第63話 リロシタンのダンジョン再び(めっちゃ心配されました)

「よし、準備完了!」


 地上へ戻った私は、お店で物資を色々と補給し、エーフェアースに帰還する準備を整えた。

 ついでにホームセンターで神棚を買って、お供え物のお菓子も備えたよ!

 店員さんに何で子供が神棚? って目で見られたけど。


「お菓子たっくさん買ったし、いざリベンジだぜぇー!」


「じゃあいくよ『世界転移』!」


 一瞬の視界がブレるような感覚と共に、世界が一瞬で別の色に変わる。

 切り替わった光景は、先ほどまで居た現代的な風景とは打って変わって、異国情緒に溢れた光景だ。


「ええと、ここは……」


「あっ、お姫様だー!」


「え?」


 現在地を確認しようと周囲を見回していたら、リロシタンのダンジョンの潜っていた子供達が声を掛けてきた。 


「よかったー、別の町に行っちゃったかと思ったよー」


「どこに行ってたの?」


 そっか、こっちの世界を留守にしていたせいで、私がどこか別の町に行ってしまったと勘違いさせてしまったようだった。


「ちょっと用事でね」


「そうなんだ!」


「またお姫様とダンジョンに潜れるんだねー、やったー!」


 ふふふ、こんなに喜ばれると悪い気しないなぁ。

 ともあれ、これからどうするか。

 空を見れば日がだいぶ落ちて来ているし、ダンジョンの攻略は明日にした方がいいかな。


「それじゃあ今日は宿に戻って、明日から頑張ろう」


「おー!」


「「「おおーっ」」」


 そんなリューリに追従して拳を振り上げる子供達。

 てな訳で宿に戻ってきた私だったんだけど……


「おかえりなさい、随分と遅かったですね」


 宿の前には腕組みをしたお爺さん達が待ち構えていたのだった。


「ずいぶんと探索に集中していたみたいだが、まさか夜が明けても戻ってこないとはなぁ」


「詳しい話を」


「聞かせてもらおうか?」


 結果、私が一夜明けても帰ってこなかったことに心配したお爺さん達に対し、なぜそんなことになったのかと事のあらましを一から十まで説明する羽目になるのだった。


 ◆


  翌朝、再びダンジョンに挑むべく私達は宿を出る。


「それじゃあ行ってきまーす!」


「ダンジョンで夜を明かすときは一旦帰ってくるですよー!」


「ヤバい敵に遭遇したらすぐに逃げるんだぞー」


「はーい!」


 心配性のお父さんとお母さんかな?

 という訳でダンジョンにやってきた……んだけどなにやら様子がおかしい。

 衛兵の周りに沢山の子供達が集まって何か話している。


「何かあったの?」


 私は衛兵を囲んでいる子供達の一人に何があったのか尋ねる。


「あっ、お姫様!」


 子供の一人が声を上げると、他の子供達も私の存在に気付き、衛兵から私の方にやってくる。


「あのね、いつも喧嘩してる子達が魔物に追いかけられてるの!」


「魔物に追いかけられてる?」


 どういう事? 冒険者なんだから魔物と戦うのは普通の事なんじゃないの?


「私達がダンジョンを探索してたら、すっごい大きくて強い魔物の襲われたの」


 凄く大きくて強い魔物? それってまさか……


「お兄ちゃん達が私達を逃がしてくれたんだけど、お兄ちゃん達もやられちゃって、それで魔物に食べられそうになった時にあの子達が助けてくれたの」


 聞けば、最初に子供達が狙われ、それを年長組の子達が助けた。

 けれど年長組の子達でも歯が立たなくて、全員殺されるってところでフレイさん達が助けてくれたという事だった。

 そして二人は魔物をおびき寄せる囮になってダンジョンの奥へと走っていったらしい。


「囮になって……か」


 その魔物が私の遭遇した巨大イタチだったら、かなりヤバイ状況だよね。


「それっていつの話? 場所はどこ?」


「さっき! 二層で襲われたの!」


 二層で!? 上の階層にあがってきたの!?


 そんな事があるのかとリューリを見ると、彼女は難しい顔を見せる。


「極稀にフロアを移動する奴は居るね。ただ、そういう奴はヤバいよ」


 うわぁ、敵の難易度があがってるじゃん。

 そして語彙の少ない子供達からは、これ以上詳しい情報を得るのは難しかった為、私は子供達に囲まれていた衛兵に事情を聴くことにする。


「子供達が傷だらけの年長組と一緒に帰ってきたのは半刻前だな。怪我したガキ共はかなりの重傷だったことを考えても普通の魔物じゃない。正直言って生存は絶望的だ」


 やっぱりかなり不味い状況みたいだ。


「状況から考えて下層の魔物が何らかの事情で上層部にやってきた可能性が高い。大人の冒険者達を募って調査をする予定だから、君も早まって無茶なことを考えるんじゃないぞ」


 それはつまり、フレイさん達は見殺しにするって事だよね。


「……」


 このままダンジョンに入ろうとしても衛兵に止められるだろう。私は一旦ダンジョンの入り口から離れて、状況を整理する。


「まず重要なのはフレイさん達が生きているかだよね」


 助けに行くにしても、要救助対象である二人が死んでいたら意味がない。


「あれから逃げ続けるのはまず無理ね。襲われた子供達が生きているって事は、多分散々おもちゃにして遊んでから食べるつもりなんだと思う。そう考えると、活きの良いおもちゃと思われれば手加減はするんじゃないかしら?」


 ダンジョンの専門家であるリューリからは、生きている可能性はそれなりにあるとのことだった。


「あとは小部屋に逃げ込めていればワンチャン時間を稼げるかな」


 これだけ時間が経った状況で生きている可能性となるとそれしかない。


「あとは、私達があいつに勝てるか、だよね」


 それが問題だった。

 私もそれなりに強くなった自信があるけれど、確実に勝てるかというとやってみないと分からないところがあるからだ。


「んー、勝てると思うよ」


 悩む私に対し、リューリはあっさりと私が勝てると断言した。


「私達の奥の手を使えば確実にイケルと思うよ」


 そういいながら自分を指さすリューリ。

 それはアレですね。妖精合体を使えって言いたいんですね。


「それは……うぅ」


「でもさ、今がその時じゃない? 命の方が大事っしょ?」


 くぅ、悪魔の囁き!


「お姫様! あの子達を助けて!」


 悩む私に、子供達の涙ながらの懇願が追い打ちをかける。


「あの子達私達を助けてくれたの! だからお願い、助けて!」


「うぅ……」


「ほらほらー、子供達もこう言ってることだし。合体しちゃおう!」


 そそのかすなぁー!


「ああもう! 分かった! 助けに行くよ!」


「ほんと!?」


「助けてくれるの!」


 私が助けに行くと告げと、子供達が歓喜の声を上げる。


『初級英雄スキルを取得しました』


 英雄スキル? なんじゃそりゃ?


「お、それじゃあ合体いっとく?」


「いっときません。妖精合体は最後の手段。まずは二人を助ける事に専念。最悪の場合は転移を使って安全な場所に逃がすよ」


「ほーい」


 スキルの事は気になるけど、今は二人の救出が優先だ。

 そして方針を決めた私達の動きを不審に思ったのか、衛兵達はそっとダンジョンの入り口の前に立ちふさがるようなそぶりを見せる。

 不味いな、さすがに衛兵の制止を振り切って入るとあとあと不味そうだ。となれば……


「……ねぇ、皆も協力してくれる?」


「いいよ! 何でも言って!」


「じゃあ……」


 私は子供達に作戦を伝える。


「ああそうそう、このポーションを怪我した子達に使ってあげて。君達を助けてくれたんでしょ?」


 私は魔法の袋から年長組の子達用にポーションを取り出して子供達に手渡す。


「いいの!?」


「戻ってきたら回復魔法使ってあげるから、それで凌いでおいて」


 さて、それじゃあ作戦開始だ。

 まずこの場に集まった子供達の半分が入り口の前に立ちふさがっている衛兵達の下へ行く。


「ねぇ、あの子達を助けてよ!」


「怪我してるかもしれないんだよ!」


「だから、今冒険者達を集めて調査に向かう準備をしてる最中だ。おとなしくしていなさい」


 そういいつつも、彼らは子供達が頼った私から視線を外さない。

 なら作戦を続けるだけだ。

 私は子供達の下から離れ、ダンジョンの入り口から遠ざかると、建物の陰に入って衛兵達の視線から外れる。


「リューリ、よろしく」


「おっけー! 『幻惑』!」


 そしてリューリのスキルで姿を隠すと、私達は動き出した。


「そんなこと言っていつ助けに行ってくれるんだよー!」


「ほんとは二人を見捨てるつもりなんじゃないの!?」


 そして予定通り子供達の残り半分が衛兵達に群がりだす。


「だから、もう少し待ってろ!」


「もう少しっていつまで!?」


「もう少しだ!!」


 衛兵達はダンジョンに潜れずその場にいた無数の子供達に詰め寄られ、去っていった私達を気にするどころじゃなくなっている。

 その隙を付いて、姿を隠した私達はダンジョンへと侵入したのだった。


『初級扇動スキルを取得しました』


『初級指揮スキルを取得しました』


 なんか変なスキル覚えたけどこれも後回しだ。


「待っててね二人とも!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る