第41話 薬草ゲットだぜ!(金と物で草を得る)
「あー、ひどい目にあったわ」
小瓶から顔をのぞかせながら、ぐったりとした顔を見せるリューリ。
「お疲れ様」
とそれもその筈。あの後、その場に居合わせた全員がリューリに大興奮して大変な騒ぎになったからだ。
まぁ仕方ないよね。生まれて初めて妖精を見たら、私もああなってただろうし。
アレにはさすがのタカムラさん達も驚いて、ツンデレお婆ちゃんのセガワさんまで珍しく興奮していた。
けど誰より興奮していたのは店長のラテルさんだった。
「素敵っ! この子の服を作りたいわ!!」
なんと彼女、リューリの為に服を作りたいと言い出したのである。
どこからかメジャーを出した彼女は、店員達を総動員してあっという間にリューリのサイズを測り、お店の二階にあるらしい服飾室へと駆け込んでいったのであった。
……店長なのに働かなくて良いのだろうか?
まぁそんなこともあったけれど、この後に待っている騒動の対策をする為、私達は急ぎ店を出た。
「それにしても、魔物の大発生かぁ」
まさか百年以上も前に起きた大災害が再び起きるなんてね。
「とにかく準備をしないとだね。まずはポーションの在庫を増やすためにダンジョンでライフリーフ狩りかな」
なにはともあれポーションの素材を確保だ。
「ダンジョンは封鎖されてるんでしょ?」
「ああ、そうだった!」
現在ダンジョンの入り口は魔物の大発生をギリギリまで食い止め、軍や探索者の準備が整うまで、封鎖されてるとの事だった。
「となるとお店でポーションを買うしかないか」
くっ、出費が多くなるけどしゃーない。背に腹は代えられないからね。
「と思ったらどこにも売ってないんですけどぉー!」
お店にやってきた私達は空っぽになった商品棚を見て唖然としていた。
どのお店も、ポーション類は空っぽ。消耗品の類も軒並み消えている有様だ。
「これじゃあ魔物討伐に行くのも危険じゃない!?」
回復アイテムなしに戦えば、万が一の時には手遅れになってしまう。
「マジかよ、出遅れちまった!」
見れば私達以外にも、何人かの探索者達が同じように空っぽになった棚を見て絶望していた。
だよねー、まさかこんなことになるなんて思ってもみなかったもんね。
「どうするよオイ。午前中の探索でポーション使い切っちまったぜ」
それはご愁傷様。けど私にもどうにもできんのだ。許せお仲間。
「あっ、討伐に参加するなら協会がポーションを支給してくれるらしいぜ!」
するとスマホを見ていた人が、探索者協会からの通達があったとうなだれているお仲間に伝える。
「マジか! よっしゃ、ポーション貰いに行こうぜ!」
これはありがたいニュースだね。私も急いで貰いにいかなきゃ!
「落ち着けって。ポーションは探索者ライセンス一つにつき、5つまでだってよ」
「5つか、それでも無いよりはマシだよな」
ガーン! ポーション貰うのにライセンスが必要なの!?
いや、普通に考えれば、一人で何個も独占しないようにする対策は必須だけどさぁ!
「くっ、またしても戸籍が無い問題が!」
「よくわかんないけど、姫様は貰いに行けないの?」
「そうなんだよ」
くっ、こうなったら隣町まで言ってポーションを補充……いや、隣町同じ状況だろうなぁ。
何なら世界中同じ有様なのでは?
「ふーん、だったら転移であっちに戻れば良いじゃない?」
「え?」
あっちってどっち?
「ほら、私達が居たダンジョンの町。あっちは魔物が大発生する気配もなかったしさ」
「そっか! それがあった!」
それだ! エーフェアースならこちらと状況も違うだろうから、ダンジョンに潜ることも出来るし、慌てた人達によるポーションの買い占めも起きてない筈!
「よし、『世界転移』!! ……あれ?」
さっそく転移スキルを使用しようとした私だったが、何故かスキルが発動しない。
「あれ? 何で? ステータス!」
何故スキルが発動しないのかと困惑した私は、ステータスからスキル項目を確認する。
すると『世界転移』スキルの使用回数が0/1になっていた。
「しまった! 一日一回しか使えないんだった!!」
そうだった、スキルは回数制なんだった!
「リューリ、魔物の大発生までの猶予ってどれくらいかわかる!?」
「え? そうねぇ、おおざっぱだけど、2.3日ってとこじゃないかな? 今すぐ湧き出すって感じじゃないわよ」
「ありがとう!」
よし、それなら今日は仕方ないから、明日転移しよう。
そして向こうで準備を終えたらポーションの使用回数が回復次第再転移でギリギリ間に合うはず。
「なら今日は別の事を……そうだ! 図書館で新しい魔法を覚えよう!」
時間を無駄にしない為、私は図書館へと向かう。
今回はノート持参なので、使い捨てのメモ書きの制限を気にする必要はない。
私は手当たり次第に戦闘で使えそうな魔法をメモしていくと、隣の公園にやってきて人気のない場所でメモした魔法の試し撃ちを行う。その結果、
『アイスバレット』
『ウインドカッター』
『アースニードル』
『サンダーランス』
『ヒール』
『キュアポイズン』
『キュアスタン』
『ガードシールド』
の魔法を取得する事に成功した。
今までずっと火属性の攻撃魔法しかなかったからね。
師匠の教え通り、なるべく色んな属性を覚えないと。
ちなみに覚えたのは全て初級の魔法だ。
中級の魔法も覚えたかったんだけど、図書館には安全も考慮して初級魔法しか置いてなかったのである。
それ以上の魔法となると、中学や高校、もしくは専門学校などで習うか、高いお金を出して魔法書を買う必要があるらしい。
もしくはダンジョンに潜って自力で手に入れるか。
「あっ、これもエーフェアースに行けば手に入るかも」
向こうならこっちと違ってその辺りもお金次第で何とかなりそうな感じだし。
◆
「よし、回復してる! 『世界転移』!」
翌朝、世界転移のスキルが回復しているのを確認した私は、さっそく転移を行いエーフェアースに戻ってきた。
ダンジョンが封鎖されているために、いつもの隠し部屋ではなく、地上から転移したためか、今回は地上の街中に転移した。
「よし、早速ダンジョンの薬草エリアに行ってポーションの材料を採りまくるよ!」
すぐさまダンジョンに向かう私達。
「ところで薬草を採取出来る場所知ってるの?」
「知らないから教えて!」
そういえば知りませんでした。
「しょうがないわねぇ。全速力で飛ぶから、付いてきなさい!」
「うん!」
リューリは小瓶から飛び出すと、猛スピードで私の前を飛んで行く。
「きっもちいーっ! 最近本気で飛んでなかったから、気分がいいわー!」
何せ羽に穴が開いて飛ぶことすらできなかったもんね。
私達は一路薬草が群生しているフロアへと向かったのだった。
「ここよ!」
「うわぁ」
第二階層へとやって来た私は、ダンジョンの一角に広がる林に驚いていた。
何せ今までずっと普通の建築物風だったのに、通路を抜けたら林が広がっているんだもん。
初めてここに来た人、ビックリしただろうなぁ。
「よし! それじゃ採取するよ!」
「おー!」
「ちょっと待った」
けれど気合いを入れて薬草の採取を始めようとしたところで待ったがかかったのだ。
「え?」
「うぉっ!?」
声を駆けて来たのは40代くらいのおじさんだ。一応革鎧は来ているけれど、なんか冒険者っぽくない。
というかこのおじさん、声をかけて来るなり大声を上げて固まってしまった。
一体何事!?
「あの、何か御用ですか?」
「え? あ、ああ。ご用だ」
私が話しかけると、おじさんはハッとなって動き出す。
「あー、君、見たことないけど薬草採取は初めて? っていうかそのナリは間違いなく初めてだよね」
「はい。そうです」
そのナリって、見ただけで分かるもんなのかな?
こう、薬草採取に慣れた人特有の気配とか雰囲気とかあるんだろうか?
「ええとだね、ここの薬草は他の冒険者も採取するから、獲りすぎちゃ駄目だよ」
「そうなんですか?」
「ああ。取り尽くすと次の薬草が生えるまで時間がかかるんだ」
よく考えたら当然の事だよね。ゲームみたいに無限に採取出来る訳無いか。
「ただ、一定の数が残っていると、次の日にはまた元通りになるみたいでね、それで俺みたいな引退した冒険者が薬草の育成具合をチェックをしてるんだ」
いや、ゲームみたいだったわ。
「何で一定数残ってると元通りになるんでしょう?」
「さぁねぇ。ダンジョンだからとしか言えんなぁ」
マジかー、ダンジョンってやっぱ不思議空間なんだね。
でも困ったな。薬草の採取に数量制限があったなんて。
何とか数を増やせないかなぁ。
「あの、薬草が沢山いるんですけど、なんとか採取する量を増やす事は出来ませんか?」
「悪いけどそりゃ駄目だね。冒険者組合が決めたルールなんだ。これを破ったら冒険者としてやっていけなくなる」
うぐぐ、それは確かにマズい。
私の我が儘の為に冒険者達が働けなくなるのは流石に問題だ。
「……そうだな、どうしても欲しいってのなら、冒険者達と交渉するしかねぇな」
と、おじさんがポツリとそんな言葉を漏らす。
「交渉、ですか?」
「ああ、買ったり、他の素材と交換するとかだ」
そうか! その手があったか!
確かに他の冒険者が採取した素材なら、私が交渉で譲り受けてもルール違反にならない!
この世界のお金はまだないけど、素材なら山ほどあるからね!
「すみませーん! 冒険者の皆さんちょっと聞いてください!」
大声を上げて林で採取しているであろう冒険者達に声をかけると、彼等は何だなんだとこっちに視線を向ける。
ところで誰も彼も私を見た瞬間、うわっ、って声をあげるのはなんでなんだろう?
いや、今はそれどころじゃない。
「ちょっと事情があって薬草が大量に必要なんです! それでもしよかったら、私が狩った魔物の素材と皆さんの薬草を交換してくださいませんか!!」
「素材だぁ? お嬢ちゃんがか?」
「はい! 今素材を用意しますね!」
私はこれまで採取した魔物の素材を取りだすと、林の端っこに並べてゆく。
一部素材じゃなく倒したまんまの魔物の死骸もあるけど、まぁ冒険者なら自力で解体出来るからいいでしょ。
「ほう、中々多いな……って、おい、これブルーゴブリンじゃねぇか!」
興味本位で近づいて来た冒険者の一人が、倒した時のまま回収した青いゴブリンを見て驚きの声を上げる。
「あ、はい。こないだ倒した奴ですね」
「倒したって、お前がか!?」
私が倒したと聞いて、妙に驚く冒険者のおじさん達。
「これだけの魔物が倒せるなら、薬草なんていくらでも手に入るだろ。お前みたいなのが何でわざわざこんなところまで来てんだよ?」
何でか、そう聞かれたら答えは一つしかないよね。
「大勢の人を治療するのに必要なんです。その為には薬草を一本でも多く手に入れないといけないんです」
そう、まだ怪我人は出ていないけれど、魔物が大発生してダンジョンの外に出れば、戦えない人達に沢山の犠牲が出るだろう。
それは魔物と戦う探索者なら猶更だ。
「……必要なのは薬草だけか?」
「可能なら毒消し草やポーションなども欲しいです」
寧ろポーションが手に入るならそれに越したことはない。一から作るよりも完成品を手に入れた方が早いしね」
集まって来た冒険者達は、パーティの仲間らしい人達と相談を始める。
薬草やポーションを渡すかどうかを。
「町に戻ったらポーションも買うつもりですので、お金で素材を買いたい人が居たら宣言してください」
「「「「売ってくれるのか!?」」」」
素材を売るという言葉に冒険者達が敏感に反応する。
「じゃあこのブルーゴブリンも丸ごと売ってくれるのか?」
「正しい対価を支払ってくださるなら売りますよ」
「買った! 銀貨10枚でどうだ!」
さっそく魔物素材の買取を希望する人が現れた。
「ふざけんな馬鹿野郎! ブルーゴブリンが銀貨10枚とか舐めてんのかテメェ! 相手がガキだからって俺達を騙せると思うなよ!」
と思ったら、周りの冒険者達が買い取り希望の人に文句を言い始めた。
「ブルーゴブリンの希少さを考えたら、遭遇するまでの戦闘の手間やら諸々がかかってそれ以上の値段になるに決まってるだろ!」
どうやら、このレアモンのゴブリン、意外とお高いみたいです。
「俺達は銀貨50枚でブルーゴブリンを買うぞ!」
「俺達は銀貨60枚だ!」
なんか青いゴブリンの値段がすっごい勢いで跳ね上がってゆく。
「えっと、じゃあ銀貨80枚をつけてくれた人達に売ります」
「「「「おっしゃぁぁぁぁ!!」」」」
青いゴブリンを競り落とした冒険者達が勝利の雄たけびを上げると、他の冒険者達がちくしょーと悔しさを滲ませた声をあげる。
「あの、この青いゴブリンってそんなに貴重なんですか?」
私は最初に薬草採取の事で声をかけてくれたおじさんに質問する。
「お前、知らないで売ったのか……そうだな。ブルーゴブリンは希少種だ。素材も貴重だが、なにより見つけるのが手間だからなあ。探索してる間に消費する物資や、その間の戦闘で受ける傷、冒険を終えたあとの装備の手入れ代を考えれば、金で買った方が楽なのは確かだろうな。元々探索のついでに偶然出会えたらラッキーくらいの相手だ。新人パーティが遭遇したら地獄だけどな」
成程、とにかく遭遇するのがレアだから欲しかったと。
そう言えばルドラアースのレアモンも遭遇した数自体は戦った魔物全体の数に比べると少なかった気がする。
「まぁアイツ等の場合は、素材として欲しがってるんじゃなくて、実績の為だろうけどな」
「実績?」
「こっちの話だ。最も、こんなバカ騒ぎして手に入れた希少素材なんざバレバレだし、昇格の考慮に入れられない事に気付かない憐れな連中だがな。まぁアイツ等にはいい勉強になるだろ」
よくわかんないけど、青いゴブリンを落札した冒険者達の企みは、あまりうまくはいかないっぽい。
『初級交渉スキルを取得しました』
『初級商売スキルを取得しました』
あっ、何かスキルゲットできた。
とまぁそんな感じで、私は魔物素材を薬草と交換したり、売ったりして十分なお金も手に入れる事が出来た。
「色々とアドバイスしてくださってありがとうございました」
素材の買取を終えた私は、自分の分の薬草を採取すると、去り際おじさんにお礼を告げる。すると、おじさんは困ったような照れたような顔で頬を掻く。
「別に礼を言われるようなことはしてねぇよ。気にすんな」
良い人だなぁ。さりげなく薬草の綺麗な採取の仕方も教えてくれたし。
なのでお礼としてルドラアースのコンビニで買ったお菓子を送らせてもらった。
「お、おお、こんな洒落たものを貰ったのは生まれて初めてだな」
「ありがとうございました! それじゃあ!」
『初級採取スキルを取得しました』
『初級人たらしスキルを取得しました』
あっ、またスキルをゲットした……ってなんか聞き捨てならないスキルまで覚えたんだけど!?。
◆
「よし、次は町でポーションを買いあさるよ!」
「おおー!」
空駆と跳躍スキルを使って一気にダンジョンを抜けて地上に出ると……そこには無数の人でごった返していた。
「出て来たぞ!!」
え!? 何事!?
何故かそこにいた人達の視線が一斉に私に向く。
「なぁ嬢ちゃん、アンタ薬草を買ってくれるんだろ!」
「ポーションも買ってくれるんでしょ!」
「え? え?」
「冒険者が言ってたんだよ。お姫様みたいな女の子がポーションと薬草を大量に欲しがってるって! 俺の薬草買ってくれよ!」
どうやらさっきの薬草採取場にいた冒険者の誰かが、私がポーションと薬草を欲しがっていると喋った事が原因らしい。
そしてここに集まった人達は、全員が私にそれらを売りに来た人間のようだ。人間以外も居るけど。
「私のポーションも買ってよ!」
「俺のポーションを買ってくれ!」
「毒消し草も買ってくれるんだろ!」
「買って!」
「買って!」
「買ってくれ!!」
「ちょっ! うわっ! ま、待って!」
けれど殺到した人達が止まる様子はない。
皆自分の薬草とポーションを買ってくれと言いながら詰め寄って来る。
無理無理無理無理! こんな大量の人なんて捌けないって!
こ、これはなんとかしてダンジョンに逃げるしか!
こんなことしてる場合じゃないのにー!
「そこまでだっっ!」
その時だった。混乱渦巻くダンジョン前の広場に、雷鳴の様な声が響き渡ったのである。
あまりの大きな声に、皆ビックリして動きを止めてしまった。
そして動きの止まった人々をかき分け、見覚えのある人達が姿を現す。それは……
「ああ、やはりアユミさんでしたか」
「ストットさん! それに皆さんも!」
そう、そこに現れたのは、私の師匠であるお爺さん達だった。
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