第30話 冒険者のお仕事は尾行ごっこで調査します(お爺ちゃん健脚)
「という訳で冒険者になれませんでした」
何という事でしょう。
この世界でも何かする為には戸籍が必要だったのでした。
「ちょっとー、じゃあどうやって中級ポーションの材料を集めるの?」
それに対し、リューリがどうするつもりなんだと問い詰めてくる。
「んー、基本的にはダンジョンで魔物を倒してスキルを取得しながら色んな素材を集めるって感じかな」
「でも売れないなら意味ないんじゃない?」
「そうでもないよ」
そう、普通に売れないのなら、普通じゃない手段で売れば良いのだ。
そんな訳で私は売り物である魔物素材をゲットする為にダンジョン探索を開始した。
「たぁーっ!」
私の一撃でゴブリンが一刀両断になる。
「よし、それじゃゴブリンの素材を……」
そう考えてナイフを取り出した私だったけれど、そこで動きが止まってしまう。
「ゴブリンの素材ってなんだろ」
そう、私はゴブリンの素材として使える部分がどの部位なのか知らなかったのだ。
これは困った。たぶん冒険者ギルドで聞けば教えてもらえるんだろうけど、教えてもらえるのは冒険者だけだろうしなぁ。
冒険者になれなかった私がそれを聞くのは色々と敷居が高い、というかまず冒険者になってから聞きに来いと言われそう。
「ねぇねぇ」
と、リューリが何か思いついたのか、瓶の中から声をかけてくる。
「何?」
「そういうの知りたいなら、ダンジョンに潜ってる人間達を観察すればいいんじゃないの?」
「それだ!」
成程、それならどの魔物のどの部位が必要な素材か分かるね!
「ナイスだよリューリ!」
「へっへーん、役に立つでしょ私!」
「立つ立つ!」
という訳で私達は冒険者達を探すことに方針を転換する。
「とりあえず狩った魔物の死骸は丸ごと持ってこうか」
幸い魔法の袋にはまだまだ余裕がありそうなので、丸ごとブチ込んでおくことにする。
けどこの袋、どれだけ入るんだろうね。
◆
「いたいた」
私が見つけたのは、ゴブリンと戦う冒険者達だった。
彼等は戦い慣れているのか、先頭の一人だけでゴブリンをあっさり倒してしまう。
「っていうか、あんなお爺さんの冒険者も居るんだね」
驚いたことに、その冒険者達はほぼ全員が真っ白な髪のお爺さん達だった。
他の人も半分くらいは髪の毛が白いので、年齢の差はあまりないのだろう。
なんかアクション映画に出てくるイケメンお爺さん俳優って感じ。
もしくはいぶし銀な外見じゃなく演技で語るタイプ?
「よし、それじゃあ解体風景を勉強させて……あれ?」
と思ったらお爺さん達はゴブリンの死骸を放置して行ってしまった。
「どういう事?」
何故放置してしまったのか分からず困惑してしまったものの、解体風景を見る為彼等の追跡を続行する私達。
その途中、彼等が倒したゴブリンを横切ったのだけれど、やはり戦闘でついた傷以外の傷が付いている様子はない。
ゴブリンの死骸は完全に手つかずだ。
「なんでだろう?」
もしかしてゴブリンからはお金になる素材が取れないとか?
「よし! 倒した! さっそく素材を剥ぐぞ!」
と、思ったら倒したゴブリンの素材を剥いでいる冒険者パーティに遭遇する。
「内臓を傷つけない様に気を付けろよ!」
「うん!」
こちらは随分と若い、それこそ今の私と大差ない年齢の子供達だ。
「はて、こっちは素材を剥いでるのにお爺さん達は何故?」
「うーん、多分だけど、要らなかったからじゃない?」
「要らなかった?」
そう推測したのはリューリだ。
「うん、あっちの人間達の方が明らかに強そうだったでしょ。だからあの人間達はもっと下の階層の魔物の素材を狙ってるのよ」
「そっか、ランクの高い冒険者なら、もっと金になる素材を狙うもんね」
成程、確かにリューリの言う通りだ。
冒険をしている間は休憩らしい休憩もとれない。
なら素材の剥ぎ取りに使う時間と労力は節約したい筈だよね。
そこそこ金に生る素材なら折角倒したんだしと回収するだろうけど、弱すぎ金にならない魔物の素材じゃ、労力ばかりかかるだけだもん。
「と言う事は、あのお爺さん達は結構腕の立つ冒険者って事なのかな」
うん、それなら解体の腕も期待できそうだよ。
今は金になる魔物の解体を見たいから、ゴブリンの解体はまた次の機会に見学させてもらうことにしよっと。
◆
「成る程、冒険者達に会わなかったのはこういう事だったんだね」
引き続きお爺さん達を追っていた私は、以前出口を探していた時に人間と全然出会わなかった理由を理解することになった。
「皆、一層はスルーして二層に向かってたんだ」
そう、冒険者達は皆、魔物が弱くて金にならない一層の探索を無視して、ショートカットで二層へと降りていたのだ。
そりゃ階段を行き来するルートから外れたら人が居ない訳だよ。
「となると、隠し部屋が見つからなかったのも当然か」
きっとこのダンジョンの一層を調査した人達は、調査の最中に十分な数のスキルを得て強くなった事で、もっとじっくり一層を調べる事よりも、下層に潜る事を選択したんだろう。
上層じゃ大した利益は得られないと判断して。
そして隠し部屋の存在は誰にも気付かれる事もなく今日まで来たと。
「私にとっては運が良かったって事だね」
私は先を行くお爺さん達に置いて行かれないよう気を付けつつ、十分な距離を取って追跡を続行する。
初級隠形スキルとステータスの隠蔽の能力値補正でそれなりに隠れる事が出来ているから大丈夫だとは思うけど。
「ん?」
と思ったら、突然最後尾のお爺さんが振り返ってきたので、思わず物陰に身を隠す。
うそっ、見つかった!?
「どうした?」
「何か居たような気がしたんだが……気のせいだったようだ」
ふー、セーフ。セーフですよ。
なんとか見つからずに済んだよ。
そうしてお爺さん達は地下への階段を降りて第二階層へとやってくる。
「しかし楽ちんだねこれ」
「うん、皆戦ってるから、私達が戦わなくても良いもんね」
リューリの言う通り、私達の進む道には沢山の冒険者達が居て、彼等が出て来た魔物を我先にと攻撃し撃退していた。
「成る程ねー、魔物の相手をしてるのは弱い人間達だよ。強い人間達は曲がり角とかで偶然遭遇した魔物以外無視してる」
リューリの言葉に周囲で起きている戦闘の光景を確認すると、成る程確かにその通りだ。
魔物と戦っているのはみすぼらしいボロボロの装備を身に着けた若い冒険者達ばかりだった。
彼等はなんともギクシャクした動きで魔物と(本人達的には)激戦を繰り広げている。
そして戦いに勝利して雄たけびを上げる若い冒険者達を、熟練の冒険者達がほほえましい目で見ていた。
「アユミはどうするの? このまま追いかける? それとも予定を変えてこの辺で戦ってみる? ここなら危なくなっても誰か助けてくれるよ」
「ううん。見た感じ、この階層の魔物はブルーポイズンリザードやダークウルフ程強くなさそうだから、予定通り進むよ」
「聞いたことない魔物だけど、もしかして下層の魔物? アユミって実は意外と強い?」
「おや、いつ弱いなんて言いましたかね?」
「だよねー、弱かったらアイツに戦いを挑んだ時点でとっくに死んでるもんね!」
それはもしかしてあの怪獣の事を言ってるのかな? 君、アレを前にした私に助けを求めて来たよね。
なんて話をしていると、お爺さん達が三層へ降りる階段へと到達する。
おお、一気に三層まで来ちゃいました。
さて、ここからはどうするかな。
ルドラアースでも三層をメインに戦っていたし、この辺りなら私で問題なく戦える筈。
もし以前戦った怪獣が出てきても、今ならリューリも居るし最悪逃げる事は出来るだろう。
もしお爺さん達が四層に向かうようなら、ついていくのを一度考え直した方がいいかもしれないね。
私は多少の緊張を胸に秘めつつ、三層へと降りてゆく。
流石に三層になると少し人の量が減って来る。
そしてお爺さん達は、ここでとうとう他の冒険者達とは違うルートに進み始めた。
「成程お爺さん達は三層を狩場にするレベルなのか」
こっちの世界の三層がルドラアースの三層と同じレベルなら、私とあのお爺さん達の実力は同じくらいかな?
それなら万が一敵対する事になっても、逃げる事は出来そうだね。
私は通路を右に左に曲がっていくお爺さん達を追いかける。
「結構複雑な道を行くんだね」
私は道を忘れない様に、タカムラさんに貰ったノートの隅っこに曲がる方向をだけをメモしてついてゆく。すると……
「あれ? 居ない?」
突然お爺さん達を見失ってしまったのだ。
「あ、あれ? どこ行ったの?」
うそ、見失った!? でもどうやって!?
ちゃんと曲がるのを見てた筈なのに!?
「誰かの視線を感じると思ったら、まさかこんな可憐なお嬢さんだったとはな」
「え?」
その声は、私の背後から聞こえて来た。
背筋にゾワリとした感覚を感じながら、私は振り返る。
するとそこには、あのお爺さん達の姿があった。
い、いつの間に!?
「やぁお嬢さん、俺達に何かご用かな?」
「あ、えっと……」
や、やばい事になっちゃった……かな?
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