第35話 異世界の魔法の覚え方(え? ネタじゃなくてマジ?)
「さて、それでは今日は実戦を交えて魔法の修行をしようかの」
修行三日目、魔法の師匠となるキュルトさんは、訓練ではなく実戦で魔法を教えると宣言した。
「あれ? 魔法理論の講義とか、呪文の暗記とかしなくていいんですか?」
「そんなもん学者に任せておけばよい。儂等現場で魔法を使う者は、効果が発揮できればなんでもいいんじゃ」
まさかの理論ガン無視発言。魔法使いって知的な学者キャラじゃないの?
「あと呪文ってなんじゃ?」
「え? いや魔法を発動させる為に必要なやつ……じゃないんですか?」
もしかしてこの世界では、魔法を発動させる為の呪文が必要ない……とか?
でもそれだとどうやって魔法を発動させるんだろう? スキルとして取得する前になんらかの方法で魔法を発動させないといけない訳だし。
「ふむ、興味はあるがまぁそれは後じゃ」
キュルトさんが通路の奥を指差すと、その奥からゴブリンが姿を現す。
「よいか、儂の放った魔法をよく見ておくのじゃ『火弾』!!」
「あっ!」
ゴブリンに向けて魔法を放ったキュルトさんだったけれど、その攻撃は明後日の方向に飛んで行く。
「曲がれ!」
しかし火弾は途中で曲がってゴブリンの足元に叩きつけられた。
「ギャウ!?」
外れたと思った攻撃が足元に炸裂して驚くゴブリン。
「今のは曲射スキルじゃ。通常攻撃魔法は真っすぐにしか飛ばん。しかしこのスキルを使えば自在に動かす事が出来る」
あ、はい。知ってます。持ってますから。
「とはいえ、曲射は使える者もそれなりにおる。お主も見たことはあるじゃろう」
キュルトさんはニヤリを笑みを浮かべると、再びゴブリンに手を翳す。
「しかしこれを見たことはあるかの? 『火魔法』!」
次の瞬間、キュルトさんの手のひらから、5つの火の玉が生まれた。
「え!?」
「ゆけ!」
すると5つの火弾はそれぞれがバラバラの方向に飛びだし、しかし曲がってゴブリン目掛けて進む。
「ギャギャ!?」
周囲を囲むように接近してくる火弾の群れに困惑するゴブリン。
「爆ぜよ!」
刹那、5つの火弾がゴブリンに当たる直前で大爆発を起こしたのである。
「キャアッ!!」
「おっと」
驚く私の前に立って壁になってくれるリドターンさん。
「あ、ありがとうございます」
「ふっ、どういたしまして」
爆発が収まった跡を見れば、ゴブリンの体は跡形もなく消し飛んでいた。
なんて威力だろうか。
「どうじゃ、驚いたじゃろう」
「驚いたじゃろう、じゃなーい! びっくりしたじゃない!!」
ドヤ顔で魔法の凄さを語るキュルトさんだったけれど、そこに驚いたリューリが飛び出してキュルトさんをポカポカたたき出す。
「おお、すまんすまん。お主には刺激が強すぎたか。でじゃ、お主は今のを見てどう思った?」
リューリを雑にあしらいながら、キュルトさんが私に視線を送ってくる。
「今のは……打ち出す魔法を増やすスキルですか? それに最後の爆発も……」
「そのとおりじゃ。今の火弾は『曲射』『威力増強』『連弾』『爆発』の四つの効果が含まれた火弾じゃ」
うわぁ、そんなにスキルを使ってたんだ。それはまた大盤振舞いだなぁ。
「凄まじい威力じゃろ? ただ威力増強をしただけでは多少強い火弾程度じゃが、数を増やし、爆発までさせれば中級に迫る威力になる」
うん、あの威力だけでも脅威なのに、逃げ場を奪うように周囲を囲んで迫って来る攻撃は脅威以外の何物でもない。
スキルの組み合わせ次第では、ランク以上の効果を発揮する。キュルトさんが教えたかったのはそういう事だったんだね。
「しかし、今の魔法はたった一つのスキルで再現出来る。さて、一体何のスキルを使ったと思う?」
「え、ええ? 一つのスキルで?」
複数のスキルを掛け合わせた魔法を一つのスキルで?
でもそんなの複数の効果を持ったスキルじゃないと無理だよね。
複数の……
「あっ!」
そこで私は気づいた。
そうだ、あるじゃないか複数の効果を持ったスキルが!
「マスタリースキル!」
「正解じゃ」
今度は満足気な笑みを浮かべるキュルトさん。
「『火魔法マスタリー』、それが今儂の使った魔法じゃ」
「『火魔法マスタリー』……」
名前からして火の魔法を全部併せ持つって感じの名前だ。
「こいつは回数制限のあるスキルのマスタリースキルの一種じゃよ。効果は威力、数、動きといった特殊効果を産み出すスキルを全て内包し、おおよそ術者のイメージ通りに魔法を制御できる。火に関しては万能と言える魔法じゃよ」
全ての回数制限のある魔法に関わるスキルを自在に使えるんだから、かなり便利そうだよね。
ただ、一つ気になる事があった。
「『火弾』じゃなくて『火魔法』なんですか?」
そう、スキル名にマスタリーが付いたんじゃなく、スキル名自体が違う。それはつまり……
「ふっ、流石は『観察』スキルの持ち主じゃな。そうじゃ、『火魔法』じゃ」
キュルトさんが大げさに両手をばっと広げ、演技過剰に振舞う。
「『火魔法マスタリー』はただ火弾に他のスキルが内包されただけではない。他の火系統の魔法の効果を全て再現できるのじゃ」
「他の火系統?」
「つまりこうじゃ!『火魔法』!」
スキルを発動した瞬間、キュルトさんの前に火の玉ではなく、火の槍が生まれる。
「さらに!」
日の槍は幾つもの細い矢に分かれ、再び集まって巨大な球体になったりと変幻自在に姿を変えてゆく。
「火槍、火矢、火球といった他の火属性の魔法として使えるのじゃ! こんなのも出来るぞ!」
キュルトさんが手を動かすと、巨大な火の球体が炎の鞭へと変化し、キュルトさんの動きに合わせて振り回される。
おおー! これは凄い。本当に自由自在に変化させられるんだね。
「このように攻撃魔法にもマスタリースキルは存在する。一種類の攻撃魔法だけでなく色々な攻撃魔法スキルを覚えるのじゃ!」
「はい!」
マスタリースキルは本当に凄いね。
たった一つでここまで形状を変えられるって事は、呪文を詠唱する魔法よりも最終的には優秀かもしれない。
勿論魔法は魔法でもっと高位の凄い魔法があるんだろうけど。
「それでキュルトさん、他の魔法も教えて貰えるんですか!?」
さすがにここまで見せつけられたら、私も早く魔法を覚えたくて堪らない。
「うむ、その為の準備はしてある! これを使え!」
そういってキュルトさんが取りだしたのは、先端が布に包まれた矢、同じく先端が布に包まれた棒、蔦を撒いたバレーボールみたいなもの、分厚い皮手袋と丸めた小石大に丸めた布といったよくわからないし品の数々だった。
「……何ですかこれ?」
いやホント何? 魔法の練習じゃないの?
「何ってこれでスキルを覚える為の道具じゃよ」
これが? スキルを覚える為の道具?
「あの、どうやって使うんですか……?」
正直さっぱり分からない。
「何言っとるんじゃ。お主も火弾を覚える為にこういった道具で訓練したじゃろ?」
「は? ええ?」
いや、私は呪文を唱えて魔法を発動させて覚えたんですけど……
「しょうがない。試しに一つ見せてやるから、よく見ておくんじゃぞ」
キュルトさんは皮手袋をはめると、小石大に丸めた布に火をつける。
そしてそれを皮手袋を嵌めた手でつかむと、おもむろに投げた。
そう、投げたのだ。
「こうやって火のついた物を投げたり振り回したりすることで、火弾や火鞭のスキルを取得できるんじゃ」
「ええーーーーーーっ!?」
何それ!? こっちの世界ってそんな風に魔法を覚えるの!?
魔法のスキルって、火をつけた飛び道具とかがスキルになったものだったの!?
まさかの真実に、思わず叫んでしまった。
ホントなんなのこの世界の取得条件……
「スキルの取得はダンジョンで魔物と戦いながら行った方が効率が良い。儂が考えるに、命懸けになる事で、鍛錬の密度が上がるからじゃろう」
そう言ってキュルトさんは火の付いた矢と弓を私に差し出してくる。
「さぁ、スキルを覚えるまで繰り返し使うのじゃ!」
「……はい」
なんという事でしょう、異世界の魔法修業はとても体育会系でした。
「弓の使い方なら俺が教えてやろう。弓の訓練にもなって良いぞ」
と、スレイオさんが弓の扱いなら自分に任せろと言ってドンと自分の胸を叩く。
「魔法使いは魔法の使用回数が切れたら何もできなくなってしまいますからね。魔法を無駄遣いしない為にも弓や投擲などの戦闘方法も使うんですよ」
な、なるほど。確かにストットさんの説明は理に適ってる気がする。
確かに私もゲームとかで、魔法使いのMPが勿体ない時は普通に杖とかで攻撃させてるからなぁ。
考えてみれば、後衛の魔法使いが杖で攻撃しに行くゲームの方がおかしいよね。
それなら弓を使うのも当然だ。
「この鍛錬は、高確率で弓スキルや投擲スキルも取得できるので、後衛にとって非常に効率的な修行法なんですよ」
「それにダンジョンでは魔法の通じない魔物も存在している。そういった敵を相手にする為にも、遠距離攻撃スキルの取得を目指すべきじゃろう。さぁ、よく狙って撃つのじゃ!!」
こうして私は火の付いた武器を振り回し、投げ、放ち、様々な火属性のスキルを取得した末に『初級火魔法マスタリー』を覚えたのだった。
おかしいな、ファンタジー世界に来たはずなのに、昨日から全然修行法がファンタジーじゃない。
あと弓術、槍、投擲、鞭術の初級スキルも取得したよ。魔法の修行をしていたのに……
一体私はどこへ行こうとしているのか……
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