第43話 悪夢襲来(平凡なる少女が見る地獄の入り口)
◆アート◆
いつものようにダンジョンの妖精と呼ばれるようになった彼女を探しにダンジョンに潜ろうとしたら、ダンジョンの入り口が封鎖されていた。
生まれて初めて見る光景に、ダンジョンを封鎖するとこんな風になるんだなぁ、なんて感想を抱いてしまった。
とはいえ、ダンジョンに潜れないと色々困るわけで、特に生活が懸かっている人達が協会の人達に説明を要求している。
「これより政府からの公式発表が開かれます! 皆さんお静かにしてテレビの画面を見てください!」
係の人の発言に、何で政府? と首を傾げつつも、私達はやや大型だけど、ここにいる全員が見るには微妙なサイズのテレビに視線を向ける。
けれど、若い私は大人の男性達より背が低いので、はっきり言って全然見えない。
「見えねぇぞー!」
「見えない方はスマホから配信サイトを開いて確認してください! 政府公式の生配信があります!」
まさかの政府の生配信と聞いて、私達は何事かと思ってしまう。
ともあれスマホを起動していつも使ってる配信サイト『DTube』を開く。
すると配信トップ欄に政府生配信の文字が。
「これを見ればいいのかな」
動画を開くと、丁度政府の偉い人が出てきたところだった。
「えー、この度、ダンジョンに異常な反応が見られました。この反応と同様の物は過去に世界中で見られ、その後大変な出来事が起きました」
なんとも持って回った言い回しに、速く要点を言えよと思ってしまう。
私達ダンジョン配信者に限らず、配信者なら変に持って回った言い回しはうっとうしがられてチャンネルを変えられる駄目な手口だ。
そんなのが通用するのは昔のテレビ番組ぐらいだ。
「えー、つまり、その……」
政府の人はむやみにもったいぶるもんだから、皆イライラが溜まって早く言えよという文句がロビーのそこかしこから聞こえてくる。
「ダンジョンから魔物が溢れる大発生が起きます」
ようやく口を動かした政府の人は、真っ青な顔でそう言った。
「これはかつて世界中で起きた大災害と同じものであり、またこの反応は我が国のみならず、世界中で確認されております。そして全ての国で同じ結論が出ました」
出ましたって、言われても、正直頭に入ってこない。
「つきましては探索者協会特別条項に基づき、探索者の方は全員がダンジョンより溢れた魔物の討伐に強制参加をしていただきます。こちらは探索者登録をする際の契約事項ですので、拒否権はありません。拒否した場合は、探索者としての資格の剥奪、および今後の資格の再取得を不可とさせていただきます。民間人の方は今すぐに最寄りのシェルターに避難してください。繰り返します。ダンジョンから魔物が溢れる魔物の大発生が発生します」
政府の人はもう一度同じことを繰り返すと、この動画をまだ見ていない人に見せ、探索者は魔物と戦う準備を、資格を持っていない民間人はシェルターに避難しろと告げて放送は終わった。
正直これを見た私達の反応は『…………は?』だった。
魔物の大発生、それは知っている。何しろ小さい頃からテレビで聞いたり、学校の授業で学んだりもした。
でもあくまでそれだけだ。私達にとって、魔物の大発生は生まれる前の出来事。
歴史の教科書に書かれた戦争の話のように、ああ、昔はそういう事があったんだなぁって感じでしかなかった。
それがこれから起きると言われて、実感を持てる人間がどれだけいるだろうか。
その証拠に、周りにいる全員が横にいる人と顔を見合わせて、今の放送が本当だったのかと首を傾げ合っているくらいだ。
「魔物の大発生が発生するまでダンジョンの入り口は封鎖となります! 皆さんは今のうちに装備のメンテナンスとけがの治療、魔力の回復、そして消耗品の補充をしてください。今回の市街地での迎撃戦は探索者の義務です! どんな理由があろうと絶対参加です! 参加されなかった人は探索者資格剥奪の上、二度と資格の再取得は出来ません! 必ずご参加ください!」
正直に言えば、実感が沸かない、だった。
いや違う。これは本当に起きるの? という疑問、更に言えば起きないでほしいという気持ちだ。
だってこれを受け入れたら、本当に魔物の大発生が起きてしまうという事なのだから。
かつては魔物の大発生が原因で物凄い数の人が死んだと聞いている。
中にはダンジョンと町の立地が原因で国民の大半が魔物に殺され、冗談ではなく本当に滅んだ国もあったのだという。
まぁ、当時はダンジョンの事が碌に分かっていない時代だったこともあって、現場からの必死の報告を国の偉い人達が本気で受け止めず、その結果取り返しがつかないほどの被害になったという側面もあったのだけれど。
私と同じように現実を受け止めたくない人達が、協会の人達に食って掛かる光景が見える。
彼等は協会の人達に何が起こっているんだと真実を求めていた。
でもその真実は今まさに見た放送が全てで、協会の人達も答えようがないんじゃないかなと私はぼんやりと考える。
そしてこんな時、上位ランカーの人達はどう動くんだろうとふと思った。
上位ランカーの探索者は配信者としても凄腕だ。
こんな正規の大事件が起きた今、彼等は何をするんだろう?
ダンジョンが封鎖されている今、彼等の動きを見れば自分も何をすればいいのかわかるかもしれない。
そう思って上位ランカー達の姿を探すと、不思議な事に彼等の姿はどこにもなかった。
あれ? と思いながら手は自然と上位ランカーの配信者達の配信チャンネルを表示する。
するとそこには『ダンジョン大暴走!? 魔物の大発生から生き残るには!!』と銘打たれた放送が始まっていた。
それはどの上位ランカーも同じだ。
私はその中でお気に入りの配信者であるお姫様系配信者ミュウちゃんの生配信を開くと、彼女はお店に来ているようだった。
「はい、私は今探索者協会近くのコンビニに来ています! 目的はポーションなどの消耗品を確保する為です! 探索者向けのアイテムを販売しているお店はガチ上位ランカーのサブメンバーや小回りが利く中堅ソロ探索者で埋まってて、もう無理みたいなので、確実に最低限の品が買えるコンビニに来ています! 皆さんも今から専門店に行っても間に合わないので、最寄のコンビニに行きましょう!」
驚いた。上位ランカーってもう動いてたの!? しかも消耗品を買う為にコンビニに!?
私は慌ててコンビニに向かう為協会の出口に向かうけれど、同じように配信を見ていた探索者達で入り口は大渋滞になっていた。
「早く行けよ!」
「押すな押すな! 鎧が痛いんだよ!」
「誰よ胸触ったヤツ!」
「そもそも触るほどねぇだろ!」
「殺す!」
「建物の中で魔法を使うなー!」
あわわ、大惨事だ。ほかに出口は……そうだ! 非常口!
「非常口に急げ!!」
しかし皆考える事は一緒だったらしく、非常口に殺到してゆく。
あわわ、非常口も駄目だ。
「あれはもうだめだな。なら……」
と、近くにいた人が驚くべき行動を始めたのだ。
なんと彼は近くの窓を開けて、そこから外に飛び出していったのである。
マジか! いやここは一階だし、窓から出ても怪我はしないか。
「私も!」
同じ光景を見ていた人達が同様に近くの窓を開けて抜け出してゆく。
よかった、何とか間に合った。既に背後からは窓に殺到する人の声と、協会の人達の窓から出ないで下さいという怒声が響き渡っている。
「あとはコンビニに行けば……」
そう思った私だったが、ふとこれ無理なんじゃない? という不安に駆られた。
だって上位配信者のミュウちゃんが気づいたってことは近いランクの配信者とそのリスナーの人達は確実にコンビニに殺到してるよね。
って事は今から行っても商品は空っぽなのが目に見えている。
「何か何か方法は、親に……頼んだら絶対家に帰って来い。一緒にシェルターに逃げるぞって言われるのがオチか。そんな事になったら、探索者資格剥奪だって言っても聞いてもらえないだろうなぁ」
でも誰かに頼むのはありかもしれない。できれば探索者やってる人以外で……っ!」
私は探索者や配信をやってないと言っていたクラスメイトに手当たり次第にメールを送る。
『魔物の迎撃戦に必要だから、近くの薬局かコンビニでポーション確保して! と。
しかし帰ってきたのは『ごめん無理。自分の分で精一杯』『悪い、俺も討伐に参加するから』といった返事ばかりだった。くっそー! 皆隠れ探索者かよー! やってないって言ってたじゃん!
そして近場のコンビニにたどり着くと、既に入り口から人が溢れでており、とても買い物なんてできそうもない。
仕方なしに次のコンビニに向かうも、やはり駄目。こうなったら近場は諦めて一番遠いコンビニに向かおう! そう思った時だった。メールを送ったクラスメイトの一人から返事が来たのだ。
『〇〇区のコンビニでバイトしてるんだけど、店長に聞いたら2個だけだったら取り置きオッケーだって。いる?』
これぞ神の恵み!!
『お願いします女神様!』
『この借りは駅前のファミレスの季節のダンジョンスイーツの一番高いやつね』
くそー! 足元見やがってー! ダンジョン産スイーツとか学生にはガチで高いやつじゃん!
だけどこの状況で確保してくれたのだから、素直に感謝するべきか。
と思ったら、ポンと更にメッセージが入る。
『無茶しないで生き残る事に専念しなよ』
「っ!!」
あっぶなー! 思わず泣きそうになったじゃん! これが情けは人の為ならずってやつ!? いや私は特に自分の為になる情けをかけたことはないけどさ。
くっそ、明日からあの子の家に足向けて寝られないじゃん!
◆
『皆さん、間もなく防壁が破られます。魔物が姿を現し次第、遠距離攻撃の出来る方は攻撃を行ってください。ただしこの戦いは長丁場が予想されます。最初から飛ばして力尽きないよう、生き残ることを最優先に考えて戦ってください!』
私達は、ダンジョンの入り口を包囲しながら、探索者協会の人達の放送を聞いていた。
既にダンジョンからはドカン、ドゴン、と扉を破壊しようとしている魔物の攻撃の音が聞こえてくる。
一体どんなヤバイ魔物が攻撃してんの!?
「は、配信をご覧の皆さん。聞こえますか? 凄い音が響いてます」
私は恐怖心を紛らせようと、配信を聞いている視聴者の人達に話しかける。
『見えてるよー。スマホの画面越しでもイヤホンの音が凄いわ』
『アートちゃんはランキング低いんだから、無理しちゃだめだぞ。逃げまくるくらいでちょうどいい』
『そうそう、敵の注意を引き付けるだけでも重要な仕事になるからさ』
と、視聴者の皆から、とにかく命を大事にしろよと涙の出そうな応援のコメントが流れる。
『今日はストライダーズの配信と同時視聴の構え』
『それがし三面同時試聴の構え』
探索者じゃない人達は気楽でいいなぁ。
私も家で上位ランカーの配信見てのんびりしたいよ。
まぁそんなこと言ったら炎上不可避なので言わないけどさ!
私は緊張で今から吐きそうだよ!
『あっ、初めての大規模レイドだろうし、メッセージを視界の正面やや下に設定しとき。役に立つから』
『それ、戦闘に集中しづらくないですか?』
実はダンジョン配信機器は、ある程度のグレードのものになると、配信設定を細かくいじれるようになる。
例えば今言われたように視聴者メッセージの配置調整などもだ。
その時だった。ドゴォォォォォン!! という轟音と共に遺跡を封鎖していた大扉が吹き飛んだ。
「っっっ!?」
驚きすぎて声も出なかった。
それくらい凄い音だったのだ。
私が我に返ったのは、我先に動いた上位ランカー達の攻撃が直撃する音と、同時に吹き飛んだ大扉が凄い音で地面に落ちる音を聞いた後だった。
『始まったか!』
『さすストライダーズ。扉がぶっ壊される音にも動じず攻撃命中させた』
『アートちゃんの町に丁度上位ランカーが来ててよかった。層の厚みが全然違う』
「わ、私も戦わなきゃ!」
そうだ、戦いが始まったんだ! 上位ランカーだけに叩かせず、私も魔物に向かっていかなきゃ。
『落ち着け。前衛の出番はまだ後。後衛の総攻撃が終わって、扉を破壊した大物を上位ランカーが倒してからだ』
『そうそう、上位ランカーの戦いの最中に漏れ出た雑魚退治がアートちゃん達低ランクランカーのお仕事でそ』
『焦って格上に挑んでも死ぞ』
慌てて飛び出そうとした私だったけれど、視界に飛び込んできた視聴者の皆の長文コメントが制止する。
「うわっ!? え? あ……」
『よかった、コメントに気付いてくれて』
『危うく自滅RTA生配信を見せられるところだった』
うぐぐ、好き勝手言われてるけど、事実だから否定できない。
「えと、アドバイス助かりました」
『メッセージ位置変えてよかったでそ。大規模レイド初めての子って、よく緊張で暴走するんだわ』
正直ちょっと邪魔だけど、今のはガチで助かったので、また暴走しないようメッセージの位置はそのままにしておこう。
「また私が暴走しないようにアドバイスお願いします!」
『おけおけ、戦況の報告も任せよ』
『大発生は俺らにもめっちゃ関係あるし、可能な限りサポートするよん』
こうして私達の戦いは始まった。
上位ランカーが強い魔物を相手にしている隙を突いてダンジョンから飛びだしたランクの低い魔物を相手してゆく。
低ランクの魔物でも、ダンジョンに潜らない人にとっては十分すぎるほど脅威だ。
それに町の中を破壊されたら生活にも難が出る。
「とりゃあああ!!」
『魔法やポーションは温存、攻撃を受けないように周囲の障害物を利用して!』
「はい!」
私は味方の魔法使いが作った土壁や岩壁を盾にして、魔物から身を守りつつ、反撃を行う。
『ちょい前に出すぎ。そろそろ下がって他の連中と合流するべし。敵の攻撃がその分分散するから』
「分かりました!」
正直コメント欄で指示を貰えるのは凄く助かる。
戦場で戦ってると、自分の今いる位置とかすぐわからなくなるし、攻撃のペースが如何しても早くなっちゃう。
だからこうやって定期的に冷静さを取り戻してくれるおかげで、ダメージらしいダメージは受けずにすんでいた。
「痛っ!」
けどそれでも無傷とはいかない。
『ポーション使って! この乱戦だと下手に惜しんでたら死ぬぞ!』
「は、はい!」
浅い傷とはいえ、数を受ければ血が出すぎて危険になると探索者講習で先生が言っていた。
私は視聴者さん達の指示に従ってポーションをあおる。
更に弱い魔物の相手をするといっても、抜け出してくる魔物の全てが弱いわけじゃない。中には今の私じゃとても 相手なんて出来ない格上が現れる事もあった。
『ブレードリザードマンだ! 下がれ下がれ! 他のパーティに処理してもらって!』
『連続斬撃に気を付けろ! アートちゃんの実力じゃ押し込まれたら死ぬぞ!」
「分かりました!」
私は敵に背を向けないように必死で攻撃を捌きながら下がり、中堅パーティと思しき探索者達に助けてもらう。
「ありがとうございます!」
「おう、無理すんなよ! 死んだら終わりだからな!」「はい!」
今のところ、私達は何とかやれていた。
「意外と順調だな。このペースなら大した被害もなく終わるか?」
「それはさすがに楽観が過ぎる。とはいえ、前の大発生は150年近く前の事。当時と比べれば探索者のランクと数も桁違いだし、なにより情報の有無が違う。前回に比べれば圧倒的有利なのもまた事実」
「おいバカやめろ、そういうのをフラグってい……」
バガァァァァァァァァァァン!!
凄まじい音と共にダンジョンから大型の魔物が姿を現す。
『だから言ったのにーっ!』
『とにかく下がれ! あんなの上位ランカーにしか相手できん!!』
「わ、分かりました!!」
私はすぐさま皆と一緒に後方に下がると、今のうちに装備の交換や探索者協会に所属している回復魔法使いから治療を受ける。
「上位ランカーが新手の大物を倒したら、皆さん突撃してください!」
「重傷者はこちらへ! 重傷者はこちらに連れてきてください!」
後方は後方でてんやわんやだった。
やはり場所によっては激戦区らしく、前線の重傷者がひっきりなしに運ばれてくる。
「中級ポーション急げ―! 回復魔法使い用に魔力回復ポーションもだー!」
そして上級冒険者が新しく現れた大物を討伐したところで私達に突撃の指示が下る。
「いくぞぉぉぉぉ!」
「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」」
決して楽ではないものの、私達は何とか戦えていた。
……と思ったのは最初の数時間だけだった。
あれから何度も大物の魔物が出現しては、上位ランカー達が対応に当たっていたけれど、遂に彼等にも限界が来たのだ。
「ぐわあぁぁぁぁっ!」
魔物の必殺の一撃を喰らった前衛メンバーの装備が折られ、砕かれ、前線が維持できなくなる。
更に魔力の尽きた後衛メンバーも魔物の餌食になる。
「やらせるな! 盾に成れ! 手の空いてる奴は彼等を後方に! 急ぎ治療を受けさせるんだ!!」
中堅パーティが何組も大物の足止めに向かい、私達に上位ランカー達の回収と護衛の指示が下る。
『無理すんなよ! とにかく後ろに下がるまで敵を凌いで! 魔力も惜しむな!』
「分かってます!」
私は魔力を惜しまず魔物に攻撃を魔法を放ち、エアウォークで他の探索者達と共に軽い女性メンバーを後方に連れ帰る。
「ありがとうございます! あとは私達が!」
上位ランカー達が回復術師たちによって治療テントに連れ込まれる。
『どのくらいで回復出来るかな?』
『上位ランカーが喰らったとなると結構な深手だろ。魔力だけでなく体力の消耗も激しいだろうし、なにより装備が壊されたのが不味い。予備の武装くらいはあるだろうけど、戦力が大幅に減るのは間違いないだろうな』
と、視聴者達が絶望的な予測をコメントしてゆく。
「ギャァァァァ!!」
悪いニュースはそれだけじゃなかった。
大物の魔物を引き受けてくれていた中堅パーティ達が魔物の攻撃を受けて大打撃を喰らってしまったのだ。
「魔法使い、撤退の援護と壁を!」
「もう魔力が無い!」
「ポーションを使え!」
魔法使い達は魔力回復ポーションを飲んで強引に魔力を回復すると、魔物と中堅パーティの間に石の壁を作り出す。
そして魔物が壁を破壊する前に中堅パーティを引きずって逃げだす事に成功した。
「おおーっ!」
しかし壁は長くはもたず、すぐに魔物達の侵攻が再開される。
「不味い、このままだと治療を行ってる後衛のテントに敵が集まってくる!」
もしそんなことになったら、負傷者達が大変なことになってしまう。
「一体いつになったら魔物は帰るの!?」
などと文句を言った所で魔物が居なくなる気配などみじんも考えられない。
それどころか魔物はどんどん増えてゆく。
『ストライダーズがやられたから、大物の足止めに中堅パーティが割かれて雑魚退治が追いついてない』
『いやこれマジで不味いぞ』
絶望的な状況に追われながら、私達の戦いは続く。嫌でも続く。
日が落ちて、夜になっても魔物は減らない。
それどころか灯りがあっても薄暗いせいで、魔物の攻撃がよく見えなくなる。
「きゃあ!?」
盾が弾き飛ばされ、剣一本になってしまう。
盾を取りに行きたくても、盾は魔物の背後。仕方なく盾を諦めて、予備の短剣を取りだして盾代わりに攻撃をギリギリ受け流す。
とはいえ、二刀流なんて初めてで慣れていないから、両方の剣を使って受けざるを得ない。
けれど、慣れない戦いを行った代償か、こんどはメインの剣が折れてしまった。
「ああーっ!!」
どんどん劣勢に立たされる私。
「うぉぉぉぉっ!! そりゃああ!」
幸いにも、他のパーティが現れた事で、辛くも窮地を脱することが出来た。
「ありがとうございます!」
「これまで戦ってた奴は後ろに下がって休息をとれ! ここからは第二陣の俺達が引き受ける!」
「第二陣?」
聞けば、どうも探索者協会はこの戦いが長引くことを考えて、夜戦が得意なパーティをメインに、第二陣を準備していたらしい。
「分かりました! お気をつけて!」
「任せろ!」
こうして何とか私は二日目の朝を迎える事が出来たんだけれど……
「朝から、キツい!」
探索者協会が二日目用のポーションを提供してくれたけれど、昨日の戦いで盾とメインの剣を失ったのが痛かった。
私は後方に待機し、前線からここまでやってきた敵の相手をすることにする。
正直結構な数がやって来るので、前線は相当に激戦のようだ。
「敵の第三波が来たぞぉー! デカイのも居る!」
更に味方のやる気を失うような声が響き渡る。
「まだ出るの!?」
『がんばれ、ここが正念場だ!』
『俺達も一睡もせずに情報収集してるぜ!』
くっ、なんとか耐えないと! 早く迷宮に帰って!!
「ぎゅぃぃっ!!」
「えっ!?」
そんなだった。建物の陰から魔物が飛び出してきたのだ。
「キャアッ!!」
突然のことに体が対応できず、魔物に押し倒されてしまう。
『ヤバイヤバイヤバイ! 誰か通報をしてくれ!』
『駄目だ! 場所がわからん!」
魔物は私の体を押しつぶすと、前足の片方を天に掲げる、そして勢いよく振り下ろした。
避けなきゃ、無理だ、避けれない。
「うあっ!!」
その結果、私は足を切り裂かれた。
幸いにもかろうじて回避が間に合ったおかげで足の形は保たれているが、それでもかなり深い傷だ。
「早く……治療しないと」
けれどポーションはもう使い切ってしまった。
かなり血を流してしまったし、意識が朦朧としてきた。
そんな私を見下ろす魔物の爪が再び天に掲げられ……次の瞬間、猛烈な速度で振り下ろされた。
「あっ、終わった」
走馬灯のようにこれまでの出来事が脳裏をよぎる。
そしてその中で最も刺激的だった、彼女との出会いを思い出す。
「ああ、せめてもう一度」
けれど、その願いは叶わない。
絶望が目の前に迫る。
私の人生、これでおしまいか。
「あの子に逢いたかったなぁ」
諦観と共に、最期の瞬間を受け入れる。
もう、あがくのにも疲れてしまったようだ。
これ以上苦しみたくないから、せめて一撃で死ねるといいなぁ。
巨大な爪が眼前に迫る。
これで、終わる。
そう思った時だった。
「『炎剣』!『強撃』!」
真っ赤な炎が、魔物を吹き飛ばした。
「……え?」
気が付けば、私を殺そうとしていた魔物の姿がない。
代わりに現れたのは……
「大丈夫ですか?」
お姫様のようなドレスと、まるで真珠のように輝く鎧を纏った、凛々しい姫騎士の姿だった。
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