第54話 新しいダンジョンにやってきました(お子様向け)

「つきましたよ。ここがリロタシンの町です」


 不思議な動物が引く馬車に乗って数日、私達は見知らぬ町にやって来た。


「ここが別のダンジョンがある町……」


 ダンジョンが攻略され、内部が安定するまで封鎖される事になった後、ストットさん達から別のダンジョンを攻略しに行かないかと私達は誘われた。

 他のダンジョンを攻略と言う言葉に驚いたものの、よく考えたら世界中にダンジョンがある世界なんだもんね。


 実際ダンジョンが攻略された間は近くの町のダンジョンに一時的に移動してそっちで稼ぐのはよくある事らしい。


「冒険者ってまた同じダンジョンに戻って来るんですか?」


「ダンジョンによって出てくる魔物や環境に違いがありますからね。自分に適したダンジョンをメインに潜るのも冒険者として大事な見極めですよ」


 だから他のダンジョンにも潜って、自分と相性の良いダンジョンを探しに行かないかと言われたのだ。

 当然そんな面白そうな事を言われて尻込みなんて出来ない。

 女神様からもダンジョンを沢山攻略しろと言われてる訳だし、この機会に色んなダンジョンを知っておくべきだろうね。


 という訳で私達の居た町、スモーバグの町って言うらしいんだけど、そこから一番近いリロタシンの町にあるダンジョンの攻略にやって来たわけです。


「特別な事情がない限り、ダンジョンの名前は町の名前と同じになりますから、乗合馬車で行く先を確認するのに便利ですよ」


 あー、町の名前とダンジョンの名前を間違って覚えちゃったら大変だもんね。その辺りも考えて名前を合わせてるみたいだ。


 そんなリロタシンの町を見回してみると、子供の数が多い気がする。

 勿論ただの子供じゃない。鎧を身に付けたり、武器を持った子供、つまる子供の冒険者だ。

 スモーバグの町にも子供の冒険者は多かったけど、この町は見てわかるレベルで子供が多い。

 それだけこの世界は冒険者になりたい、もしくはならないと生きていけない人が多いってことなのかもしれないね。


「それで、この町のダンジョンってどんなダンジョンなんですか? ダンジョンによって特性があるんですよね?」


 いつものダンジョンと違うダンジョン、それがどんなものなのかとワクワクしつつ、私はこのダンジョンがどう違うのかを尋ねる。

 するとストットさんもニコリと柔らかい笑顔を浮かべながら答えた。


「この町のダンジョンの特性、それは……」


「それは……?」


 焦らされることにムズムズしながらも、私はストットさんの答えを待つ。


「お子様向け、と言う事です」


「…………は?」


 え? お子様? え?


「このリロタシンのダンジョンは、非常に難易度が低く、子供でも攻略できたことから子供向けダンジョンと呼ばれているのですよ」


「……はぁ」


 子供向けですか……もしかして、子供の冒険者がいっぱい居る理由もそれ?


 ええと、でもそれ、今更入る必要あるの?

 私普通のダンジョンに潜ってるんですけど?


「自分が入る意味があるのかと思っている顔ですね」


「え!? あ、いやその……はい」


 私が認めると、ストットさんは優しく微笑む。


「確かに貴方の強さは同年代の子供に比べ群を抜いています。大人と一緒に他のダンジョンに潜る事だって出来るでしょう」


 おお! 私ってそんなに強かったんだ!

 自分の強さを客観的に教えてもらって、私は誇らしいようなむず痒いような気持になる。


「けれどダンジョンを攻略する為に必要なものは強さだけではありません。貴方が真にダンジョン攻略に必要な物を手に入れる為、このダンジョンをクリアしなさい。それが私達からの課題です」


「ダンジョンをクリア!? 私が!?」


 ダンジョンのクリア、確かに私が目指すものはそれだけど、師匠達から与えられた課題がそれだと言われて、私は自身に重い物が伸し掛かるのを感じる。


「ここは子供でもクリア出来たダンジョンですが、だからといって容易に攻略できるという意味ではありません。自分の力の全てを使い、そして仲間の力を借りて見事攻略してみせなさい!」


「は、はい!」


「この町にいる間私達は貴方に一切の援助も修行をつける事もしません。甘やかしては為になりませんからね。眠る場所と食事を用意するだけです。ダンジョンの中での活動は全て自分達だけで行うのです!」


「は、はい!」


「……寝る所とご飯を出すのは甘やかしてる事になモガッ」


「お主は黙っとけ」


 おおう、師匠達の助けなしで全部自分で、ちょっと緊張してきた。

 でも、いつまでもお爺さん達に頼ってはいられないもんね。

 これはきっと私が冒険者として自立する為に必要な事なんだろう。


「分かりました! 私、このダンジョンをクリアして見せます!」


「ええ、期待していますよ。では宿はここを取りますから、貴方達はダンジョンの潜る為の準備をしてきなさい。はい、これがお小遣いです。無駄使いしないようにダンジョンで使うものだけを買うんですよ。使い切ったら自分で稼いで買うように」


「はい!」


「ねぇ、お小遣いって甘やかしモゴッ」


「だから黙っとけって」


 なんか後ろでリューリがお爺さん達と遊んでる声が聞こえるけれど、私はこれから行う探索の準備を考えてそれどころではなかった。


「よし、行こうリューリ!」


「え? あ、うん」


「夕飯までには準備を終えて帰って来るんですよー」


「はーい!」


 こうして、私の新ダンジョン探索の第一歩が始まったのだった。


 ◆


「さて、ダンジョン探索に必要なのはやっぱり食料だよね」


「お菓子も!」


「お菓子は駄目です。無駄遣いしないようにって言われたでしょ?」


「お菓子は私が活きる為に必要なものだよー」


 寧ろ一番要らないものじゃん。


「食料に水……は魔法で出せるからいいか」


「私もいるしね!」


 そういえばリューリは泉の妖精だった。水を出そうと思えばいつでも出せるらしい。


「あとはポーションと毒消し? でもそれはこの間帰って来てから作ったのがあるし、いざと言う時は自分で作れるしなぁ」


 着替えやタオル、石鹸にシャンプーもある。

 予備の武器は錬金術の作業用のナイフくらいだから、予備武器が欲し……あっ、魔法少女装備の時に使ってたのがあったっけ。


「となると必要なのは防具の予備くらいかな?」

 

 魔法少女装備の予備は向こうの世界の服屋さんに預けてきちゃったままだもんね。


「でも貰ったお小遣いだと、鎧を買うのはちょっと無理だよね」


 流石に貰ったお金はそこまでの大金じゃない。

 あくまで消耗品用を揃える為の金額だ。


「あれ? ってことはご飯以外特に買う物はない?」


 とっくに殆ど揃ってたよ。


「なら残しておけばいいんじゃない? 後で必要になるかもだし」


「そうだね」


 そんな訳で私の冒険準備はあっさり終わってしまった。


「んー、時間余っちゃったねぇ」


 結局、あの後はお店にどんなものが売ってるか確認したくらいだ。


「じゃあさ、ダンジョンのある場所に行ってみようよ!」


「え? ダンジョン? でも勝手に入ったら怒られちゃうよ?」


 だって今日は準備だけで、ダンジョンに入るのは明日からの予定だ。

 なのに先に入っちゃったら、ストットさん達に怒られてしまう。


「場所を確認するだけだって。中に入らなきゃいいじゃん」


「ああそっか」


 確かにそう言われればそうだ。

 入り口の場所だけでも見ておけば、明日ダンジョンに行く時スムーズに到着できるだろう。


「おっけー、それじゃダンジョンに行ってみようか!」


「おー!」


 という訳で私達はリロタシンのダンジョンへと向かう。

 そしてダンジョンを見つけるのは簡単そうだった。

 何しろ、街中を歩く子供達が、全員一つの方向に向かっているからだ。


「あっちみたいだね」


 ダンジョンに向かう子供達は、楽しそうに仲間とお喋りしていたり、不安そうな顔でゆっくり進もうとして仲間に腕を引っ張られたりしている子と様々だ。


「あ、でも大人も居るんだね」


 子供向けのダンジョンって割には、大人の冒険者の姿も少なからず見える。

 ストットさんも、危険な事には変わりないって言ってたもんね。


 そしてさらに進むと、人が多くなってきて子供達の歩みが遅くなってくる。


「そろそろダンジョンの入り口かな?」


 周囲は沢山の子供の冒険者で一杯で、はしゃいでいる子、泣いている子、怒ってる子、癇癪を起している子と様々だ。

 うーん、まるで小学校に来たみたいです。


「わー、お姉ちゃん綺麗!」


「お姫様みたい!」


 そして子供だけあって皆物おじしない。

 退屈を持て余した子供達が、ひと際目立つ格好をした私に群がって来る。


「こ、こら! やめろ! すみません! 悪気はないんです!」


「馬鹿! 貴族になにしてんだい! 行くよ!」


 そんな中、パーティの仲間らしい年長の子供達が私の装備から貴族と勘違いしたらしく、慌てて子供達を引き剥がして逃げてゆく。

 うーん、助かったやら悲しいやら。


「まぁいいや、進ませてもらおう」


 そんな風に進んでゆくと、子供達の半分が大きな建物に入っていく。

 あれは確か……


「冒険者ギルドだねー」


 リューリの言う通り、スモーバグの町のものとは違う形だけれど、冒険者ギルドのマークが掲げられている。

 どうやら入っていく子達は今から依頼を受けに行くみたいだね。

 そして直進する子達は既に依頼を受けて、準備を終えてからダンジョンに向かう子なんだろう。


 直進する子達に付いて進んでいくと、何やら前方が騒がしくなってきた。

 はて、何か騒ぎでも起きてるんだろうか?


「もう……度、言っ……ろ!!」


「……だと言っ……」


 うん、これは間違いない。誰かが口論をしているみたいだ。

 騒ぎに巻き込まれたくはないけれど、せっかくここまで来たのだからダンジョンの場所だけは確認しておきたい。

 なので私達はこのまま進む。


 すると、ダンジョンの入り口らしき大きな扉が見えて来た。

 同時に、口論をしているらしき張本人達の姿も見えてくる。


「もう許さん! 決闘だ!」


「おほほほほっ! よろしくてよ! 無様に地べたに這いつくばりなさいな!」


 なんか、ダンジョンの真ん前で決闘が始まる寸前のようです。

 異世界の子供は好戦的だなぁ。

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