このスキルは体を自在に動かすスキルで、スレイオさんの話だと普通は意識しないと出来ない体の動きをスムーズに動かす為のスキルらしい。

例えば手の指を広げた時、人差し指と中指、小指と薬指だけはそれぞれくっつけた状態にすると言った具合に。


 そういった意識しないと他の部位と連動して動くような体の部位の動きを制御したり、他にも片足立ちをした時に重心を制御してグラグラ揺れたりせずにピタッと制止した状態で立ち続けたりできるようになった。

 で、このスキルを使って私は羽を曲げて服の一部のように見せかけているのだ。


 そしてダンジョン内に入った私はいつも通りのルートを辿り、隠し部屋のある場所へと向かう……のだけれど。


「道が塞がってる」


 そう、ダンジョンが再構築された事で構造が変わってしまい、今までの道が使えなくなっていたのだ。


「ガッツリ変わったねー。これだと隠し部屋も無くなってるんじゃない?」


 人目が無くなった事で腰の小瓶から出て来たリューリが大きく伸びをしながら私の肩に止まる。


「んー、無くなってる可能性も高いけど、ダンジョンが定期的に再構築してるのなら、隠し部屋はどこかにあると思うんだよね」


 というのも、ルドラアースのダンジョンとエーフェアースのダンジョンではどちらのダンジョンにも隠し部屋があったからだ。

別世界の、それも何度再構築を繰り返しているか分からないダンジョンなのに、何故か計ったように隠し部屋があった。

しかもどちらのダンジョンも一層で発見したしね。


定期的にダンジョンが再構築されてその度に隠し部屋が出来たり無くなったりしているのなら、どちらかのダンジョンには隠し部屋が無かった可能性の方が高いと思うんだよね。


「だから、隠し部屋自体は毎回生成されるんじゃないかと思うんだ」


「あー、宝箱やモンスター部屋みたいなもんって事か。必ず一個は作るってダンジョンの再構築術式に組み込まれてると考えると姫様の考えも間違いじゃないかもね」


 という訳で私達は隠し部屋を求めてダンジョン内を徘徊する。

 するとそこそこ長い探索の末に、私達は隠し部屋のスイッチを発見したのだった。


「おおー、やっぱりあった!」


「凄い凄い、流石姫様!」


 隠し部屋の中に入ると、宝箱が一つポツンと置かれているのが見える。


「おっ! 宝箱!」


 さっそく私は宝箱へと突撃する。

 そうか、ダンジョンが再構築されれば、宝箱の中身も一新されるよね!


「って事は、何か便利ないアイテムが手に入るかも!」


 もしかしてこれ、誰かがダンジョンを攻略する度に、隠し部屋にしかない便利なアイテムが手に入るって事?

 私だけが知っている隠し部屋の宝箱を毎回ゲットのログインボーナスならぬ再構築ボーナス!?


「うひょー、お宝無限入手バグですかー!」


 私はウキウキで宝箱を開ける。

 するとそこには……


「あれ? 何も入ってない?」


 そう、何も入っていなかったのである。


「え? 何で?」


 宝箱なのに空っぽ!? そんなのあり!?


「どういう事ぉー!?」


「ありゃー、何も入ってない宝箱なんてあるんだね。初めて見たよ」


「リューリも知らないの!?」


「うーん、私は見たことないなぁ。もう誰かが持ち出した後とか?」


「あー、それがあったか!」


 そうじゃん、誰か他の人が宝箱を開けた可能性があったんだ!

 くっそー、先を越されたー!


「うー、すっごい悔しい!」


「でもまぁ、ホントに無かった可能性も……まぁいいか」


 リューリは何かを呟くと空っぽの宝箱の蓋を蹴っ飛ばしてふたを閉め、その上に着地する。


「とりあえず隠し部屋はあったから良いんじゃない?」


「うーぬぬぬ、まぁそうなんだけどね」


 確かに本来の目的は達成した訳なんだけどぉ……


「あー、もう! いいや!」


 悔しさを蹴っ飛ばす思い出は畳んでいた羽を伸ばすと、フードを下ろして中の髪を外に出す。


「んー、やっぱ畳んでると疲れるや」


 体を伸ばす要領で羽を伸ばすと、私は隠し部屋の床にマットを敷いてごろりと寝転ぶ。


「はー、疲れた」


 帰って来て早々、精神的に疲れたわ。

 長旅の疲れを癒すべく、私はマットの上でゴロゴロする。


「あー……」


 ゴトゴト揺れる馬車から解放された直後だから、まだ体がグラグラしてる気がする。

 あれだ、長時間船に乗ると、降りた後も体が揺れてる感じがするアレに近い感じがする。


「ちょっと歩いて気分を落ち着けるか」


 グイッと体を丸めて反動で立ち上がると、マットを魔法の袋に収納して隠し部屋の外に出る。


「おっ、お出かけ?」


 すかさずリューリが宝箱から私の頭の上に移動してくる。


「ご飯を狩るついでに再構築されたダンジョンを探索してみようか」


「りょーかい!」


 構造が変わってるから、下層への最短ルートも変わってるだろうしね。

 まずは来た道を戻ってゆくと、冒険者達の流れに合流する。

 そして彼等の進む先についてゆくと、その流れが二つに分かれていた。


「どっちについていこうか?」


 暫く様子を見ていると、右に行くのは慣れた感じの冒険者達。左に行くのは子供や動きのぎこちない若い冒険者達だった。


「と言う事は左は初心者向けって事かな?」


 同初心者向けなのか気になるし、ちょっと左に行ってみよう。

 という訳で子供達についていくと、暫く歩いた先に開けた場所に出た。


「うわぁ」


 そこは森だった。

 ダンジョンの中に、草木で覆われた森が現れたのだ。


「そっか、薬草エリアか」


 どうやらここは以前来た事のある薬草が採取出来るエリアのようだった。


「前は二層にあったけど、ダンジョンの再構築で一層に出来たんだね」


 成程、これは冒険者達が大挙してやってくるわけだ。

 周囲を見回せば子供達が薬草や果物を採取している姿が確認できる。


「うぉっ! ビッグスパイダーだ!」


「距離を取れ! 巣に絡まるなよ!」


 そして魔物と戦っている新人冒険者達の姿も。


「んー、とはいえ特に珍しい物でもないし、戻って下の階層に行こうか」


「そうだね。ここで一番珍しいのは姫様だし」


 人を珍獣みたいにいうなし。

 いやめっちゃ視線を感じるけどさ。


 ◆


「あっ、そう言えば階段って言えばフロア間を移動する転移機能が解放されたんだっけ」


 下層へ降りる階段を見つけた私は、階段を降りている最中に新たに解放されたステータスの機能の事を思い出す。


「折角思い出したんだし、試しに使ってみようかな」


 私はステータス画面を呼び出すと、フロア移動機能を起動する。


「んーと、とりあえず4層に降りてみようかな」


 フロア機能に記された矢印を押すと、1層から2層に変わる。

 更に二回押すと、4層に変わった。


「よし、これでOKっと」


 OKボタンを押すと、周囲の視界が歪み、フッと周囲の人間が消えたかと思うと、知らない人達の姿が現れる。


「おわぁ!? 何だぁ!?」


 後ろからビックリしたような声が聞こえてきて振り返ると、知らない冒険者達のおじさんが目を大きく開いて体をのけ逸らせていた。

 あー、この人達の前に転移しちゃったのか。

 そりゃ突然人が現れたらビックリするよね。


「こ、子供!?」


「今この子、突然目の前に現れなかった?」


「いやまさかそんな……」


 うわ、めっちゃ不審がられてる。

 こういう時は……


「えっとー……すみません!」


 逃げるに限る! 私達は急いで階段を駆け下り、冒険者達から逃げ出したのだった。

 その後、階段を移動していると突然目の前にキラキラと輝く幼女の霊が現れるという噂が立つことになるのだけれど、うん、私は幼女じゃないから私のことじゃないな!


 ◆


 なんてことがあって階段から離れた離れた場所まで逃げてきました。


「いやー、時間帯を考えないと人前に見られて騒ぎになっちゃうねこれ」


「だねー」


 便利な能力だと思ったけど、使い時を考えないといけないや。


「ともあれ、能力はちゃんと使えるみたいだね」


 実際に使ってみるとやっぱ便利だね。

前に潜った深い階層まで一から潜りなおしたり、疲れて地上まで帰るのが面倒な時でもすぐに一層に戻れるんだから。


「ねー、これってさ、階段以外でも使えるのかな?」


「んー、どうだろ?」


 説明だと別の階の階段に移動するって書いてあったから、階段から出ないと駄目とは書いてないんだよね。


「試してみれば良いんじゃない?」


 という訳で今いる場所から階段に移動できるのかを試す為にステータスを開く。


「あっ、駄目だ」


 しかしステータスのフロア移動欄の文字はグレーになっていて、それを触ってもフロア移動の画面が表示される事はなかった。


「どうやら階段にいないと使えないみたい」


「そっかー」


 残念だけど、あんまり便利な機能だと私の魂に負担がかかりすぎるから出来る女上司、じゃなかった、知恵の女神様が使えない様にしてるんだろうな。


「よっし、そんじゃ機能も確かめたし、適当に食べれる魔物を狩ったら上に戻ってご飯にしよっか!」


「おー!」


「キャー!」


 ご飯の言葉にリューリの声と知らない人の悲鳴が重なる。

 それじゃあ階段に戻って……


「「……んん?」」


 いや待て、何かおかしくなかった?

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