第61話 強くなるには?(力をつける必要があります) 

 地上に上がった私達は、羞恥に悶……今後の事を相談する為に、近くの公園でご飯を食べながら作戦会議をすることにした。

 ホントはファーストフードのお店で食べながら会議しようと思ったんだけど、なんか妙に注目されるからお持ち帰りにしたんだよね。

 フード被ってたから、特に目立たないと思ったんだけどなぁ。

 まぁでも、お店で食べるとリューリが妖精の小瓶から出ないといけないからね。

 それだと結局目立つか。


「でさぁ、モグモグ……地上から転移すれば安全な場所に戻れるけど、どのみちダンジョンに潜ればまたあの巨大イタチと再会する危険があるじゃん。それを考えると、もっと強くなる必要があるんだよね」


「モグモグ、だったらあのお爺ちゃん達に鍛えて貰ったら?」


「今回は手助けしないって言ってたじゃんモグ」


「あっ、そっか。モキュモキュ」


 そうなのだ、今回は師匠からの試練ということもあって、自力でなんとかしないといけないんだよね。


「じゃあやっぱ妖精合……」


「それはヤダ」


 私はリューリの口にポテトを突っ込んでその口を塞ぐ。


「モゴモゴ、ふぁあふぉうふふほほ?」


「んー、やっぱ地道にレベルアップかなぁ。クピッ」


 そう、このルドラアースで強くなるなら、基本はレベルアップだろう。

 何せこの世界は比喩的な意味ではなく、本当にレベルが上がって強くなるんだから。


「あとは新しい魔法を覚えるとかかなぁ?」


 私が今使っている魔法は初級魔法だ。

 だからシンプルに強くなるなら、中級魔法を覚える事が強化への早道だろう。


「んー、ダンジョンに潜る前に、この町の図書館もチェックしておくかな」


 ◆


 という訳で図書館にやってきました。

 相変わらずリューリは本に興味が無い為、小瓶の中で食後のシエスタと洒落こんでいる。優雅か。


「ええと、魔法コーナーは……ああ、あった」


 やはりこの町でも、魔法書のコピーが置かれているコーナーは、安全の為に他のコーナーから隔離された位置に設置されていた。


「さーて、どんな魔法があるかな?」


 パラパラとファイルをめくってそこに書かれた内容を確認するのだけれど……


「前の町とあんま変わんないな」


 そう、そこに記載されていた魔法は、お婆ちゃん達の町の図書館のものと、ほとんど同じだったのだ。

 一応少しは違う魔法もあったものの、劇的に戦闘が楽になる感じではなかった。


「中級魔法がないんだよねぇ」


 そういえば図書館には安全の為に初級魔法しか置いてないんだった。


「何とか中級魔法を学びたいところだけど、どうしたもんやら」


 本来は中級以上の魔法は学校で習うらしいんだけど……


「あっ、そうだ。確か買うことも出来るんだっけ!」


 という事で急遽図書館から、魔法の本が売ってそうなお店に向かうことする。


「とりあえず冒険者の装備が売ってるお店にいってみようかな」


 そしてやってきたのはホームセンターならぬ冒険者ショップ……があるショッピングモールの一角である。


「結局地方は巨大モールに飲み込まれる定めなのか……」


 こういうところは異世界でも変わんないんだなぁ。

 ともあれ私はお店の中に入ってゆく。入り口はダンジョンで使う消耗品や宿泊用のキャンプグッズが並んでおり、その奥に防具、武器とコーナーが区分けされている。


「武器が奥なのは、危険な品の盗難防止かな?」

 

 私は魔法書が売られているコーナーはどこかと店内を捜し歩く。


「お客様、どのような商品をお探しですか?」


 すると魔法書を探していた私の下に、店員さんがやってくる。


「中級以上の魔法書ってありますか?」


「中級以上ですか?」


 すると店員さんはちょっと困った顔になる。


「あるにはありますが、お客様の年齢ですと、探索者協会の許可証が必要になりますね」


「許可証!」


 ぐわーっ! こんなところでも戸籍が邪魔をするのか!!

 そんなわけで、中級魔法書を購入する計画は失敗してしまったのだった。


「しかたない。こうなったら素直にレベルをあげるか」


 万策尽きた私はポーションなどの消耗品を補充すると、おとなしくダンジョンへと向かうことにした。

 つまりレベルを上げて物理で殴る作戦だ。


「あっ、そういえばレベル上がってたんだっけ。なんか女神様からのメッセージあるかも」


 ダンジョンを脱出するまでの戦いでレベルが上がっていた事を思い出した私は、念のためステータスを確認する事にする。

 なにせ、このところレベルアップメッセージを無視していたせいで、女神様からのメッセージのチェックをすっかり忘れていたからだ。


「いけないいけない。この間確認しようと思ったばかりだったのに」


 ステータスを開くと、私のレベルは最後に確認した時から前回から一気に3レベル上がっていた。


「このダンジョンに転移してから合計で6レベルも上がってたんだ」


 それだけこのダンジョンが私には難易度の高いダンジョンだったって事なんだろうなぁ。

 何せ16層からの脱出だったもんなぁ。

 必死で戦っていたこともあって、全ての能力値をまんべんなく効率的な数値の上昇とかは出来なかったけど、その分一回のレベルアップで上がる数値がこれまでより大きい気がする。


「もしかしたら、低いレベルで強い敵を倒すとステータスが上がりやすいとかあるのかな? でもこれまでも何度か死にかけた訳だし……いやでも、最近急に能力値の上がり幅が増えたから、やっぱ何かあるのかも」


 このあたり、専門家の意見を聞きたいなぁ。

 ネットが使えれば検索も簡単なんだろうけど。


「でもこれだけレベルが上がったのなら、結構強くなってるはず。ここで戦えば、もっと沢山レベルが上がる可能性が高いね」


 うん、希望が見えてきたよ!


「さて、それじゃあ女神様からのメッセージを……うぇ」


 ログを開いた私は、すぐに公開した。

 最初のうちは強くなるためのアドバイスや、探索をする為の小技みたいなのが披露されてたんだけど、私が全然読んでないことに気付いたのか、途中から恨み言が書かれ出したのだ。

 そして最後には……

 『あんまり呼んでくれないと、ママさみしくて呪っちゃうZO(はーと)』などと書かれている始末だった。


「レス昨日とかあれば、フォローのコメントとか……いや駄目だ。その機能が付いたら絶対にコメント欲しがるのが目に見える」


 もはやこれまでのメッセージから、私は女神様がどういう人、いや神なのか察してしまっていた。

 うん、神話とかで神様のトンデモ理不尽が炸裂するシーンとか見た時は、神話だからって盛ってるなぁと笑いながら見てたけど、今となってはアレ、本当に起きた出来事なんじゃないかなと戦々恐々としていた。


 ……つまり、これ以上怒らせたらホントに呪われそうで怖い。


「どうしよう、お供え物とか捧げた方が良いのかな?」


 でもどこに捧げれば良いんだろう? ホームセンターで神棚買って、そこにお供え物置いとけば通じるかな?

 今度試しておくか。マジで。


「とりあえず最後まで読んでおかないとなぁ……あれ?」


 ◆


「よし、それじゃあいこうか!」


 道中大変切羽詰まった事態になりかけた私だったけれど、ここからは意識を切り替えてダンジョン探索に集中します。

 ダンジョンの中は危険なので、面倒ごとに気を取られないようにしないとね! 決して後回しとかじゃないよ!


「とはいえ、第1層はまぁ他のダンジョンと同じだよね」


 エーフェアースの魔物大図鑑が使えなかったものの、こちらの図書館に置かれていた魔物に関する本のおかげで、ある程度の情報は手に入っていた。

 どうやらこの世界、ダンジョンによって出てくる魔物も微妙に違うらしい。

 火属性のダンジョンなら、炎の魔物が、水属性の魔物なら魚や両生類系の魔物といった具合に。


「で、ここは地属性のダンジョンか」


 地属性のダンジョンはわりとスタンダードな獣の魔物が多いダンジョンとの事だった。

 下層に居る時は気にしなかったけど、このダンジョンはどちらかというと洞窟系のダンジョンで、それに合わせてか敵にはモグラや巨大ミミズといった土のイメージが強い魔物が出てくる。


「ただ、やっぱ一層はぬいぐるみみたいな外見なんだよね」


 一層に出てくるモグラの魔物『クッションモール』は完全にぬいぐるみそのもので、あまりの可愛さに思わず抱きしめそうになってしまったほどだ。

 正直下手に強い魔物よりも恐ろしいトラップだよ。

 まぁ弱いんだけどね。 風属性の魔法で攻撃してよし、目が悪いので炎や光属性の魔法で目くらましをかけてその隙に攻撃してよしと、倒し放題。


「属性が偏ったダンジョンの上層部は、そういった魔物との戦いの練習用じゃないかって学者さんは考えてるみたいだね」


「ふーん、まぁ弱い魔物は大体そうだよね」


 リューリの身も蓋もない同意が返ってくる。


「このまま安全に戦える階層はどこまでか確認していこうか」


「おっけー」


 そうして私達はダンジョンを潜ってゆく。

 このダンジョンに対して、今の私達がどこまで通用するのかとレベル上げを兼ねて。

 そして、もう一つの目的も兼ねて。


「うん、10層までは問題ないね。でも11層から油断できなくなってくる感じ」


 10層のボスをリューリのかく乱系魔法と連携して倒した私達は、11層の魔物の強さを核にしていた。

 強さとしては問題なく倒せる。でも時折鋭い攻撃が飛んでくるので油断が出来ないって感じだ。

 

「多分このあたりが私の適性フロアかな?」


 そこから6層も下を彷徨ってたんだからそりゃあ危ない目に遭うわ。


「それじゃあこの階層でレベル上げと行こうか!」


「おーっ!」


 既にここまでの戦いでレベルが1上がっている。ボスを倒した時に上がったのだ。

 これでこっちの世界に転移してから合計7レベル上がったことになる。


「えっと、この魔物はこの部位が素材になって、ここが薬の材料になるんだっけ」


 図書館で得た情報から魔物の素材を切り分け、ジップロックに密封したら魔法の袋に収納する。

 残った部位は放置してそこからある程度離れた距離に潜む。

 そして放置された死骸の血の匂いに魔物が引き寄せらえてきたのを確認すると、魔物が死骸を喰らうタイミングで不意打ちをする戦いを繰り返していた。


「うーん入れ食いだね!」


 流石に7レベルも上がっていると、敵との戦いに慣れてきたこともあってレベルの上昇が伸び悩んでくる。


「次にレベルが上がったら、下の階層に行くのもありかもしれないね」


 と、そんな時だった。

 ダンジョンの奥から人らしき足音が聞こえてきたのである。


「来たね」


 私達は物陰からやって来る人影を確認する。

 姿を見せた彼等はかなりボロボロで、今にも倒れそうとまではいかないものの、結構キツそうだ。

 それも問題だけど、大事なのは彼らの状況だ。


「よし、上の階層まで上がったら休息をとって回復しよう。その後で続けるか決めるぞ」


 どうやら彼らはまだ今回の探索の目的を達していないらしい。


「流石に今日は無理だよ。いったん地上に戻って明日出直そう」


 けれど、仲間の探索者達は探索を続ける気はないらしく、撤退を提案した。


「だが納期を考えるともう少し粘った方が良いと思うんだ」


「それは分かるけど、無理して死んだら元も子もないよ。最悪違約金を払うつもりで安全策を取るべきだ」


 ふむ、このパーティは結構な安全策を取るタイプらしいね。

 仲間達からの意見に、リーダーらしき人もやっぱりそうかと納得しかけている。


「やはりレアモンはそう簡単には手に入らないよなぁ」


 よし、お目当てのパーティだ!

 私はフードを被ると、彼らの前に姿を見せる。


「お兄さん達、素材が欲しいんですか?」


「はぁ、俺達の所にもダンジョンの妖精が来てくれたら……うえぇぇぇぇ!?」


「うわっ!?」


 声を掛けた途端、叫び声をあげられてびっくりしてしまう。


「ダ、ダダ、ダンジョンのようせ……」


 えーと、急に何事? いきなり声を掛けられてびっくりしたのは分かるけど、それにしたって驚きすぎじゃない?

 ビビりな人だとしてもリーダーがこれはどうなんだろうか?


「えーと、探してる素材があるみたいだから声を掛けたんですけど、いりませんでした?」


「い、いえ! そんなことありません! 凄く欲しいです!」


 あっ、よかった。ちゃんと欲しがってくれた。

 このままビビりちらかして交渉どころじゃなくなったらどうしようかと思ったよ。


「それで、貴方達の欲しい素材はなんですか?」


「お、俺達が欲しいのはブルーランドクレイフィッシュの素材です!」


 ブルーランドクレイフィッシュ、ランドクレイフィッシュのレアモンだね。

 ちなみにクレイフィッシュというのはザリガニの事なんだけど、このダンジョンでは水場じゃなく土の中で暮らしている変わり種だ。

 そしてブルーランドクレイフィッシュは名前の通り、青いザリガニである。

 つまりあれです。サバとか食べさせて青くしたヤツの魔物版。


「それならありますよ」


 今回はレベル上げをメインにひたすら戦いながら降りてきたので、レアモンも何匹か確保してたのが功を奏した。

 まぁこの状況を想定していたのは事実だけどね。

 私は魔法の袋からブルーランドクレイフィッシュを取り出す。


「「「「おおーっ!」」」」


 お目当ての素材が目の前に置かれて、探索者達が歓声を上げる。


「まじか、じゃあやっぱ本物?」


「レアモンを売るって事はやっぱ本物なんじゃないの?」


 うんうん、レアモンは解体せずそのまま確保しておいて正解だったね。

 見た目のインパクトがあるから、本物と信じてもらいやすいよ。


「ぜ、ぜひ買わせてください!」


 レアモンが手に入りと分かり、リーダーさんはやや前のめり気味で取引を求めてくる。


「あっ、でもお高いんですよね。俺達今手持ちが……あっ、いや、地上に戻れば用意できます! すぐに金を下ろしてきますんで!」


 と、リーダーさんは手持ちがない事を慌てて弁解しだす。

 まぁダンジョンの中でお金を持ち歩く人は少ないもんね。

 でも今回はその心配はないのだよ。


「それなら、他の物でもいいですよ」


 さぁ、ここからが本番だ。


「他の……あっ、素材や物も買い取って貰えるんでしたね」


「それだけじゃありません。貴方がたの持っている魔法書、それに呪文そのものでもいいですよ」


「「「「呪文でも?」」」」


「ええ、中級以上の魔法の呪文を提供してくれれば、それを対価にしてくれても構いません」


 そう、これこそが今回の探索のもう一つの目的。

 レアモンを対価に、中級魔法の呪文をゲット作戦だ!

 彼等はちゃんと學校に通っている真っ当なこの世界の住人だし、ある程度深い階層に潜るレベルの持ち主なら、当然強力な魔法だって知っている筈。

 それに目を付けたのである。


「呪文……」


 彼等はすぐに自分達が持っている呪文を確認し始める。


「あの! 俺達が知ってるのはこの呪文なんですけど!」


 私はリーダーが差し出してきた呪文と魔法の名称が掛かれた紙切れを確認する。


「ふむ、これらの魔法の効果も書けますか?」


「は、はい、すぐに!」


 私が注文すると、彼等は急いで呪文の効果も神に書き写す。


「「「「ありがとうございましたーっ!!」」」」


「まいどありー」


 こうして私は見事中級魔法の呪文を手に入れたのだった。


「やったね。女神様に感謝だよ!」


 そう、この作戦を考えてくれたのは実は女神様なのだ。

 さっきのログ確認の際に、女神様からの恨み言が終わったあたりで、こちらの現状を予言する内容があったのだ。

 そこにはこう書かれていた。


『レベルをあげ、スキルも色々と確保して強くなってきた貴方ですが、そろそろ伸び悩む時』

『期だと思います。そこで私からアドバイスを』あげましょう』

『ルドラアースで中級以上の『魔法を取得するには資格が必要となる為、戸籍を持たない貴』

『方が入手するのは少々骨です。しかし、貴方が直接それらを手に入れる必要はありません』

『要は持っている人間から得ればいいのですよ』 


 つまり、今回のように呪文を学んだ人間から直接教われば良いのだ! という話だった。

 おかげでレアモンを対価に、私は中級魔法をいくつも学ぶことが出来たのだから、女神様には感謝しかない。


「女神様ありがとうございます!」


 うん、やっぱ神棚買ってお供え物捧げた方がいいかも。

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