第70話 お爺ちゃん達の冒険(とても私的理由)

 ステータスを確認していた私だったけれど、ログのチェックが全て終わる前に、ダンジョンにたどり着いたので、一旦情報チェックを中断する。


「では今回は我々が主に戦う。アユミはダンジョン攻略でも疲れがあるだろうからな。今回は我々の戦いを見ていずれ仲間と連携を取る際の役割分担や立ち振る舞いの把握をするといい」


「分かりました。勉強させてもらいます」


 確かにリドターンさんの言う通りだ。

 フレイさん達と一緒に探索していた時は連携とか全然出来てなかったもんね。

 これを気にメンバーにどんな指示をしたらいいのか確認しておこう。


「ではゆくぞ!」


 ◆


 リドターンさん達の戦いは一言で言えば堅実だった。

 ただそれは地味とかではなく、シンプルに高レベルな立ち振る舞いだったのだ。

 接近してくる魔物に対し、リドターンさんがわざと前に出て相手の注意を引き付ける。

そして魔物の意識が向いたところで、いつの間にか接近していたスレイオさんが死角から攻撃をして倒す。


 後方に陣取っているストットさんは、魔法スキルの使用回数を節約する為に弓で援護……じゃないな。普通に倒してる。

 正直魔法使いの格好をしていなければ弓使いと言われても納得の腕前だよ。

 構えも凄く堂に入っているし。


 再びリドターンさんが魔物からの攻撃を回避しつつ、隙を見て攻撃してゆく。しかも一撃で倒している。

 ストットさんは、皆が目の前の魔物に専念できるよう、近づいてくる他の魔物を牽制……いや普通に倒してるわ。


「この程度の魔物なら牽制が普通に攻撃になるから楽ですね」


「ううむ、このような上層ではアユミの参考になる様な戦いが出来る相手がいなかったか」


 あー、この辺上層だもんね。


「よし、もう少し下層に降りるとするか。こちらの冒険者に売りつけるにしても、価値のある品でないと意味が無いからな」


 うん、それはその通りだ。私が探索者達に売っていた素材も、レアモンのような遭遇するのが大変な魔物の素材ばかりだったしね。


 という訳で、私達は更なる下層へと向かってゆく。


「うむ、この辺りも大した魔物じゃないな」


 という訳で5層のボスを越えて下層へ。


「ここも弱いな。スキルを使うまでもない」


 とか言って10層のボスを越えて更に下層へ。


「漸く低位のスキルを使う程度の敵が現れたか」


「だがまだまだじゃな」


 そこそこ魔物が強くなってきたと思うんだけど、それでもお爺さん達は満足できなかったみたいで、15層を下ってゆく。


「うーむ、もうそろそろ次のレベルがあがりそうなので、もう少ししたの階層に行きましょうか」


「そうだな」


「賛成じゃ」


「ではゆくか」


 なんか目的変わってません? という訳で20層を越えて(私的に)前人未到の領域へと向かう。


「グルォォォォォ!」


「キシャァァァ!!」


「クォォォォォン!!」


「ブルァァァァァッ!!」


「うひぃぃ!」


 何か見たことないようなデカくてエグくて強そうな見た目の魔物達が私達に向かってくる、ってかめっちゃ怖い!


「こっちだ! 『挑発』!」


 リドターンさんがスキルを使って魔物を挑発すると、突進してきた魔物が前方にいた私達を無視して突然リドターンさんの方向に急カーブをする。


「ふむ、スキルを使わぬと誘導できぬか。戦いと言う物を理解できるだけの知恵を持っておるようじゃの」


「ち、知恵ですか?」


 つまりあの魔物は人間みたいに賢いって事?


「賢さにも種類がある。勉学が出来る賢さ、戦いの中で相手の動きを予測することが出来る賢さのようにな。あの魔物は獣程度の知恵しか持たぬが、戦いに関しては本能を織り交ぜてこちらの狙いを正確に読み取ることが出来ておるのじゃ」


 成程、私達人間にとって賢いって言葉は勉強ができる人のイメージだけど、相手の考えを読む事が出来る敵は確かに賢いって判断するのが正しいよね。





「ああいった賢い魔物が出現すると、戦いは一気に苦しくなるものです。しかしその分ダンジョンの下層に近づいている証拠でもあるんですよ」


「手ごわい相手の方がレベルと言う奴は上がりやすいようだから都合が良いな」


「それだけではないな。能力値はこちらが工夫して戦った時の方が色々な数値が上がるようだ。弱い敵が相手でもあえて不得手な戦い方をする事で、能力値の上り幅を増やす事が出来るようじゃの」


 気が付いたら何も説明していないのに、お爺さん達はレベルアップの法則を色々と理解していた。

 めっちゃ詳しくなってますやん。


「あれ? でも私は全然レベルが上がってないような」


 そこでふと私は、自分のレベルが上がってない事に気付く。

 ここまで一緒に付いて来たんだから、ちょっとくらいレベルが上がっていてもいいと思うんだけど……


「ふむ、それはアレじゃな。アユミが戦っておらんからじゃろ。付いてくるだけでは戦いに参加しているとは判断されぬのじゃろうな」


 成程、確かにただ見ているだけじゃ戦ってるとはいえないもんね。

 でもこの辺りまで来たリドターンさん達の戦い方はとても勉強になったと思う。

 観察スキルのお陰で、職業ごとの戦い方、仲間を巻き込まない為の位置取り、どの役目の人がどんな攻撃を、そして援護をするのかと言った具合に。


 レベルは上がらなかったけれど、間違いなく学ぶべきものがあったと思うよ。


「さて、次はボスの階層だったな。そろそろ歯応えのある敵と戦えるだろう」


「よく見ておけよアユミ」


「はい!」


 なんて話をしておいてなんだけど、リドターンさん達は強かった。

 歯応えがどうこう言っておきながら、あっさりと勝ってしまったのだ。


「思ったよりは弱かったな」


「半端なボスじゃったのう」


 いやいやいや、全然そんな事なかったと思いますよ?

 はっきり言って私だったら勝てる気がしない攻撃だったもん。

 リドターンさん達だからあんなにあっさり勝てたんだよ。


 観察スキルを持っていたからこそ、私は敵の攻撃の強さやリドターンさん達の攻撃の鋭さをある程度理解できていた。

 そして今の自分じゃ、まだボスには届かないという事も。

 それはつまり、リドターンさん達は、私よりも遥か上に位置する人達だという事だ。


「凄いなぁ」


 自分なんてまだまだだと思ってはいたけれど、なんだかんだ言って強くなった自分に対し、それなりに自信を持っていたっぽい。

 けれど、今日のリドターンさん達の戦いを見て、それがとんだ勘違いだと気付かされてしまった訳だ。


「精進しないとだね」


 うん、寧ろここで気付けたのはよかったよ。変に自信をつける前でよかったんだ。


「よーし、明日から私も頑張るぞー!」


「おお、その意気だぞ!」


 今夜はぐっすり眠って体を休めて、明日から今日の戦いを参考にダンジョンで鍛錬だ!


「む、コアか。と言う事はここがこのダンジョンの最下層か」


「え?」


『ダンジョンが踏破されました』


 リドターンさんの言葉に視線を向けると、そこには以前私も触れた事のある巨大な結晶に触れるリドターンさんの姿があった。


「あっ」


 それってもしかして、ダンジョンの……


『タカサツのダンジョンが攻略されました』


『これよりダンジョンの再構築を開始します。攻略者とその仲間はダンジョン外に強制転移します』


 コアじゃないの? って聞こうとする前に、視界が真っ黒に変わった。

 いや違う。周囲は暗いけど、建物の灯りが見える。外に出たんだ。


「って事は、私達ダンジョンを攻略しちゃったの!?」


 ちょっと素材集めくらいのノリで、最下層まで到達しちゃってたの!?


「なんとまぁ歯応えのないダンジョンだったな」


「どうやらこのダンジョンはあまり攻略に熱心な者がいないダンジョンだったようだな」


 いやいや、明らかに皆の強さが別次元過ぎたんだって。


「やれやれ、これではレベルアップで得た力を確認するどころではなかったな」


「もう少し歯ごたえのあるダンジョンに潜りたいのう」


 待って待って、普通に強いからねこのダンジョン! 少なくとも私にとって下層は確実に力不足を実感したよ!


 だから修行を頑張ろうと思ったのに……あっ!

 そこで私は気づいてしまった。

 リドターンさんはこのダンジョンをクリアしてしまった。

 と言う事は、このダンジョンは内部の区画整理が住むまで潜る事が出来なくなるという事に気付いてしまったのだ。


「って事は、ダンジョンで修行出来ないじゃん!」


「「「「あっ」」」」


 なんという事だろう。やる気満々で修行しようと思っていた私は、師匠達がうっかり攻略してしまったせいで、修行が出来なくなってしまったのだった。

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