第46話 妖精の秘奥と最強の光臨(凄い事になりました)
無数のボスに囲まれた状況を打開する為、私達は妖精の秘奥を行うことになった。
「けど、契約って何をすればいいの!?」
私はボスの攻撃を避け、受け、けれど全ては間に合わず攻撃を受けながらリューリに尋ねる。
「大丈夫。細かい事は私の方で全部やるから。姫様は私に続いて契約の言葉を唱えて、私を受け入れるだけ」
「わ、分かった」
「じゃあいくよ! 『神々の時代、妖精王の庇護の下、我、妖精が求める』」
「『神々の時代、妖精王の庇護の下、我、妖精が求める』」
契約の言葉を唱える事で、どうしても呼吸がズレ、回避が間に合わなくなる。
「『我は契約を望む、汝もまた契約を望む』」
「『我は契約を望む、汝もまた契約を望む』」
いっそ回避は諦め、盾による受け流しに専念する。
「『我は妖精と人の狭間を歩む、我は人と妖精の狭間を駆ける』」
「『我は妖精と人の狭間を歩む、我は人と妖精の狭間を駆ける』」
ボス達の攻撃が体の芯まで響いてくる。
けれど来ると分かって受けているので、契約の言葉を途切れさせずに済む。
「『ゆえに、我等は一つとなる事を望む』」
「『ゆえに、我等は一つとなる事を望む』」
「『妖精合体』!!」
「『妖精合体』!!」
瞬間、自分が何かと繋がった感覚を得る。
そして何か、蠢くモノが私の中に入ってくるのを感じる。
「っ!?」
『大丈夫、受け入れて!』
その言葉に私は無意識に生まれた、異物に対する拒絶の本能を意識的に抑え込む。
その間も入ってきたものは私の体全体を駆け巡る。
まるで小人が私の全身を走り回っているかのようだ。
そして、気が付けば小人は私の体に溶け込み、いつしか私と小人は一つなっていた。
『……よし! 妖精合体成功だよ姫様!』
「妖精……合体?」
ええと、そんな言葉をさっきも聞いたような気が……
『さぁさぁ、反撃の時間だよ!』
「反……撃?」
ええと何をすれば……
小人と一つになった影響か、頭がボーっとする。
「「「「ギュルォォォォォォ!!」」」」
どこからか、いくつもの獣の雄たけびが聞こえてくる。
けれどその声は、敵意や殺意というよりも、怯えを感じさせた。
『合体した私達の魔力に警戒してるんだよ。さぁ。派手にぶちかましてやって!
「ぶち……かます?」
『ほら、ここに来る前に試したアレがあるじゃん。アレならハッタリも利いてるし、妖精騎士姫の初陣にぴったりだよ!』
アレ……? ええと、ここに前に試した……ああ、アレのことか。確かにアレは我ながら派手だった。
「「「「ギャオォォォォ!!」」」」
『ほら、敵はやる気満々だよ。細かい事は全部敵を倒したあとあと!』
声に導かれるまま、私はアレを発動させる。
「『全属性マスタリー』」
全属性マスタリーで発動させる力は、全て。
それを『範囲攻撃』スキルで一斉に放出する。
すると全ての属性が一つの空間に同時発生し、その結果、相性の悪い属性同士が反発するエネルギー、相性の良い属性が相乗効果を生み出すエネルギー、狭い空間内に膨大なエネルギーが一瞬で生まれた事に対する負荷。
それら全てが同時に生まれた事で、力の崩壊が更なる崩壊を生み、崩壊の連鎖を招く。
「レインボー! ストライクッ!!」
放たれた七色七本の輝きが、私の周囲を囲む声が敵だと判断した者達を貫き、炸裂し、粉砕した。
「「「「「「「グギャァァァアァッ!!」」」」」」」
虹の裂光を受けたソレは、苦悶の雄たけびをあげるも、その声が最後まで終わる事無く即消え去った。
次いで、爆音と衝撃破が遅れてやって来る。
「っ!?」
あまりの爆音と衝撃を受け、はっ、と我に返る私。
「あ、あれ?」
えっと、なにしてたんだっけ私?
『やったね姫様! 大成功!』
「うわっ、頭の中で声が!?」
突然頭の中で声が聞こえてビクリとなる。
『これが妖精合体! 妖精と融合することで、人を一時的に妖精と同じ存在に昇格させる秘奥だよ!』
「人を妖精にする秘奥!?」
何それ、妖精の秘奥ってそんなとんでもないものだったの!?
『そう! 今の姫様は妖精騎士姫だよ!』
「よ、妖精騎士姫!? 何それ!?」
姫と騎士に次いで妖精まで付いた!? どこまで増えるのその称号!?
『そんなの後! 今はボスとの戦闘中だよ!』
「っ!」
その言葉に私は周囲を見回して戦況を確認する。
すると私の周りにはクレーターが出来ており、周囲にいた筈のボス達の姿がなくなっていた。
「これって……」
『レインボーストライクの威力だよ!』
「は? アレは確かに威力ヤバかったけど、さすがにこの有様はおかしいでしょ」
私はここに来る前に試した全属性を同時発動する新魔法、レインボーストライク(仮名)の威力を思い出すが、あれは攻撃を喰らった魔物を消し飛ばすほど強力だったけれど、さすがにこんな大きなクレーターまでは出来なかったはずだ。
『ふっふーん、これが妖精合体の力よ! 今の姫様は本来の力だけじゃなく、私達妖精と同じ存在になった事で、存在の格が上がってるのよ! 高位の霊的存在は、魔法の力を肉の檻に縛られた生き物よりも遥かに効率的に引き出すことが出来る! ……らしいわ』
そこは人から聞いた知識なんかい!
「っていうかマジで!」
『マジマジ。そもそも出力からして全然違うのよ。人間が魔法を放つ時の威力をコップ一杯分と考えたら、私達霊的存在はバケツかそれ以上の量なんだから!』
「それでこれかぁ……」
というか、大丈夫かなコレ。
これを見た人達にトンデモない力の持ち主だって畏れられたりしない?
それともその力を秘密を教えろとか狙われるんじゃない?
「今のスゲェ魔法、あの子が……?」
「あの威力、到底普通の子供が出せる様なものじゃない……」
あっ、ヤバ。これはマジで……
「すっげー! 滅茶苦茶強いじゃんあの子!」
「え?」
「一撃でボスの群れが半分吹き飛んだぞ!」
予想外にも、私の魔法を見た探索者達からは悪い感情は感じられなかった。
そこは喜ぶべきなんだけど……流石に警戒心無さすぎない?
「あの威力、上位ランカー並みだよ!!」
待って、上位ランカーってこんな攻撃を普通に出せちゃうの?
そっちの方がヤバくない?
「妖精騎士姫……一体何者なんだ!」
あの、その呼び方はマジで止めてください。
「うぉぉ―! いいぞ妖精騎士姫! アイツ等をぶっ飛ばしてくれー!」
「頼む! 勝ってくれー!」
「がんばえー!」
「がんばってー!」
「負けるなー!」
「「「「がんばれー!」」」」
「っっっ!?」
まさかの大声援に、喜びよりも困惑を感じてしまう。
『なーにビビってんのよ。これは英雄を応援する声なんだよ。ビビる必要なんて全然ないじゃん』
そんなこと言っても、ちょっと前までは私は普通の人間だったわけで……
『皆が姫様に期待してるんだ。魔物を倒してくれ、ボスを倒してくれ、魔物の大発生を、止めてくれってね』
「魔物の大発生を……」
そうだ、私達は大発生を止める為に戦っていたんだ。
『そうそう、だからさ、せっかく契約したんだし、この力、思いっきり使っちゃってよ! 本当は長い間一緒に居て信頼した相手としかしちゃいけない契約なんだよ!』
「そんな大事な契約を私としちゃってよかったの?」
『そりゃもう! なんたって姫様は妖精王の……っとと、今のなし』
「待って、妖精王って何? また聞いてない単語が……」
「ギュォォォォォォ!!」
『おっと、遠巻きに見てたボスが動き出したよ。ほらほら、さっさと全滅させちゃお!』
「あーもう! タイミングの悪い! あとで絶対教えて貰うからね!」
私はこちらに向かってくるボスに対し、迎撃の構えをとる。
ボスの体は大きく、たいして私の体が小さかったことから、一部のボスは私への攻撃に加わることが出来ず、撤退している人達を追っていた。
けれど仲間達がやられた事で、ボス達は撤退している人達よりも私の方が危険度が高いと判断したらしい。
『でも無駄無駄無駄ぁー! レインボーストライクを喰らえばお前らなんて消し炭だぁー!』
「あれはダメ! そこら中にクレーターを作る訳にはいかないよ!」
そう、あんなものをぶっぱなしまくったら大惨事だ。
最悪周囲の建物の修理費を要求されかねない。
「だから一匹ずつ倒す! サンダーエンチャント!」
私は全属性マスタリーで剣に雷を纏わせボスに切りかかる。
「たぁぁぁぁっていうか雷痛い痛い痛い!」
剣に纏わせた雷が私の手にバチバチしてすっごい痛いです!
「このおぉぉぉ!」
それでも発動させたスキルを切るのはもったいないので根性で我慢してボスを切り裂く。
「ギュォォォッ!!」
雷を纏わせた斬撃の威力は凄まじく、ボスの体を雷撃で焼きながら切り裂いてゆく。
『姫様、妖精の魔法はイメージだよ。今の姫様は妖精なんだから、魔法はイメージするだけで何でもできるの。だから自分が怪我をしないで、刃の部分だけに雷がとどまってるイメージをすれば大丈夫だよ!』
「妖精合体ってそんなことも出来るの!?」
完全にスキルの上位互換じゃん!
「やってみる! サンダーエンチャント!」
私に感電する事なく、刃だけに雷を発生させるイメージで剣に雷を纏わせるイメージを浮かべる。
「ほんとだ! ビリビリしない!」
安全な魔法の発動に成功した私は、思いっきりボスに刃を振るってゆく。
「ギュアァァァァァ!!」
自分が感電しなくなった事で冷静になった私は、この剣で攻撃をするとボスが一時的に感電して動けなくなることに気付く。
「なら、連続で何度も攻撃すれば反撃を受けなくなるってことだね! そりゃそりゃそりゃそりゃ!」
私の連続攻撃を受けたボスは、反撃する事すらできずに傷を負い続け、遂には全身を弛緩させて地に倒れ伏した。
「よし1頭!」
ボスはまだ数体いる。
こいつらも倒さなくちゃ!
『姫様、妖精の魔法はイメージだよ。私が霧を作れるように、人間じゃ再現できない現象だって自由自在なんだよ! それこそ発動させた後の動きだって』
そうか、エーフェアースのスキルは人間が行った行為がスキルなり、途中の手間を簡略化した結果だけが再現される。
逆に言えば、人間が行えない行動はスキルとして取得できない。
リューリの濃霧とかがそれだ。
イメージすれば何でもできる。それなら……
「サンダージャベリン!!」
雷の力を使った放電現象を自分の力で生み出す事が出来る!
私は呪文を詠唱する事無く雷の魔法を発動させる。
「更に……伸びろ!!」
敵に向かって飛んでいた雷の槍が突然伸び、魔物の胴体から火花が上がる。
「ギュアァァァァ!?」
予想外の挙動に対応出来なかったボスの一体が心臓を貫かれて絶命する。
これは使える! スキルや詠唱魔法の自由度の限界を超える挙動をこの姿なら出来る!!
「アイスセイバー!!」
今度は私の手から伸びた巨大な氷の剣が、表面に真空の刃を纏って3体のボスを纏めて横一文字に薙ぎ払う。
「グギャアァァァァ!!」
「はははっ!」
流石にこれだけ自由自在に何でもできると、楽しくなってくる。
「フレイムスコール!!」
火弾の炎を雨のように降らせて、ボスだけでなく普通の魔物も纏めて攻撃する。
「おっと、火事になったら大変だよね。アイスストーム!!」
今度は氷の礫吹き荒れる吹雪をイメージして魔法を発動させる。
「ギャウゥゥゥゥ!!」
魔物達は吹雪の寒さと、吹き荒れる氷の礫に全身を貫かれ、噴き出した血が凍り、全身が氷に覆われてゆく。
そうしてあっと言う間に魔物達の氷柱が完成した。
「くふふ、あはははははっ!」
すごいたのしい!
まるでほんもののヒーローになった気分!
「とりゃあああああ!」
もはや技の名前も付けずにイメージだけで魔法を発動して魔物達を吹き飛ばす。
「残った魔物も全部やっつけちゃうぞー!」
『おーっ!!』
こうして、最強の力を手に入れた私は、あっとう間に残った魔物達を殲滅するのだった。
◆
「ふぅ、まぁこんなところかな」
一通り見える範囲の魔物を倒し終えた私は、地上に降りて一息つく。
『ダンジョンから魔物も出なくなったし、もうあとは残りの魔物を処理するだけだね』
おっ、大発生が終わったんだ。よかったぁ。
これで私も肩の荷が下りたよ。
「あ、あの……」
そんな私に、誰かが声を掛けてきた。
振り返れば、そこには何十人もの探索者達の姿が。
中には今回の戦いで私と一緒に戦った人達の姿もある。
「何?」
「あ、はい、えと、その、助けてくれてありがとうございました」
どうやらお礼を言いに来たらしい。
「別に気にしなくていいわよ。私が勝手にやっただけだから」
そう、今回の戦いは完全に私の自己満足の為にやっただけだ。
お礼を言われるようなことじゃない。
「それでも、ありがとうございます」
「「「ありがとうございます!!」」」
先頭の彼女の言葉に続くように、探索者達が一斉に感謝の言葉と共に頭を下げる。
まいったな。本当に大したことはしてないんだけど。
でも、まぁいいか。たまにはこういう事があってもさ。
「それよりも貴方達怪我してる」
そう、私はお礼を言われた事よりもそっちの方が気になった。
彼等には私やストットさん達の提供したポーションがあった筈だ。
「あっ、はい。手持ちは全部使い切っちゃいましたので。魔力も空っぽで……あ、でも重傷者は居ないですから、大丈夫ですよ!」
どうやら彼等はポーションや魔力が切れる限界まで戦っていたらしい。
きっとなけなしの回復魔法も重傷者達の為に使い切ったんだろう。
「ならこれは私から。フェアリードロップ」
私は周囲にいる全ての人達の傷が癒えるイメージで回復魔法を放つ。
「わぁっ! 怪我が……」
「おお、体が軽く」
よしよし、全員治ったみたいだね。
「それじゃあ私はこれで」
「あっ、待って、お礼を!」
「お礼なんていらないよ」
そう、お礼を貰う為に戦ったわけじゃないんだから。それこそさっきの感謝の言葉で十分。
「せめて名前を!」
名前? 私の名前は……
『妖精騎士姫アユミ!!』
「妖精騎士姫アユミ!」
つい、脳裏で叫んだリューリの言葉が口を出てしまった。
まぁいいや。
「妖精騎士姫アユミ……様」
「じゃあね!」
望み通り名を名乗った私は、大きく跳躍してその場を去ると、リドターンさん達と合流して戦場を去った。
そして世界転移スキルの使用回数が戻るまで休息する為、ダンジョンの隠し部屋に戻った私は、そこでようやくリューリとの妖精合体を解除……した結果。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! やっちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
これまで行ってきた己の奇行の数々にのたうち回ることになるのだった。
「えー、姫様めっちゃかっこよかったよ」
「ええ、まさに妖精騎士姫の名に恥じぬ活躍でしたぞ」
「その名前止めてぇぇぇぇぇぇ!!」
やってしまった。よりにもよって大勢の人の前で妖精騎士姫なんて名乗ってしまった。
しかも名前までセットで!
「しかもなんかノリノリでオリジナルの魔法の名前まで叫んじゃったー!」
「あー、フェアリードロップとか?」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
キュルトさんがやったような、マスタリースキル発動の際の明確なイメージの補佐とかですらないあの名前! 何がフェアリーだドロップだ!
「おあぁぁぁぁ、いっそ殺してくれぇぇぇ」
「わっかんないなぁ、何でそんなに恥ずかしがってるの? さっきはめっちゃノリノリだったのにさ」
「わかんないよぉ! 合体してるときはなんかすっごくイケイケな感じになってたんだもん!」
「ふぅむ、詳しい事情は分からんが、その合体とやらをすると、術者の心身に何かしらの影響がでるのかもしれんな」
はぁ!? マジですか!?
「妖精と一つになり、自身が妖精に成る秘奥ですか。確かに何かしらの影響を妖精から受けてもおかしくありませんね」
「妖精から……」
私達の視線がリューリに集まる。
「ん? どしたん?」
まさか、私があんな風になったのって、合体したリューリの影響!?
「いやー、それにしても爽快だったよね! また合体して大暴れしようね姫様!」
「ぜーーーーーーーーーったい、やだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
二度とあんな醜態晒してたまるかぁぁぁぁぁぁぁっっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます