第38話 なんか注目を浴びてるような……?(爆パワーアップして帰ってきた妖精)
「おっ、帰ってきた」
『世界転移』スキルを使った私は、視界に映った光景が見覚えのあるものに変わった事に気付く。
今までいた遺跡風の構造物から、ダンジョン感溢れるボロボロの光景に変わったのだ。
「この光景も久しぶりだなぁ」
数日留守にしてただけなのに、随分と久しぶりって感じがするよ。
それだけエーフェアースでの出来事が濃密だったんだろうなぁ。
「よし、それじゃあ図書館に行くよリューリ!」
「おーっ!」
って、よく考えたらリューリが居る訳ないか。
あの子はエーフェアースに置いてきたんだし……
「あれ? でも今声が聞こえたような気が」
私は腰に付けた妖精の小瓶を確認するも、中にリューリの姿はなく、リューリが注いだ水がちゃぷちゃぷしてるだけだった。
「だよね」
どうやらすっかりあの子がいるのが当たり前になってたみたいだね。
「んじゃ図書館に行きますか……あっ、お土産忘れた」
◆
「んー? んん?」
ダンジョンを出て図書館に向かっていた私だったんだけど、なんというか周囲の反応がおかしい。
「……」
「……」
「……」
「……」
周囲の人間が明らかにこちらを凝視してくるのである。
エーフェアースでもそんな風に見られることはあったけど、あっちは異世界だから、こっちの世界の服が珍しいのかもとか、理由付けは出来たけど、こっちの世界だと探索者の女の子は皆同じような服を着てるから、おかしいところはない筈なんだけど……
「……っ、は! もしかして探索者協会に指名手配されたとか!?」
そういえば私は探索者協会の人に追われてたんだった。
そんで私が別の世界に行ってる間に、指名手配にされてたとか!?
「はわわ、まさか素材を売ってただけでそんな事に!?」
あくまで探索者のルールであって、別に犯罪って訳じゃないと思ったのに!!
「どどどどうしよう! 図書館行くのやめてダンジョンに逃げた方がいいかな!? それともエーフェアースに転移した方がって、転移スキルは使い切ってたぁーっ!」
あかーん! これじゃあ逃げ切れない! マジでどうしよう!
「ねぇ君」
「は、はい!?」
やばー! ついに来た! こうなったら逃げるしか!!
「君も探索者? 俺達もなんだ」
「え?」
探索者協会の人かと思ったら、普通に探索者の人達だった。
それでもこの間のように探索者協会の関係者が探索者の振りをしてるんじゃないかとも思ったんだけど、それにしては全員若い。
これは本当に普通の探索者?
「うっわ、さっきも可愛いと思ったけど、近くで見るとマジで可愛いね君」
「はぁ、どうも……」
ええと、ナニコレ、ナンパ?
でも今の私は子供だぞ。もしかしてロリーなコーンさん?
「あっ、俺はダンジョン配信者のイッシャ。最近少しは名が売れてきてるんだけど知ってる?」
「知りません」
いやマジで知らん。だってネット環境が無いからね。
「マジで!? あちゃー、俺の知名度もまだまだか。あっ、せっかくだからさ、俺のチャンネル登録してよ。俺も君のチャンネル登録するからさ」
なんかぐいぐい来るなこの人。
「いえ、私そういうの持ってないんで」
「マジ!?」
「マジです」
うん、持ってないのは事実だよ。何せ戸籍が無いから契約しようがないもんね!
だから女神様戸籍プリーズ!!
「うっそ、今時スマホも持ってない子っているの!? マジで箱入りお嬢様!?」
むしろダンジョン入りです。
「マジかー。それだと予定が……いやでもそれならウチで囲っちゃえばいいだけか」
イッシャと名乗った探索者の男の子は、私がスマホを持ってないと言ったら急にブツブツと独り言を言いだした。
うーん、探索者協会でもなかったし、行っても良いよね。
「ならさ! 俺達と一緒に配信しない? 君が来てくれればウチも新しい層のリスナーが見込めるし、スマホなんて最新型を何台だって買える金が手に入るぜ!」
いや、スマホを何台も持ってても意味ないでしょ。ソシャゲでもやりまくるのか?
「えっと、そういうのは結構です」
配信でお金が手に入るというのは割と面白そうではあるけど、どのみち戸籍が無いので契約しようもないから意味がないのだ。
あっ、でもSIMフリーの本体だけ買って、無料WIFIのところで使うのならありなのかな?
「おおー、お嬢様だけあって流石にガード固いね。けどさ、今時配信なんて誰でもやってるよ。むしろ探索者なら配信をしておいた方が家の人も安心できるだろうし」
配信で家族が安心? どういう意味だろ。
私が首をかしげると、イッシャは我が意を得たりと喋りだす。
「ダンジョン探索がメジャーになってきたとはいえ、まだまだ探索者になる家族を心配する親っているじゃん。でも配信してれば危ないことになってないかいつでも見れるじゃん。レベルを無視して下の階層に行って危ない目にあったりしたら、まだ早いからレベル上げしとけって叱ったりできるし」
ああ成程。つまり見守りアプリや仕事中のペットの様子を見るライブカメラの役割もあるって事か。
確かに年の若い探索者の親は安心できるかも。
子供の方も配信して危ない事してないって証明できるとなれば、自主的に配信するからって交渉できるわけだね。
「成程、なかなか上手くできてるなぁ」
「でしょでしょ! だから君もさ、一緒に配信しようよ!」
「それはお断りします」
けど戸籍も親も居ない私にはやっぱり無意味なのでお断りする。
お金の問題は探索者協会の追手の件があるから、考えないといけないけど、食料や日用品は最悪エーフェアースに転移すればあっちでは指名手配されてないから大丈夫でしょ。
「えー!? そうい言ずにさぁ! せめて一回! 一回だけでも一緒に配信しようよ!」
なんか随分と食い下がって来るなこの人。何でだ?
「ダンジョンの妖精ちゃんとコラボ配信すれば絶対ウケると思う訳よ俺!」
「ダンジョンの妖精?」
なんぞそれ?
「あっ、ヤベ」
私が眉を顰めると、イッシャはヤバいと自分の口を塞ぐ。
うーん、どうやらこの人、私をダンジョンの妖精とかいうのと勘違いして勧誘してるっぽい。
つまりアレか。人違い! なーんだ、警戒して損した。
もしかして、周りの人達が私をジロジロ見てきたのも、それが原因だったりしたのかな?
はー、そういう事なら安心してお断りできるよ。
「ダンジョンの妖精とか知りません。人違いですよ」
そうきっぱり断ると、私は彼に背を向けて図書館に向かう。
「違う違う! 勘違いじゃないって! 君のことだって!」
去ろうとした私の手をイッシャが掴み、ぐいと引き寄せる。
「きゃっ!?」
おいおい、焦ったとしても流石にそれはないでしょ!?
「あっ、ゴメ「姫様に何してくれてんのよっっ!!」ぶはっ!?」
私が文句を言おうとしたその時だった。
突然聞き覚えのある声がしたと思ったら、ドッという音と共に、イッシャの顔が弾かれるように真上を向いた。
「え!?」
「なっ!?」
一体何が起きたのか。
私もイッシャも困惑の声を上げてしまう。
「ウチの姫様に軽々しく触れてんじゃないわよ!!」
そんな言葉と共に私達の間に降りてきたのは、小さな羽の生えた女の子だった。
「って、リューリ!?」
何でリューリがここに!?
それに姫様って何!?
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