第27話 異世界といえば妖精ですね(どえらいやかましい)
「グルォォォォォォォ」
助けを求める声につられてやってきたら、怪獣が居ました。
うん、これは無理ですわ。ちょっとスキルで強くなったからって勝てるような相手じゃありません。調子に乗ってすいませんでした。
そして怪獣の方を見れば人の姿はどこにもない。
つまりこれって、助けを求めていた人は……
「うん、運が悪かったと思って諦めて貰うしかないね」
という訳であいつに見つかる前に私は急いでここから離れなければ。
「待って待って、見捨てないで!!」
けれど、怪獣以外誰も居ない筈のこの場所に、女の子の声が響く。
「うっそ、もしかして幽霊? 異世界ってこんな甲高い幽霊の悲鳴が聞こえるの?」
異世界怖い。もしかしてこのまま逃げたら逆恨みで呪われる!?
「違うし! 幽霊じゃないし! 指先! 指先見て!」
一瞬自分の指先を見そうになるが、さすがに状況が状況なのでボケるのはやめて怪獣の指先を見る。
するとなぜか怪獣は爪の先を壁に突き刺していた。
じゃあ助けを求めていたのはあの壁? 妖怪ぬりかべ!?
と、思ったら、壁に刺さっている爪の先端部に何か動くモノが見えた。
「あれは……」
ここからだとよく分からないけれど、何かが居るっぽい。
爪でぶら下げられている感じ?
「おーねーがーいー! たーすーけーてー!」
そんな風に騒ぎ立てられたら怪獣の方も私がやってきたことに気付き、視線をこちらに向ける。
うわっ、めっちゃ見られてるの怖い!
ブルーポイズンリザードもデカかったけど、あっちは背が低かったから高さとしてはトラックくらいの大きさだったけど、こっちは上から見下ろされているから迫力が半端ない。
「けどしかたない。助けを求められた以上は見捨てるわけにはいかないしね。『風駆』!!」
私は風駆スキルで移動速度を上げて駆け出すと、跳躍スキルで怪獣の爪の先目掛けて跳ぶ。
見つかった以上、向こうも私を放ってはおかないだろう。だったら先手必勝!!
「たぁーっ!」
狙うは怪獣の爪! アレを切って捕まってる何かを助けたら即撤退!!
私は怪獣の爪を一撃で切り落と……
ガキンッ!!
切り落とせなかった。
怪獣の爪はまるで鉄の塊のような音を立てると、私の一撃をはじいた。
「なんとぉーっ!!」
まさかの固さに驚く。いやよく考えたら、野生の獣の爪って武器だもんね。
漫画や映画でもよく鎧とか壊してるし、そりゃファンタジー生物の爪なら鉄より硬くてもおかしくないよ!
「なんて分析してる場合じゃないか」
攻撃した事で、完全に敵認定されたっぽい。獲物を横取りされると思ったのかも。
怪獣の目がスッと細くなって、こちらをロックオンしたのがわかる。
「となれば、狙われないように!」
私はジグザグに動いて怪獣が狙いを定められないようにする。
するとヒュッという音が耳元を横切り、私がほんの数瞬前までいた場所の床板がボンッと爆ぜたように吹き飛ぶ。
「なっ!?」
い、今の攻撃、完全に見えなかったんですけど!?
ヤバイ、これ完全に格上の敵だ。
さっきまで戦っていたゴブリンやスライムとは明らかに別格の化け物だよ。
何でこんなのがここにいる訳!? もっと下の階層にいるような強さでしょ!?
アカン、こんなのと戦って勝てるわけがない。
これ、今すぐ逃げた方が良いんじゃ……
「たーすーけーてー!」
けれど声の主は私が逃げようとしたのを察したのか、助けを求めてくる。
うーん、物凄く逃げづらい。
「でもどうすれば!!」
そうこう言っている間にも、私の周囲の床石がボンボンとはじけ飛ぶ。
「ひええ……」
自分でも信じられないけれど、私はかろうじて敵の攻撃を回避できていた。
「ほんと何で……あっ、初級回避スキル!!」
なるほど! 回避スキルのお陰でギリギリで攻撃を回避来てたんだ!
スキルさんありがとうーーっ!
とにかく回避に専念していれば、ギリギリで攻撃を回避出来そうな感じなのは不幸中の幸いだ。
「とはいえ、攻撃が通じないとなるとどうやって助けたものやら……」
漫画とかだと敵の腕を切り裂いて捕まっていた人質を助けるとかあるけど、爪も切れないのに腕を切るとか無理だよねー。
「となるとどうすれば……」
私はとにかく動き回って怪獣の攻撃を回避し続ける。
周囲ではボンボンと床板がはじけ飛び続け、動きを止めたら床板の代わりに自分が吹き飛ぶのは目に見えていた。
「ボスにしても強すぎるよねこれ」
攻撃が見えないとか、ブルーポイズンリザードの時でもそこまでじゃなかったよ。
もう、勘と運で避けてるだけだよ。
レベルアップしたら運のステータス上がらないかなぁ。
「っ!?」
と、ゾワリとした感覚が背筋に走った私は、跳躍スキルを発動させて真横に跳ぶ。
するとすぐ耳元に凄まじい風圧を感じた。
「っぶなー! 戦闘中に考え事は危険すぎる!」
このまま避け続けてもじり貧だ。なんとか助けないと。
となれば、長期戦は避けて速攻で最大火力をブチかますしかない!
「『曲射』『火弾』!」
私は怪獣の顔面に威力を上げた火弾を連続で発射して視界を封じると、一気に敵の懐に詰め寄る。
どうせ効かないだろうし、目くらまし位にはなって!
そして跳躍で再び腕まで戻ってくると、先ほどよりも強い力で爪のなるべく先端に近い場所を攻撃する。
「『強斬り』!!」
しかし私の一撃はやはり爪を切断できない。
でも目的はそこじゃない。
私の攻撃は通じなかったけれど、その代わりにグラリと衝撃が走り、壁に刺さっていた爪の先端が抜ける。
「よし!」
私はすぐさま爪の先に引っかかっているものを抜くとそれを手に掴んで離脱する。
「あたたたっ! 羽が! もっと優しく掴んで!!」
手の中に掴んだモノが叫んだので、ちらりと手の中を見る。するとそこにいたのは……
「妖精!?」
そう、私が掴んでいたのは、背中に羽の生えた小さな女の子、妖精だったのだ。
うおお! 怪獣の次は妖精!? 妖精とかマジでファンタジーじゃん!
妖精との初遭遇に興奮する私は、しかし背筋に走る悪寒、そしてこちらを見る敵意に満ちた視線に我に返る。
「そうだった! 今は逃げるのが先!」
怪獣の爪の先から妖精を助け出した私は、すぐさま逃亡を開始する。
フェイントを用いて滅茶苦茶に動きながら、怪獣の狙いをそらして……
ボシュッ!!
耳元を何度聞いたか分からない風を貫く音が通り過ぎる。
「このまま逃げ切る!!」
「避けて!!」
「え?」
妖精の言葉に反射的に横に跳ぶと、パシュッという音とともに風が吹き飛び、次の瞬間体が吹き飛んだ。
「かはっ!?」
凄まじい勢いで吹き飛ばされた私は、壁に叩きつけられて息が出来なくなる。
「かひゅ……はっ、はぁっ!」
い、今何が起きたの?
力の入らない体をなんとか半分だけ起こして視界を上げると、怪獣が両腕を握ってこちらを見ていた。
「あっ、腕……」
そうか、妖精を奪われた事で両手が自由にになったから、文字通り攻撃の手数が増えたんだ。
やばい、壁に叩きつけられた衝撃でまだ体が動かない。今攻撃されたら間違いなく死ぬ。
っていうか、直撃してないのになんて威力!
「グルルォォォォ」
獲物を奪われた怒りの咆哮を上げ、怪獣が両の手を持ち上げる。
あっ、ヤバイ。これマジで死ぬ。
その時だった。
「『濃霧』!!」
突然周囲が猛烈な勢いで水蒸気、いや霧に包まれ始めたのだ。
「あそこ!! 急いで!!」
手の中の妖精が切羽詰まった声で少し先の瓦礫を指さす。
そうか、霧はこの妖精が!
私は動かない体をなんとか起こそうとして、けれどいまだ力が入らず動かない為、体を転がして強引に瓦礫の下へと運ぶ。
「ゴォウ!!」
次の瞬間、私達がいたであろう方向から、破裂音とともに細かい瓦礫が飛んでくる。
「いい、絶対喋らないで! 『幻惑』!!」
妖精が何かのスキルを発動した瞬間、周囲に違和感が生まれる。きっと何かしたんだ!
私は息を潜めて瓦礫の中でじっとする。初級だけど隠形スキルを持っているから、多少なりとも隠れ潜む役には立っている筈!
「…………」
「…………」
「グルォォォォォォ!!」
怪獣の怒りの雄たけびが霧の中に響き渡ると、突然凄まじい衝撃を感じ、霧が吹き飛ばされた。
それだけじゃなかった。衝撃破は霧だけではなく、私達が隠れていた瓦礫まで吹き飛ばしたのだ。
ヤバイ、見つかる!!
隠れるものが何もないこの状況で、襲われたらもうどうしようもない。
「……グルゥ」
けれど、なぜか怪獣は私達が目の前にいるにも関わらず、キョロキョロを周囲を見回すと、私達を探すように周辺をウロウロしだす。
私達が見えていない……?
困惑する私をよそに、怪獣は周囲をウロウロし続ける。
途中私達の傍に来た時は冷や汗が出たが、なんとかやり過ごす事が出来た。
そしてとうとう諦めたのか、怪獣はいずこかへと去っていったのだった。
『中級恐怖耐性スキルを取得しました』
『中級回避スキルを取得しました』
『中級勇猛スキルを取得しました』
『中級直感スキルを取得しました』
『初級精密攻撃スキルを取得しました』
怪獣の姿が完全に見えなくなって暫くした頃、突然目の前にスキル取得のメッセージが表示される。
ええと、なんで今頃?
「これってもしかして……完全に逃げ切れたって事?」
そういえば、レベルアップはいつも戦闘が終わってからだった。
複数の敵と戦ってる時もだ。
そしてスキルも戦闘が終わってから取得していたような気がする。
ということは、ここでスキルが表示されたのは敵から完全に逃げ切って戦闘が終わったという証明なのではないだろうか?
「~~っ、助かったぁ」
ようやく安全になったと分かり、全身の力が抜ける。
他の魔物に襲われる心配はあるけど、あの怪獣に比べれば対処できるからマシだ。
「いやー、助かったわー」
と、安心して力の抜けた私の手の中から、妖精がよいしょと言って抜け出す。
「『濃霧』だけじゃなく『幻惑』も使って正解だったわね! 一日一回しか使えないからもったいなかったけど、ナイス判断わたし!」
と、自画自賛を始めた。
どうやら霧が晴れても怪獣に見つからなかったのは、この妖精のお陰だったらしい。
「助けてくれてありがとうね! 私は 泉の妖精のリューリ! あなたは?」
すると妖精はパッとこちらに振り返ると、突然話しかけてくる。
「え? 私? 私はアユ……」
「って、かかかか神様ぁーっ!?」
「へ?」
かと思ったら、突然神様とか言い出した。
神様!? 一体どこに!?
「た、助けてくださってありがとうございましたぁーーーーっ!!」
そして床にベシャリと落ちたかと思うと、膝どころか顔面まで床にこすりつけて私に頭を下げてきたのである。
「なにこれ?」
いやホントなにこれ?
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