第57話 なんか戦いを挑まれました(異世界人はバトル脳)
魔物と戦っていたのは先日決闘騒ぎを起こしていた子の片割れの男の子だった。
彼は多少傷ついていたものの、その足取りに不安はなく、倒した魔物の解体を始める。
うん、やっぱり他の子達と比べて頭一つどころか飛びぬけて強いね。
「誰だ!?」
ジロジロと見ていた所為で、バレてしまった。
「どうも、こんにちは」
「貴方は!?」
私が姿を見せると、彼は慌てて跪く。
やっぱり偉い人と勘違いされてるなぁ。
「そういうのいいですから。解体を再開してください」
念のため後ろを確認した後で、昨日と同じ様に彼を立たせる。
「はっ!」
するとまるで偉い人に命令されたかのように解体に専念しだす。
もしかして今のが命令にカウントされた? どんだけ生真面目なの……
「……」
「……」
私は彼が解体する様子をじっと観察する。
その手際はとても手慣れていて、誰かに教わった事がはっきりと分かる。
これも『観察』スキルのお陰だね。
「……あの」
と、彼が解体を続けながら私に話しかけてくる。
「何ですか?」
「何故私を……あ、いえ、供の方はおられないのですか?」
友? 仲間って事かな?
仲間、仲間かぁ。私冒険者じゃないから、仲間っていないんだよなぁ。
ちょっぴりセンチメンタルな気分になった私だったけれど、突然何かが腰にバンバン当たる感触がしたので何事かと下を見たらリューリだった。
「……」
リューリは自分を指差して、仲間ならここに居るだろと無言でアピールしてくる。
ああそうだね。確かに冒険者の仲間はいないけど、旅の仲間ならここに居たよ。
「この子が私の仲間ですよ」
「人ぎょ……いや妖精!?」
解体作業の手を止めた彼てリューリを見た彼は、一瞬人形と勘違いしつつも、リューリが妖精と気付いてギョッとなる。
「私はリューリだよ。よろしくね」
「あっ、ああ。私はフレイ・ジーナモン。フレイでいい」
「私はアユミです。よろしくフレイさん」
「っっっ!! ははっ、アユミ様!」
だから貴族じゃないってーの。
「フレイさん、昨日も言いましたけど、私は貴族じゃありませんから。ただのアユミです。そう呼んでください」
「し、しかし……」
「アユミです」
「ア、アユ……」
魚じゃないですよ~。
どうにも呼び捨てに出来ないらしいフレイさんが言葉を詰まらせる。
「っっっア、アユ……ミ殿!」
侍か。
まぁいいや。これ以上無理強いをするのも良くなさそうだし、これで納得するとしよう。
◆
「……」
「……」
フレイさんが解体を終えると、私達は再びダンジョン探索に戻る。
そして始まる無言タイム。
「あの……」
と思ったらフレイさんの方から話かけてきた。
「何ですか?」
「何故私と同じ方向に?」
うん、確かに私はフレイさんと同じ方向に進んでいた。
「ただの偶然ですよ」
これは本当。特にフレイさんと同じ方向に行こうとしてる訳じゃなく、偶々同じ方向になってるだけだった。
でもフレイさんはそう思えなかったらしい。
「そ、そうですか……」
そして再び始まる無言タイム。
うーん、探索中だから静かにしていた方が良いかと気を使ったつもりだったんだけど、フレイさんの反応を見るにコミュニケーションをとった方が良いのかも。
となるとこれは年上である私がリードしてあげるべきだね!
「そういえばフレイさんこそ何で一人でダンジョンに潜ってるんですか? 何か事情でもあるんですか?」
「私の事情、ですか?」
「はい。差し支えなければですが」
フレイさんはソロでここまで来れるくらいだし、十分な実力を持っている。
だから仲間を募集すればすぐに集まると思うんだよね。
装備だってちょっと古い感じはするけどしっかり手入れされてるから、戦力が欲しい人達から逆に誘われると思うし。
なのに何故一人なんだろう?
「それは……いや、そうですね。教えても構いませんよ」
と言いながら剣をこちらに向けてくるフレイさん。
「フレイさん? 何で剣を?」
「その代わり、私と戦ってください」
「は?」
なぜそうなる。いやマジでなぜそうなる?
フレイさんは剣を構えたままゆっくりこちらに近づいてくる。
「アユミさん、貴方はこの階層まで一人で降りてきたのでしょう? つまり、相応の実力の持ち主だ。そんな貴方とぜひ戦ってみたい」
あちゃー、バトル脳の人でしたかー。
「さぁ、武器を構えてください」
もう完全に戦う気満々のフレイさん。
「いや、ここダンジョンの中ですよ? そんな場所で決闘とか、さすがにどうかと思いますけど」
外ならともかく、魔物がいるダンジョンで決闘とか正気の沙汰ではない。
「ここまでソロで来た貴方です。装備もまったく傷ついているように見えませんし、このあたりの魔物など何匹出てきても敵ではないのではありませんか?」
むむむ、そこまで見越したから、わざわざ喧嘩売ってきたって事?
「それに私との戦いはそれそのものが答えの一部でもあります」
フレイさんと戦うことが質問の答えの一部?
ふーむ、そう言われると気になってきた。
「分かりました。そういう事ならお相手しましょう。でも、あんまり戦いが激しくなるようなら降りさせてもらいますからね。私の目的は決闘ではなくダンジョンの攻略なんですから」
「ええ、それで構いません。それでは行きますよ!」
宣言と共にフレイさんが剣を繰り出してくる。
けれどその動きは私にとって大したものではなく、簡単に回避する事が出来た。
「くっ! 今のを避けますか!」
けれどフレイさんにとってはかなりマジの攻撃だったみたいで、声に驚きが混じっている。
「ならこれならどうです! 『連撃』!!」
するとフレイさんの攻撃が突然激しくなる。
けれど私はその攻撃を慌てることなく全て回避する。
「まさか私の切り札が!?」
どうやら今のスキルが彼の奥の手だったらしい。
スキルを取得するには何年もかかるって話だったことを考えるとフレイさんはかなり頑張ってスキルを取得したみたいだいだね。
「それじゃあ、今度はこっちからいきますよ!」
相手は子供だし、本気で攻撃したらさすがにマズいよね。
なので音もなく側面に回り込むと、大怪我させないように剣の腹でフレイさんの手の甲を叩く。
「ぐあっ!!」
そしたらフレイさんは悲鳴と共にあっさり剣を手放してしまった。
あ、あれ? そんなに痛かった!?
「す、すみません、やり過ぎました! ヒール!」
手を抑えて痛がるフレイさんに慌ててヒールをかけて回復させる。
「っ、痛みが……!?」
回復スキルはちゃんと効果を発揮してくれたらしく、すぐにフレイさんの痛みはなくなったようだった。
「……はぁ、私の負けです。まさかこうもあっさり負けてしまうとは」
そして意外にもフレイさんはおとなしく敗北を受け入れた。
「私以外にソロでダンジョンに挑む冒険者が居たので、ぜひ実力を知りたかったのですが、世の中は広いですね。まさか私が足元にも及ばない方がいらっしゃるとは」
まぁ私はレベルアップシステムとスキルシステム両方の恩恵があるし、その上
お爺さんとお婆さん達に鍛えられているので、鍛えているとはいえ、その辺の子供に負けるわけにはいかないからねぇ。
「つーか、私忘れてない? 私が姫様の仲間な・ん・だ・け・どっ!」
決闘が終わって安全になったからか、リューリが小瓶から飛びだしてフレイさんに文句を言いだした。
「ああ、すまない。貴方の事を忘れていた」
「わ、忘れていたですってーっ!! ムキーッ!!」
起こったリューリがフレイさんの周りを飛び回って頭をポカポカ叩いている。
「す、すまない、許してくれ!」
ウチの妖精がごめんねー。
「ええと、それで一応私が勝ったわけですけど……」
このままだと話が進まないので、私の方で進める事にする。
「ああ、ソロで潜っている事情をお話しする約束でしたね。とはいえ、簡単な話ですよ。私の場合は仲間がいないだけです」
つまりボッチと?
やっぱいきなり決闘するような子だから、周りが敬遠してるのかな?
「それは他の子達とは気が合わないとかそういう?」
「いえ、単純に目的が合わないからです」
「目的?」
「はい、私の目的はダンジョンの攻略ですので」
んん? でもそれは皆そうなんじゃないの?
私が首をかしげて不思議がっていると、フレイさんはクスリと可愛い笑顔を見せる。
おお、良いね! まるで少女のような笑顔だ! 今の笑顔を見せたら、女の子にさぞもてるだろうに。
場合によってはお姉様達から大ウケだよ!
「このダンジョンに来る子供の大半は攻略など考えていませんよ。上層部で食事にありつく事しか考えていません」
あー、確かに小さい子達はご飯の事しか考えてなかった感じだね。
「でも年長の子達は真面目に攻略を考えている子も多かった気がするけど」
「彼等は幼い頃からここで活動していたチームなので、今更私のような余所者が入り込む余地など無いのですよ」
成程、年長組の子達は幼い頃にずっと上層部で日々の食料を得る為に潜り続けていたから、当時はたまたま組んだだけの野良パーティでも、今となっては長年連れ添ったかけがえのない仲間って訳か。
そりゃ後から来た人間には声かけづらいよね。
「それでダンジョンのクリアが目的ってどういう事なんですか? 昨日の決闘騒ぎとなにか関係があるんですか?」
普通に考えて、ダンジョンのクリアを目的にしている冒険者なんて星の数ほどいる。
けれどこの子にとってダンジョンのクリアという言葉は、何か特別な意味があるように感じたのだ。
そしてそれが昨日のもう一人の女の子との決闘騒ぎに関わっていたとも。
「昨日の件ですか。あれは私が貴族……もどきだったのが原因です」
「貴族もどき? 何ですかソレ?」
っていうか、初めて聞く単語なんだけど。
「貴族もどきを知らないのですか!?」
けれどフレイさんは私が貴族もどきの事を知らなかった事が物凄く驚く事だったみたいで、目を丸くする。
「そうですね。貴方のようなお方にとっては無縁な話ですからね。知らないのも無理はありません」
うん? なんか箱入りお嬢様だから知らないみたいな空気なんですけど?
まぁいいや。知らないのは事実だし。
「貴族もどきとは、爵位を失った元貴族に対する蔑称のことです」
何と、この世界にはそんな蔑称があったんだ。
「彼等からすれば我々は貴族社会から転がり落ちた落伍者です。それがいつまでも未練がましくダンジョンに挑む事がさぞ無様に見えたのでしょう」
「ダンジョンに挑む事が? 何故ですか?」
「元貴族が再び貴族に返り咲くには相応の手柄を立てる必要があります。分かりやすいところですと戦争で華々しい戦果を挙げるか、もしくはダンジョンを攻略して財宝を手に入れるなどでしょうか。ですが元貴族が戦争に参加しても立場は平民と同じ雑兵。華々しい戦果など、夢のまた夢。であればダンジョンを攻略する方が遥かに現実的なのです」
ふむふむ、それでフレイさんはダンジョンに挑んでいると。
確かに子供が戦争に出て華々しい戦果を挙げられるかと言われれば、誰だって無理だと思うだろうね。
「じゃあ彼女と決闘騒ぎになったのは?」
「それは……領地も守れなかった貴族もどきがいつまでも過去の栄光に縋るなど無様だと侮辱されましてその、ついカッとなって……」
冷静に答えようとしてはいるものの、昨日の事を思い出して怒りがこみあげて来たんだろう。最後の方でフレイさんの語調が硬くなってくる。
「っ!? すみません! アユミ殿のお耳に入れるような話ではありませんでした!」
「いえ、そんな事はありませんよ。私も事情が分かって納得出来ました」
「そう言っていただけると幸いです」
なるほどなるほど。元貴族が未練がましく足掻くのを見苦しいと思う現貴族と、一縷の望みをかけて真剣に挑んでいる元貴族。そりゃあ喧嘩にもなろうというものだ。
何しろ前世の世界でも、貴族や平民といった概念とっくの昔に無くなっていたけれど、他人が転落する様を笑いものにしたり、脚を引っ張ったりする人間は山ほどいたからね。
これはこの世界の貴族達にとって根深い問題のようだし、私が首を突っ込んでいい内容でもなさそうだね。
とはいえ、それは立場的な問題。私個人がどう思うかは別だ。なので。
「ダンジョン、クリアできると良いですね」
「え?」
「私は応援しますよ。フレイさんがダンジョンを攻略して貴族に返り咲く事を」
「っっっ!? あ、ありがとうございます!」
何故かフレイさんは感極まったような表情で言葉を詰まらせると、ビシッっと背筋を伸ばして私にお礼を言ってくる。
だから私はただの冒険者だってばー。
「ですが、貴方に手も足も出なかった以上、このダンジョンは諦めて他のダンジョンに挑んだ方が良さそうですね。本当なら貴方に堂々と勝ってから、ソロ同士のよしみで仲間に誘おうと思っていたのですけれどね」
そんな事を言われた私だったけれど、ふとあることが気になってしまう。
「ええと、事情は分かったんですけど、どのみちここじゃ意味がなくないですか?」
「それはどういう意味ですか?」
私の疑問に対し、フレイさんがはてと首を傾げる。
「だってここは子供向けのダンジョンなんでしょう? だからここをクリアしても、大した自慢にならないんじゃないですか?」
そう、子供向けなのだ。そんなところある程度強くなった子供なら誰だってクリアできるだろうから、とてもじゃないけど貴族に返り咲けるような名誉は手に入らないだろう。
「……え?」
なのに、フレイさんは何言ってんだコイツって顔して首を傾げた。
「え?」
なので私も違うの? と首を傾げる。
「え、ええと……ここは確かに昔こそ子供向けと呼ばれていましたし、今も上層部は子供でも生活の糧を得られるダンジョンです」
うん、そうだね。ストットさんもそう言っていた。
「ですが下層は何度も攻略された事で相当に深くなっていますよ。最後に踏破した冒険者の話では、もう普通のダンジョンと遜色ない難易度だとも」
「へぇ、そうなんですね……」
そっか、何度も攻略されたから階層が増えて難易度上がってるんだ。 言われてみれば確かにそうだよ……ね?
「あれ?」
おや? と私の中の何かが待ったをかける。
下層の難易度が上がってる?
でもストットさんは難易度低いから頑張ってねって言ってた筈。
「アユミ殿?」
難易度低い→上層部はね。
子供でもクリアできた→昔はね。今もそうとは言っていないよ。
今は?=普通に難しいよ!!
「は、ハメられたぁぁぁぁぁっ!!」
「アユミ殿!?」
や、やられた! あの腹黒師匠!
私を騙したなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
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