第44話 激戦、ちいさな姫騎士様とその仲間達(伝説はここから始まるっぽい)
転移をした私達が見たのは、まさに地上の地獄だった。
いたるところで人と魔物が戦い、至る所で血が流れていた。
「もう始まっていたの!?」
そのあまりの凄惨な光景に、何からすればいいのかと足が止まってしまう。
「姫君、まずは押されている者達の救援、そして治療だ」
動揺する私の肩が軽く叩かれ、リドターンさんが優しく諭してくる。
「っ!? は、はい!」
そうだった。今は動揺してる暇なんてないんだった。
「アユミは広い戦場での混戦の経験はないだろう。ここはリドターンの奴に任せろ。コイツはこれでもデカい軍を率いた事もある筋金入りの軍人だからな」
「そうなんですか!? リドターンさん、お任せします!」
「うむ、任された! すぅ……『おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』」
キリリとした顔で頷いたリドターンさんは、次の瞬間凄まじい声量の雄たけびをあげる。
そのあまりの凄まじさに、周囲で戦っていた探索者だけでなく、魔物達すら戦いを止めて硬直してしまったほどだ。
「臆するな同志達よ!! 我らが来た!! 今こそ反撃の時っ! 剣を握れ! 杖をかざせ! 魔物を撃ち滅ぼせ!! おぉぉぉぉぉぉっ!!」
リドターンさんは戦場に響き渡る声で朗々と叫ぶと、魔物達に向かって飛び込んでゆく。
そして手にした剣を横薙ぎに振ると、眼前に居た魔物達が纏めてなぎ倒された。
「「「「おおおおっっ!!」」」」
その豪快な活躍に探索者達から歓声があがる。
「なんだあの爺さん!? 滅茶苦茶強いぞ!」
「あんな奴がいたのか!? どこのパーティだ!?」
「そんなこと言ってる場合かよ! このままだとあの爺さんに美味しいところ全部持ってかれちまうぜ!」
リドターンさんの勇猛ぶりに触発された探索者達が、負けてなるものかと立ち上がり、魔物へと殺到してゆく。
「リドターンのウォークライ、久しぶりだな」
「ウォー……それもスキルですか?」
「ああ、闘志を込めた雄たけびでそれを聞いたものの動きを止めるスキルだ。挑発の効果もあるから魔物共の目はリドターンにクギ付けだな。それに友軍の士気を高める『鼓舞』、どちらも大軍を運用する際に有用な補助スキルだ』
へぇ、普通に戦うため以外にも、戦闘に役立つスキルってあるんだね。
「さぁ、私達も戦いますよ。我々は孤立している者や負傷者の治療を優先しましょう」
「はい!」
「俺は敵の配置を確認してくる。ボスや指揮個体を倒せば大軍といえど一気に烏合の衆になるからな」
「わしは派手に人のいない場所を吹き飛ばすとするかの!」
私達は自らの役割を果たすために動き出す。
「リューリ、援護よろしく!」
「お任せ! あっ、あそこ! 魔物に襲われてる子がいるよ!」
「どこ? あ、あれか!」
私は一人単独で魔物に襲われている女の子の姿を確認すると、彼女の下へ風駆と跳躍を駆使して急行する。
まずい、敵はもう攻撃に入ってる!
「なら一撃でぶっとばす! 『炎剣』!『強撃』!」
私は全属性魔法マスタリーで炎に炎を纏うイメージを作って声に出す。
剣はまるで漫画のヒーローの必殺技のように炎を纏うと、強撃スキルと相まって魔物を叩き切る。
そのまま勢いあまって魔物の体は後方へと吹き飛び、後続の魔物へと叩き込まれる。
「大丈夫ですか!?」
よかった間一髪で女の子を助ける事が出来たよ。
「あ……お姫、様?」
助けた女の子は、呆然とした表情で私を見つめる。
あー、うん。凄い格好だよね今の私。
けれどそれを弁解している余裕はない。
「すぐに後ろに下がって他の人達と合流してください」
「は、はい」
私の指示を聞いた彼女は、武器を支えに立ち上がると、足を引きずりながら後方へ下がろうとする。
「怪我をしてるんですか?」
「あ、いえ、大したことは」
そうはいうけど、足を怪我したままじゃ流石に問題だ。治療しないと。
「う、うう……」
「クソ、ポーションがもう……」
見れば周囲には彼女以外にも治療を必要としている人がたくさんいる。
「連弾でヒールを……ううん、数が足りない。なら」
私はマスタリースキルでイメージを固めながら、スキルを発動する。
「『範囲拡大!』『ヒール!!』」
イメージするのは私を中心に周辺全体の味方を治療する、ゲームでおなじみの全体回復魔法!
魔法が発動すると同時に、私を中心に薄い緑色の膜が広がり、そのドーム内にいる人達の傷が回復してゆく。
「なんだこれ!?」
「傷が、治ってく?」
「これ、回復魔法なのか?」
よし、範囲拡大スキルを応用した回復魔法は成功だ。
魔法の応用はルドラアースの詠唱魔法の方が上だけど、マスタリースキルまで到達するとエーフェアースの魔法でもかなり自由度が高くなる。
念のためステータスでスキルの残数を確認してみたけど、ちゃんと回数は一回分しか減っていない。
よかった、回復させた人数分減ってたりしなくて。
「足が……! こ、これ、貴方が?」
彼女にもヒールの回復はちゃんと効果を発揮したようで、今はもう剣を支えに使わず両足でしっかりと立っている。
「今のうちに回復した人達を集めて態勢を整えてください! あとこれはポーション! 皆で分けて使って! 私は他に治療を必要とする人達の下に向かいますので!」
ポーションを纏めて渡しながら指示を出すと、私は回復範囲に入らなかった人達を治療するために戦場を移動する。
「重傷者は私のところへ! 最低限の治療になりますが命は助けて見せます!」
ちらりと後方に視線を向ければ、ストットさんが重傷者を集めて治療を行っていた。
私じゃあそこまで大怪我をした人達を治療するのは無理だから、こっちは軽傷の人達を助ける事に専念しよう。
「ふははははっ! 開けた場所はダンジョンでは自粛せざるをえん魔法を使えてよいのう! 火炎烈風!!」
そしてキュルトさんが凄まじい威力の魔法で敵を殲滅しているエリアに近づかないようにしながら、混戦しているエリアへとたどり着く。
「うわっ、敵味方が入り乱れて誰が敵か味方か分かんなくなるね!」
一応魔物は見た目が人間じゃないからいいけど、他の戦場以上にここは目まぐるしく敵味方が動き回るせいで、さっきまで味方がいたと思った場所にいつの間にか魔物がいたり、逆に魔物がいる場所と思って攻撃したら味方がいて、危うく同士討ちになりそうになっていた。
「うわっ、これじゃ下手に中に入れないよ」
一体どうしたものやら。
「なら私にお任せ! 幻惑!!」
リューリが小瓶から飛び出すと、戦場に魔法を放った。
すると戦っていた筈の探索者達と魔物が戸惑うような動きを見せる。
「え!? なんだコレ!? 今まで戦ってた筈なのに!?」
「ギャウウ!?」
「何やったの?」
私はこの光景を生みだしたリューリに一体何をやったのかと尋ねる。
「ちょっとお花畑に居る幻を見せてるだけよ。まぁ一人一人にかけたりするの面倒だったから、纏めてかけちゃったけどね」
「駄目じゃん!」
味方にまで幻を見せちゃだめでしょ!
「音は聞こえてるから大丈夫だって。ほらほらあんた達! 魔法で幻を見せて魔物の目をくらませたから、すぐに後ろに下がって態勢を立て直しなさい!」
「なんだって!? これが魔法!?」
困惑しつつもこれでは戦いにならないからと、皆は慌てて後ろに下がってゆく。
「おっし、これでいいでしょ。解除っと」
リューリが魔法を解除すると、探索者と魔物達は突然景色が元に戻って周囲をキョロキョロと見回していた。
「姫様、今ならやり放題だから、ドカーンとかましてやって!」
「ああそういう」
なるほどね。敵と味方を分けたこの隙に攻撃を叩き込めって事か。
「『火炎烈風』!!」
私はキュルトさんを真似て炎の範囲魔法を魔物達の群れに叩き込む。
とはいえ、さすがに師匠の魔法には遠く及ばず、発現したのは先ほどの魔法の縮小版程度でしかなかった。
けれどあの威力と範囲の魔法をこの至近距離で使うのはあまりに危険すぎる為、むしろこの程度の威力になって丁度良かったともいえる。
「グギャアアアァァァ!」
魔物達の体が炎に包まれ、苦悶の声があがる。
「あとは回復だね。『範囲拡大!』『ヒール!!』」
私は再度範囲回復魔法を発動させると、負傷者を治療してゆく。
「ほかのパーティと合流して戦線を立て直してください! あとポーションです! 怪我してる人が居たら使ってあげて!」
味方との合流を指示しつつ、ポーションを配ってゆく。
「え? 姫? 姫騎士?」
「誰アレ!? どこのパーティの子!?」
リドターンさんの時にも上がっていた声を無視して、私は次の戦場へと向かうのだった。
◆
そうして戦い続けていると、夜が明けた。
戦いはまだ終わらないけれど、明るくなったことで不意打ちを喰らう危険が減り、皆だいぶ楽そうに戦っている。
「交代だ! 後方で待機しているメンバーと交代して休め!」
どうやら朝と夜でメンバーを交代しながら休ませていたらしい。
「アユミ、俺達も後ろに下がって休むぞ」
気が付いたらすぐ傍にトライオさんが来ていた。一体いつの間に。
「分かり……え?」
そして休憩と言われた途端、体がズシリと重くなったような錯覚を覚える。
「急に体が……」
「長時間の乱戦は初めてだからだろうな。今までは興奮で疲れを無視していたが、緊張の糸が切れた事で今までの疲れが一気に出てきたんだ」
なるほど、どうやら私は気づかぬうちに疲れが溜まっていたらしい。
私は後方にやって来ると、先に戻ってきていたリドターンさん達と合流する。
「怪我をしていないかチェックしたら軽く食事をしておけ」
「はい」
私は魔法の袋から食事を取り出すと、リューリと一緒に分けっこして食べる。
ううむ、今まで激しく動いていたから、あんまり食欲湧かないなぁ。
「無理でも腹に入れておけ。でないと持たんぞ」
「はい!」
私は強引にご飯を食べると、お茶でぐいっと流し込む。
「横になって休め。眠らずともそれだけでだいぶ体力を回復させられる」
「えっと……」
今横になると確実に寝ちゃう気がするのはさすがに不味いと思うんだけど……
「大丈夫だ。他の連中も夜の出番までは寝る事にしている。俺達がいるから、安心して横になれ。これほど大規模な戦闘は初めてだろう? お前は自分で思っている以上に疲れているんだぞ」
「分かりました」
戦闘経験豊富な師匠達にそこまで言われたら休まない訳にはいかない。私は横になって目をつぶり、体力の回復を図る。
「……すぅ」
◆
目が覚めると日が沈みかけていた。
「うっそ、寝すぎた」
戦闘の真っ最中の戦場で寝るとかマジかよ自分。
「おお、起きたか」
「戦場でぐっすり眠れるのはなかなか才能があるぞ」
それ、褒められているのかなぁ。
「日中はそこまで激戦ではなかった。定期的に敵の増援が現れはしたが、我々だけで十分対応できる範囲だった」
「そうだったんですね……ってもしかして皆さんずっと戦ってたんですか!?」
自分達も夜に戦ってたのに!?
「我々は夜通し戦うことに慣れているからな」
「一応最低一人はアユミさんの護衛に回っていたので寝ている間の安全は心配いりませんよ。ああそうそう、私達が用意した分のポーションは全てこちらの戦場を指揮する部隊に提供してきましたのでご安心を」
「そういう問題じゃなくて―!」
馬鹿正直に寝ちゃってたとか、完全に足手まといじゃん!
しかもポーションの配達まで終えちゃってるし!
「うぅ~! せめて夜は本気を出すよリューリ!」
「おっけー、任せて!」
汚名返上名誉挽回、ぐっすり寝ちゃった分の仕事はしないとね!
「ポーションを配って怪我の心配もなくなったみたいだし、魔物の迎撃に専念するよ!」
「はいはーい。魔物の陽動は私にお任せあれー! 『幻惑』!!」
リューリの幻惑にかかった魔物達は、突然驚きの声をあげたかと思うと、周囲の味方に攻撃を始める。
「ふふーん、仲間の姿を敵に偽装する幻だよ! まぁ痛みで幻惑が解けてすぐ正気に戻るけど」
「でも十分時間は稼げたよ! 『氷刃旋風』!!」
私は氷の刃を放って攻撃する『氷刃』スキルと風の刃を放って攻撃する『旋風』のスキル、そして連撃のスキルを組み合わせたイメージで全属性マスタリーを発動させ、敵をまとめて切り刻む。
「とにかく範囲攻撃でまとめて攻撃しないと手が足りないね!」
「倒しきれなかったのは無視して姫様は無傷の敵に攻撃を続けて! アンタ達、姫様が取りこぼした連中のとどめは任せたわよ!」
「おう! 任せろ!」
「夕べ助けてもらった借りは返すぜ!」
リューリの指示に周囲の探索者達が声を上げる。
どうやら昨日助けた探索者達も近くにいたらしい。
「ギャオオォ!!」
「とりゃあああっ!!」
近づいてくる生き残りを、女の子の探索者が迎撃する。
「貴方は私達が守るから、全力でやっちゃってください!」
「うん、任せた!」
「はぅあっ!」
何故か攻撃も受けてないのによろめく女の子。大丈夫? もしかして怪我してる?
「大丈夫です! ちょっとハートをやられただけです!」
なんかわかんないけど致命傷じゃないっぽいので放っておくことにする。
「んじゃどんどん行くよ!」
私は剣で、魔法で、魔物達を攻撃してゆく。
スキルを使って速攻で敵に強力な攻撃を叩き込み、時にスキルの使用回数を抑える為に後衛に下がって呪文を詠唱し魔法を放つ。
「やっぱ詠唱魔法の方が細かい調整が出来て自由度が効く感じだね」
緊迫した戦いで使い続ける事で、魔法スキルと詠唱魔法の差を強く感じる。
「そうなの?」
「スキルはとにかく早さとオート発動なのが強みで、マスタリーでようやく詠唱魔法に近い自由度が出るけど、それでもやっぱり柔軟性は詠唱魔法の方が強いかな」
でも詠唱の必要がないスキルはやっぱオンリーワンな強さがある。
「とはいえ、敵の数が多いなぁ」
ある程度までは減らせるんだけど、その度にダンジョンから増援が現れる為、なかなか魔物の勢いが途切れない。
「一体にいつになったら終わる訳?」
「んー、魔力圧はまだまだ高いから、もう数日かかるかも」
「マジ!? っていうか分かるの!?」
「まぁね」
意外にもリューリから大発生についての詳細な情報が出てきたことにびっくりさせられた。
この妖精、意外と有能だぞ!
ダンジョンでは全然ろくに働いてなかったのに、一体何があったのやら。
「全員聞いてくれ! 体制を立て直すためダンジョンの入り口を一旦封鎖する! その為に壁を作れる地属性の魔法使い達を、ダンジョンの入り口に魔法が届くギリギリまで近づける必要がある。彼等の護衛を手伝ってくれ!」
そんな時だった。探索者協会の伝令役の探索者達が皆に協力を呼び掛けにやってきたんだ。
「時間稼ぎか。確かに出来るならやりたいもんだな」
「魔力の消耗も激しい。ここらで安全に休息できる時間を稼ぎたいところだ」
そういえば消費した魔力って一晩眠れば回復するけど、精神的に追い詰められているときとか、焦っているときには休んでも十分魔力を回復できないらしい。
まさに今みたいな状況だよね。
わたし? わたしはぐっすり休んでMPもスキルの使用回数も満タンだよ!
「よし、協力する!」
「俺もだ!」
「私も!」
なら私も参加しないとだね。
リューリの言葉だとあと数日は続くみたいだし、少しでも安全に休む時間を確保しないと。
「よし、私達も参加しよう」
「おっけー!」
こうして戦線を押し上げてダンジョンの入り口を封鎖する作戦が開始された。
方法は簡単。突破力のあるパーティを突撃させて、他のメンバーは彼等のサポート。そして戦闘パーティが明けた穴の後ろから壁を作れる魔法使い達がやってきて、ダンジョンの入り口を封鎖。
後は残った魔物を撃退しつつ撤退して、壁が破壊されるまで治療と物資の補給、休息に時間を当てる。
「って言うのは簡単だけど、やるのは大変だよね!」
「泣き言言うなー! とにかく前に出ろ!」
「押せ押せ! 本命部隊を入り口に近づけろー!」
強引な突撃で魔物達を押しのけ、突貫してゆく上位ランカー達。
その脇を中堅ランカーのパーティがガードし、更にそのサポートを私達ソロの探索者が行う。
「おぉぉぉぉぉっ!」
「邪魔をすると死ぬぜぇ!」
「はははははっ! 燃えろ燃えろ!」
「あまり無茶をして死なないでくださいよ!」
見ればリドテールさん達も上位ランカーに紛れて突撃に参加していた。
まぁあの人達エーフェアースじゃ現役冒険者だったみたいだし、昨日の戦いも凄かったからなぁ。
「でも私達も負けてられないよね!」
私はとにかく危なくなってる人達の救援と回復に努める。
幸いリューリが私の目になってくれるおかげで、魔物との戦闘に手いっぱいで救助の必要がある人に気付けないという事もなかった。
「姫様、次はあっちだよ!」
「分かった!」
最初は小瓶から上半身を出して援護に徹していたリューリも、今は周囲の状況をよく観察するため、私の頭の上に移動している。
「たぁぁぁ!」
魔物に襲われている人を助けると、その人の容態に応じて回復魔法をかけるかポーションを渡して自分で回復するかを判断する。
「あ、ありがとう。仲間とはぐれて危ないところだった」
「無理しないでいったん下がって息を整えて。ソロの人が居たらその人と組んで戦ってください」
中には仲間とはぐれてしまった人もいるようで、そういう人達は何人もいた。
「た、たぁー! お姫様には近づけさせないんだから!」
「お前ら! 姫君の指示に従ってチームを作れ! ソロで戦うな!」
そして気が付けば私の周りには、何故か私を姫と呼んでついてくる探索者達の姿があった。
……うん、確かに今の私の姿はそれっぽい事を否定できないけど。
「でも原因は絶対リドテールさん達だよね。こっちにきてから事あるごとに姫とかお嬢様とか言ってふざけるんだもん」
とはいえ、本当にからかっている訳じゃないのは分かっている。精神のすり減る戦場で緊張をほぐすためのジョークとして言ってたのは分かるから本気で怒れない。
問題は、それを聞いていた人達がネタに乗っかちゃった事なんだよなぁ。
「いいじゃん、仲間が出来て私達も戦いやすいし」
「それはそうなんだけど」
実際、彼等は私に向かってくる敵を迎撃してくれるから、回復魔法や攻撃魔法に集中できてホント助かっている。
それに複数の人が窮地に立っていて、私だけじゃ手が回らない時に手分けして救援に動いてくれてもいた。
「あとはお姫様呼びがなかったらなぁ」
「それはもう諦めるしかないんじゃないの?」
それが一番諦めたくないんだよぅ。
「壁の設置に成功! 繰り返す! 壁の設置に成功!! 総員、突撃部隊と壁役の魔法使いの護衛をしつつ下がれ!!」
と、そこに朗報が発せられた。
ダンジョンの入り口を封鎖する部隊の作戦が成功したのだ。
「よーし、仲間達を守りながら撤退だよ! 皆も怪我をしないように気を付けて!」
「「「「はっ!!」」」」
もうノリノリで騎士っぽい返事になっているのはスルー。
「これでようやく安心して休めるけど、まだ数日続くのはキツいなぁ」
あくまで時間稼ぎをしただけで、出てくる魔物の総数が減る訳じゃないからね。
「ボスが出ればもうちょっと短くなるんだけどね」
と、リューリが気になる情報を口にする。
「ボス?」
「うん、魔物も普通に子供を作って増えるんだけど、ダンジョンに溜まった魔力を消費して生まれる事もあるんだよ。で、その魔力は強い個体ほど魔力をたくさん消費するから……」
「つまり強力なボスが発生すれれば、その分ダンジョンの魔力を消費して大発生の時間も短くなる……?」
「そういうこと」
「でもそれって、そのボスが強かったら結局被害は拡大するだけなんじゃ……」
っていうかさ、こういう会話をしていると……と思った途端、リューリがピリッとした表情でダンジョンの入り口の方向に顔を向ける。
「あっ、ダンジョンの魔力圧がすっごい下がった! こりゃボスが生まれるかも!」
次の瞬間、ダンジョン入り口の方角から、何かが激しく弾ける凄まじい音が響き渡ったのだった。
「ほらきたーっ!」
こういうのをフラグを立てるっていうんだよー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます