第31話 お爺ちゃんの弟子になりました(老人率高すぎ問題)
「やぁお嬢さん、俺達に何かご用かな?」
なんという事でしょう。私の尾行はバレていました。
後ろに回り込まれた私は、退路を断たれた形になってしまっている。
「え、ええと……」
ヤバいな。ここで馬鹿正直に倒した魔物のお金になる部位を知りたいなんて言っても、信じて貰える気がしない。
だってそんな事言っても、ならギルドで聞けばいいだけだろうって言われるのは目に見えている。
何て言えば尾行していた事を誤魔化せるのか……
「貴方達が魔物を解体する所を見たいから追いかけてたのよ」
けれど、私の葛藤をよそに、リューリが馬鹿正直に理由を明かしてしまった。
「ちょっ、リューリ!」
「解体? 何でまた?」
「お金になる部位がどこか知りたいからよ!」
「ちょーっ!!」
言ってしまった。どう考えても疑わしい事実を。
「素材として売れる部位を知りたいって事か? しかし何でまた俺達に? ギルドで聞けば良いんじゃないか」
ですよねー。ホント正論過ぎてぐうの音も出ない。
うむむ、なんと説明したものやら……
「なんとなくよ! 最初に見かけたらってだけで特に理由はないわ!」
「リューリィーッ!!」
もうちょっと考えてから喋ってぇぇぇぇぇぇ!
って、よく考えたらこの妖精、縄張りに入り込まなきゃ危険のない怪獣の縄張りに突っ込んで怒らせて死にかけてたんだったぁぁぁぁぁ!
連れていくにしても余計な事を言わないように言い聞かせておけばよかったぁぁぁ!
「ははっ、最初に見かけたからだって?」
「そうよ! 貴方達が強そうだから、強い人間ならお金になる魔物の事を知ってると思ったのよ!」
あ、あかん。全部言ってしまった……
「な、成る程な……」
ほらぁー、呆れられてるじゃないー!」
「き、聞いたかお前等。俺達が強そうだからこんな所まで付いて来たんだとよ」
「ああ、聞いたよ。くくっ、しかもたんに最初に目に付いたからとはな……」
「「「「はははははっっ!!」」」」
そして大爆笑を始めるお爺さん達。
う、うおお、殺せ、殺してくれぇぇぇ……
「「「「良いだろう! 教えてやる!!」」」」
…………
「へ?」
え? 今なんて?
「俺達を選ぶとは中々見る目のあるお嬢さん達だ」
「先達として、後進に知識を伝授するのは大切な役割だからな」
「知識は大切だ。それらを軽視して魔物討伐にのみ没頭する者達は誰も彼も早死にしてきた」
え、マジ? 本当に教えてもらえるの? マジで?
「やったねアユミ!! 教えてくれるって!」
「あ、ありがとうございます」
リューリが無邪気に喜んで小瓶から飛び出してくる。
うん、まぁ、確かに目的が達成できるみたいだから、良かった……のかなぁ?
「私の名はリドターン。騎、いや戦士だ」
「俺の名はスレイオ。トラップの解除を含めた斥候役全般だ。よろしくな」
「儂はキュルト。魔法使いじゃ」
「わたしの名はストット。司祭をしております」
「あ、えと、アユミです。こっちはリューリです」
「よろしくね!」
「うむ、ではさっそく講義の時間だ」
と、リドターンと名乗ったお爺さんが剣を構える。
って、何でいきなり!? まさ実戦訓練とかいって戦えってこと!?
「魔物だ、お前は下がってろ」
スレイオさんの言葉と視線に振り返れば、通路の奥から魔物が近づいてくるのが見えた。
「魔物!」
私は剣を構え、火弾スキルを放とうとしたのだが、それをキュルトさんが止める。
「三層の魔物はお主には荷が重い。儂等が手本を見せてやろう」
その言葉と共に飛び出すリドターンさんスレイオさん。
「はやい!」
まるで風駆のスキルを使っているような速さだ。
「はっ!!」
リドターンさんが魔物を切り、スレイオさんはその横を通り過ぎる。
「え? 何で!?」
魔物を攻撃しないのか、その疑問を口に出しかけた瞬間、スレイオさんが腰に装備していたナイフを右手で投げる。
スレイオさんが投げたのは、二本、いや三本のナイフ。
そしてそれらのナイフが、暗闇の奥から顔を出した魔物に顔面に間髪入れずに吸い込まれてゆく。
「全部当たった!?」
凄い、追尾スキルを使った様子はないのに、全部当てた!
しかもこの人、暗闇に紛れてまだ見えていなかった魔物を狙って攻撃を当てたよ!?
一体どうやって暗闇の中にいる魔物に攻撃を当てたんだろう。
「彼は遠視、暗視、投擲補助のスキルをもっています。更に索敵系のスキルを複数持っている為、ああやって視界に入る前の敵に攻撃を行えるんですよ」
とストットさんが説明してくれた。
「とはいえ、敵が弱すぎましたね。これでは私の出番がありませんよ」
ストットさんは皆に怪我がないのはいいけど、これじゃ神官の役割を見せる事が出来ないと残念がる。
「とまぁこんなもんだ」
あっというまに魔物を倒したリドターンさん達が魔物の死骸を引きずって戻って来る。
「じゃあさっそく解体するぞ」
と言って、すぐさま解体を始めるスレイオさん。
「通常狩りをした場合は血抜きをして冷やす為に氷系の魔法で冷やしたり、川に沈めて冷やす。しかし肉が目当ての魔物以外はそんなことする必要はない」
ふむふむ、素材を採取する為の魔物と、お肉を目当てにする魔物じゃ、同じ解体でも根っこがが違うんだね。
「毛皮のある魔物の場合、綺麗に剥げれば大抵の魔物の毛皮は金になる。牙、爪も金になる可能性があるから、初見の魔物の場合はこの三つを採取しておけば最低限の金額は稼げる」
成程、価値の出る部位はだいたい同じなんだね。
「トカゲ系の魔物の皮も同様だな。鱗を持つ魔物の場合、高確率で鎧の材料として売れる。コイツは四つ足の獣型の魔物だから、毛皮、爪、牙だな。切る時は腹を裂いて、内臓を傷つけないようにしろ。内臓を傷つけると、胃や腸の中の内容物をぶちまけて素材が台無しになる。洗っても匂いは中々取れないしな」
トライオさんは説明を続けながらも流れる様な手つきで魔物を解体してゆく。
「あとは心臓と肝、この部位が薬の材料になる魔物が一定数居るから、ギルドの依頼ボードを確認する癖をつけろ。そこそこの割合で特定の魔物の内臓を募集する依頼が貼ってある」
成程、依頼内容から魔物の金に生る部位を確認する方法もあったのか。
こんどこっそり冒険者ギルドに入り込んで、依頼ボードの内容を確認してみようっと。
「あとは水魔法で汚れを洗い流し、乾いた布で拭いたら採取成功だ。分かっていると思うが、採取した素材は種類ごとに別の袋に分けて持ち運ぶんだぞ。でないと素材同士で傷をつけあったり、成分が混ざる危険がある。また、素材によっては汚れていても洗ってはいけない素材もある。そう言う素材は素人が適当に洗うと薬効まで洗い流しちまう危険があるからだ。そう言うのはそのまま納品するのが正しい」
と、地味に大切な情報を教えてくれるスレイオさん。
成程、確かにその通りだ。仮に適切な処理をすれば薬として使える毒キノコでも、それを薬草と同じ袋に入れちゃったら、毒キノコの胞子が薬草に付着して大変な事になっちゃうもんね。
「分かりました!」
「よし、ならコイツを説明したとおりに解体してみろ」
「え?」
と、スレイオさんはリドターンさんが狩った魔物を私に解体しろと言ってくる。
私はいいのかとリトターンさんに目で問いかけると、リドターンさんは構わないとばかりに頷く。
……大丈夫。過去にポップシープの皮を剥いだ事があったし、お肉を食べる為に魔物の肉を切って焼いた事もある。
でもちゃんと売りものにする為の素材を採取する為に解体するのは初めてだ。
けど……やってやれない事はない筈。
「……分かりました」
覚悟を決めた私は、ナイフを取り出すと、先ほどスレイオさんがやっていた事を思い出しながら解体を始める。
そっと魔物の体内にナイフを差し込むと、肉を切る感覚が手に伝わる。
そして深く刺し過ぎない程度に刃を食いこませると、お腹を切って内臓を露出させる。
「よし、良いぞ。内臓も綺麗だ」
そのままモツを抜いたら毛皮と肉の間にナイフを差し込んで毛皮を剥がしてゆく。
「やるじゃないか。解体の経験はあるのか?」
「以前、自分が倒した魔物を独学で」
実際、私は上手く毛皮を剥ぐことが出来ていた。
スキルもないのにこんなに綺麗に剥ぐことが出来ている事に、寧ろ自分が驚いているくらいだ。
多分これ、器用さの能力値が上がってるのが原因なんじゃないかな。
器用さが高くなってるから、イメージ通りに刃物を操れているのかもしれない。
そうして解体を終えると……
「初級解体スキルを取得しました」
「初級ナイフスキルを取得しました」
「あっ、スキルを覚えました」
「「「「なんだって!?」」」」
そしたら何故かお爺さん達がギョッとした顔で私を見てくる。
「なんのスキルを覚えたんだ?」
「初級解体スキルと初級ナイフスキルですね」
「「「「二つ!?」」」」
またしても目を丸くして驚くお爺さん達。
なんなん? 何でこんなに大げさに驚くわけ?
「……それは運が良かったな。解体スキルを覚えれば、解体の手際が良くなるし、感覚的に価値のある素材が分かるようになる。あくまでぼんやりとだから、きちんとした知識は必要だがな」
おお、良いスキルをゲットしたんだね!
これはありがたいよ!
「ナイフスキルは短い刃物を扱った動作全般だな。戦闘から料理、解体まで幅広い用途に役立つスキルだ」
こっちも地味に便利なスキルみたい。ポーションとかの薬を作成するにも役立ちそうだね。
「話はそこまでです。魔物が来ました」
解体を終えて談笑していた私達に、ストットさんが注意を促す。
やって来たのは一匹の獣型の魔物。
リドターンさん達が倒し、今まさに私が解体していた魔物だ。
「ふむ、この魔物アユミに任せてはどうじゃ?」
そう提案してきたのはキュルトさんだ。
「おい、この子はまだ子供だぞ」
「だからこそじゃ。若いうちに格上の魔物との戦いを経験しておいて損はないじゃろう。儂等が監督していれば万が一の事もない」
「それは分からんでもないが、この子の気持ちを無視するのは良くないぞ。君はどうしたい?」
ふむ、確かに三層の魔物とはまだ戦っていないから、本当にこの階層の魔物が、ルドラアースの三層の魔物と同レベルの強さという保証もない。
だったら監督役が居るこの状態で戦った方が、安心して敵の強さを測れるよね。
「分かりました! やります!」
私は前に出ると、剣を構えて魔物を威嚇する。
すると魔物も私の敵意を察したのか、低い唸り声を上げながら体を低くし、代わりにお尻を上げる。
完全に飛び込んでくる直前の姿勢だ。
「『火弾』!」
私は火弾で魔物を正面から攻撃する。
直後右にズレて突進し、火弾の直撃から一拍遅れて『強切り』を発動させて魔物の首を一撃で断ち切った。
「ふぅ……」
倒した後も油断せず、周囲を確認。
けれど敵の増援が現れる気配はない。
「倒しました!」
今回は敵の強さを確認する為の戦闘だったから、素材の事を考えずに戦ったけど、幸いにも魔物からの反撃を受けずに倒す事が出来た。
そこから察するに、この魔物はあまり強くないのが分かる。
これなら素材を採取する為に多少手段を選んで戦っても大丈夫そうだね。
さて、お爺さん達の評価はどんな感じかな?
くるりと振り向くと、何故かお爺さん達は難しい顔をしていた。
「えと、なにか問題でもありましたか……?」
もしかして、素材の事を考えずに攻撃した事が良くなかったのかな?
「アユミ、君は剣と魔法の両方が使えるのか?」
と思ったけど、お爺さん達が気にしているのは別の理由が原因だったみたいだ。
「はい。攻撃魔法はまだ火弾しか使えませんけど使えます」
「剣と魔法は誰に教えを請うたのじゃ?」
「どっちも本を読んでの独学です」
「「「「独学!?」」」」
「じゃあ体の動かし方もか?」
「はい、全部本の知識と我流です」
「では武術以外で体を鍛えた事は?」
「ありません」
だって戸籍が無いから、探索者協会で探索者訓練を受ける事もできなかったしね。
全部図書館で学んだ知識ばかりだよ。
「全て独学でこれとは……」
何故かお爺ちゃん達は深刻そうな顔で互いに視線を送り合っている。
「……あの」
これはもしかして、私の戦い方に問題があるって事?
確かに専門家に学んだわけじゃないから、正直レベルアップによるステータス上昇に頼ったゴリ押し戦法なのは事実だけどさ……
ええ、文字通りレベルを上げて物理で倒す戦法です。
「成る程、理解した。やはり君はしっかりと教師から学ぶ必要があるな」
うおお、やっぱり独学はアカンかったですか!?
でもお金も戸籍もない私には、教師を雇うコネもアテもないしなぁ。
「安心してください。私達が教えて差し上げましょう」
「……え?」
けれど、悩む私にストットさんが自分達が教えてくれると提案してくる。
「で、でも流石にそれは御迷惑じゃ……」
「ふん、こんな所まで考え無しに付いてくるような行動力のある子供じゃ。しかるべき知識と技術を教えてやらねば、目の届かない場所で何をしでかすか分かったものではない」
「そういう事だ。細かい事は気にするな」
「という訳で君は今日から私達の弟子だ。明日からビシビシ鍛えてあげよう!」
え。ええーっ!? ま、まじで!?
「やったじゃんアユミ! 色々教えてくれるってさ!」
う、うん、それはありがたいんだけど、本当にそれでいいのお爺さん達?
「あ、ありがとう……ございます」
こうして、私はダンジョンで出会ったお爺さん達の弟子になったのだった。
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