第53話 ダンジョンの変化(あれ? もしかしてゲームオーバーです?)
その日のダンジョンはおかしかった。
なんというか緊迫感? のようなものを朝から感じていたのだ。
「さっきからなんだろコレ?」
「あー、誰かがやり合ってるんだよ」
「やり合ってる? 誰が? 何と?」
リューリののんびりした様子とは裏腹な気配に、私は困惑してしまう。
そしてその時が訪れた。
っっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!
まるで悲鳴のような、振動のような、地震のような、なんだかよく分からないけれど、けれど何か決定的な事が起こったのを感じる。
すると周辺の魔物達がまるで逃げ出すようにウロウロと動き回り始め、冒険者達は「急げ!」と言いながら走ってどこかへ向かう。
「何かわかんないけど、ついていった方が良さそうだね!」
私は偶然見かけた冒険者パーティを追いつくと、彼らに何が起こっているのか尋ねる。
「あの、何が起こってるんですか!?」
「何がって、ダンジョンがクリアされたんだよ!」
「ダンジョンが!?」
え? ダンジョンのクリアって、私がやらなくちゃいけない使命だよね!?
それを誰かが解決しちゃったの!?
「急げ! ダンジョンが封鎖される前に外に出るんだ!」
「封鎖!?」
え? え? え? ダンジョンってクリアすると封鎖されるの!?
何が何やら分からないままに彼らとともに走っていると、他の冒険者達も同じように慌てて走ってきて私達に合流する。
そして一層の出口近くになると、冒険者達による渋滞が出来上がっていた。
「ひえぇ!? 本当に何が起こってるの!?」
そうしてようやく外に出ると、冒険者ギルドの職員や衛兵達がやって来る。
「ダンジョンがクリアされました! 落ち着くまでしばらくの間ダンジョンへの侵入を禁止致します!」
やっぱりダンジョンがクリアされたっていうのは本当なんだ。
「でも落ち着くまでってどういう事?」
まるで分からない事だらけだよ。
「アユミさん」
困惑している私に声を掛けてくれたのは、ストットさんだ。その横にはキュルトさんの姿もある。
「ストットさん、キュルトさん!」
丁度よかった。この人達なら何か知ってるかも!
「あの、これって何事なんですか? ダンジョンがクリアされたって聞きましたけど」
「おや、アユミさんはダンジョンをクリアするとどうなるかご存じなかったのですか?」
「むしろ初耳です。てっきりクリアしてないから皆潜ってるのかと」
「ふむ、成程。それでは丁度良い機会ですから、近くでお茶でもしながらダンジョンについての講義を行きましょう」
◆
ストットさん達に連れられてちょっとおしゃれなお店にやってきた私達は、そこでお茶会を兼ねたダンジョンの講義を受ける事になった。
「そもそもダンジョンは約200年前に突如世界に現れた地下構造物です」
200年前か。その辺りはルドラアースの歴史と同じなんだね。
「当然人々はダンジョンの事を調査しました。その結果ダンジョンでは様々な資源が手に入ることが判明し、多くの国や貴族がダンジョンを独占しようとしました。非常に残念なことながら我が教会もダンジョンの独占をもくろんだほどだそうです」
「当時の『学園』の前身だった組織もその戦いに参加していたらしいな」
学園? なんか平和そうな名前の割には戦いに参加ってあたり、やっぱり異世界の組織なのかな?
そしていろんな組織が利権争いに関わっている当たり、ルドラアースの流れと同じだね。
ただ、貴族や教会とかが加わってる当たり、ルドラアースよりも生々しい争いが起こってそう。
「しかしそんな醜い欲に塗れた事に神が怒ったのでしょう。ダンジョンから無数の魔物が出現し、多くの国が滅び、壊滅的な打撃を受けてそれどころではなくなりました」
やっぱりルドラアースと同じ流れだぁ。
「そのあまりに凄まじい災害でダンジョンの独占どころではなくなった各国は、ダンジョンを世界中の人々の共有資源とする事を決定しました」
「なんだかあっさり山分けする事になったんですね。そんな時だからこそ資源を独占してやるー! って言いそうな国も出そうなのに」
「意外にもそういう国は既に滅んでしまっていたのですよ。そして残った国も魔物や他国からの防衛問題もあり、ダンジョンを独占して複数の国家や組織から狙われるのは避けたかったのです」
「何より、ダンジョンを独占した場合、世界を滅ぼしかけた魔物の集団が再び溢れた時にはすべての責任と義務がダンジョンを独占した国に集まる。先の大災害の記憶が生々しく残っている状況で、自国が滅ぶ危険の高い選択を取れる権力者はおらんよ」
なるほど、この場合ダンジョンを独占する方が危険が多いと判断されて、どの国も独占する事に及び腰になっちゃったんだね。
「しかしダンジョンから魔物が溢れてきたのは事実。ダンジョンを管理する組織は必要です。そこで複数の国から派遣された者達からなる冒険者ギルドが立ち上がり、民間問わずダンジョンの魔物を間引く冒険者が生まれたのです」
大体ルドラアースの探索者が生まれた内容と同じ流れだったね。
ただこっちの世界の方がファンタジー色が強い分、天罰とか、そういうのに対する恐怖が強かったみたい。
「さて、それではダンジョンそのものの話に戻りますが、ダンジョンは世界各地にあります。そして日夜多くの冒険者達がダンジョンの攻略を行っているのはアユミさんも知っていますね?」
「はい」
うん、皆がダンジョンに潜ってるのは私も知ってる。
分からないのはダンジョンがクリアされた事だ。
いや、クリアされるものなのは分かるけど、その割には皆慌てて逃げてはいたものの、そこまで騒動になっていない感じがする。
「まず言っておきますと、ダンジョンはこれまでにも何度かクリアされています」
「そうなんですか!?」
何度もクリアされてるの!?
「よく考えい。ダンジョンが世に出現して200年じゃぞ。それだけの年月が経てば、一つや二つ隅々まで探索されていてもおかしくなかろう」
「そう言われれば確かに」
そりゃそうか。もし200年の間にダンジョンが一個もクリアされていなかったら、この世界の人間はどれだけ無能だよって話になるもんね。
もしくはダンジョンの難易度が鬼畜レベルってことになっちゃう。
「そう、ダンジョンはクリアされるのです。ダンジョンによって性質や魔物の強さ、そして階層の深さも違ってきます。10層しかないダンジョンもあれば、100層を超えてもまだ最下層が不明なダンジョンもあるのです」
ふえー、同じダンジョンでも場所によってそんなに違うんだ。
って、100層ってもう高層ビルじゃん! 逆高層ビルだよ! マントルでも目指すつもりか!
「そういう意味ではこの町のダンジョンは比較的攻略の楽なダンジョンと言えるでしょう」
「ダンジョンのランクとしては真ん中よりやや下じゃな」
つまりとっても普通のダンジョンって事ですね。
「ダンジョンをクリアするとどうなるんですか?」
気になったのはそこだ。私は女神様にダンジョンをクリアしろと言われた。
私がクリアすると大神達が新しいダンジョンを作る際にその力を女神様が削るのだと言っていた。
じゃあ普通の人がクリアしたらどうなるの?
「ダンジョンをクリアすると、その中身が数日をかけて変化します。そして新しいダンジョンとして生まれ変わるのです」
ほえー、ダンジョンが生まれ変わる。まるで生き物みたい。
「ただ、中の構造が変わると、地図が役に立たなくなってしまいますから、ダンジョンがクリアされた予兆を感じた人達は急いで外に出る訳です」
なるほど、それで皆慌てて外に出ていたんだね。
「そしてダンジョンを攻略したものには財宝が与えられます」
「財宝!」
おお、クエストクリアのお宝って訳だね!!
「ダンジョンによって与えられるものは違い、財宝であったり、強力な武具であったり、中には希少なスキルを与えられることもあるそうです」
「スキルですか?」
でもスキルだと訓練次第では自力で手に入りそうなんだけど。
「ダンジョンクリアで与えられるスキルは、人間ではどう鍛錬を積んでも手に入らないようなスキルを与えれるようですよ」
人間ではどう鍛錬を積んでも手に入らないスキル!?
「聞くところによると、空を飛ぶスキルや遠く離れた場所に一瞬で移動するスキルなどを手に入れた者がいたという話じゃ」
ええ!? それってつまり飛行スキルとか、転移スキルって事!?
どうやらダンジョンクリアの報酬のスキルはかなり珍しいものが貰えるっぽい。
「ただ、優れたスキルや武具はより難易度の高いダンジョンでないと手に入らないそうです。そしてこれが一番重要なことなのですが、新しく生まれ変わったダンジョンは、より深く、難易度が高くなることも分かっています」
「難しくなるんですか!?」
「ええ、上層部の難易度は同じなんですが、階層が増える事で難易度が高くなるのです」
そうか、大神達が自分の世界の人間の方が優れているって証明したいんだから、もっと難易度の高いダンジョンでもクリアできるぞって証明するためにより深くて難易度の高いダンジョンを用意してるんだ。
「なるほど。つまりダンジョンをクリアしても、クリアした町からダンジョンが無くなる事はなく冒険者も仕事にあぶれることはないって事ですね」
「その通りです」
ダンジョンをクリアしても作り直すだけで。減る訳じゃないんだね。
って事は私は世界中のダンジョンに行かなくても、同じ場所で延々ダンジョンを攻略し続けていれば、女神様からの依頼を達成できるってことなのかな?
「さて、そういう訳でこれから数日はこの町のダンジョンに潜ることが出来なくなったわけですが……」
と、ストットさんが意味深な空気を匂わせて話題を変える。
……はっ、これはまさか、今のうちに新しいスキルを色々覚えようとかいって、また詰め込みスキル教育がくるパターンなのでは!?
けれど、警戒した私に反し、ストットさんからは意外な提案がされたのだった。
「別の町のダンジョンを攻略しに行きませんか?」
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