第3章 迷宮攻略編

第49話 全力疾走する程大ピンチ(命の危機って頻繁に来るらしい)

「おわぁぁぁぁぁぁ!」


 私は全力で逃げていた。

 何からって? 魔物からだよ!


「姫様またアレが来るよ!」


 頭の上で後方を警戒していたリューリから警告が飛んだ瞬間、私は横に跳んだ。

 直後、私の頭のあった場所を光の線が走り、前方の壁がジュッ、という音をたてて溶けた。


「何でダンジョンにレーザー撃つ敵がいるのさぁー!」


 そう言うのって普通SFに出てくる奴じゃないの!?

 私はすぐさま脇道に飛び込むと『風駆』を使って全力疾走する。


「あっ、止まったよ!」


「え? ようやく諦め……」


 諦めた? と思った刹那、背筋に悪寒が走り、即座に横に跳躍。

 すると再びレーザーが私の横をかすめた。


「てなぁーい!!」


 ぜんっぜん! 諦めてない! 単に間髪入れずに狙撃する為に射撃体勢を取っただけだ!


「っていうか連射できるの!?」


 あの魔物に遭遇して逃げ続けていられたのは、アイツの狙撃が散発的だったからだ。

 だから攻撃するにはチャージが必要だと思っていたんだけれど、今の攻撃はそのチャージ時間が全然なかったのだ。


「でも頭狙いじゃなかった! 多分しっかり狙うのに時間がかかるんだと思う!」


「マシなようで全然マシな情報じゃなぁーい!」


 つまり相手が数うちゃ当たる戦法で無差別攻撃されたら間違いなく死ぬって事だよね!


「どこか、どこか隠れる事の出来る部屋は!?」


「そんなの都合よく見つかる訳ないよーっ!」


「泣き言言うなーっ!!」


 私達は、敵の狙撃の兆候を感じるたびに横にはねて攻撃を間一髪で回避し、曲がり角で放たれるタメ無しの射撃は勘で回避し続けていた。

 だけど勘に頼った回避なんていつまでも持つものじゃない。


「なんとか状況を変えないと!」


 魔物に追われたお陰で、現在位置はさっぱり分からない。上の階に逃げるのは無理だろう。

 不幸中の幸いなのは他の魔物に遭遇していない事くらいか。

 だけどそれも時間の問題だろう。


「っ!!」


 通路を駆け抜けていた私達は広いフロアに出る。

 そこは普通の大部屋ではなく、上下に吹き抜けとなった階層だった。

 

「「チャンス!!」」


 私達は示し合わすことなく叫ぶと、横に跳んで通路から姿を見なくしたところで『跳躍』スキルで吹き抜けの上部に跳ぶ。

 そして隠れられそうな物陰に隠れた直後、魔物が部屋に飛び込んできた音が鳴る。


「ュルルルウゥ」


 魔物は擦れた金属のような鳴き声をあげる。

 多分私達を探してるんだ。


「「……」」


「ュルルルウゥ」


 音は近づいたり遠ざかったりを繰り返している。

 きっとフロアをくまなく探しているんだ。


 ビシュン!!


「「っ!?」」


 そう思っていると、私達の隠れている傍にレーザーが撃ち込まれる。

 まさかバレた!?


 ビシュンビシュン!!


 けれど続けた放たれたレーザーは別の場所に当たる音がした。

 これは……私達が慌てて飛び出してくるのを待ってる?


 そうして暫くビシュンビシュン音が鳴ったと思うと、足音は遠ざかって行った。


「……っ」


 どうやら諦めて、


 ビシュウゥゥゥゥゥン!!


「「っっっ!!」」


 慌てて口を塞いで出そうになった「諦めた?」という言葉を止める。

 けれど、それが最後の確認だったのか、以後ビームの音は聞こえず、足音は聞こえなくなった。


 私達は激しく同期を繰り返す心臓の鼓動が収まるまで無言で耐え続ける。

 そしてたっぷり数分が経過した事で、私は大きく、しかし静かに息を吐いた。


「はぁぁぁぁ、助かった」


「ぷはーっ、死ぬかと思ったわ」


 私が声を出した事でリューリももう安全だと判断して声を出す。


「いやー、今回はホントに死ぬかと思った」


 だってビームだよビーム。あんなの喰らったら鎧なんて簡単に貫かれちゃうって。

 なんでこんなことになったのかと言うと、新しい階層に降りた事が原因だ。

 第5階層はやはりこちらもボス部屋だったのだけれど、こっちは問題なく倒せた。

 元々ルドラアースのボスも倒せたんだから、同じ階層のボスなら早々苦戦する事もなかったわけだ。


 問題は6層。ここに降りて来た私達は、少し移動したところで狼のような魔物に出会った。

 変わっていたのはこの魔物は大きな目が一つだけで、代わりに額に大小二つの宝石が付いていた事。


 宝石が付いている魔物なんて凄いと興奮したのだけど、次の瞬間小さい方の宝石から小さな光が私に当たった瞬間、全身が総毛だつのを感じて私は即座にその光から離れようと横に跳んだ。

 瞬間、大きい方の宝石からビシュンという音と共に光が放たれ、背後の壁が解けたのである。

 

 そう、さっきも言ったけどレーザーだ。

 なんと魔物は魔物はレーザーを撃って攻撃してきたのである。

 まさかのレーザーを撃つ魔物に私達は逃げ出したんだけど、魔物も簡単に逃がしてはくれない。

 これが滅茶苦茶早くて、風駆スキルを駆使して全力疾走しても振り切れないのである。


 そして敵は距離が離れていてもレーザーで攻撃できるのだから堪らない。

 そんなこんなで逃げ続けて、こんな所まで追われてきたわけだ。

 いやホント、ファンタジー世界でレーザーとか止めて欲しい。世界観が滅茶苦茶になるでしょうに。


「私思うに、あの細い方の光でこっちに狙いを定めてた感じだね。そんで狙いが定まったら本命の光で攻撃」


 と、先ほどの戦闘を頭の上で見ていたリューリが敵の攻撃パターンに付いての感想を述べる。


「成る程、最初のあればレーザーサイトって奴か」


「れーざーさいと?」


「リューリの言った通り、アレで狙いを定めてたってこと」


 マジでメリウッド映画のガンアクションの世界じゃん。

 赤い光がピーって主人公の体を伝って行って、動くなとか言う奴。


「どうするかなぁ」


 上の階層に逃げるにしてもあいつに遭遇したらさっきの繰り返しだし。


「リューリの魔法で見つかったら目くらましをかけて隠れるとかどうかな?」


「んー、でもさっきアイツ、私達が隠れてないか攻撃してきたでしょ。私の魔法で隠れたとしても炙りだす為に撃った光に焼かれたら終わりだよ?」


 あー、そう言われるとそうか。


「となると盾で防ぐ……防げるかなぁ」


 お爺さん達から貰った盾は凄く良い品なんだろうなとは思うんだけど、レーザーに耐えられるかと言うとかなり不安だ。

 何しろダンジョンの壁を溶かすんだから、盾も数秒は耐えられるかもしれないけど最終的には貫かれる気がする。


 ちなみにルドラアースでガードシールドという防御魔法を覚えたけど、これは物理攻撃から一定時間守ってくれる魔法で、魔法からは守ってくれないというものだった。

 魔法から守ってくれるのはマナシールドと言って、こちらは魔力消費が多くなるので、中級魔法になって、図書館には魔法書のコピーがなかったのだ。


 くっ、魔法書が売ってる本屋さんに行っていれば! ……買えたかは別として。


「となると攻撃される前に倒すのが正解だけど、近づけるかなぁ」


「難しいと思うよ。最初の赤い光さ、あれがアユミの体に当たるとさ、左右に揺れて狙いを外そうとしてもしっかりアユミの体に当たったまんまだったもん。大きく跳んで一瞬外れるくらいは出来たから避けられたけど」


 どうやらレーザーサイトの方はかなり追尾性能が高いらしい。


「それに使づけばわざわざ狙わずに連発してくるだろうしね」


 そうだよねぇ。遠距離から攻撃しようと思ったら、こっちも攻撃を喰らうくらいの覚悟はいる。

 リューリの魔法で隠れ潜んで不意打ちをするにしても、一撃で倒せなかったら終わりだ。

 あの魔物の耐久力が分からない以上、迂闊な賭けはしたくない。


「あとは……妖精合体するとか?」


「それは却下!」


「なんでー、妖精合体したら確実にあいつを遠距離から一撃で倒せるよ!」


「それでもやだー!」


 確かに魔物の大発生で出現したボスを一撃で倒せた妖精合体ならあの魔物も一撃で安全に倒せるだろう。

 でもそれだけはしたくなかった。

 だってアレをやったら、またメチャクチャハイになって変な事しそうなんだもん!


「えー、いいじゃん、今回は私達しかいないんだからさ」


「万が一誰かに見られて、うっかり話でもしちゃったら大惨事になるでしょ!」


 絶対なる、そうなる未来しか見えない。

 なので妖精合体は封印だ。それこそもうこれしかないってくらい追いつめられるまでは選択肢に入れたくない。


「んー、妖精合体が駄目となると他に何かいい方法あったかなー……あっ」


 と、ウンウン唸っていたリューリが声を上げる。


「何かいい方法あった!?」


「んー、上手くいくか分かんないけど、魔力盾のスキルならどうかな?」


「魔力盾のスキル?」


 なんぞそれ?


「えっとね、魔法を使って敵の攻撃を防ぐと覚えるスキルなんだけど、これなら魔法も防げるからあの光も防げるんじゃないかな?」


 おお、そんな便利なスキルがあるんだ!

 まさに今一番欲しいスキルだよ!


「絶対防げる保証はないけど、普通の盾よりは防げる可能性があると思うよ。かなりタイミングが難しいし、どの魔法でどうやって防ぐかの選択も難しいから、スキルとして昇華するにはかなり手間がかかるらしいんだけど、姫様なら割と早く覚えれるかも」


「うん良いね。そのスキルを覚えよう!」


 よし、魔力盾スキルを覚えてあの魔物にリベンジする為にバンバン魔物と戦うよ!


「あっ、でもスキルを取得する練習台になる魔物を探してる最中にあの魔物に遭遇したらヤバいよね」


 スキル取得の為に魔物と戦おうにも、そもそもあの魔物がこの辺りをうろついているから、うっかり遭遇してしまう危険がある事を思い出す。


「うわぁー! いきなり計画頓挫だよーっ!」


 スキルを取得しようにも、そのスキルを取得する為の戦いが出来ないじゃん!


「そこは私に任せて! 私が丁度良さそうな魔物を見繕ってここにおびき寄せるから!」


「ええ!? でもあの魔物に遭遇したらリューリが危ないよ!?」


「だいじょーぶ! 私は小さいからアユミよりは攻撃が当たりにくいから! そんで曲がり角に入ってアイツの視界から消えた瞬間にスキルで姿を隠して天井付近に潜めば、アイツが滅茶苦茶に攻撃してもまず当たらないよ!」


 成程、確かに私と一緒に行動するよりは、リューリだけの方が安全に逃げきれそうだ。


「分かった、リューリに任せるよ。でも無理はしないで、万が一の時は私を見捨てて逃げて」


「だいじょーぶだいじょーぶ。んじゃ行ってきまーす!」


 気を付けてねリューリ。


 ◆


「姫様、おかわり連れて来たよ!」


 あれから私はリューリの引っ張って来た魔物と戦い続けていた。

 魔物が攻撃を放ってくるタイミングに合わせて、その攻撃に対して魔法を放つのだ。

 けど魔物の攻撃は近距離攻撃が多く、至近距離からの攻撃を魔法で弾いたりするのはかなり度胸が居る。

 最初はギリギリで避けていたんだけど、これじゃあ狙いが定まらないと、私は回避を捨てて盾で防御をする事にした。


 とはいえ、魔法による迎撃に集中してるから、迎撃を失敗した際には慌てて盾による防御に意識を切り替えないといけない。

これがまた難しいんだ。

防御失敗を急いで受けるんだけど、それだと衝撃を受け流す事が出来ない為、次第に腕が痺れてくる。


 そして魔法防御に失敗すると、うっかり敵を攻撃してしまう為、その度に新しい魔物をリューリに連れてきてもらうという事を繰り返していた。


『カウンタースキルを取得しました』


 お陰で狙ってないスキルまでゲットしちゃったよ。

 でもまぁ、そんな事を繰り返していたお陰で……


『初級魔力盾スキルを取得しました』


「やったー覚えたー!」


「やったねおめでとう!」


 遂に念願の魔力盾スキルを取得したよー!


『初級並行思考スキルを取得しました』


「あっ、なんか別のスキルも覚えた」


 ふむふむ、同時に複数の事を考えれるから、練習の時のように魔法による迎撃と盾の防御で意識を切り替えなく済むのか。


「これ、剣と魔法の同時攻撃とかにも使えるんじゃないかな?」


「……」


 なんてことを考えてたら、何故かリューリが渋い顔をしていた。


「どうしたの?」


「いや、スキルを覚えるのが早いのは分かってはいたけどさ、ついでみたいに覚えないでほしなーって」


 そんな事言っても覚えちゃったもんはしかたないし。


「あのさ、今更だけど言っておくとね、スキルって普通は取得に滅茶苦茶手間がかかるだからね! それこそスキルを一つ取得するのに何か月も何年も、高位のスキルに至っては何十年もかかるって話なんだから!」


「何十年!?」


 そんなにかかるの!?


「姫様は簡単にスキルを覚えすぎて麻痺してるから、ちゃんと自分がスキルを覚える速さがおかしいって覚えておいてよ。間違っても他の人に自分の感覚で覚えればいいよなんて言っちゃ駄目だからね」


「それを私にスキル取得を勧めた人が言う?」


「だって姫様なら覚えれると思ったんだもん」


 それは信頼されてると思って良いのかなぁ?


「ともあれ、レーザー対策のスキルも覚えたし、次に遭遇したらリベンジしてやるぞー!」


「おーっ!」


 次はギャフンと言わせてやるぞー!

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