第22話 待望の再会(最悪の展開)
◆とある配信少女◆
「みんなー、アートだよー!」
私は配信カメラに向けて元気よく挨拶をする。
『アートちゃーん!』
『探し人配信はじまた』
『今日も捜索お疲れさま ¥1000』
『ありがとう皆! 今日も頑張ってあの子を探すよ!』
『捕まらない程度に頑張ってね¥500』
ブルーリトルゴブリンの件から数日後、ようやく探索者訓練を最後まで終えた私は真っ先にダンジョンへと向かった。
目的は私を助けてくれたあの女の子に逢うためだ。
「彼女に会って、お礼を言って、彼女の専属スタッフにしてもらう為に!!」
もちろん理由はそれだけじゃない。
彼女が置いていったブルーリトルゴブリンの素材の代金を渡すことも目的なのだ。
そう、もともと彼女が受け取るはずだったお金なんだから、早く彼女を見つけて渡さないと!
「でも、どこにいるのぉー」
けれど当てもなく彷徨ったところで彼女と逢えるはずもなく、その日はヘロヘロになって帰る羽目になってしまった。
そこで気分転換に彼女が映っている自分の配信を見た私は、その動画がもの凄い再生数になっていることに気付いたのだ。
『凄いなこの子。どう見ても〇歳くらいなのに、魔法なしでブルーリトルゴブリンを瞬殺したぞ』
『動きは素人っぽさがあるけど、素の身体能力は明らかにプロのレベリング教育を受けたそれ』
と、大絶賛だったのだ。
そしてこれを見た私は閃いた。
そうだ、配信を見ている皆に情報提供を求めればいいじゃないか、と。
「という訳で素材のお金を渡したいので、この子を見た事ある人が居たら情報提供お願いします!」
『おけ』
『お金は大事だからね』
『ポッケナイナイしないのは偉い¥100』
とまぁこんな感じで視聴者の皆からも協力的な意見を貰えたのだけれど、彼女についての情報はさっぱりだった。
偶にあってももういなくなった後だったり、そもそもデタラメだったりで肩透かしばかり。
ただ、幸運だったのは、視聴者の皆が魔物との戦闘でアドバイスをくれるお蔭で、ピンチの時でも態勢を立て直しやすくなった事かな。
それに優先的に覚えておくべき便利な魔法や、能力値を上げる為の効率的な訓練法とかの情報も貰えるのはありがたいよ。
まぁ中には明らかに悪意のある嘘も混ざってたけど。
そんな風に彼女を探し求めていた私に、ある情報が舞い込んできた。
「ダンジョンの妖精?」
視聴者さんの言葉に、私は背中からは根を生やした小さなあの子の姿をイメージする。
うぉ、なかなか可愛いかも。
『そう、ダンジョンで素材を求めて彷徨ってると、フードで顔を隠した女の子が素材を売ってくれるって噂』
『ああ、聞いた聞いた。相場の三倍くらいで売ってくれるらしいよな』
「三倍!?」
それはさすがに暴利じゃない!?
『いや、依頼不達成で支払う違約金を考えると総合的には安く済むと思う』
『ミッション失敗するとランキング下がるしな」
と、単純にお金だけの問題じゃなく、依頼を失敗したことによる信用やランクダウンのデメリットもあるのだと教えらえる。
「成程ねぇ」
『ただ短期的に見ればある程度まとまった金が手に入るけど、長期的にみるとランクが上がらないからデメリット大きいんだよなぁ』
『それにランキングの正当性が怪しくなって探索者協会に目を付けられる』
『それな』
「じゃあ一体何のためにやってるんだろうね」
『親の借金を返すためにまとまった金が必要とか? 借金って大金になると毎月返さないといけない利子も結構な額になるんだろ?』
『それがあったか』
『つまり親の借金返済のために幼女が頑張っていると?』
「ええ!? じゃあなおさら早くお金を渡さないとだめじゃない!」
そんなにお金に困っているのなら、レアモンの素材を売って手に入ったお金を早く返さないと!
「よし、頑張って探すよ!」
『がんばー』
『とか話してたら敵が来るよー』
「え? あっほんとだ。ありがとうございます!」
視聴者さんの指摘で魔物が近づいてきていることに気付いた私は、武器を構えて迎撃の構えをとる。
向かってくるのはゴブリン。
以前はブルーリトルゴブリン相手だったから手も足も出なかったけど、今の私は探索者訓練を最後まで終えてちゃんと戦い方を理解している。
「『風よ 我が敵を切り刻め エアスラッシュ』!」
それに訓練で自分の適性に合った魔法を覚えさせてもらったから、遠距離攻撃で先制ダメージを与える事だって出来るようになったんだよ。
……うん、訓練受ける前の私はそれすらせずに勢いでダンジョンに飛び込んじゃったんだよね。
今思うと凄く危ない事してたよ……
ともあれ、魔物を倒した私はダンジョンの妖精を求めて再び迷宮行脚をしていた。
「あの子を探しながらダンジョンを徘徊してたおかげで、レベルが結構上がったので、次のフロアに行こうと思います!」
『そうだね。そろそろソロでも次の階層でやってけるレベルだわ』
『気を付けろよー』
『危なくなる前に帰るんやでー』
「はーい!」
皆からの声援を受けて、私は初めての地下二層へと向かった。
◆
『例の妖精ちゃんだけど、二層と三層の階段近くで目撃例が多いみたいよ』
今日の探索の最中、視聴者さんから気になる情報が送られてきた。
「何でその辺りなんだろ?」
『多分依頼失敗して戻ってきた連中を待ち構えているからでは?』
なるほど、確かに階段の近くなら高確率で他の探索者に逢えるもんね。
「よし、それじゃあ階段付近で彼女を探してみましょう!」
『がんばえー』
ようやく彼女に逢えると期待した私だったのだけれど……運命は残酷にも彼女と逢わせてはくれなかった。
「うぇーん、全然見つからないよぉー」
『まぁしゃーない。ダンジョンは広いし』
『目撃例はあるんだし、もうちょっと粘ってはどう?』
「うん、頑張る」
『今日も見つからない事に100円』
『見つけたと思ったら微妙に似てる他人に1000円』
『しまった、よく似た色に見間違えたに10000円』
「私で賭けるなぁーっ!」
『いつもの光景w』
もー! あの子が見つからないと、皆すぐふざけ出すんだから!
『おっ、それっぽい子が三層をうろついてたってよ』
「ほんと!?」
三層だね! 私はすぐに地図をチェックすると、三層へ降りる階段へと向かう。
あの子を探してダンジョンを歩き回ったから、地図の確認はもう慣れたものだ。
『ソロで三層はまだ早くない?』
『いやそれなりに戦ってるし、ブラウンウルフ1体くらいならいい経験値になるんじゃないの?』
『でも三層は敵が複数出てくるようになるからまだ危ないと思うぞ』
三層に向かうと告げた私に、皆が心配をしてくれる。
「分かってる。とりあえずはすぐに階段に上がれるところまでにする予定だよ」
基本的に魔物は自分のいるフロアから出ようとしないからね。
大昔はダンジョンの外にまで出てくることがあったみたいだけど、そういうのはもの凄く珍しいケースだったみたいだし。
三層に降りてきた私は、あの子が姿を現さないかと期待して階段付近に待機する。
けれどまてどもまてども現れるのは別の冒険者か魔物ばかり。
時には複数の魔物が同時に現れて慌てて上の階層に逃げ帰ったりもしつつ、私は三層でレベルをあげながらちょっとずつ行動範囲を広げていた。
そして次の階層に入ったある日のこと、曲がり角を曲がった私は突然お湯をぶっ掛けられた。
「キャー!?」
ええ!? なになになに!? 新手の魔物の攻撃!?
「って人間だコレ!?」
あれ? 人間の声!?
「ご、ごめん、魔物だと思ってつい」
どうも魔物と間違えられたらしい。いくら何でもひどいよぉ。
「ふぇぇ」
「これ、使って」
すると声の主は私の手にタオルらしき布を握らせる。
「あ、ありがと……」
顔をぬぐってようやく視界が戻ってきた私が見たのは、物凄く可愛い格好をした女の子だった。
いや格好もそうだけど、めくれ上がったフードから覗いていたその髪、その顔!!
「って貴方もしかして!」
私が探し求めていた彼女がそこにはいた。
『美少女キタァァァァァァァ!! ¥1000』
『頬を赤らめて息を荒くする少女 ¥5000』
『もっと接近して吐息を聞かせて ¥1000』
『お前ら……それはそうと別アングル頼む。できればローで ¥1000』
コメント欄がすごい勢いでスライドしていくけれど、私はそれどころではなかった。
だって遂にこの子に再会できたのだから。
「あ、あの……」
お話ししなきゃ。助けてくれてありがとうって、私を貴方のスタッフに、いやその前に素材の代金を渡さなきゃ。
ええと、荷物荷物。
「待ちなさーい!」
けれど、突如静寂を引き裂くような声がダンジョンに響く。
「やばっ、えっとごめんね!」
現れた人達から逃げていたのか、彼女は慌てた様子で走り出した。
「あ、ちょっと待って!」
私は慌てて立ち上がると彼女を追いかける。
「って、速っ!!」
なんかあの子滅茶苦茶早いんですけど!?
『うぉスゲェ、この子めっちゃ足速いぞ』
『多分エアウォーク使ってるんだろうけど、それでこの速度ってことは、どれだけ素早さの能力値上げてるんだ?』
しかもあの子、走りながら魔法を使って出てくるモンスターを攻撃してる!?
『おいおい、歩いてじゃなく走りながら魔法をホーミングで命中させてるぞ。高速移動中の魔法は流鏑馬並みに難しいはずなんだが。あと魔力の量もおかしい』
『それよりも彼女の衣装だ。リアフルの魔法少女シリーズに似ているが、見た事のないデザインだぞ。しかもそこかしこに上級貴族令嬢冒険者並みの装飾が施されていた。まさか新商品をフラゲ!?』
『まて、リアフルはこないだ新商品を出したばかりだぞ。このタイミングで新商品が出るとは思わん』
『でも布のパチモンって感じでもないよな』
『いや、この縫製、間違いなく正規のリアフルだ。パチモンにこのラインを出すことは出来ない! まさかオーダーメイドか!?』
『は? リアフルのオーダーメイドとかおいくら万円するとお思いで?』
『この出来なら素材次第だけど多分新車が買えるぞ。しかも結構なグレードのヤツ』
『でも借金返済の為に稼いでるのならそれはおかしくないか?』
『あとあの子、アートちゃんと初対面だとすげぇ武骨な革鎧だったぞ。一体何があったんだ?』
『遭遇するエリアで見た目が変わるとか?』
『それだ!』
「そんな事話してるっ、場合じゃっ、なぁーい!」
もー、皆ここにいないからって好き放題話してーっ!
でもあの子の服がすっごい可愛いのは同意! 私達みたいなコスプレ装備じゃなくて、もう本物の魔法少女みたい!
『もっと近づいて、色んなアングルからあの服を撮影して。本物のリアフルか検証したいから』
「むーりー! 追いつくので精一杯ーっ!!」
『がんばれ! 頑張って逃げる幼女を追うんだ!』
「かひゅっ、ひはっ、ひぃっ」
駄目、あの子ほんと早すぎでどんどん引き離されていく。
『まったくエロくない喘ぎ声で草w』
『これが素材の差というものか。神は残酷よな』
う、うるさいし! 素材に差があるのはもう私自身思い知ってるもん!
でもいいの! 私はあの子が輝く姿が見たいの! それも間近で!
ダンジョンを駆け抜ける彼女の走る姿は本当に綺麗で、絵画が動いているような感動すらあっ、いまパンツ見えた。
『今パンツ見えなかった?』
『み、見え、見え……た?』
『カメラの性能の低さとダンジョンの薄暗さでよくわからん』
『待ってろ、今マシンで解析かける』
『ガチのプロ器材持ち出すな変態w』
『もっと良いカメラ買って ¥1000』
「これでも最初のよりは良いの買ってるよぉー!」
そうなのだ。彼女に興味を持った視聴者さん達から投げ銭でちゃんとしたグレードの配信用カメラを買ったのである。
でも凄い勢いで走る彼女をきれいに撮るにはカメラの性能が追いつかなくて……
「でも私の目にははっきりと見えてるから!」
『ズルい』
『許せん』
『独占反対』
ふはははっ、うらやましいだろー!
と彼女の行く先に暗い穴が見えてくる。
「あれって、下の階層への階段?」
どうやら彼女は下に逃げるつもりのようだ。
『え? でも次って5層だよな』
『ボスフロアじゃん。やばない?」
え? ボスってボス!?
『早く止めないとボス部屋に入っちゃうよ』
『ボス部屋に入ったら倒すか死ぬまで出れないからヤバいぞ』
いけない、早くあの子を止めないと!
「まっ! 止まっっかひっ」
駄目、追いつけないし声が出ない。
彼女はどんどん下に降りていき階段を下りた先の扉に入ってゆく。
ああー、入っちゃう!
「待っ、ゼヒッ、はや、うっ、おぇぇっ」
彼女を追って扉に入った私は急いでここを出ようと言おうとしたんだけど、全力で走り過ぎたせいで声の代わりにすっぱいものがこみあげてくる。
耐えて私! 人として!
なんとか息を整えた私は、早くここから出ようと言おうとした瞬間、背後でゴゴォンという重い音を立てて扉が閉まった。
『あーあ』
『ヤバイじゃんマジで』
どどどどうしよう!? 私まだ四層を探索し始めたばかりでレベル上げ全然なんだよ!?
けれど敵は待ってはくれなかった。
広いフロアの奥から、ボスの巨体が姿を現す。
『ゆーてここのボスはポイズンリザードだから、毒消しがあればそこまで怖くないだろ』
『とにかく攻撃を避けて当てる。毒を受けたら早めに回復。これを繰り返せば倒せる』
『もう攻略法確立されてるしな、パターン見切れば余裕よ』
けれど、コメント欄の皆は全然慌てる様子はなかった。
むしろ楽勝ムード?
そ、そっか。上層のボスだもんね。そこまでヤバいのは出てこないよね。
なーんだ、心配して損し……
『あれ? なんか青くない?』
ん?
『いやポイズンリザードは黒っぽい緑だろ』
んん?
『青と言ったらこの配信の最初のアレでは……』
んんん?
『あっ、これブルーポイズンリザードだ。レアモンだぞ』
んんんんんんんんっっっ!?
『アカン、本気でオワタ。さすがにダンジョン素人には荷が重すぎる』
「ちょっ!? 楽勝じゃなかったの!?」
『アレは無理。あらかじめ準備してないと最初から詰んでる』
そ、そんな……
私が絶望していると、ブルーポイズンリザードが名前の通り毒を吐いて私達を攻撃してくる。
ひえぇぇぇっ!!
『ブルーポイズンリザードの毒は並毒だから、弱毒消しは効果ないぞ。とにかく当たるな』
「並毒消しってめっちゃ高いヤツじゃないのーっ!」
ちなみに弱毒消しが1000円で並毒消しは50000円します。
値段がインフレし過ぎだよぉーっ!
『並毒使う敵は10層あたりの敵だからな。高くなるのも残当』
そんなヤバイのどうすればいいのぉー!!
けれど、彼女はためらうことなくボスに立ち向かっていった。
ボスが放つ毒を避け、爪の攻撃を回避してボスを攻撃してゆく。
『小剣でボスに接近戦とかクソ度胸過ぎる』
『どんな経験積んだらあんな子供が体格差あり過ぎるボスと接近戦出来るの?』
なんて言ってる場合じゃないよ―!
『とにかく魔法で援護して。あの子に当てないように注意よ』
「わ、分かったよ! 『風よ! 我が敵を 切り刻め! エアスラッシュ』!!」
私は急いで彼女を魔法で援護する。
覚えて良かった遠距離攻撃! あんな怖いのと接近戦とか無理!
魔法を喰らったボスが私をギロリと睨んでちびりそうになるけど、あの子が攻撃してボスの注意が逸れる。
『よし、交互に攻撃してボスの注意を反らして』
「は、はい!」
すると業を煮やしたボスがやらためったら毒をまき散らす。けれど彼女は軽々と避けていた。
あれ? これもしかしていける?
『あー、やっぱ駄目だったか』
え? 駄目ってどういう事? 今も全然ダメージ受けずにボスを攻撃出来てるよ?
と思った途端、体から力が抜けてへたり込んでしまう。そして襲ってくる吐き気や気持ち悪さ。
「なにこれ……」
『揮発した毒が回ってきたんだ。こうなると並毒消しがないと治らない』
だから並毒消しなんて持ってないってーっ!
その時、突然ボスが雄たけびをあげてあの子に突撃した。
見ればあの子も毒が回ったのか、膝をついてフラついている。
「駄目、避けてっ!!」
けれど、無情にもボスの体は彼女の体を飲み込んでゆく。
「嘘……」
え? 待って、待って、嘘でしょ?
そんな、やっと再会できたと思ったのに……
これでお別れなの……?
「って、危なぁぁぁっっ!!」
と思ったら生きてた!!
『すげぇ、毒状態でアレを避けたのか!?』
『ょうじょすごい』
すると彼女は私の所にやってきてなんと並毒消しをくれたの。
『この子何で並毒消しなんて持ってるの!?』
『実は超お金持ちだったりする?』
『ダンジョンで無双するお嬢様幼女? それなんてファンタジー?』
『ここがファンタジーだよ』
そして彼女の指揮の下、戦いが再開される。
そうして幾度ものピンチに見舞われながらも、私達はボスにダメージを与えてゆく。
『ボスの動きが鈍ってきた。そろそろ勝てそう』
『フラグやめろ』
でもここまで来たら私達も油断しないよ。
並毒消しはもう無いらしいし、毒が回る前に何としても倒し切らないと!
「まだまだぁ!」
けれどとうとう魔力が完全に尽きてしまった。
魔法を使えない私達に対して、ボスは奥の手で私達を殺そうと猛烈な攻撃を繰り返してくる。
そしてボスに壁を破壊させて脱出しようという起死回生の策も失敗に終わった。
『無理だよ。ボス部屋は特殊オブジェクトなんだから壊れないって』
『相当健闘したが、やはり無理だったか』
『ボス部屋じゃ救助にも入れないしなぁ』
なのに彼女はあきらめなかった。
私の失敗を逆に利用してボスを壁にぶつける事で動きを止めたのだ。
「攻撃! 急いで!」
「え? あ、え? あ、はい!」
彼女の声に我に返った私は慌ててボスを攻撃する。
そして何度もボスを壁にぶつけては動きが止まっている間に攻撃を繰り返す。
もしかして、今度こそいける!?
と、希望を見出した私だったのだけれど、現実はそう甘くなかった。
「あっ」
ついにその時が来てしまったのだ。
ボスの毒が体に回り、立っていられなくなる。
「あと少しなのに……」
せめて後一発。
なのに意識が保てない。
「たぁーっ!」
そうして、目を開けていられなくなった私が最後に見たのは、ボスの喉元に飛び掛かる彼女の後姿だった。
「ああ、素材のお金、渡さないと……」
◆
……
「……っ!」
何かが聞こえた。
「……かっ!?」
なに? よく聞こえない。っていうかうるさい。もう少し寝かせて。
「大丈夫か!?」
「っ!?」
耳元で叫ばれた声で、意識がたたき起こされる。
「え!? な、何!?」
一体何事!?
「要救助者、目を覚ましました!!」
「え?」
ようきゅうじょしゃ?
目をこすりながら周囲を見回せば、知らない男の人達の姿が。
「よかった。並毒消しが間に合ったようだね」
並毒消し……そっか、私ブルーポイズンリザードの毒を喰らって倒れたんだっけ。
「妖精の姿はありません。既に下に向かったようです」
「素材の回収もせずに行ったとなるとまだ遠くに行ってはいないはずだ。追うぞ」
「駄目ですよ、彼女の搬送が先です」
男の人達は何かを探して下の階層に行こうとしてるみたいだけど、なぜか私の方を見てくる。
なんか居心地が悪いなぁ。
『よかった。アートちゃん起きた』
『生きててよかった』
ふと、配信中だったことを思い出し、皆に無事を報告すると、お祝いとして沢山の人から投げ銭をもらえた。ありがたいなぁ。
「えっと……」
何かを忘れているような気がした私は、傍に転がっていた薬瓶を見て意識を失う瞬間に見た後姿を思い出す。
「そうだ! あの子はどうなったの!? あの子は無事!?」
最後の最後にボスに向かっていった彼女! あの子も毒を喰らってたはず!!
『落ち着いて、あの子は多分無事だよ』
「多分ってどういう事!? あの子はどこにいるの?」
私は全てを見ていたらしい視聴者さん達に説明を求める。
『それが……消えちゃった』
は? 消えた?
『なんかピカーって光ったと思ったら消えた。マジで』
「え? 何言ってるの?」
『マジで消えたんだよ。光ったと思ったら姿が消えてた』
何それ、そんなのどう考えても普通の人間じゃないじゃない。
「それじゃあまさかあの子って……」
私は心のうちに沸き上がった言葉を口にすることを我慢できなかった。
「本当に妖精だったってことぉーっっ!?」
なんという事だろう。私が探していた少女は、本物の妖精だったのだ。
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