第42話 いざ幻想の姫出陣の時(少し盛り過ぎなのでは?)

「やれやれ、随分と面倒なことになっているみたいだな」


 薬草を買ってほしいと殺到する人達をかき分けて現れたのは、私の師匠であるお爺さん達だった。


「詳しい話を聞かせて欲しいが、まずはこの騒動をなんとかしないとな」


 と言ってスレイオさんが腕まくりをすると私と殺到した人達の間に立つ。


「お、おい、アンタ等一体何なんだよ! 俺達の商売の邪魔を……」


「全員静粛に!!」


 我に返った商人らしき人が文句を言おうとした瞬間、ストットさんの大きな、けれどハッキリとした声が広場全体に響く。

 やたらと良く響くけど、これもスキルなのかな?


「素材の買い取りは我々が取り仕切ります! まずは販売物ごとに並んでください! こちらからポーション、薬草、毒消し草、麻痺消しの順に並びなさい!」


「な、何でアンタ等の言う事を聞かなきゃならねぇんだ! 俺達はそっちの娘と……」


「だまらっしゃい! 私達はこの子の保護者です! 子供の問題に親が関わるのは当然でしょう!!」


 え? 私ってばいつの間にお爺さん達の子供になったの!?


「こういうのはあいつ等に任せておけばよい」


 と、いつの間にか傍にやってきていたキュルトさんが私の肩をポンと叩く。


「ほらほら、買ってほしかったら並べ並べ」


 そうしてお爺さん達は見事な手際であっという間に広場に殺到していた人達を綺麗に並べてしまった。


「このポーションは全部で銅貨30枚ですね」


「こっちの薬草は駄目だな。二束で銅貨1枚ってところだ」


「はぁ!? 何言ってんだ。店で買ってきたばっかの奴だぞ! もっと高く買ってくれよ!」


「買ってきたばっか? さてはお前さん、店で買ったもんを割高で売るつもりだったな。だがよう、よく見てみろよ、葉の先も茎も皺がよってるじゃねぇか。どうせ売れ残りの萎れた薬草を騙されて普通の値段で買っちまったんだろう。こんなんじゃポーションにしても出来はたかが知れたもんだ。お前さん、店の奴に騙されたんだよ」


「なっ!? マジかよ!」


 どうやらあのお兄さんは楽して儲けようと、お店で買った薬草を私に高く売りつけようとしていたらしい。


「このポーションは特に駄目ですね。水で薄めた物は法律違反です。そもそも浄化もしていない井戸水を使うなど言語道断です!」


「法律違反は見逃せんな。衛兵! この者を牢屋に!」


「「はっ!」」


 リドターンさんが声をかけると、衛兵達がまるで彼の部下のようにキリキリと商人を捕まえる。


「なっ!?」


「手間をかけるな」


「いえ、あのリドターン殿の為に働ける事は光栄であります!」


「この小悪党は我々が責任をもって牢屋にぶち込んだあと余罪を吐かせてやります!」


 リドターンさんが衛兵達に声をかけると、彼らは寧ろ誇らしげな顔になる。

 もしかしてリドターンさんって、有名人?


「うむ、違法希釈したポーションを売る様な輩だ。間違いなく余罪があるだろうからな」


「さぁキリキリ歩け!」


「待ってくれ! 誤解なんだ!」


「一級ポーションマイスターであるストット司祭の目をごまかせると思うな!」


 なおも食い下がる商人を引きずって、衛兵達は去って行った。


「ポーションの希釈って犯罪なんですか?」


「うむ。冒険者のみならず、旅をする者にとってはポーションは命綱じゃ。いざと言う時それが希釈されたもので、正しく効果を発揮せねば命にかかわるからな。それにポーションは騎士団や民間人も使う。個人が自分で薄める分には自己責任じゃが、売り物に偽装した時点で重罪なんじゃよ」


 なんと、希釈したポーションを売るのは重罪だそうです。

 私もうっかりやらないように気を付けないと。


「普通はそんな迂闊な真似をする奴はおらんが、お主は簡単に騙せると思ったんじゃろなぁ」


 なんと! 私のような深慮遠謀な女を相手に簡単に騙せると勘違いするとは、侮ってくれたモノである。

 次に会った時は目に物……あ、いや、もう次は会えないかもだ。だって重罪だし。


 そんな感じでストットさんとトライオさんが買い取りを、騒ぎを起こそうとした人はリドターンさんが強引に追い出し、ついでにキュルトさんが説明をしてくれた。

 うん、一番楽してない? このお爺さん。


 そうして暫く見ていると、広場に集まっていた人達は全員が居なくなり、残っているのは私達とダンジョンから出て来た冒険者達だけとなる。


「やれやれ、漸く終わったか」


「あの、ありがとうございました」


 私は買取りを手伝ってくれたリドターンさん達にお礼を言う。


「なに、気にしないでください。ただ、何か大きな事をする時や、初めてのことをする時は、私達に相談してくれると嬉しいですね」


「はい、次からは気をつけます」


 まさかこんなことになるとは思ってもいなかったからね。

 そもそもダンジョンから出て来た途端にこれだったから。


「それで、一体何故こんな事になったんだ?」


 うぐ、流石にこんな騒動になれば聞かれるよねえ。

 でもお爺さん達には今まさにお世話になったばかりだし、嘘をつくことはしたくないなぁ。


「ええと、詳しい事情は言えないんですけど、ここからかなり離れた町でとても沢山の魔物と戦う事になるんです。だから皆で使う為に大量のポーションが必要なんです」


 流石に異世界で、とは言えないので、そこだけ誤魔化して事情を説明する。


「大量の魔物か。確かにそれならポーションが必要な理由も理解できるな」


「だが他の町に遠征してまで買うってのは相当だな。絶対に戦わないといけない相手なのか? なんとかそいつ等の進路を逸らしたり追い返したりは出来ないのか?」


 と、トライオさんが魔物と正面から戦わずに済む方法は無かったのかと問うてくる。


「その、立地的に無理なんです。追い返せないし、逃げてもかなりの可能性で民間人に犠牲者が出ます」


 これは本当だ。

 そもそもあちらの世界の魔物の大発生は世界を運営する大神達の匙加減なので、彼等が満足するまで続くのだから。

 そんないつ終わるとも分からない状況で、大量の魔物が出てくるのだから、町の人達の犠牲は相当なものになるだろう。

 だから少しでも多く、回復手段が欲しいのだ。


「成る程な」


「そうなると、アレを用意しておいたのは正解でしたね」


「そうだな」


 アレ?


「アユミさん、その町へはいつ発つのですか?」


「え、ええと、明日の朝には」


「随分と早いですね。ですがなんとか間に合わせましょう」


 間に合わせるって何を?


「俺達の方でも追加でポーションを確保できるか調べてみる。明日、町を発つ前にここで合流出来るか?」


「良いんですか!? ありがとうございます!」


 成程、間に合わせるってポーションの事か!

 確かに追加で補充して貰えるのなら是非お願いしたいよ!


「それとこれ等全てをポーションにするのは大変でしょう。私も一部を引き受けますので、アユミさんは残りを頼みます」


 といって2/3以上の薬草を確保するストットさん。


「え? 流石にそこまで任せる訳には……」


「時間がないのでしょう? なら私にも手伝わせてください。それに私はアユミさんの師匠ですよ。ポーションの制作速度で弟子に後れを取ることはありませんよ」


「でも……」


「いいじゃん、力を借りようよ姫様。お爺ちゃん達も協力してくれるって言ってるんだし、時間がないのは事実でしょ」


 むむ、そう言われると断れない。

 確かにこれだけの数のポーションの制作はかなり大変だし、そもそも間に合わなくては意味がない。

 ルドラアースの人達じゃ薬草の種類が違うから、いちいち教えないとポーションにするのは無理だしなぁ。


「よろしくお願いしますストットさん」


 背に腹を代えられない私は、ストットさんにポーション制作の一部、というか大半を任せる事にした。


「ええ、お任せください」


 ストットさんはやけに嬉しそうに言うと、何やら胸の前で指をスッスッと動かす。

 なんかの合図かな? って誰に?


 しかし、師匠とはいえ、お爺さん達には本当に迷惑かけちゃってるなぁ。

 代金……は受け取って貰えるか怪しいから、何か贈り物を用意しておいた方が良いね。

 ルドラアースのお酒……は未成年だから買えないから、おつまみになる食べ物とかなら喜んでもらえるかな。


 そんな訳で私はリドターンさん達にポーションの確保を任せると、調合作業を行う為に別れるのだった。


 ◆


「さぁ、それじゃあポーションを作るぞー!」


「がんばれー! 姫様姫様、私にも手伝えることある?」


 と、珍しくリューリがお手伝いをすると言ってくれた。なんか妙にやる気である。


「じゃあ薬草を洗ってくれる?」


 私はルドラアースの100均で買ったバケツに薬草を入れると、その横にホームセンターで買った大きめのザルを置いておく。


「洗い終わったのはこっちにお願い」


 100均だと大きなサイズの品ってあんまり売ってないんだよね。もしくは100円じゃなくなる。 


「おっけー」


「それじゃあやるぞー!」


 ◆


 作業を始めてから数時間後、ようやく私は全てのポーションを作り終えた。

 

「ふぅ、何とか間に合った」


 ポーションと毒消しの入った大量の瓶を魔法の袋に詰めてゆく私。


「この袋が手に入ってよかったよ。これが無かったら運ぶのにも一苦労だったしね」


 更に私は沢山の薬草を全てポーションにした事で『初級大量生産スキル』を取得していた。

 このスキルは大量に生産する際、作業時間を短縮してくれる上に、うっかりミスをしないよう行動を補正してくれる便利スキルだ。

 ながら作業になってしまい「あっ、しまったー!」とならないのは本当にありがたいね。


「今何時だろ?」


 時計がないから時間が分からないんだよね。ルドラアースに転移したら、100均の安い時計でも買おうかな。

 あー、でもダンジョン探索してると戦闘で壊れる可能性もあるし、ちゃんとしたやつを買った方が良いのかな? 出来れば防水機能も付いてるやつ。


 でもそういう時計ってデザインや色が可愛くないんだよなぁ。

 けどあの世界魔法少女みたいな服もあるし、ダンジョン用に可愛いデザインの機能重視な時計もあるかも。今度見ておこう。


「お腹もすいたし、ご飯がてら外に出てみるか」


「私もお腹すいたー!」


「リューリはお菓子を食べてたでしょ」


「ご飯は別腹だよ!」


 この妖精、薬草を洗浄してる間もお菓子をパクついてたんだよね。

 一体この小さな体のどこにあれだけのお菓子が入るんだろうか?


 ◆


「ふむ、夕方にはなってないか」


 太陽が落ちてきてるけど、まだ夕方と言うほどには空がオレンジ色になってはいない。


「これからどうするの?」


 屋台で買った串焼きのお肉を頬張りながら、リューリが訪ねてくる。


「そうだね。ストットさんのお陰で結構時間に余裕が出来たから、ダンジョンに潜って向こうで覚えた魔法をスキルにしようかな」


 本当なら夜通しポーション制作作業をする予定だったから、この時間も活用したい。


「スキルが手に入れば、MPを使う魔法と合わせて二倍近く使えるようになるし」


 今度の戦いは長丁場になりそうだから、MPは温存しておきたいからね。

 そんな訳で私はダンジョンに潜って新しく覚えた魔法を全てスキルとして取得した。

 すると、新たに『初級全属性魔法マスタリー』というスキルが手に入ったのである。


「おお、全属性!」


 まず名前の時点で強そうです。

 ステータスのスキル説明によると、これは全ての属性の魔法をマスタリースキルとして使えるという破格の代物だった。

 代わりに各属性のマスタリーが統合されたのか、無くなっていた。


「使用回数自体は今まで覚えていたマスタリースキルの合計+アルファって感じだから、回数が減った訳じゃないみたいだね」


 更にこのスキルで使用した魔法はダメージが二割増しという、単体のマスタリースキルよりも高いボーナスが付いてきた。


「おおー! これはありがたいよ!」


 これ一つで全部の魔法が使えるのは凄いね。


「ん?」


 ふと私はこのスキル一つで全部の魔法が使えるという部分が気になる。


「ってことは、これをこうしてあのスキルを使えば……」


 試しにちょっと撃ってみる。


「「おおーっ!」」


 やってみたら予想以上に派手な光景が広がって、私達は思わず歓声を上げてしまった。


「凄いなこれ、使いどころがあるかは怪しいけど、とにかく派手だから、なんかそういう大会に出たらすっごい目立ちそう」


「凄い凄い! もっかいやって!」


 リューリも初めて見る光景に大興奮だ。


「でも駄目。これから戦いに行くんだからね」


「えー、いいじゃん。もっかいやってよー」


 子供か。いや妖精なんて子供みたいなもんか。


「あっちで使う可能性もあるから、その時まで我慢」


「はーい」


 必殺技っぽい技も出来たし、これで準備は万端。

 あとは化粧を落として歯を磨いたら寝るぞー!


「「おやすみなさーい!」」


 ◆


「よーっし、準備万端!」


 ぐっすり眠って万全の体調を整えた私は、リドターンさん達と合流する為にダンジョンを出て入り口へとやってきた。


「朝からダンジョンに潜っていたのか。勤勉だな」


 そしたら既に到着していたリドターンさん達に、ダンジョンで探索をしていたと勘違いされてしまった。

 まぁ説明も面倒だし、ここは勘違いしてもらうとしよう。


「って、皆なんですかその格好は!?」


 なんと皆さん、こんな朝早くだというのに、これからダンジョンに一冒険しに行こうかと言うようなフル装備でやってきたのだ。


「何って、魔物と戦う準備をしてきたんだが?」


 え? 本当にダンジョンに行くの!?


「馬車も用意してある。どこに行けばいい?」


「え?」


 どこにって、どこ?


「もー、何ぼけっとしてんのよ! このお爺ちゃん達はアンタ……姫様と一緒に魔物と戦うって言ってるのよ!」


「え、ええーっ!?」


 リューリの言葉に私は驚いてしまった。お爺さん達が一緒に戦う!?


「いや、それはさすがに……」


 だって異世界だよ!? 流石に連れて行けないよ!


「アユミの行く先は地獄の如き戦場なのだろう? ならば戦力は一人でも多い方が良いんじゃないのか?」


「それはそうですけど……皆さんを巻き込む訳にはいきません!」


「もう十分巻き込まれておる。もう一つ二つ増えても問題あるまい」


「大ありですよ! ここまで手伝って貰っただけで十分過ぎます!」


 薬草の買い取りの件とポーションの追加確保の件だけでもう十分過ぎる程手伝って貰った。

 これ以上は頼れないし、なによりこれ以上頼るという事は、この人達を命の危険にさらすという事だ。

 異世界の戦いにこの世界の人達を巻き込むことなんて出来ない。


「なぁアユミ、俺達ゃ冒険者なんだぜ。命の危険なんざ、お前さんの何百倍も潜り抜けてるんだ。寧ろ俺達の方が先輩なんだぞ」


「それはそうですけど……」


 それと危険に巻き込むかは話が別なんだって。

 ダンジョンに潜るのは自己責任だし、見返りもある。

 でもこれから行く戦場には何のメリットもないんだ。

 

「アユミ、私は元ではあるが騎士だ。困っている民がいるのなら助けに行きたい」


「でも、それはこの国の人達の話ですよね。私が行くのは、縁もゆかりもない遠い国の話なんです」


「おやそうなのですか? ですが神に仕える私にとっては、人の定めた国境など何の意味もありませんからねぇ。神にとって世界全てが庇護の対象ですから」


 その神様が原因なんだって! そもそも行くのはこの世界じゃなく別の世界だよ!

 でもそんな事を言えるわけがない。

 こうなったらポーションを受け取ったら私だけで転移してしまおう。


「ねぇ姫様、ううんアユミ」


 と、そんな私にリューリが声をかけてきた。それもいつもの姫様呼びじゃなく、アユミとこれまでのように。


「私、このお爺ちゃん達に手伝って貰った方が良いと思うわ」


「リューリまで!? 本当に死んじゃうかもしれないんだよ!」


 これがルドラアースの人達だったら、彼等の世界の問題と言う事もあって一緒に戦う事に問題は感じなかっただろう。

 でもこの人達はエーフェアースの人間だ。別の世界の事に命を開けさせるわけにはいかないんだよ。


「別にいいじゃん。私だって知らない人間の為じゃなく、アユミの為に戦うって決めたんだよ。このお爺ちゃん達だって同じ気持ちだって」


「私の為?」


「その通り。色々と理由は言ったが、要は弟子が可愛いから手伝いたいだけなのさ」


「でも本当に危ないんですよ?」


「そもそもだ」


 と、リドターンさんが言葉を区切る。


「我等は全員生きて帰るつもりで協力を申し出ている。誰も死ぬ気など無いとも」


「えっ」


 そういわれて気づいた。

 私は、彼等が死ぬ事を前提に話していたと。生き残ったとしても大怪我をするだろうと。

 だって相手は無数の魔物だ。物凄い犠牲が出たと聞いたのだから、この人達でもただでは済まないと思ったから反対してるんだ。


「それこそ今更じゃ。危険が嫌なら誰も冒険者になぞなっておらん」


「そうそう、死んでも後悔しない、が冒険者の合言葉だぜ」


「なんですかソレ」


 死んでも後悔しないんて、いくら何でも刹那的な生き方すぎじゃないだろうか?


「それで良いのさ。だからアユミ、俺達に手伝わせてくれよ。大体、子供を戦わせておいて爺ぃが安全な場所でボサッとしてられねぇだろ。安全な場所に居るのは、本来お前の方なんだぜ」


「むぐっ」


 それを言われると否定が出来ない。確かに今の私の見た目は子供だ。

周りからこう思われる、常識的に考えてこうだ、と言われたら子供の私こそ、残るべきだと言われるだろう。


「そういうこと。そもそも沢山の人の命が掛かってるんだから、こっちも手段なんて選んでられないでしょ! 戦力は多い方が良いって!」


 うぐぐ、正論~っ!


『現地で出来た知己は大切にしなさい。人は一人で出来る事には限界があります。自分に出来ないことを頼れる人を作るのです。つまり友達は大切にしなさい』 


 そんな時ふと、この世界に来る前に女神様に言われた言葉を思いだした。

 何故か、本当に不意に思い浮かんだのだ。


「……それって、こういう事?」


「アユミ?」


 私一人じゃ到底魔物の大発生で受ける被害をゼロには出来ない。

 でも、誰かに手伝って貰えば、少なくは出来る。

 だから、仲間を頼れと。

 女神様はそこまで考えて私にアドバイスをしたの?


「……」


 私は自分の胸の内に問いかける。

 確かにお爺さん達に傷ついてほしくない。万が一にも死んでほしくなんてない。

 でも、手伝って貰えれば、もっと多くの人を救える。


そもそも薬草の買い取りの時点で私だけじゃ捌き切るのは無理だった。

 あそこで余計な時間をとられ、質の悪い薬草や、希釈したインチキポーションを売られて助かる筈の人を助けられなかった可能性すらある。


 なんだ、とっくに私だけじゃどうにもならなかったじゃないか。

 気付いてしまえば、もうビックリする程恥ずかしい失敗ばかりだ。


「なら、私がする事は自分だけで戦うんじゃなく……」


 私はお爺さん達、そしてリューリの顔を見て口を開く。


「お願いします。皆さんの力を貸してください!」


「「「「「姫様の御心のままに!!」」」」」


「って何それぇーっ!?」


 いきなり何言い出すの皆して!?

 


「はっはっはっ、一度言ってみたかったのだよ」


「姫騎士と共に出陣なんざおとぎ話みたいだなぁ」


「いやー、血が滾りますねぇ」


「ふん、まぁ偶にはおとぎ話の魔法使いになるのもええじゃろう」


「へへへー、やったるぞー!」


 ああもう、グダグダだよ!


「それではこちらは我々から姫君に贈り物です」


 と、未だに騎士ごっこをするお爺さん達が綺麗な布に包まれた大きな荷物を差し出してくる。


「これは?」


「おっ、何々!? お菓子!?」


 いや、流石にお菓子はないでしょ。

 荷物をお菓子と勘違いしたリューリが、包みを開くと、中から眩い純白の輝きに包まれた鎧が姿を現した。


「え? これって……」


「姫君の為に我等が用意した品です。お受け取りください」


え? え? 何で鎧?


「ダンジョンを一人で探索するのなら、特に守りを固めねばの。さぁ、身に着けておくれ」


「え、ええと……」


「ほらほら、時間がないんだから早く着た着た!」


「わ、え、えええー!?」


「ご安心を鎧はそのドレスの上から着る事が出来ます。元々以前着ていた衣装に合わせて作った品ですから」


 そうなの!? 私は急かされるままにドレスの上から鎧を装着してゆく。

 どうやらこの鎧、リドターンさんが来ているような全身ガチガチの鎧じゃなくて、漫画やゲームに出てくるような要所を守るタイプの軽装の鎧だ。


「うわっ、軽い」

 そして金属を使っている筈なのに、滅茶苦茶軽い。まるでプラスチックか何かみたいだ。


「うむ、良く似合っておるぞ」


「さぁあとはこの剣を」


 更にリドターンさんは、鎧に合わせたカラーリングの鞘に入った剣を差し出してくる。

全身を鎧に包んだ私は、気持ち凛々しい心持ちになる。


「さぁ姫君、号令を」


 リドターンさんに促された私は、ちょっとだけ高揚した気分で剣を抜くと、それを天にかざして叫んだ。


「これより、ルドラアースの人達を助けに出陣します! 『世界転移!!』」


 うん、ちょっと、ちょっとだけ、興奮してしまったんだ。少しだけノリノリになってしまったんだ。忘れろ。

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