第36話 冒険者の見分け方(それはそれとして自覚がない)
「ごろごろ~」
「ごろごろ~」
その日は朝から隠し部屋でゴロゴロしていた。
というのも、お爺さん達の修行が三日連続でハード過ぎた事に、二日目と三日目は師匠を担当しなかった事で賢者モ……冷静さを取り戻したストットさんが漸く気付いてくれたからだ。
「アユミさんが余りにもとんとん拍子でスキルを覚えるので、つい興奮して我を忘れてしまいした……」
という訳で今日の修行はお休みになったのです。
解体した魔物の毛皮を敷いてカーペット代わりにし、タカムラさん達から貰ったお菓子を寝転がったまま食べる事の怠惰さよ。
「ん~! 美味しいーっ! すっごく甘い! 人間ってこんなのを毎日食べてるのね! いいなぁ!」
初めてお菓子を食べたリューリは大興奮で、すっかりお菓子の虜だ。
さらに言うと人間にとって一口大のお菓子も、妖精であるリューリにとってはホールケーキ並みの大きさ。
小さな子供がおやつの時間にバケツブリンをお出しされたらどうなる? という疑問の答えが目の前に示された訳です。
「というかよくそんだけ食べれるね」
流石に私もホールケーキを出されたら食べ切るのは無理だよ?
「何言ってんのよ! こんなに甘くておいしいのよ! 誰かに食べられる前に食べ切らなくちゃ!」
と、まるで野生の獣のような思考でお菓子をがっつくリューリ。
まぁ、あれは妖精だから、と言う事で納得した方がいいんだろうな。
そんな感じで、私達はゴロゴロ体を休めていたんだけど……
「「暇だ」」
私達は揃って声を上げた。
そう、暇なのである。
なにせこの世界、漫画もスマホもテレビもないのです。
当然お菓子を食べ終わってすることもなくなれば、そりゃあ暇を持て余すというもの。
「という訳で、ダンジョンに出かけようと思います!」
「おー! ……ここもダンジョンの中だけどね」
なんてやり取りをしつつ、私達は隠し部屋を出る。
そしてダンジョンの出口に近づくにつれ、冒険者達の姿が増えてくるのを確認する。
「具体的にはどうするの?」
「んー、この間は見れなかったから、今日はゴブリンとかのこのあたりに出てくる魔物の解体をこっそり見学するのはどうかな」
「おっけー、それじゃ探しましょ!」
私達は地下へと向かう階段を目指して進む。
やはり冒険者達は下の階層に向かう直通ルートを目指す為か、他のルートに比べて圧倒的に人の数が多い。
「あっ、居たよ!」
リューリの指さした先には、丁度新人冒険者らしき少年達が、倒したゴブリンの解体をしているところだった。
「今日は失敗するなよ。胃の中をぶちまけると臭いんだからよ」
「分かってるって」
どうやら彼等は以前魔物の解体に失敗して大変な目に遭ったみたいだ。
「おいガキ共、解体する前に死体は横に運んどけ。常識だぞ」
「おっとそうだった。わりーわりー」
と、年配冒険者に叱られた若い冒険者達が、慌ててゴブリンの死体を通路脇に移動させる。
一体なぜそんな事をするのかと疑問に思ったんだけど、後で聞いた話だとあれは単純に他の人達も使う通路だからど真ん中で解体したら邪魔だし汚いしで迷惑だからって理由らしい。
ちなみに必要な部位を回収して不要になった死骸はその場に放置しておけば、やって来た魔物が食べて綺麗にしてくれるんだとか。
で、床に散らばった細かな欠片や汚物、血とかもスライムが綺麗にしてくれるからダンジョンは清潔さを保つんだって
良いなぁスライム。家で飼えれば掃除機要らず、ゴミの日も気にしなくていいよ。
まぁ、寝てる間に襲われる危険があるけど。
「おっし、魔石ゲット! あとは討伐証明に右耳を切ってと」
「よし、次行くぞー」
解体を終えた彼等は、意気揚々と奥へと進んでゆく。
「成る程、ゴブリンの素材は魔石なんだね。魔物の体に魔石がある辺りはルドラアースと同じだね」
あと、討伐部位っていうのは、魔物を倒した証明なんだと後でお爺さん達に教わった。
こっちの世界の冒険者は依頼を達成したり、強い魔物を倒す事で評価を稼ぐことで、冒険者ランクを上げる。
そうすると冒険者としての実力が認められるから、より報酬の高い依頼を受けられるようになるんだって。
で、倒した魔物の証明となる部位を持ち帰れば、討伐の証拠になるらしいんだけど、ゴブリンみたいな人型に近い魔物や、目立った部位のない魔物、そして素材として利用できる部位が無い魔物は一体につき一個しか採取出来ないような部位を討伐した証明にするらしい。
だから新人のうちは弱い魔物でも討伐部位を回収するのはランクアップに必須だけど、ランクが上がって来ると、弱い魔物をどれだけ倒してもランクアップの査定に役立たないから、皆倒しても通路の脇に放置するんだって。
「痛ぇ! 回復魔法頼む!」
そして戦闘をすれば怪我もする。
さっきゴブリンを解体していた冒険者達がたまたま通路の脇道から出現した魔物への反応に後れ、負傷してしまう。
「アホか、そんなショボイ怪我で使えるか! その程度我慢しろ!」
けれど彼等は回復魔法の回数制限を気にして、軽い怪我は我慢させていた。
「ポーションとか使わないのかな?」
ストットさんは回復役はスキルを取得する為にポーションも沢山使うって言ってたけど。
「勿体ないから使わないんじゃない? でもそんなだからスキルも覚えれないんだと思うわ」
と、リューリがキツイ一言を漏らす。
「自分達で採取した薬草を薬にすれば、お金ってのが無くても作り放題なにのね。沢山作って沢山使えば、早めに回復に役立つスキルを取得できるようになるのに。それを勿体ないからってケチり過ぎたらいつまでも成長できないわ。あいつ等は駄目ね」
リューリさん本当に容赦ない。
「アユミ、アイツ等は参考にしない方が良いわ。別の連中を見に行こ」
と、リューリが私の服の袖を掴んで引っ張る。
「分かった分かったって。生地が伸びちゃうから引っ張らないで」
しかしここで問題が発生する。
というのも、彼等が戦いの場を通路のど真ん中に移してしまった為、奥に行けなくなっていたのだ。
前衛の戦士達は武器を振り回すと仲間に当りそうになるし、魔法使いは魔法をケチって石を投げるんだけど、コントロールがいまいちだからこちらも仲間に掠って文句を言われてる。
そして回復役は仲間が怪我するのを待ってじっと見ているだけだった。
うん、これは確かに参考にならないや。
お爺さん達から教わった戦い方のやっちゃいけない事を全員やらかしちゃってる。
曰く、前衛は味方を巻き込むような大振りはするな。周囲をよく見て敵と仲間の位置を常時確認しろ。
魔法使いは援護攻撃をする時は仲間に当たらない位置に移動して狙え。それが出来ない時の為に狙いを正確にしろ。
回復役も必要なら後方から遠距離攻撃で援護するか、支援魔法で補助をしろ。
後衛は安全な後方から全体を見て仲間に指示を出したり、敵の動きを知らせろ、と教わったのに、彼等は誰一人としてそれが出来ていない。
うーん、そんな彼等の横をすり抜けるのはちょっと、いやかなり怖い。
戦いが終わるのを待って……
「おっ?」
と思ったら、そんな彼等の戦いに何食わぬ顔でおじさん冒険者達が近づいてゆく。
そしてヒョイヒョイと彼等と魔物の攻撃を回避して奥へと去って行った。
「うわすっごい」
それは彼等だけではなかった。他の冒険者達も、巻き添えを喰らうことなくスイスイと進んでゆく。
「冒険者って凄いなぁ」
もしかして立ち往生してるのは私だけかと焦ったちゃったんだけど、幸いにもそんな事は無かった。
何人かの冒険者パーティ達は、私達と同じように立ち往生していて、彼等に対して「おせーなぁ」「あの程度の魔物に何手間取ってんだよ」「つーか、ど真ん中で戦うとか素人かよ」と、文句を言っている。
なんか工事現場の交通渋滞か、大通りで曲がりたくて道路を封鎖しちゃってる車を見てる気分だ。
けど、ここに居る彼等とさっきのおじさん達では何が違うんだろう?
皆は何故立ち往生しているのか。
私は次に彼等の横を通り過ぎる冒険者達が現れるのを待つと、その動きを確認する。
すると彼等は、魔物や冒険者達が攻撃を放って動きが止まった瞬間を狙ってその横を通り過ぎていたのだ。
「成る程、攻撃をした直後なら巻き添えを喰らわないもんね」
あとは彼等が再び武器を構える際の動きに注意すれば、巻き添えを喰らわずに済むという訳だ。
「よし、リューリ、瓶の中に入って」
「はーい」
リューリが瓶の中に入ったのを確認すると、私は冒険者達と魔物攻撃のタイミングを見極める。
そして双方の動きが止まった瞬間を狙って、足早にその横を通り過ぎる事に成功したのである。
「やった!」
あとは魔物に目を付けられないようのその場をさっさと逃走する。
『初級逃走スキルを取得しました』
あっ、何か覚えた。
「けど、成る程、どうやらああやって狭い通路で戦闘中の冒険者の横を通り抜けれるのは、ある程度の経験を積んだ冒険者って事だね」
思い出してみれば、待ちぼうけを喰らっていたのは若い新人っぽい冒険者達ばかりで、横を通り過ぎていった冒険者達は、年配か雰囲気のある冒険者達だった気がする。
「もしかしたらこういうのも冒険者の実力に含まれるのかもね」
何せ、さっきみたいなことが魔物の強い下層で起こったら、戦っている冒険者の後ろで待ってる冒険者達が、後方からやってきた魔物に襲われて挟み撃ちされちゃうことになるし、なんならさらに前方から血の匂いを嗅ぎつけた新しい魔物がやって来る可能性も高い。
「うわぁぁぁぁ! 助けてくれぇぇぇぇ!」
そう、こんな感じで、後ろが戦闘中なのに前から魔物が……
「って、何事ぉぉぉぉぉっ!?」
突然の叫び声に困惑すると、前方から魔物に追いかけられた新人っぽい冒険者達が必死の形相で走って来た。
そして後ろに見えるのは、青い肌のゴブリン。
「青い肌……あー、レアモンかぁ」
あの青い肌を見て、私はルドラアースで初めて出会ったレアモン、ブルーリトルゴブリンの事を思い出す。
どうやらこの世界にも突発的に強い魔物レアモンが出現する事があるっぽい。
「ゆーて1層のレアモンだしなぁ」
あっちのブルーリトルゴブリンと大差ないなら、倒した方が得かな。
確かレアモンってお金になるみたいだし。
「それに、放っておくと後ろで戦ってる冒険者さん達が大変な事になっちゃうからね」
私は小剣を抜くと、ブルーリトルゴブリンに向かってゆく。
「た、助け……って子供!? 逃げろ! 魔物だ!」
助けが現れたと思って歓喜の表情を浮かべた冒険者達だったけれど、それが子供の見た目をした私だった為に、慌てて戻れと声を上げる。
「おや、意外と良い人達だね」
うん、気に入った。こういう人達なら助ける甲斐があるよね。
私は彼等の横を通り抜けると、最後尾の人に襲い掛かろうとしている青いゴブリンの懐に『跳躍』スキルで入ると『強切り』スキルを使って切り割いた。
スルリと抵抗らしい抵抗も無く気持ちよく敵を切り裂けたのは、初級剣術スキルのおかげか師匠たちの教えのおかげだろうか。
「ふっ!」
そして敵の横を通り過ぎざま、体を半回転させて背後から追撃。
そして音もなく、青いゴブリンの頭が首からズレると、ゆっくりと体が地面に倒れる。
「討伐完了」
「らっくしょー!」
レアモンなので、倒した死骸はそのまま魔法の袋に回収しておく。
後でストットさんに何かに使えないか聞いておこう。
使えなくてもレアモンの死骸だし、欲しがる人は居るんじゃないかな?
「じゃ、そういう事で」
死骸の回収を終えた私は、そのまま去ろうと思ったけれど、魔物に襲われそうになっていた人が足を怪我している事に気付く。
「怪我、大丈夫ですか?」
「え、あ、うん」
大丈夫と言われたものの、その怪我は軽くはなさそうだ。
なので逃げろと言ってくれた事を加味してサービスにポーションを使ってあげようと思った私だったけれど、そういえば取得した治癒スキルを使ってなかった事を思い出す。
よし、ついでだからこの人で試してみる事にしよう。
「『小治癒』」
スキルを発動させると、彼の足の傷があっという間に塞がって元通りになる。
おおー、回復魔法凄いなぁ。
「か、回復魔法……!?」
あっという間に傷が治った事に怪我をしていた冒険者が驚く。
はて、ただの回復魔法スキルなのに驚くところあったっけ? さっきの怪我人が出てたパーティは普通に使えたっぽいけど。
あっ、でもこれ使えるかも。
ストットさんは回復魔法やポーションをたくさん使うと、回復効果を上昇させることのできる常時発動型スキルを覚える事が出来るって言ってたけど、ほら、わたしってソロ冒険者だからさ、攻撃はなるべく当たらない方向で戦ってるんだよね。
でもそれだと全然スキルを取得できそうにないなって思ってたんだけど、今回みたいに怪我をしている冒険者を治療すれば、スキルを取得する為の経験値を稼げるかもしれない。
あー、でもタダで治療するのもあんまりよくないかもだから、次からはお金を取った方が良いかもね。
「じゃ、私はこれで」
良いアイデアを思いついた私は、再び散歩の続きに戻る。
「あ、あの、お礼を!」
「今回はサービスなので気にしなくていいですよー。でも次からは料金を貰いますからねー」
うん、素材販売のほかに、流しの回復サービスとかも良い金策になりそうだ。
「……あ、ありがとう!」
背後から聞こえてきた感謝の言葉に振り返らず、パタパタと手を振って返す私だった。
彼にはぜひとも私の宣伝役として頑張って頂きたい。
◆
先日の件もあって、私は怪我をしている冒険者達を見つけては、お金や物資と引き換えに回復魔法やポーションでの治療をしながらダンジョンの探索を行うようになっていた。
これがなかなか良い小遣い稼ぎと経験値稼ぎになるみたいで、念願の『初級回復効果UP』スキルの取得に成功した。
内容としてはストットさんの言った通り、回復魔法やポーションを使用した際の回復量が上がるものだった。
ただし毒消しなどは純粋にランクによって効果が変わるので、このスキルの恩恵はないみたいだった。
そんなある日のこと。
町で買い物をしていた私は、町の人達が不思議な噂話をしているのを耳にした。
曰く、ダンジョン内を一人で徘徊する不思議な貴族の少女がいると。
その少女はダンジョンには不釣り合いな煌びやかなドレスを纏い、とんでもない強さで魔物に襲われている冒険者達を助け、更には厳しい修行をしたものでなければ会得出来ない回復魔法のスキルを惜しげもなく使って傷の治療までしてくれるのだとか。
「はえー、異世界の貴族の女の子って凄いんだねぇ」
強いだけじゃなくて困ってる人を無償で助けるとか、人の弱みに付け込んで治療してる私とは大違いだよ。
あれかな、ノブレスオブリージュってヤツ? 高貴な者の使命とかなんかそんなやつ。
「いやそれ絶対アンタの事だから!」
ははは、ご冗談を。私は貴族なんかじゃなくてただの一般市民ですよ?
ドレスなんて着てないし、しかも有料で治療しておりますぜ。
「「「「……」」」」
それにしても、今日は妙に人の視線を感じるなぁ。
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