第37話 スキルを覚えるのは大変?(そういえば最近レベルアップしてない)

「『火魔法』連弾いっけーっ!!」


「ギャオゥ!!」


 私の放った複数の火弾が、魔物達の体を焼き尽くす。


「よし、倒せた!」


 今日の私は三層で魔物と戦っていた。

 というのも、お爺さん達から今まで学んだスキルを実戦で使って体に馴染ませるように言われたからだ。曰く、


「以前スキルを覚えすぎると使いこなせなくなると言っただろう? だから実戦で繰り返し使う事でじっくり体に馴染ませるんだ。特に新しいスキルを覚えた際は、とっさの時に使えるよう、使用回数は気にせず何度も使って覚えるようにしなさい」


 との事だった。

 なので、今日はこれまで覚えたスキルを色々と使って自分が出来る事の再確認をしているのである。

 本命である、四層の攻略に備えて。


 そう、四層だ。

 かつて私は探索者協会の人達に追われ、ルドラアースのダンジョンの四層をまともに攻略しないまま、五層のボスと戦った。

 なので四層の敵の強さがよく分からないんだよね。


 五層にいたボスを倒せた事を考えれば、四層でも通じるのかもしれないけど、複数の魔物を相手にするのと、一体の魔物を相手にするのでは勝手が違う。

 それにボスとの戦いの時はあの女の子が一緒に戦ってくれたからね。

 以前私が助けた、転生して初めて出会った人間が。


 なので今回はソロで戦っていけるかの確認をしたいのだ。

 え? 今はリューリが居るから、一人じゃないだろって?

 まぁそうなんだけど、リューリは戦ってはくれないからなぁ。


 ◆


「よし、それじゃあ今日は4層を探索するよ!」


「おーっ!」


 翌日しっかり眠ってスキルの使用回数も回復した私は、装備を整えて四層へとやってきた。


「まずはいつでも逃げれるよう、階段近くで魔物と戦闘だね」


 なるべく階段から離れないように十字路や曲がり角の先を確認しながら動き、魔物が見つかったら相手を階段近くにおびき寄せる。


「じゃあ戦闘開始だよ! 『遠当て』!!」


 スレイオさんから貰った弓を構えた私は、遠距離での命中率と射程の上がる『初級遠当て』スキルを発動させて遠くから魔物に攻撃を命中させる。


「グギャァァァ!」


 攻撃を受けたところで、魔物達は私に気付き、命を奪うべく向かってくる。

 敵は三体。今攻撃を受けたのは足の速そうな四つ足の獣タイプ。

 二体目は足は遅そうだけど、ゴリラみたいに腕がムキムキのサル型の魔物。

 三体目がウロコがトゲトゲしたトカゲ型の魔物だ。


「バリエーション豊富だなぁ」


 というか4層は魔物が三種類出るみたいだ。

 これは油断してたら危ないかも。


 なのでまずは足の速い魔物から倒す。

 再び弓を構えると、『初級遠当て』スキルを使って獣型の魔物を打ち抜いた。

 敵もこちらの攻撃を回避しようとするものの、遠当てスキルに含まれた命中補正の効果もあって敵の回避する先を予測しての攻撃も可能なのだ。

更に魔法スキルを取得するために繰り返し弓や石を投げて練習したおかげで覚えた『初級射撃威力向上』スキルの効果もあってか、敵は二発で沈んだ。


「残るはサルとトカゲ!」


 ここまでくると悠長に弓で狙っている余裕はない。

 小剣と盾に切り替えて接近戦だ。

 でもその前に。


「『火魔法』連弾!」


 武器を構えた状態で私は盾の前に浮かび上がった火弾を魔物達に連射する。

 敵も回避するが、4発中3発が命中しサルが火だるまになる。


「ギャアアッ!!」


 サルが火の熱さにのたうち回っている間に、トカゲを攻撃だ。

 私は『風駆』で移動速度をあげると、トカゲの魔物の側面に回り込んで一方的に攻撃を行う。

 唯一こちらに攻撃が届く尻尾を回避しつつ、トカゲがこちらに体を向けれないように私も移動しながらトカゲにダメージを与え続ける。

 その時、『初級危機感知』の効果か、ゾクッと危険を感じる。


「ギャウギャウ!!」


 すると地面を転がって火を消したらしいサルの魔物が怒りの雄たけびを上げて襲ってきた。


「おっと!」


 あらかじめ予感を得ていた私はその攻撃を回避するとすれ違いざまにサルを小剣で薙ぎ、サルの腕を切り落とす。


「ギャオオッ!?」


 そして突進してきたトカゲの攻撃を回避し、『初級火魔法』スキルでトカゲとサルにダメージを与えてサル、トカゲの順番に確実に討伐する。


「ふぅ、なんとか勝てたね」


「おっつかれー」


 結果からみれば余裕の勝利でした。


「でも『火魔法』の便利さのお陰かなこれは。」


 何せ、一つのスキルで威力や数、更に追尾まで出来る上に詠唱知らずなのだから便利が過ぎる。


「呪文詠唱が必要な向こうだったらもっと苦戦したかも」


 その後も私は魔物達と戦い、結果このエーフェアースのダンジョンの4層なら問題なく戦える事が判明した。


「ふぅ、なかなか良い感じだね」


「うんうん、魔物相手に苦戦することもなくソロで戦えて、私は鼻が高いよ!」


 と、何故かリューリが自慢げに腕組みしながら頷いている。

 君、さっきから何もしてないよね。


「さすがに五層に降りるのはまだ怖いから、四層でスキルの取得と素材集めと行こうか」


「さんせー!」


 てなわけで、私は階段からなるべく近く、でも下の階層に向かう冒険者達とはかち合わない最短ルートから少し離れた場所で魔物と戦っていた。


「よし、倒した。うん、コイツは素材の回収が楽だから気が軽いよー」


 今倒した魔物は角や爪が素材になるので、腹を裂いて肝を抜いたり、解体してお肉を切り分けたりする必要もなくて楽なのだ。

 まぁ魔石を確保するために多少は切り分けないといけないけど。


『初級解体スキルを取得しました』


「あっ、解体スキル覚えた」


「……おめでと」


 今覚えた解体スキルは、解体時の速度を上げたり、手際をよくすることでモツをぶちまけたりしなくなる確率が減るという地味に便利な常時発動型スキルだった。


「このまま高ランクの解体スキルを覚えたら、ゲームみたいにボタン一つで解体してくれるといいなぁ」


 なんて、さすがにそれは無理か。


「よし、それじゃ次に行こうか」


『初級水生成』のスキルで手を洗うと、次の獲物を求めて周囲を彷徨う。

するとさっき戦ったトカゲの魔物が二体現れる。


「よし、今度は接近される前に一網打尽だ!」 


 結果としては楽勝だったので戦いについては省略させてもらう。

 その後も私は魔物達と戦い続け……


『初級リザードスレイヤーのスキルを取得しました』


 ちょっと変わったスキルを取得した。


「えーとなになに、爬虫類系の魔物に対するダメージ増加?」


 あっ、これは便利かも。種族全体に効果がある常時発動系スキルなので、今後強い敵が出てきても効果が期待できるのはありがたい。


「やったね! リューリ!」


「……おかしい」


 するとリューリが何やらおかしいと言い出した。


「え? おかしいって何が?」


 はて、特に何もおかしな感じなんてしないけど……はっ、もしかして近くに魔物が潜んでいたりする!?

 これまで楽勝だったのは本命の魔物が狙っているのを悟られないようにするための罠!?


「じゃなくて! おかしいのはアユミの方!!」


「え!? 私!?」


 なんとリューリが違和感を感じていたのは、魔物ではなく私だったらしい。


「そうよ! いくら何でも早すぎるわ!」


「早いって何が!?」


 足? いや、さっきの戦いではそこまで足を使った戦い方はしていない筈。

 それじゃあ何でリューリは私が早いなんて?


「アユミのスキルを覚えるスピードは早過ぎるのよ! 異常よ!」


「って、スキルの事!?」


 なんとリューリが気にしていたのは、私のスキルを覚える速度の事だった。


「え? こんなもんじゃないの?」


「違う違う! スキルってもっと沢山修行しないと取得できないんだよ!?」


「そうなの? なんか割と簡単に覚えるからそういうもんかと思ってたけど」


「あのねー! スキルっていうのは、何年も修行したり、毎日使い続ける事で初めて取得できるようになるんだよ!」


 ほえー、そんなに時間をかけないと覚えられないんだ。

 女神様の話だと、レベル上げの代わりにスキルを覚える世界って話だったから、もっと簡単にスキルが手に入ると思ってたんだけど、どうもリューリの話だと違うっぽい。


 となると何で私はリューリが驚くほど速くスキルを取得できるんだろう?

 考えられるのは、やっぱり私のこの体が女神様によって作れらたものだから?


「その可能性が一番高いかなぁ」


 もともとこの体は世界最強になれるっぽいし、それを考えるとスキルも人一倍覚えるのが早いのかもしれない。


「それだけじゃないわ。アユミって大抵の魔物を一発か二発で倒してるでしょ。でも私が見たアユミと同じくらいの歳の冒険者は同じ魔物を倒すのに何発も攻撃してたわ。スキルを使ってるそぶりもないのにあれはおかしいわよ、ゴリラよ!」


「誰がゴリラか! それはあれじゃない、小剣スキルの効果でダメージが常時増えてるからでしょ」


「それでも多いよ! それに武器って鉄の塊だよ。子供がそんな重い物を構えたままで歩き回って、魔物と戦うなんて普通は無理だって。私が見た子供の冒険者も、武器を持ってる子はパーティで一人か二人で、残りは皆石を拾って投げてたわ。で、武器を使う子も、疲れたら他の子と交代して体力を温存してたし」


 へぇ、この世界の子供はスタミナの計算までして戦ってるんだね。

 けど、武器の重さまでは考えた事なかったな。

でも言われてみれば、初めて武器を持って探索した時は重かった気がする。


「やっぱゴリラのスキルでも持ってるんじゃない?」


「だからそんなスキル無いし! 私は普通にレベル上げて強くなっただけだって!」


「レベル? なにそれ?」


 するとリューリがキョトンとした顔で訪ねてきた。


「え? いや敵を倒して経験値をゲットすればレベルが……」


 と、そこで私は気づく。

 そうだった、この世界はレベルアップの概念が無いんだった。

 だからこそ皆スキルを覚えて強くなるんだ。


 でもそれだと、子供達はどうなるの?

 子供は私のようにレベルアップの恩恵がないから、スキルを覚えるまでは能力値も見た目相応の子供のものなんだよね。

 でもスキルを覚えるには時間がかかるって話だし。


「ねぇリューリ、スキルがそんなに覚えにくいのなら、子供の冒険者はどうやって魔物を倒してるの? スキルがないなら能力も普通の子供だよね?」


「え? そりゃ数で押してるからだよ。小さい子供でも、皆で石を投げたり大きめの石を叩きつければ、弱い魔物1匹程度なら倒せるでしょ?」


 まさかの人海戦術でした。


「まぁ数が多いとその分経験が減るから、スキルの取得は遅くなるけど、それでも死ぬよりはマシだからね。そうやって時間をかけて敵を倒し続けていれば、そのうち何かしら戦闘に役立つスキルも手に入るってもんよ」


 ただ、それまでに生き残れるかは別だけど、とリューリは続ける。


「あとはアレね。格上の魔物を倒すことが出来ればその分スキルを覚えるのは早くなるわ。自分より強い相手を倒す為に知恵を絞って戦うことが身になるんでしょうね」


なるほど、どうやらゲームの経験値みたいに、スキルも強い敵と戦った方が熟練度が多く貰えるっぽい。


「ただ、スキルを覚えた事で慢心しちゃって、気軽に使い過ぎてあっという間に使用回数が切れて死ぬこともあるみたいだけど」


 ああ、はしゃいで大喜びで使ってるうちに使いきっちゃうのか。

 せっかく覚えたのに世知辛い話だなぁ。


「それよりもレベルアップって何? それもスキルなの?」


 おっと、忘れてなかったみたいです。

 でもこの世界にレベルアップって概念ないし、どう説明したもんかなぁ……


「あー、まぁそんな感じ……かな。えっと、筋力とか素早さとか素の能力が偶に増えるスキル……みたいなもん」


「うっそ、何それ!? そんなすごいスキルがあるの!?」


 うん、嘘は言ってない。

 でもこの世界には無いものだから、あんまり細かく説明してもねぇ……

 こっちでいくら戦ってもレベルアップする気配はないから、私個人じゃなく、その世界でのみ適用されるルールっぽい。


「あれ、そういえばこっちで得た経験値ってどうなるんだろう」


 ふと私は、この世界で得た経験値がルドラアースでも適用されるのかが気になった。


「こっちで得た経験値は、こっちのスキルにのみ適用されて、向こうじゃノーカンになるのか、それとも経験値は別で貯蓄されていて、向こうに戻った瞬間、一気にレベルが上がるのか……」


 ふむ、ちょっと気になるな。


「一応向こうに戻るスキルはあるんだよねぇ」


 こっちの世界にやってきた際に、世界転移スキルを取得しているから、自力で向こうの世界に転移する事はできる。

 ただ、回数が1/1なので、一回使うと丸一日使えないのが難点か。

 お爺さん達との修行もあるしなぁ。


「まぁでも、一日だけならいいか」


よくよく考えたら、向こうでも錬金術とかの事を教えてくれるお婆ちゃん達を放置したままだ。

 一度戻って話をした方が良い気がする。


「よし、スキルの確認がてら、一回戻ってみよう!」


「え? 戻るってどこに?」


「あー、前にいた町。ちょっとした実験をしたくて」


 これで向こうに戻ったタイミングでレベルが上がれば、レベル上げの時間も短縮できるしね。

 あとはあれだね。こっちのスキルを向こうで使えるのかの確認もしたい。


「じゃあ、二、三日戻らないかもしれないから、ご飯は置いていくね」


「え!? 連れてってくれないの!?」


「あー、私のスキルで行くから、多分連れていけないと思うんだ」


 そう、私の転移スキルは人数については特に書いてなかったし、そもそも行く先は異世界だ。むしろいけない可能性の方が高い。


 それにできる女上司風女神様はこうも言っていた。私の魂が世界の移動に耐えれるようになったからこのエーフェアースに転移させたとも。

 ということは、リューリの魂がそれに耐えられない可能性もあるのだ。


「そんなー! 私も他の町に行きたいー!」


 ぐずって私の服の袖をつかむリューリ。

 うーん、駄々っ子か。可愛いけど。


「ごめんね。ほら、お菓子も置いていくから」


「お菓子!!」


 お菓子を差し出したら、あっさり私から離れてお菓子に抱き着くリューリ。

 やっぱり子供だ。


「でも今のうちに! 『世界転移』!!」


 瞬間、私の視界は光に包まれたのだった。

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