第24話 異世界にやってきました(2回目)

 気が付くと、私は薄暗い通路のど真ん中に居た。

 はい、これ二回目ですね。


「これがもう一つの世界のダンジョンかぁ」


 確か出来る女上司風の女神様はエーフェアースって言ってたっけ。

 で、さっきまで居た世界はルドラアースと。


「エーフェアースのダンジョンは遺跡っぽいデザインなんだね」


 周囲を見回せば、ダンジョンの外壁は簡素だけど装飾が施されていて、古代遺跡と言われても納得してしまいそうな光景だ。

 ふむ、とりあえずは情報収集としてダンジョンの様子と魔物の強さのチェックかな。


「あっ、そういえばステータスの機能が更新されたんだっけ。そっちを先に……いや魔物に襲われるかもしれないから、まずは安全な場所を探そう」


 そのついでに魔物とも戦う事になるだろうから、この辺りの魔物の強さもチェックしよう。

 という訳で私は腰を落ち着ける場所を求めてダンジョン内の探索を行う事にした。


「けど人気がないなぁ」


 この世界の住人がいれば、色々情報を得られそうだと思ったんだけど、その人間の姿が全く見当たらない。

 もしかしてこの世界ってダンジョンの需要が少ない?

 いや、ルドラアースの方はダンジョンに潜る人が少ないと、魔物が溢れて大災害になるって話だったから、こっちも同じの筈。

 何せダンジョンを作った大神達の目的が、どっちの世界の人間の方が優秀か比べる事なんだから。


「単に今日は休日か何かで、皆ダンジョン探索をお休みしてるだけかもしれないしね」


 暫くさ迷っていると、明らかに不自然な物体を発見した。

 それはブヨブヨとしたゼリー状の物体で、よく見るとグニグニと蠢いている。


「あれかな、いわゆるスライムって奴?」


 ファンタジーと言えば定番のモンスターであるスライムですよ奥さん!


「ゲームとかだと愛嬌ある見た目だけど、リアルのスライムは可愛くないなぁ。なんていうか、泡だったとろろか半透明なスムージー?」


 うん、あんまり近づきたくない外見だ。


「あれ、剣で攻撃しても大丈夫なのかな?」


 液体を切っても無意味っぽいし、見た感じ弱点みたいなのも見当たらない。


「んじゃ魔法で攻撃かな。『火花より生まれし者よ 我が敵を焼き尽くせ ファイアブリッド』」


 スライムがこちらに気付く前に、私は一方的に魔法でスライムを燃やす。

 するとスライムはあっという間に沸騰して消滅してしまった。


「やっぱりスライムって弱いんだ」


 まさか一発で倒せるとは。


『火弾スキルを取得しました』


「あっ、なんか出た」


 魔法を使ったおかげか、目の前に火弾というスキルを取得したというメッセージが現れる。


「これがスキルって奴か。そう言えば、あの女神様は色々やってスキルを覚えろって言ってたもんね。色々やってみよう!」


 という訳で私はスキルを覚えるべく色々と試してみる。


「『水よ 我が渇きを癒したまえ クリエイトウォーター』」

『水生成スキルを取得しました』


 おお、出来た。


「他には……よし! 『風よ 我が身を汝に委ねる エアウォーク』」


『風駆スキルを取得しました』


 おお、サクサクスキルを覚えれるね。

 魔法は全部覚えたし、次は体を使ったスキルかな。

 私はエアウォークで速度の上がった体で全速力でダンジョン内を走る。


『疾走スキルを取得しました』


 名前的に走る事に関するスキルかな?

 安全な場所を確保したら纏めてスキルを確認しておきたいね。


「あっ、魔物だ」


 次に遭遇したのは子供くらいの体格の緑色をした人間だった。

 ただし顔つきは凶悪で牙が生えていて耳が尖っており、目もなんか普通の人間の眼球の色とはなんか違う感じで、明らかに普通の人間じゃなかった。

 更に身に纏っているのはボロキレ、手に持っているのはボロボロの折れた剣らしきもの。


「えっと、ゴブリンって奴かな?」


 ルドラアースのゴブリンがぬいぐるみみたいな愛嬌のある見た目なら、エーフェアースのゴブリンはもっとリアルで生理的な嫌悪感を感じさせる外見をしていた。


「ギャギャギャギャッ!!」


 うわっ、鳴き声も気持ち悪い!

ゴブリンは私に気付くと、手にしたボロボロの武器を振りかざして向かってくる。


「うーん、正直近づきたくないけど、色々試してみないとね」


 エアウォークで移動速度が上がっていた私は、ゴブリンを速度で翻弄しながら一方的に攻撃を加えると、あっさりとゴブリンは倒れた。


『初級小剣術スキルを取得しました』


『初級フェイントスキルを取得しました』


「おお、戦闘系っぽいスキルを覚えた」


名前に初級って付いてるから 中級や上級もあるんだろうなぁ。


「出来る女上司風女神様の話だと、同じスキルを使い続けてもスキルは強くならないから、もっと難易度の高い行為を繰り返して上位のスキルを取得する必要があるって言ってたっけ。って事はどこかに弟子入りして修行した方が良いのかな? そもそもスキルを覚える事のメリットが良く分かんないんだよね」


 そういえば、よく考えたらまだ私は手に入れたスキルを使っていなかった。


「あの女神様もスキルを取れば分かるって言ってたっけ。よし、次に魔物と遭遇したらスキルを使って戦ってみよう!」


 次に遭遇したのはまたもゴブリンだった。

 こっちの世界も一つのフロアじゃ出てくるのは二種類の魔物までなのかな?


「それじゃいくよ! 『火弾』!」


 私はスキルを発動させる為にとりあえず名前を叫んでみる。

 すると私の手のひらから炎の弾が飛び出し、ゴブリンに命中し、丸焦げにしてしまった。


「おお、出た! っていうか、詠唱無しで撃てるの凄く便利じゃない!?」


 だってルドラアースだと魔法は呪文を詠唱しないといけないから、激しく動いている時は使いにくいし、詠唱時間もかかっちゃう。

 けど火弾スキルなら、スキル名を口にするだけで使えるからすっごい便利だ!


「これ、魔力消費が同じならスキルのほうが便利じゃない?」


 成程確かに女神様がお勧めする訳だ。

 もしルドラアースの人間とエーフェアースの人間が魔法対決したら、エーフェアースの圧勝なんじゃないかな?


「よーし、引き続きいろんなスキルを手に入れるぞー!」


 そうして私のスキル取得作戦が始まった。


「グギャギャ!」


「いっくぞー!」


 思いっきり力を込めてゴブリンを切ると、


『強斬りスキルを取得しました』


 こっそり身を隠しながら移動すれば、


『初級隠形スキルを取得しました』


 と割と簡単にスキルを取得できていた。


「えらい簡単にスキルを取得できるけど、もしかしてこの世界の人って皆沢山スキルを持ってるのかな?」


 でもそんなに沢山スキルを持ってたら、どのスキルを持ってたか分かんなくなって逆に使いにくそうだよね。


「「ギャギャギャッ!!」」


「……」


 と、これまで一体ずつしか出てこなかったのに、突然三体の魔物と遭遇した。

 相手はゴブリンが2体とスライムが1体か……


「っていうかこの展開、もしかして」


 私は向かってくるゴブリン達の内右側のゴブリンを『火弾』スキルで先制攻撃して倒す。

 いやホント便利だわコレ。


「ギャガー!」


 その間に接近してきた左側のゴブリンを余裕で回避すると、攻撃を外してよろけたゴブリンを小剣で切り倒す。

 うん、火弾で詠唱時間を短縮出来たからこそ、魔法攻撃の後に回避と反撃を同時に出来たね。


「あとはスライム!」


 けれどスライムはゴブリン達と比べて足が遅いらしく、まだこちらに移動してくる最中だった。

 これなら余裕で火弾で倒せるかな。


「いや、せっかくだし戦闘中にもいろいろやっておこう」


 スキルを取得する為に私はこれまでやってない攻撃を試してみる事にする。

 まずはスライムから離れると、近くに転がっている石を拾って投げる。

 けれどスライムには効果が無いのか、真っすぐこっちに向かってきた。

 あっ、これ普通の攻撃が効かないのなら、戦闘スキルを覚える練習台に良いかも。


 何発か石を投げてそろそろスキルを取得できただろうと判断した私は、火弾スキルで練習台になってくれたスライム、いやここは敬意を表して教官と呼ぼう。


「火弾!」


 そして一撃でスライムを撃破する。


「ありがとうございましたスライム教官!」


『初級回避スキルを取得しました』


 あっ、スキルを覚えた。ゴブリンの攻撃を回避したからかな。

 でも本命だった遠距離攻撃スキルは何故か覚えなかった。


「何で飛び道具のスキルは覚えなかったんだろ?」


 考えられるのは、石を投げても飛び道具判定されないからとか?

 戦闘系は魔法か武器でないと駄目なんだろうか?

 その場合格闘技はスキルになるのだろうか?


「うーん、分かんないなぁ。こっちの世界の図書館に行けば分かるのかな?」


 ともあれ、魔物を全滅させた私は周囲の壁をチェックする。


「向こうと同じなら、多分この辺りに……あった!」


 そして私は、通路の壁の中に不自然にグラグラしている部分を発見する。


「やっぱり、こっちの世界にもあるんだね」


 私はそのスイッチを押すと、ガコンという音と共に壁の一部が開くのを確認すると、慎重に警戒しながら中へと入ってゆく。


「ここがこの世界での私の拠点になるのかぁ」


 内部に広がるのは、小さい、けれど不思議な安心感を感じる隠し部屋だった。


「という訳で安全確認をしながら情報チェックかな。まずは……」


 ステータス……ではなく、私は部屋の奥に鎮座するヤツに視線を向ける。


「隠し部屋名物宝箱!!」


 そう、宝箱だ! 隠し部屋と言えば宝箱、宝箱と言えば隠し部屋! いや言わんか。

 ともあれ宝箱です。

 ルドラアースの宝箱では魔法の袋なんてぶっ壊れアイテムが出て来たので、きっとこっちの宝箱もヤバい物が出て来るんじゃないかな、かな?


 私はトトトトトッと気持ち小走りで宝箱までやってくると、そっと蓋を開く。

 その中に入っていたのは……


「……空の瓶?」


 空っぽの瓶だった。


「え? 何これ?」


 もう一度確認するが、やっぱり瓶の中には何も入っていない。水一滴入っていない。

 念の為宝箱の中を確認するけれど、他のお宝の姿も見当たらない。


「もしかして、誰かが中身を飲んで瓶だけ捨てて行ったとか?」


 もしそうなら最悪なんですけど……


「ただ、そうでない可能性もある筈……」


 魔法の袋の時も誰かが中身を抜いて袋だけ捨てて行ったと思ったら、全然そんな事は無かった。

 と言う事はこの空瓶も何か意味がある品なのかもしれない。


「でも空の瓶って何を入れる訳?」


 水が沢山入るとか?

 でもその場合中に入れた水とポーションを入れたら、それぞれ分かれて入るんだろうか? それとも中で混ざっちゃう?

 

「念の為とっておこうかな」


 私は宝箱から取り出した空瓶を魔法の袋に仕舞うと、宝箱の蓋を閉じた。

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