第66話 お子様ダンジョン攻略RTA(勢いって怖いね)

『子供がいるのなら、間違いなくもう片親も居る筈だよ』


 なんという事だろう。巨大イタチはもう一体存在していたのだった。


「それはまずい……よね」


 何しろ巨大イタチにはそれなりに強くなったつもりの私があれだけ危険な目に遭ったんだ。

 そんな相手に子供達が狙われたらひとたまりもない。


「これ以上増やさないように、もう片親も倒さないとだね」


「あれを倒す!?」


「無理ですわ!」


 どう探したものかと考えていると、フレイさん達が慌てて私を止めに入る。

 あれ? 決闘の続きしなくていいの?


「あの魔物は私達が二人がかりでも倒せなかったどころか相手にもならなかったんですのよ!」


「そうです! 今だってどこに奴がいるのか……」


 そう言ってブルりと身を震わせるフレイさん。

 あっ、そうか。二人は私があいつを倒したって知らないんだ。

 いやまぁ、アレを倒したと言って良いのか疑問だけどさ。


「とりあえずはその心配はないので安心してください。お二人を襲った巨大イタチは私が倒しましたから」


「「は?」」


 なんていうか、この二人タイミングが合うというか、息が合うというか、めっちゃ相性良いんじゃないかな?


「これがお二人を襲った魔物ですよね」


 私は魔法の袋から巨大イタチを取り出すと、二人に確認して貰う事にする。


「「ひっ!!」」


 すると二人は悲鳴を上げて後ずさった。

 しまった、よく考えたらこの二人はコイツに殺されかけたんだった。

 出す前に一言居ておくべきだったかな。


「な、なんて苦し気な表情で死んでいるんだ……」


「まるでこの世のものとは思えない恐怖を味わったかのような形相ですわ……」


 すいません、後ろから猛スピードで玉突き事故を発生させた結果なんですよソレ。


「とまぁこんな感じで倒しましたので、ご安心を」


「「は、はぁ……」」


 さて、納得して貰えた所で今後の事だ。


「とりあえず私は魔物の片親を探す為に探索を続けます。お二人は地上に戻って片親が残っている事を伝えてください」


 巨大イタチを回収しながら、私は二人に地上へ戻る様に告げる。


「いえ、そう言う訳にはいきません!」


「そうですわ!」


 けれど二人は引かなかった。


「既に貴族ではない身ですが、ダンジョンの中に並々ならぬ危険が迫っているというのであれば、それは我々だけでなく、他の、特に子供の冒険者達にとって危機的状況」


「ならば貴族であるわたくしが動かずしてどうするという事ですわ」


 いや、二人はさっきまで死にかけてた訳だし、地上に戻って体を休めてほしいんだけど。


『あいつに手も足も出なかったんだから、ついて来ても意味ないのにねぇ』


「無論あの魔物に対抗できると思うほどうぬぼれてはおりません。ですが奴の片割れにたどり着くまで露払いにならなれます!」


「ええ、アユミさんのおかげでわたくし今、絶好調なんですの! これなら下層の魔物相手でも十二分に戦えますわ!」


 どうやら二人に引く意思はない模様。

 このまま二人をぶっちぎって私だけ捜索に出てもいいんだけど……

間違いなく追いかけてくるだろうなぁ。

そうなると、私が探している間に巨大イタチの片割れに襲われる危険がある。


『いいじゃん、姫様が守ってあげれば。それに雑魚の露払いをしてくれるんでしょ。それはそれで楽だと思うよ!』


 まぁそれもそうか。

 それにさっきの巨大イタチは不意打ちで倒せたけれど、真正面から戦ったらどうなるか分からない。

 援護をしてくれる味方は必要だろう。


「わかりました。それじゃあ二人にも手伝って貰うね」


「「おまかせください!」」


『勇者パーティの結成だぁー!』


 いや勇者じゃないし。

 というか私、ちゃんとパーティ組んで冒険するの初めてなのでは?

 今までの戦いで他の人と戦うのって、なんか成り行きが多かった気がするし。


 お、おお……ついに私にも真っ当に戦ってくれる仲間が……


『いや私がいるじゃん』


 でもリューリの役目って目眩ましとかがメインで、攻撃に参加したりしないじゃん?

 どっちかというとゲームの画面枠にいるサポートキャラというか。


『そーいや戦ってなかったなぁ。よし! そのうち私の凄まじい力をお見せしましょう!』


 あっ、これはいつまでたってもそのうちが来ない奴だ。


「では参りましょう姫! 不詳このフレイめが姫君の騎士となって戦いましょう!」


 なんか騎士が湧いた。


「おほほほっ、貴方の出番などありませんわ! このエーネシウが宮廷魔術師に勝るとも劣らぬ魔法の冴えをお見せしますわ!」


 そして宮廷魔術師も湧いた。


「ふん、お前如きが宮廷魔術師を名乗るとは片腹痛い。


「貴方こそ騎士どころか貴族ですらないではないですか」


「「ぐぬぬぬぬっ! 決闘だ/ですわ!」」


 そして沸点が低い二人。


「はいはい、バカやってないでいきますよ」


 私は喧嘩する二人を無視して進んでゆく。


「え? ちょ、ちょっと待ってください! 戦闘は護衛の私が!」


「おまちください! 高貴なお方がそのように無防備に!」


 いやー、無防備なのはダンジョンの真っただ中で決闘騒ぎを始める二人では?


 ◆


 なんやかんやあって巨大イタチの片割れを探す事になった私達。

 しかしその旅路は決死で順調とは言い難いものだった。


「キシャー!」


「むっ! 魔物! 姫、ここは私にお任せください!」


「いいえ、ここはわたくしの魔法の出番ですわ!」


「「はぁぁぁぁっ!!」」


「ピギャー!」


「見ましたか私の剣の冴えを!」


「何言ってますの。今のはわたくしの魔法で倒したのです。適当な事を言わないでほしいですわね」


「そちらこそ何を言っている! 私の剣だ!」


「わたくしの魔法ですわ!」


 と言った感じで、魔物が出ると二人が手柄の奪いあいをして戦う時間よりも喧嘩に使う時間の方が長いくらいなのだ。

 けれど上層部の魔物なんて、他のダンジョンの魔物に比べたら楽勝で倒せるような相手。

 寧ろムキになって戦うせいで余計に消耗してるんじゃないかなコレ。


「もー、いい加減にしてください! 次に喧嘩したら置いていきますからね!」


 流石に状況を理解せず喧嘩を続けるようじゃ連れ歩く気にもなれないので、私は二人に最終宣告を通達する。


「「そ、そんなぁ!!」」


 ショックを受ける二人を無視して、私はどんどん前に進んでゆく。


「お待ちを! 露払いは私が!」


「いえ、わたくしが!」


 と、二人が私の前に行こうとする。

でものまま大騒ぎしながらだと、どんどん時間が掛かっちゃうんだよねぇ。


『あのさぁ姫様』


 と、リューリが何やら思うところのあるような様子で声をかけて来た。

 どうしたの一体?


『飽きた』


 なんともシンプルな理由きました。

 出来ればもうちょっと具体的な理由をプリーズ。


『ずっと歩いてるだけで暇』


 あー確かにさっきからずっと戦闘はフレイさん達に任せてるから、私達は暇だもんね。


『どのみちこの辺の魔物なんか私達にとっては誤差みたいなもんでしょ。任せるだけ時間の無駄だって。だからささっと調べながらどんどん下の階層までいっちゃお』


 ふむ、確かにその方が良いかも。正直言って私も飽きてきたし。

 何より喧嘩の仲裁がめんどい。


 というか、よくよく考えるとこの二人って子供だしね。

 周りに子達と比べると教育がしっかりしているから優秀って言ってもそれは子供レベルでの話だ。


『さっすが姫様。考える事は同じね!』


「よし、それで行こう!」


「は? 何がで……」


「どうかなさっ……


 私は二人の腰をガッと掴むと、ぐいっと持ち上げて両肩に担ぐ。


「「え?」」


「それじゃ、行くよ!」


 二人を担いだ私は、妖精魔法を発動させると共に走り出した。


「「ひあぁぁぁぁっ!?」」


 私は二人を探した時の要領で階層内にいる動くものの反応を探る。

 するとすぐに脳内マップに動く存在の反応が表示される。


「けど結構多いね。もうちょっと詳しく確認できないかな」


 反応の相手が魔物かどうかとか、強いか弱いかとかさ。

 けれその辺りを詳しく知ろうとすると、途端に情報量が多くなって私の方が耐えられなくなる。

 こりゃ駄目だ。こうなったら反応をしらみつぶしに探すしかない。


 私は速度を上げて反応の下へと向かう。


「ひっ! 壁が!」


 私は前に跳躍すると、壁を蹴ってカーブを曲がる。

 今度はちゃんとスピードを調整してあるので、殺気のようなヘマはしでかさないのだ。


「あ、あぶ、あぶぶぶっ」


 虻はいないよ?


 私は行く手を阻む魔物の脇をすり抜け、瓦礫を回避し、前へ前へと芸所不能になるギリギリを見極める様に速度を上げていく。


「ん、あれはちょい邪魔だね」


 行く手には10匹近い魔物達の姿があった。

 けどおかしいな。上層の魔物はそう何匹も群れたりしない筈なんだけど……


『多分たまたま複数の群れがカチあっちゃったんだよ。ほら見て。ちょっと喧嘩してるでしょ』


 確かに言われてみればこの先にいる魔物達はなんか縄張り争いみたいな事をしている。


「まぁ良いや。倒しちゃお」


 私はフレイさんとエーネシウさんを前方上空にむけて放り投げる。


「「え?」」


「はぁ!!」


 抜刀した剣に水の刀身を纏わせ、魔物達を横一文字に切り裂いた。

 次いで魔物達の死骸を魔法の袋にイン。

 最期は弧を描いて落ちて来たフレイさん達をキャッチすると、加速を再開する。


「ちょっ、な、なんですか今ぬぉっ!?」


「喋ると舌嚙んじゃいますよー!」


 私は更に走る。

 魔物の反応のある場所へ一直線に向かい、見つけた魔物を倒してついでに回収。


「いちいち拾うの面倒だな。んー、ウォーターアーム」


 なので魔法で水の触手を作りだして、スピードを落とさずに素材回収。


「にゃんですの今にょ魔法は!?」


 振動でところどころおかしな発言になりながらもエーネシウさんが魔法に突っ込んでくる。


「拾う度に減速するのが面倒なんで創りました」


「創っ!?」


 回収手段を確保した私の移動速度は更に早くなる。


『ねぇねぇ姫様。それなら攻撃も魔法でやっちゃえばいいんじゃないの? 水を大量に作り出して、それを操ればいちいち出さなくてもいいよ』


「そうなの?」


『そうそう。無いものを作り出すのと、最初からあるものを利用するんじゃ、最初からあるものを利用する方が魔力の消費が少なく済むんだよね』


 妖精であるリューリの言う事だし、試してみようかな。


水生成スキルで水をいくつか作り出した私は、それらを纏めて一つの大きな水の塊にする。

そしてその水を鎧に纏わせるイメージで装着し、用途に応じて水の腕と水の武器へと使い分ける。


「成る程、確かにこれは使いやすいね」


 さしずめ水の武装、ウォーターアームズってところか。

 ウォーターアームズの使い勝手の良さは予想以上によく、更に攻撃と回収が同時に行えるので、移動速度のロスが完全になくなっていた。


『そうでしょそうでしょ! このままこのダンジョンの魔物を残らず倒して最下層のボスまで倒しちゃおう!』


「おっけー! 目指せダンジョン最速攻略!!」


 水の武装の使い勝手が良い事で、なんだかすごくいい気分になって来た私はノリノリで水の武器を振るう。

 既に水の腕は先端が刃となって、武器と回収用の腕を兼任している。

 そして発見した魔物が水の腕の射程圏内に入った瞬間、魔物は真っ二つ。


 次の魔物に向けて進路を調整。

 見つける、倒す、探す、見つける、倒す、探す。

 その繰り返しをしながら、私の速度は更に上がってゆく。


 壁にぶつかりそうになる瞬間、先んじて正面の壁に貼り付けておいた水の塊をクッション代わりにして衝撃を吸収しつつ壁を駆ける。

 更にその次は全部をクッションにするのではなく、両足に水の塊を集中させて、水のブーツにして衝撃を吸収させる方向にシフト。


 そうやってどんどん水の武装を使いやすく洗練させてゆけば、タイムはさらに短くなってゆく。


「~~~っっ!!」


「~~~すわっ!!」


『ははははっ! はやい早い速い! もっともっと!!』


「おっけー!」


 ノリノリになった私は、どんどん加速し、魔物を倒し、下層へと降りてゆく。

 既に最初の頃のように迫って来る壁に慌てる事は無く、冷静にあとどのくらいでぶつかるから衝撃を吸収する為に水の武装を変形させると半ば無意識で計算を行う。


 そして降りたったフロアは、一面が壁のないだだっ広い構造をしていた。


「これって前に……」


 見た覚えがある、と記憶を掘り起こしていた私の耳に、甲高い鳴き声が突き刺さる。


「ヂヂヂヂッ!! ヂィ!」


 暗闇の向こうから姿を見せたのは、あの巨大なイタチ……よりもさらに大きい超巨大イタチだった。


「うわデッカ!」


 まさかの巨大イタチ以上の巨体に思わず声を上げてしまう。

 マジか、もしかしてあの巨大イタチって、成長したらこんなになるの!?


『どっちかが特別大きくなるタイプの生き物かもよ』


 そう言えば、チョウチンアンコウとか、オスが滅茶苦茶小さいんだっけ。

 自然界ではオスとメスのサイズが違う事が結構あるって、動物動画で見た覚えがある。


「ひ、姫様! アレは危険すぎます! 我等も共に戦う許可を!」


「そうですわ! この状態ではアユミさんも全力を出せませんわよ!」


 と、両肩から水の腕に担がれてなおしていたフレイさんとエーネシウさんが、卸してくれと声をかけてくる。

 確かに。あの巨体が相手なら、援護は欲しいかな。


 私は二人を下ろし、改めて超巨大イタチに向き直……った時には、超巨大イタチは飛び上がっていた。

 巨体が天井を隠し、両の前足から鋭い爪が伸びているのが分かる。

 口は大きく開かれ、血のような真っ赤な口と、一噛みで私達を真っ二つに出来そうな牙が見える。


 え? いきなり攻撃とか殺意高すぎない?


 その行動は予想以上に早く、既に超巨大イタチの巨体は落下に入っていた。

 不味い、避けきれない。

 このままだと全員あの巨体に踏み潰される。


「っ!」


 この子達を守らないと。


「ヂィッ!」


「ヂィッじゃない!」


 迎撃をすべく、水の手に指示を送る。

 同時に、私の体に纏った水の腕の先が刃になって伸び……


 シュパパパパッ


 次の瞬間、超巨大イタチの体をバラバラにした。


 バラバラになった超巨大イタチの体は、細切れになったまま私達の周囲の床へと叩きつけられる。

 直撃コースだった体の一部は、これまた盾の形をとった水の腕がガードしてくれた。


「「「え?」」」


 全ての超巨大イタチの体の部位が床に叩きつけられてじっくり数秒が過ぎた後で、私達は今起きた出来事を認識する。


 あ、あれ? 私超巨大イタチを倒しちゃった?

 あんなバカデカいのを、たった一撃で? マジで?

 単に迎撃して落下位置を変えるだけのつもりだったんだけど!?


「いくらなんでも脆すぎない!?」


 これから反撃しようと思ってたんだよ!?

 だけど驚くのはそれだけじゃなかった。


『ダンジョンを踏破しました』

 

 突然、眼の前にそんなことが書かれたメッセージが、現れたのだった。

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