第67話 地上に戻ってまいりました(色々それどころではない)
目の前には巨大なイタチだった肉の欠片が散らばっていた。
あ、あれ? 私超巨大イタチを倒しちゃった?
たった一撃で?
「い、今のは姫が……?」
「やりましたの?」
二人がそうなのかと私に問いかけてくるけど聞くな。私も自分が何をやったのかよく分かってないんだ。
『さっすが姫様ね! あの超バカデカイタチを一撃! ふふーん、ま、合体している私の力も多分にあるんだけど……ねっ!』
ドヤァ、と一人場違いに悦に浸るリューリの感情が流れ込んでくる。
「え? マジで今の私がやっちゃったの? あんなに大きくて強そうだったのに?」
『デカイからって強いとは限んないよ。っていうか姫様は私と合体いた自分の強さを弱く見積もり過ぎ! 妖精合体した人間は莫大な魔力を手に入れて滅茶苦茶強くなるんだからね! しかも姫様は人並外れてスキルを取得できるんだよ! そりゃ勝てるに決まってるって!』
そ、そうなの? 全然実感が湧かないんですけど。
『あー、そりゃ妖精合体を全然使ってないからだよ。もっとガンガン使って使い勝手を確認しないと。ほら、人間だって新しい武器を手に入れたら使い勝手を試す為にダンジョンに潜るでしょ。それと同じよ。使わないからよくわかんないんだって』
むぅ、言われてみるとそうなのかもしれない。
これからはもっと妖精合体を使った方が良いのかなぁ?
『その意気その意気! そんじゃ考えも纏まった事だし、アレを手に入れちゃおう!』
「アレ?」
リューリの思念に顔を上げれば、その先には巨大な水晶のような結晶が浮かんでいた。
「何これ?」
正直言ってこれは凄い。
だってこの結晶、私と同じくらいの大きさしてるんだよ。
もしこれが宝石なら、とんでもない価値だよ。
水晶だとしても、これだけ大きな水晶なら結構なお値段になるんじゃないかな。
それに凄く透明で、お土産売り場に売ってる小さな宝石のような濁りもない。水のような透明度だ。
触ってみると、ひんやり冷たい。
「巨大な結晶、まさかアレは……」
「それじゃあここは最下層なんですの!?」
「あれ? 二人はこれが何か知って……」
その時だった。
『リロシタンのダンジョンが攻略されました』
突然のメッセージの出現と共に、ダンジョンがガクンと揺れる。
「揺れって、え? 攻略!?」
『攻略者にはダンジョン制覇者の称号が付与されます』
え? マジで? じゃあここってダンジョンの一番下なの!?
じゃあこれがダンジョンコアって奴だったの!?
『攻略者に報酬が与えられました』
今度は報酬? いやそれよりも地震なら逃げないと!
『これよりダンジョンの再構築を開始します。攻略者とその仲間はダンジョン外に強制転移します』
「ちょっ、待って!」
けれど、私の説明を求める声もむなしく、一瞬のブラックアウトと共に、私の視界は青空の見える光景に切り替わった。
「ここは……?」
「お姫様だ……」
その声に下を見れば、そこにはダンジョンの子供達の姿が。
って事は、ここはダンジョンの入り口前の広場?
いや、それよりもフレイさん達は!? まさかダンジョンの最下層に置き去りにされたんじゃ!?
「お姫様羽生えてる!」
「え?」
慌ててフレイさん達の姿を探そうとした私の出鼻を子供達の声が遮る。
「キラキラしてきれーい!」
「妖精のお姫様だったの?」
フレイさん達を探しに行きたくても、子供達はどんどん私の周りに群がってきて、身動きができなくなってしまう。
その時だった。リューリが突然妖精合体を解除したのだ。
「そう! そのとーり!」
一体何を言い出すつもりなのかと彼女を止めようとした私だったけれど、正気に返った心に合体中の自分の恥ずか死体験が襲って来て、それどころではなくなってしまう。
「ぐ、ぐおぉぉぉっ!!」
『初級妖精合体スキルを取……』
『水霊鎧……』
「このお方こそ、妖精王がご息女! 我等妖精の次代の指導者にして姫! その名も妖精王女アユミ様なのだーっ!!」
「よ、妖精」
「お、王女!?」
「「「「アユミ様!!」」」」
突然のざわめきに我に返る。
え? 何? 何かあった?
あまりの恥ずかしさでリューリが何を言ったか全然聞こえてなかったんだけど。
「「「「すごーい!」」」」
「お姫様って本当にお姫様だったんだー!」
「は?」
「すごいすごいすごい!」
「え?」
「妖精のお姫様だー!」
「何事!?」
『初級人気者スキルを取得しました』
『初級アイドルスキルを取得しました』
『初級指導者スキルを取得しました』
『信奉者が一定数を越えました』
『初級ブルーブラッドスキルを取得しました』
『信奉者が一定数を越えました』
『初級ロイヤルブラッドスキルを取得しました』
『信奉者が一定数を越えました』
なんか沢山沸いてきたーっ!!!
『初級妖精スキルを取得しました』
『存在条件を達成しました』
「ん?」
『存在進化を実行します』
「え?」
これまで見た事のないメッセージの羅列に困惑の声が出る。
『精神の構成情報を解放、肉体の構成情報を解放、魂の構成情報を解放、アップデートを始めます』
瞬間、私の全身が青い光の繭に包まれた。
「な、ななな!?」
光の繭に包まれた私は、まるでぬるま湯の中に放り込まれたような感触を覚える。
更にそのぬるま湯はまるで妖精合体をした時にリューリが私と一体化する時のように全身に染み込んで来た。
肌に、肉に、骨に、髪に、爪に、目に、体中のありとあらゆる場所にぬるま湯が染み込んでくる。
染み込んでくるのは体だけじゃなかった。
心がポカポカと温かい気持ちになり、まるで誰かに抱かれているような気分になる。
最後には、魂まで優しいぬるま湯に溶け込んでしまったかのような……
けれど、そのぬるま湯は突然消えてしまった。
「!?」
まるで頭まで入っていた湯船から突然外気で冷えた外に晒されたような気持ちだ。
『魂の位階をレベルアップしました』
そして再びメッセージが表示され始める。
『種族情報が更新されました』
『種族が妖精人になりました』
しゅぞくがようせいびとになりました?
種族? 妖精? 人?
それって、私が人間じゃなくなったって……事?
「なんだってぇぇぇぇぇっ!?」
怒涛の展開の連続に、もう私のキャパシティはいっぱいいっぱいだった。
もうこれ以上は無理! っていうか今の時点でもう何が何やら!
っていうか人じゃなくなったってどういう事さ!?
「わぁー!」
「すごーい!」
すると突然子供達がはしゃぎだした。
今度は何!?
「お姫様また羽が生えてるー!」
「髪の毛もまたキラキラになってきれーい!」
「え?」
子供達の発言に自分の体を見回せば、確かに背中からは半透明の妖精の羽が伸び、髪の毛にも燐光を纏っている。
あ、あれ? 妖精合体はしてない筈なんだけど。
そもそも目の前にリューリの姿があるから、合体してないのは間違いない。
と言う事は……?
「おっ、姫様妖精に進化したんだね。おめでとー!」
と、軽い口調で祝福してくるリューリ。
ようせい? しんか? わたしが? マジで?
背中に羽根が生えている。
髪の毛がキラキラ光ってる。
ステータスメッセージが宣言した。
いこーる、わたしはしんかしてようせいになった……
「って、えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
その日、何度目かの叫び声を私は上げたのだった。
◆ーーー◆
『神霊力の剥奪に……成功しました』
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ご連絡です。
これまで毎日更新をしてきましたが、業務スケジュールの都合で今度は週一連載に変更させて頂きます。
毎日更新を楽しみにしていた方々には申し訳ございません。
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