第50話 裂光を打ち破りし者(無数の中のたった一つ)

無事『魔力盾』スキルを取得した私達は、レーザーを撃つ魔物にリベンジを誓って移動していた。


「とはいえ、魔力盾スキルが効かない可能性もあるから、基本は戦わない方向で行くけどね」


「えー、ここは速攻リベンジに行くもんじゃないの?」


「そういうのは血の気の多い人に任せておけばいいだって。私達は安全第一で行くよ」


「はーい」


 そう、万が一のことを考えて行動するのが正しい冒険者の姿だと私は考える。

 なのでもしスキルが通用しなかった際は、リューリのスキルで霧を生み出してもらって一目散に逃げる予定だ。

 チキンっだって? ふっ、それは一度でもレーザーをバカスカ撃たれた人だけが言って良い言葉なんだよ。


 不意の遭遇対策として、頭の上に乗ったリューリに後方を警戒してもらいながら移動してゆく。


「けど、意外と魔物に遭わないね。これなら戦うことなく地上に出れ……」


「キュルル……?」


 と思ったら曲がり角を曲がったところで額に宝石の付いた魔物と遭遇する。


「あ……」


「キュ……」


 瞬間、眼前の魔物の宝石が輝きを帯びる。


「『魔力盾』!!」 


 眼前に目視可能な魔力の塊が出現すると同時にビシュゥゥン!! と高い音が鳴り響くも、痛みは感じない。


「おぉぉぉぉぉぉっ!!」


 即座に魔物の側面に飛び込んで斬撃。


「ギュルゥ!!」


 けれど魔物も回避行動を取ったために浅い。

 すぐに私を正面に見据えてレーザーの乱射を行う。

 その度に私を守っている魔力の塊が薄く小さくなる。


「効いてる! 『魔力盾』スキル効いてるよ!」


「よーし! やっちゃえー!」


 私達はこれ幸いと魔物のレーザーを魔力盾で防ぐと、敵の横に回り込んでは攻撃を、繰り返し、遂に撃退に成功したのだった。


「よっしゃー、勝ったーっ!」


「びくとりーっ!」


 ふぅ、何とか勝てて良かったよ。

 まさか出会い頭に遭遇するとはね。


「ともあれ、これでこの階層は安全に探索できるね」


けど、これだけ苦戦したんだから、きっとこの魔物はレアモンなんだよね!

一層したに降りたくらいで、魔物の強さがいきなりボスよりも高くなるなんてありえないし。

 うん、そう考えてもやっぱおかしかったんだよね、今回のバトルは。


「うん、レアモンが相手だったなら、そう簡単に再戦する事にもならないだろうし、もう安全だよ。それよりもこの階層で戦える普通の魔物の情報も得ておきたいところなんだよね」


 それこそもう二、三体くらいは魔物と叩きたいところなんだよ。


「「「「キュルル?」」」」


なんてことを考えながら小部屋に入ると、あの魔物が複数頭、室内でくつろいでました。


「「っっっっ!?」」


 現実を理解した瞬間、私達の全身から脂汗が噴き出すのを感じつつ『魔力盾』スキルを発動。

 次の瞬間、ビシュンビシュンと叩き込まれるレーザーの嵐。


「こ、ここはレアモンのペットショップかぁーっ!!」


 レアリティとか考えて配置しろぉぉぉぉぉぉっ!!


 ◆


「ひ、酷い目に遭った……」


 あの後、私達は何とか魔物達を撃退することに成功した。

 けれどその後も事あるごとにあのレーザーを撃つ魔物に遭遇する始末。


「なんとか上の階層に戻れたものの、おかげで魔力盾スキルがすっからかんになっちゃったよ」


 本当に、魔力盾スキル様々だよ。

 このスキルがなかったら地上に帰ってくることは出来なかったかもしれない。


「こっちのダンジョン、難易度おかしくない?」


 エーフェアースのダンジョンはもっと難易度も段階的に上がって……いや、あっちも大概だったわ。

 まぁあっちは装備を整えた瞬間雑魚になったけど。


 ともあれ私達は無事地上に戻る事が出来た。


「あー、今日はもうご飯食べたら帰るかな」


「だねー、それがいいよー」


 という事で、夕飯を求めて大通りへと向かう。すると……


「おお、アユミじゃないか」


 偶然リドターンさんと出会くわした。


「こんにちはリドターンさん。今日はお一人なんですね」


「まぁな。我々もいつも四人でいる訳じゃないさ。それよりも食事はとったか? まだなら一緒に食べないか? 奢るぞ」


「え!? いいんですか?」


 奢りと聞いては黙っていられない。


「うむ、この間の戦いの祝勝会がまだだったろう?」


 なるほど、祝勝会か。

 確かにこの間の戦いはかなりの激戦だったもんね。

 祝勝会を開いてちょっとくらい騒いだ方が気持ちに区切りもつく気がする。


「いいですね祝勝会、やりましょう!」


 ◆


「「「「「「かんぱーい!」」」」」」


 という訳で合流したストットさん達と共に、私達はちょっとお高そうなお店で祝勝会を開くことになったんだ。

 うん、てっきりもっと冒険者っぽいお店でやると思ってたから、少し、少しだけ緊張します。


「どうした? 食べないのか?」


「あ、はい。食べます」


「大丈夫ですよ。個室を選んでおきましたから、多少騒いでも部屋の外に音がもれる事はありません」


「それにマナーのことも気にするな。俺達だって気にせず食ってるからな!」


 と、緊張する私をストットさんとスレイオさんがフォローしてくれる。


「いえ、私はちゃんとマナーを学んでいますよ」


「儂もやろうと思えばできるぞ。できんのはお前だけだ」


「何ぃー!? 裏切ったのかお前ら!」


 マナーが分からないのは私だけじゃなかったと思ったら、私とトライオさんだけだった。


「はははははっ、気にするなアユミ。学びたければ我々が教えてやる。だが今日はそんなこと気にせず食べるとよい!」


と、リドターンさんからもマナーを気にしなくて良いとお墨付きをもらったので、私も気にせず食事を頂くことにした。


 ◆


「で、ですねぇ、『魔力盾』スキルを取得しなかったら危ないところだったんですよ」


「うむ? ……まぁ、そうだなあのジュエルウルフか。確かにヤツの光撃は当たれば厄介だな」


 食事の最中、リドターンさん達に今日は何をしていたんだと尋ねられた私は、今日であったレーザーを撃つ魔物との高いについて話をしていた。

 正直あいつとの戦いは本当に大変だったし、リドターンさん達はどうやって対応しているか気になったからだ。


 けれど私の話を聞いたリドターンさんは何やら戸惑っているような感じを受けた。

 そして何故かスレイオさんは苦笑い。

 はて、今の話のどこにそんな困惑するような要素があったのだろうか?


「なーに馬鹿な事を言っとる。あんなもんお主にやった装備で完全に防げるぞ」


「……え?」


 そしたらキュルトさんから予想外の言葉が出てきた。

 完全に防げる? マジで?


「ジュエルドッグの攻撃の収束した光と熱の魔法じゃ。放った瞬間が細く見えるのは広がる魔力を強引に抑え込んで細くすることで威力を上げておるからじゃ。ゆえにダンジョンの岩の壁も溶かすことが出来る。これは針を突き刺す際に、力が針の先端にのみ集中するのと同じじゃ」


 なるほど、エネルギーを一点集中、漫画でもよくあるパターンだね。


「じゃが本質は魔法。ゆえに魔法対策を行えば簡単に防ぐことが出来る」


「つまり魔力盾の事ですよね?」


「そんな高等スキルを使わずとも、魔法防御力のある盾を買うだけで何とかなる。なんなら防御エンチャント系の魔法でもよい。あとは敵の魔法のクセを狙うことじゃな」


「クセですか?」


「うむ、奴の魔法はまっすぐにしか飛ばせん。ということは、斥候に敵の位置を把握させたら隠密系スキルの持ち主が潜み、敵が通り過ぎる瞬間に体にしがみついて、顔を上に向ければ、敵は真上にしか魔法を放てず無力化するという訳じゃ」


 マジか!? そんな力業で良かったの!?


「ほかにも相手の顔に泥弾をぶつけるって手もあるぞ。アイツが攻撃するときは顔の宝石に光を集めないといけないからな。宝石が泥に覆われていたら必要な光を集める事が出来くなるんだ」


「ええ!? 泥玉!?」


 スレイオさんの語る内容はとても魔物退治の方法とは思えない光景だ。


「はははっ、泥玉なら地上でいくらでも用意できるから安く済むぞ!」


「ほかにも……」


「そういえばこんな手段もあったな……」


 とみんなはレーザーを撃つ魔物改めジェエルウルフの奇想天外な討伐方法を語り始める。


「お、おおう、実はいろんな対策があったんですね……」


 というか、私の装備で完封出来たんだ。

 何も知らずに普通に戦って損したな。


「そういえばさ」


 と、リューリが控えめな感じで口を開く。


「なに?」


「あの魔物から逃げてた時なんだけどさ」


「うん」


 あの時は本当に死ぬかと思ったんだけどね。


「アレ、姫様の転移スキルで向こうのダンジョンに転移してさ、上の安全な階層に行ってからまたこっちに戻ってくればよかったんじゃない?」


「…………あっ」


 なんという事でしょう。まさかの自力救済が可能でした。

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