第69話 手に入れたるは大いなる力(いやちょっと多すぎでは?)

 ルドラアースに戻って来た私達は、お金を確保する為にダンジョンに潜ることになった。

 と言うかお爺さん達がめっちゃやる気満々になったからなんだけど。


「アユミはリロシタンのダンジョンを攻略したばかりなんだ。さっきの所で休んでいても良かったんだぞ」


「いえ、ダンジョンをクリアした時に入手したスキルの確認などもしたいのでついていきます」


「そうか、無理をしないようにな」


「はい」


 そう、ダンジョンを攻略して外に転送された時、私は何かしらのスキルを取得した。

 あの時は妖精合体を解除した時の副作用でのたうち回っていたのでそれどころじゃなかったから、この機会に確認しておかないと。

 私はダンジョンに付く前にステータスのログを確認する。


 ダンジョン攻略直後までログを戻してじっくり文章をチェックする。


「ダンジョン制覇者の称号って、何か意味あるのかなコレ?」


 んー、でも称号に関する説明がないんだよね。


「ああ、ダンジョン制覇者の称号が気になるか? だがあまり気にしないほうが良いぞ。何の意味もないからな」


 私が首をかしげているとスレイオさんが肩を竦めながら言ってくる。


「無いんですか!?」


「ああ、俺達も何か意味があるのかと書物を調べたり、他のダンジョンを複数クリアしてみたが、何も起きなかったぞ」


 あー、そうなると本当にただの称号なんだね。

 ゲームの実績解除トロフィーみたいなものなのかな?


「それよりも報酬を貰ったんじゃないのか? そっちを調べてみたらどうだ?」


報酬! そういえばそんな事言われたっけ。

でも何かアイテムを貰った覚えがないんだよね。


「魔法の袋に入ってるのかな?」


 私はアイテム欄から報酬を確認してみると、予想通りそこには見知らぬアイテムが一つあった。


『眷属の笛』


「眷属の笛?」


 よくわからないので、とりあえず出してみる。

 すると袋の中から時代劇で見るような横笛が出てきた。


「これが眷属の笛?」


 見た感じ普通の笛だけど、眷属ってなんだろ?


「楽器だし、とりあえず吹いてみたら?」


「そだね」


 という訳で笛の穴に口を当てて息を吹き込んでみる。

 はい、上手く鳴りませんでした。


「アユミ、そういう楽器は直接口を付けず、すこし離して息を吹きかけるんだ」


「え!? そうなんですか!?」


 マジか。めっちゃ間抜けなことしちゃったよ!

 という訳で改めて口を放して笛を吹く。

 するとぽぉーというすこしくぐもった音が鳴る。


「鳴った……けど」


「なんにも起きないねぇ」


 そう、音を鳴らしても何も起きなかったのだ。

 はて? ダンジョンの報酬だから何か特別なアイテムかと思ってたんだけど……もしかして本当にただの笛なの!?


「……ュイ」


「ん?」


 その時だった。何か甲高い音が聞こえた気がしたのだ。


「……キュイ」


 やっぱり聞こえた。

 この音は一体どこから?


「キュイ!」


 音は……私のすぐ傍、正面か!!


 音の正体を知る為、正面に視線を向けると、そこには小さな生き物の姿があった。


「って、あれ?」


 その生き物の名はイタチ。小さなイタチだ。

 ごく普通の、けれど全然普通でないところのあるイタチがそこにいる。

 何故普通でないかと言えば、このイタチは、私の手にした笛の穴からぴょこんと首を出していたからだ。


「って、笛ぇーっ⁉」


 何で!? 何で笛から!? しかも穴とイタチの大きさが合ってないんですけど!?


「キュイィ!」


 イタチは小さく鳴き声をあげると、笛から体を出し、トトトと私の腕を伝って肩まで登って来ると、キュウキュウと愛らしい声を上げながら私のほっぺたに体を擦り付けて来た。


「ふわぁ」


 何これ可愛い! 超可愛い!

 もしかしてこの子が報酬なの!?


「キュイイ」


「はわわわっ」


 私は恐る恐る頬ずりしてくるイタチの頬、というか体の側面を撫でる。

 するとイタチは嬉しそうになくと私の腕に体を擦り付けて来た。


「はにゃあぁぁぁぁ」


 か、かわ! 可愛すぎ!! 何この生き物、可愛いにも程がある! 可愛いの化身か!


「むむっ! ライバルの予感!」


 すると腰の小瓶からリューリが飛び出してイタチの前でカンフーのポーズみたいな構えを取る。


「キュイ!」


 するとイタチもやるのかとばかりに頭を低くして、四肢に力を入れる。


「って、私の上で戦おうとすんな!」


 私は二人の首根っこを掴むと地面に卸す。

喧嘩したいならそこでやってなさい。


「行くぞオラー!」


「キュイー!」


 そして二人の壮絶なマスコット争奪戦が始まった。


ポカポカ ペチペチ ポキュポキュ


 うん、全然迫力がありません。

 小動物がじゃれ合ってるだけだわ。


「結局あの子って何なんだろう?」


「ふむ、アイテムの名称からして、使い魔のようなものではないかの?」


「使い魔?」


 キュルトさんの聞き慣れない言葉に私は聞き返す。


「使い魔と言うのは動物を使役するスキルで従える動物の事じゃ」


 動物を従えるスキル!? そんなのあるの!?

 

「動物を幼い頃から育てると使役スキルと言うスキルを取得する。そのスキルは動物との間に深い繋がりを生み、人間に指示を出すように正しく命令を伝えることができるのじゃ」


 成程、言葉の違いや考え方の違いが原因で上手く伝えたい事が伝わらないなんてことが無くなる訳だ。


「ただし、使い魔はあくまでも普通の動物じゃ。魔物のような強力な能力を持っている訳ではない。あくまで互いの意思疎通を潤滑に行い、飼育の補助として活用したり、人の入れぬ場所に偵察をするなどの用途で使うスキルじゃな」


 つまり戦闘用じゃないって事かぁ。

 でもまぁ可愛いからいっか。可愛いは正義なのです。


「報酬の事は分かったから、次はいよいよ取得したスキルだね」


 果たして今回の探索ではどんなスキルを覚えたのやら。


『初級妖精合体スキルを取得しました』


 ……oh

 遂に、遂に取得してしまったかぁ……


 スキルの内容は契約した妖精と自分の意志で妖精合体出来る。

 妖精合体すると要請に応じた能力値が大幅に上昇し、妖精の持つ魔力も使えるようになる。

 更に合体中は妖精魔法が使えるようになる。


 妖精が所持しているスキルも使用可能。ただし合体前にスキルを使い切っていたらスキルが回復するまで使えない。

 合体時間は最大で一時間。


 合体した妖精と言葉を介さずとも意思疎通が可能。

 合体時は合体した妖精の性質の影響を受ける。

 使用回数は一日一回


「……」


 うん、やっぱりそうだったんだね。

 合体時は合体した妖精の性質の『影響を受ける』。

 つまり、これまでのあれやこれやは完全にリューリの影響を受けていたって事だぁー!!

 

「分かってはいたけど、分かりたくなかったよぅ」


 い、いや、物は考えようだ。アレは私の厨二心が増大した訳じゃなく、私以外の原因であんなことになってしまったと分かったのは寧ろ僥倖と言えるだろう。


「って、どのみち他人から見たら私の奇行じゃん!」


「なんぞ知らんが間違いなく今のお主は奇行を行っとるぞ」


 そこ独白に突っ込まない!


「う、うう、とにかく次のスキルを……」


 次に覚えたスキルは初級水霊鎧スキル。

 これは自在に動く水の鎧を纏うスキルで、攻撃にも防御にも移動にも使えるという便利スキルだった。

 ただ纏える水の量に限界がある為、攻撃をすると守りが薄くなり、守りに使うと攻撃が薄くなるらしい。

 使う時に水の割り振りを考えないといけないみたいだね。


「あっ、でも攻撃や防御をするたびにMPが減ってくのか。これは妖精合体してないとちょっと使うのは厳しいかな」


 便利だけど使いどころが難しいスキルかも。


「他には……」


『中級鞭スキルを取得しました』


 とても女王様になりました。

 ちなみに内容は鞭さばきが上手くなり、鞭に限り精密に扱えるようになるとの事だった。

 あとダメージが上昇するのと、ダメージを減らして痛みだけを与える事も出来ると書いてあった。

 何だこの無駄に高性能なスキルは。


『初級水腕スキルを取得しました』


 次に取得したのは水の腕を操るスキルだった。

 これはもう名前の通りで、水を第三の腕にして操るスキルだ。

 先の戦いのように攻撃にも使えるこれまた便利スキルである。


『初級蹴術スキルを取得しました』


 こちらは足を使った攻撃力が上昇するスキルだった。

 もう普通にそれだけ。

 でも地味に普通の攻撃の威力が上がるのは強いね。

 んで問題はこの後に覚えたスキル達だ。


『初級人気者スキルを取得しました』

 

『初級アイドルスキルを取得しました』


『初級指導者スキルを取得しました』


『初級初級ブルーブラッドスキルを取得しました』


『初級ロイヤルブラッドスキルを取得しました』


これ、最初の人気者はまぁ分かる。

 アイドルも辛うじて分かる。クラスの人気者とかそういうのだよね。

 でもさ、その後の指導者とか、ブルーブラッドとか、ロイヤルブラッドって何?


「あのー、キュルトさん、ブルーブラッドとかロイヤルブラッドって何か知ってます?」


「「「「……!!」」」」


「え? 何ですかその目は!?」


 私の問いに何故かお爺さん達が全員目をクワッとさせる。怖っ!


「ブルーブラッドとは貴族を意味する言葉だ」


 答えてくれたのは、キュルトさんではなく、リドターンさんだった。


「貴族を?」


 って、何で貴族!?


「貴族は平民とは違う存在。それゆえ血の色も平民の赤ではなく青色だという意味だ」


「え!? そっちの世界の貴族って血が青いんですか!?」


 じゃあ向こうの世界の貴族って、平民とは別の種族なの!?


「いや、あくまで比喩だ。色は普通に赤色だよ」


 あー、ビックリした。成る程、比喩表現だったんだね。


「そしてロイヤルブラッドとは、貴族のブルーブラッドの上。つまり王族の血と言う意味だ。


 おうぞく!? 王様の血!?

 え? 何でそんなスキルゲットしちゃってるの私!? うちの両親は普通の会社勤めの共働きですよ!?


「ロイヤルブラッドのスキルの持ち主は多くの民の信奉を受けた存在。そのスキルを取得した者は自分の国を興す資格を神から与えれると言われてる幻のスキルだ」


 ふぁー! 幻のスキル!? だから何でそんなスキルが生えてんのー!?


「といっても王族は生まれながらに持っているスキルだそうですから、幻と言われる程珍しいわけではないですよ」


 あっ、そうなんですね。


 ストットさんの補足にホッとする私。


「ただまぁ、スキルとして後天的に取得した場合は、リドターンの言ったように新興の国を興す資格を得た証とも、平民の中で暮らしていた庶子が自分に眠る王家の血を目覚めさせた証として大変貴重なスキルとされていますが」


 やっぱりヤバそうなスキルだったぁー!

 とはいえ中身を確認して身に事には断定はできない。

これらのスキルの説明を表示すると、まず人気者スキルは周りにいる人達を楽しい気持ちにさせたり、好意的な感情を受けやすくなるスキルとの事だった。


 アイドルはその上位スキルのようで、より多くの人を楽しく、好意を得るスキルで、後なんか歌とかの芸事と影響し合うスキルだった。

 それってつまり普通にアイドルって事? コンサートでも開けとおっしゃる?


 で、指導者スキルはリーダーとして活動する際に、相手から敬意を払われたり人に意見を通しやすくなったりするスキルとの事だった。

 まぁこれは普通にリーダーにあると便利なスキルって感じだよね。


 さて、それじゃあブルーブラッドスキルの説明を確認するか。


『貴い血の証。貴族として人を従える事が出来る。貴族として領地を管理、官僚として国家運営に関わる仕事をする権利を得る事が出来る』


 もう分かりやすいくらいに貴族でした。

 こうなるともうロイヤルブラッドスキルは……


『国家の頂点に立つ血の証。王族として貴族をも従える事が出来る。国を興す権利を持つ。国を継ぐ権利を得る。王族として領地を管理、官僚として国家の運営に関わる仕事をする権利を得る事が出来る。人々に畏敬の感情を与えるオーラを放つ』


 うーんイメージ通りの王族過ぎます!

 ホントなんで私がこんなスキル取得しちゃったかな! こんなスキル取得する行動した覚えないんですけどー!


「と、とにかくこのスキルの事は秘密にしておこう。バレなきゃバレないんだし」


 強引に気を取り直した私は、最期のスキルの確認を行う。


『初級妖精スキルを取得しました』


 これだよなぁ。

 私は自分の姿を改めて確認する。

 フードからはみ出た髪の毛はキラキラと燐光を放って輝いていて、後ろを見れば背中からは半透明の虫のような羽が生えている。


「って、丸見えじゃん!」


 リドターンさんから被せられたマントの上から羽が出てるんですけど!?

 見れば私の羽はリドターンさんのマントの上に浮いている。

 私から生えてるんじゃなくて、天使の輪みたいに浮いてるって事!?

 だからマントを避けて丸出しになってた!?


「ぎゃー! これじゃ外で歩けないじゃん! ていうか何で誰も教えてくれなかったんですか!?」


「あ、いやなぁ」


「ええ、あれですよねぇ」


 あれって何さ。


「どうせ隠せんのなら言っても無駄じゃと思っての」


 せめて教えて欲しかったぁー!

 周囲を見れば、周りの人達の視線が完全に私に集まっているじゃん!

 めっちゃ目立ってるぅー!!


「これじゃもう外で歩けないじゃんかー!」


 うごご、もう一生ダンジョンで暮らす!!

 予想もしていなかった惨状にダメージを受けながら、私は現実逃避をすべく妖精スキルの説明を確認する。


『存在の格を上げ妖精に進化するスキル。魔力が格段に上昇する。物質に近い為、妖精魔法は使えない』


 内容自体はかなりシンプルなものだった。

 けど魔力が上がるのはありがたいよね。

 私はステータス画面を操作すると、ログから能力値画面に移動して魔力を確認する。


『MP165/5000』


「ごっ!?」


 いやいや多い多い! 五千ってなに!?

 残りMP量が三桁なのは間違いなく妖精に成る前の数値だろう。

 ダンジョン探索でMPが減っていたとしてもそこまで大きく変わっているとは思えない。

 というかさっきの探索中は殆ど妖精合体してたから、消費したMPはリューリの者だっただろうし。


「こんなん魔法使い放題じゃん!」


 まさかのMP大幅アップにびっくりしてしまった。

 もしかして種族進化する度にこの規模で能力値が上がるの? だとすれば進化した人はとんでもなく強くなるぞ。

 力が5000とか素早さが5000とか、100%を超えた能力だーとか、それは残像だとかがリアルで出来ちゃうじゃん!


「はー、びっくりだわ」


 正直貴族スキルが霞むくらい驚きの情報でしたよ。

 流石にこれを越える出来事はもうないよね!


 なんて思っていた時期が、ログの続きを見る前の私にもありました。

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