第21話 死にたくないから全力を尽くします!(割と必死)

「まさか、毒ガス!?」


 ボスの毒攻撃を避けたと思っていた私だったが、なんとボスがフロア中に放った毒が揮発し、毒ガスとなって私を蝕んでいたのだ。


「くっ」


 なんとか体を起こそうとするも、めまいが凄くて体が上手く動いてくれない。


「落ち着け、ボスも自由に動けないんだ」


 そう思った時だった。


「ボォォォオウ!!」


 突然ブルーポイズンリザードが雄たけびを上げて突っ込んできたのである。


「何で!?」


 右前足を完全に潰した筈なのに!?

 見ればボスは後ろ足だけで強引に走り、大怪我をした右前足と肩を地面にこすりつけながらこちらに向かって来ているではないか。


「っっっ!!」


 ボスの巨体が眼前に迫る。


「ボアァァァッ!!」


 そして、巨体は全てを飲み込んで通り過ぎた。


「って、危なぁぁぁっっ!!」


 私は間一髪、真横に飛んで回避する事が出来ていた。


「これが無かったら轢き殺されてたよ!」


 私の手の中には、空になった薬瓶が一つ。

 そう、タカムラさんに教わって作った毒消しポーションだ。

これを飲むのが間一髪間に合った事で、体の自由を取り戻したのである。


「まさか毒がHPを奪うだけじゃなくて、体の自由まで奪うとは思っても居なかったよ」


 いや、よく考えたらドラマとか漫画でも毒を飲んだ人はバタリと倒れて体が動かなくなるシーンとかあるし、ゲームみたいにHPが減るだけの方が本当はおかしいのかもしれない。

 私、一つ賢くなったね。

 さて、体の自由を取り戻したし、どうやってあのボスを……


「た、助けてぇ……」


 その声に周囲を見れば、彼女が青い顔でベチャリと床に突っ伏していた。

 あっ、そうか。私が毒にやられたんだから、当然彼女も毒にやられてるよね。

 でもあの子、毒消しを持ってきてなかったのかな?

 私と違って、普通の探索者なら持っていて当然の物じゃないの?

 まぁいいや、今は彼女の戦力も必要だ。

 私は彼女の下に行くと、弱毒消しを取りだして渡す。


「こ、これじゃダメ。ブルーポイズンリザードの毒は治らないの……」


 あれ、そうなんだ。じゃあ私が飲んだのって並毒消しだったんだね。

 さっきはとにかく毒を治す薬をって慌てて取りだしたからなぁ。


「じゃあこっちを飲んで」


 彼女に薬を手渡そうと思った私だけど、この有り様じゃ薬を飲むのも大変だろうと思って蓋を開くと彼女の口に瓶を突っ込む。


「ふごっ!?」


「早く飲んで。ボスが態勢を立て直す」


 幸いにも、ボスは体をこちらに向けるのに手間取っていたようで、悠長に薬を飲ませる時間があった。

 見ればボスの右前足はさっきの無茶な突進の影響で血まみれになっていて、まともに動きそうもない。

 あの突進は自爆攻撃同然の攻撃だったみたいだね。


「こっちは大きなダメージを受けてないし、ギリ優勢かな?」


 まぁ希望的観測だけど。


「わわっ、毒が治った!? ブルーポイズンリザードの毒って並毒消しじゃないと治らないんだよね!?」


 いや自分でさっき言ったんじゃん。


「並毒消しって高いのに、持ってるなんて……」


 そうなの? でも並って言うくらいだから、高いって言っても500円が1000円になったくらいじゃない? ゲームとかだと、もっと上になったら一気に値上がりしそうだけど。


 でもこの様子なら問題なく戦えるだろうし、引き続き力を貸してもらおうかな。


「ボスの右前足はもう使えないから、今度は右後ろ足を攻撃して強引な突進を使えなくするよ。魔法は援護じゃなくてダメージを与える事に専念で!」


「わ、分かりました!」


 私達はボスの側面に回り込み、彼女が魔法で攻撃している隙に接近して剣での攻撃を行う。


「ギュアァァア!」


 けれどボスもそれを理解していたのか、後ろ足をバタバタと動かし、尻尾をブンブンと振り回して私の接近を阻止する。


「やっぱコイツ賢いな」


 シンプルに巨体を振り回す事で私に対して十分以上な牽制になると理解している動きだ。


「こうなったら魔法に頼るしかないか『火花より生まれし者よ 我が敵を焼き尽くせ ファイアブリッド!!』」


「『風よ 我が敵を切り刻め エアスラッシュ』!」


「ギュアァァァ!!」


 私達は魔法を連発してブルーポイズンリザードの右後ろ脚に攻撃を集中させてゆく……のだけれど。


「「うっ」」


 突然体の力が抜ける感覚に襲われる。


「これって、確か……魔力切れ」


 しまった、ここで魔力が切れた。

 よく考えたら、逃げてる間エアウォーク使いっぱなしで、敵と遭遇したらクリエイトウォーターぶちまけて、さっきまでファイアブリッドを撃ってたんだもんね。そりゃ魔力が尽きるわ。


 とはいえ、この状況で魔法が使えなりましたなんて泣き言は言えない。

 私は意を決して魔法の袋から魔力回復ポーションを取りだすと、それを飲み干した。

 飲んだ後に大変なことになると言っていたから、覚悟してたんだけど、意外に味は飲み易かった。

 一体副作用ってなんなんだろう?

 ともあれ、すぐにどうこうなる感じじゃないのはありがたい。


「これを使って!」


 私はもう一本取りだすと座り込んでいる彼女に手渡す。


「わっ、ぷにぷに」


「え?」


「あ、ううん、何でもない。これは?


「魔力回復ポーション。それで魔力が回復するから、攻撃をお願い」


「ええ!? 魔力回復ポーション!? それってあの!?」


「話は良いから急いで」


「は、はい!」


 彼女が魔力回復ポーションを飲んだのを確認すると、私達は再び魔法による攻撃を再開する。

 当然ボスも反撃に毒を飛ばしてくるけれど、それに当たることはない。

 でも毒の数が増せば、毒で体が動かなくなる時間が早くなる。

 モノが毒なだけに、焼いて綺麗になんて訳にはいかない。寧ろ気化するスピードが速まってよけい危険が増すだけだ。


「キュゴォォォ!!」


 そして業を煮やしたボスが体を引きずりながら強引に突進を行う。


「後ろ脚も動かなくなる前に勝負に出た!?」


 けれど後ろ足のダメージも蓄積している状況では、その突進は脅威じゃない。

 私達は危なげなく突進を避けると、右後ろ脚に攻撃を集中する。

 そして、ついにボスの右後ろ脚がダラりと地面に落ち、ボスの体が傾く。


「よし、これで後は右側からボスの頭を攻撃すれば勝てる」


「嘘、私達だけでブルーポイズンリザード倒せちゃうの!?」


 勿論そのつもりだ。っていうか倒せなかったら私達は死んじゃうんだからさ!


「行くよ!」


「は、はい!」


 私達は剣を構えてブルーポイズンリザードの頭に向かって行く。

 その時だった。


「え? 行っちゃ駄目? 何で!?」


 突然彼女が奇妙な事を言い出して足を止めてしまったのである。


「何? どうしたの?」


 っていうかさっきから誰と話してるの?


「ギュゴァァァァァァッ!!」


 更に反対側からボスのこれまでとは違った雄叫びが上がる。


「ええーっ!? あ、うん、逃げて! 避けて!」


 そして後ろから切羽詰まった逃げろという声が響く。


「奥の手が来るって!」


 奥の手、という言葉の意味は分からなかったけれど、ボスの反応からもマズそうなのを理解した私は、即座に横に跳んで逃げる。

 と、同時にボスの姿がブレた。


「え?」


 そして猛烈な勢いで胴体を回転しながらこっちに向かってきたのである。


「おわぁぁぁぁぁっ!!」


 私は更に全力で跳んで辛うじて回避する。


「って、あの子は!?」


「うひぃぃぃっ!!」


 悲鳴が聞こえて来たのでとりあえず無事っぽい。


「あれが奥の手?」


 見ればボスはこの短時間でかなり遠くまで転がっていた。

 つまりはそれだけ猛スピードで移動したという事だ。


「さっき足を止めなかったら、避けきれずに轢かれてたかも……」


 確かワニって体をゴロゴロ転がして噛み付いた相手に大ダメージを与えるローリングって攻撃をするって動物系の動画配信番組で言ってたっけ。

 可愛いワンちゃんの動画を流してたら突然流れてきてビックリしたけど、見ておいてよかったなぁ。グロかったけど。


 そして再びボスの体がブレる。


「また来る! 避けて!」


 私は彼女に回避を指示すると、自分も回避行動に入る。

 するとボスの体は微妙に曲がってこちらを追撃してきたのである。


「何でぇーっ!?」


 私は間一髪ボスの攻撃を回避するとすぐさま態勢を立て直してボスに視線を戻す。

 するとボスは大きく減速しながら、手をバタバタさせて止まった。


「そうか、手足を使って地面を蹴って向きを変えてたんだ!」


「ボスは手足を使って多少の方向転換が出来るって!」


「「……」」


 二人そろって同じような事を口にする私達。


「……情報ありがと」


「……えっと、どういたしまして」


 なんか、居たたまれないな。


「とにかく、あの攻撃はそこまで急角度を曲がる事は出来ないから、ギリギリで避けようとしないで余裕をもって避ける。避けたら魔法で頭に攻撃」


「分かりました!」


 ボスのローリング攻撃への対抗策を考えた私達は、逆に攻撃を回避した後を狙って攻撃を加える事にする。


「今っ!」


 ボスが通り過ぎた所を狙って頭部に向けて魔法を放つ私達。


 ギィン! ギィン!!


 けれど、頭部に当たった攻撃は、ボスの回転に弾かれて明後日の方向に飛んでいった。


「「はぁぁぁぁぁぁぁっ⁉」」


 何それ!? 必殺技中は無敵時間!? それなんてゲーム!?

 まさかの弱点ガードに思わず文句が漏れる。

 とはいえ、文句を言ってる場合じゃない。


「なら相手の回転が止まったら撃って!」


「分かりました!」


 今度はボスが回転を止めたタイミングで魔法を放つ。

 けれどそれだと今度はボスまで遠い為か、魔法のダメージがいまいち通ってない感じになる。


「って事は、ローリング攻撃を避けたらボスを追いかけて行って、回転が止まった所で魔法を撃つしかない?」


 何それ、めっちゃ大変じゃん。

 けどそれしか効果的な方法が無い為、私達はボスの攻撃を回避し次第ボスを追いかけては止まったら魔法を放つ攻撃を繰り返す。


「はぁはぁ『……ファイアブリッド!」


「ぜぇぜぇ『……エアスラッシュ』!」


 しかし、追いついてから呪文を唱えないといけない為、呪文を唱えるタイミングによってはボスがローリングを始めて魔法が弾き飛ばされてしまう問題が発生していた。


「ボスにダメージが与えられる……ギリギリの……距離で呪文を唱え……て、攻撃が……再開……される前……に呪文を……完成させるとか……」


 彼女の姿が物語る通り、全力で回避して全力で追いかけて、必要ダメージと再攻撃までの時間を見極めたタイミングで詠唱開始とか、無茶にも程があった。

 その所為で、私達はボスに十分なダメージを与える前に魔力が尽きてしまう。


「っ! また!」


 そしてこのタイミングで再び毒が体に回って来る。


「飲んで!」


 私は並毒消しを取りだすとそれを飲み干す。


「これで最後。次に毒が回る前に倒さないと死ぬ」


「っ! で、でも魔力がもう……」


「うん、魔力回復ポーションも無い。そっちは?」


「私も無いです」


 って事は残りの攻撃は直接攻撃を当てないと駄目か。

 良いニュースとしては、ボスへの魔法攻撃もそれなりにダメージは与えていたみたいで、ボスの頭部は結構な割合で血に塗れていた。

 とはいえ、まだまだ戦えそうな感じだ。


「けど、ボスの攻撃を回避して直接攻撃するには再攻撃までの時間が足りない……」


 何かいい方法はないものか。

 ゲームとかだと、普通に戦っても倒せないボスはステージのギミックを利用して倒すってクラスの男子がお喋りしてたっけ。

 私は周囲を見回すも、フロアの中には何も利用できそうなものはない。

 あるのは広々としたフロアの床と、私達を逃さない為の檻の様な壁だけだ。

 壁? ふと壁と言う言葉に何かを思いつきそうになる。


「そ、そうだ! あの! ボスを扉の所までおびき寄せて、ボスの攻撃で破壊させるとかどうかな!」


 その時だった。何かをブツブツと呟いていた彼女が目を輝かせて面白い事を言いだしたのである。


「どうかな!?」


「……うん、やってみる価値はあるかも」


 成程、私達の力じゃ開かない扉も、ボスの巨体なら破壊出来る可能性があるか。

 事実、三層ではダークウルフの噛み付きで床石が破壊された。

 あの事実から、ダンジョンの構造物を破壊するのは無理じゃない筈だ。


「採用。ボスを扉までおびき寄せる!」


 気になったのは、私達を追ってきた探索者協会の人間が扉の向こう側に居た場合だ。

 その場合、彼等はボスの攻撃に巻き込まれてしまうかもしれない。


「……まぁその時はその時か。怪我してたらポーション使ってあげればいいだけだし」


 その際は彼女にポーションを渡して、私が逃げたタイミングを見計らって回復して貰えばいいだろう。

 そんな訳で、私達の扉破壊作戦が始まった。


 まずは扉の方まで逃げ、ボスの軌道を調整して少しずつ扉に近づける。

 あまり早く避けると、攻撃の向きが扉に対して横向きになって通り過ぎてしまうので、扉のある壁に向かって突っ込んでくる角度にしないといけない。


「よし、ここ!」


 私達は、ちょうど扉を背にしてボスを真正面に迎え撃つ配置を取る。


「ギュガァァァァ!!」


 そしてボスが突っ込んでくる。


「「今っ!!」」


 私達は横っ飛びに跳んでボスの攻撃を回避する。

 次いでドシーンという激しい音が響き渡る。


「どう!?」


 ボスの体は壁にぶつかった状態で、扉がどうなったのか分からない。

 そうして、ボスの体が数秒ほど経った所で、元の場所に向かって猛烈な勢いで転がってゆく。

 そしてボスが居なくなった壁と扉は……


「嘘……」


 無傷だった。

 壁も扉もまったく傷ついている様子は見えない。


「全然壊れてない」


 それは異常な光景だった。

 確かにダークウルフはダンジョンの床をかみ砕いていた。

 にも拘らず、明らかにダークウルフの攻撃よりも強力そうなボスの攻撃、それもボスのレアモンであるブルーポイズンリザードの全身を利用した突撃攻撃が効いていないのだ。


「考えられるのは、ボス部屋の扉が特別って事か」


 あまりにも容赦ない結果を見て、逆に冷静に状況を整理する私。


「そんな……」


 その光景に絶望したのか、彼女は地面にへたり込んでいた。

 なのに、何故か私は希望を失っていなかった。何か、この光景に希望を感じたのだ。


「壁が壊れてないのに……ううん、そこじゃない」


 私が希望を感じたのは多分そこじゃなくて別の理由だ。

 でも壁が関わってるのは間違いない気がする。

 あとはさっきの……


「ボスの攻撃、それに壁、ゲームのギミック……っ!!」


 その時、全ての糸がつながった。


「そうか!」


 その瞬間、魔力も体力も尽きかけた体に活力が巡るのを感じる。


「立って! ボスをまた壁にぶつけるよ!」


「え? でも扉は壊れ……」


「壊す必要はない! ぶつけるだけで良いの!」


「え? それってどういう?」


「来るよ! 立って! 早く!!」


 ボスが動き出したのを見た私は、彼女を叱りつけて起き上がらせる。


「避けて!」


「ひ、ひぃーっ!」


 間一髪、私達はボスの攻撃を回避する。

 そしてすぐさま起き上がって駆け出す。

 狙いは、壁にぶつかって動きを止めたボスの頭部っ!!


「頭を攻撃して!!」


 私の剣がボスに叩きこまれる。


「ギュギャァァァァ!!」


 ボスの悲鳴と共に血しぶきがあがる。


「攻撃! 急いで!」


「え? あ、え? あ、はい!」


 事態を理解した彼女が慌てて剣を掲げてボスの頭部に振りかぶる。


「ギュアァァァァ!!」


 ボスが悲鳴と共に体を回転させて逃げるのに巻き込まれない様に跳んで避ける。

 そして怒ったボスが再び突進してくるのを回避して、再度頭部に攻撃。

 これを繰り返す事でボスの頭部がズタズタに切り裂かれてゆく。


 これは堪らないと離れたボスが毒を放ってくるけれど、視界が血に塗れていた所為で攻撃は大きく外れる。


「そんな攻撃あたらないよ!」


 私はここぞとばかりにボスを挑発する。


「これがあればお前の毒なんて怖くないよ!」


 と、弱毒消しの入った瓶を掲げて笑う。

 ただしこれはハッタリだ。もうブルーポイズンリザードの毒を治す並毒消しは無い。

 このままボスが毒による遠距離攻撃に専念すれば、私達の負けは確定だ。


 けれどボスはそれを察するほど賢くは無かったらしく、私の挑発とハッタリに騙され再びローリング攻撃を放ってきた。


「よし!」


 攻撃を回避した私は、ボスの頭部に向かって踏み込む。

 けれど、その瞬間、膝の力が抜ける。


「しまった!?」


 賭けに勝ったと思ったその瞬間、タイムリミットが来てしまった。

 このまま毒で動けなくなって負ける?


「……て、たまるかぁーっ!」


 そんな終わり方出来る訳が無い。

 私は足に力を入れて、せめて一太刀負わせようとボスに向かう。

 そして見た。 真っ白で、柔らかそうなボスの喉と腹を。


「っ!? これが、最後の! チャンスっ!!」


 千載一遇のチャンス。たまたまボスが運悪く腹を見せる角度で壁に叩きつけられた偶然の産物。

 それを逃せる訳が無かった。


「たぁーっ!」


 私は最後の力を振り絞って跳躍すると、全体重を駆けてボスの喉に小剣を突き刺す。

 そして体を捻って全身でもたれかかるようにズブズブと喉を切り裂いてゆく。


 そしてドサリと体が床に落ちた頃には、毒が完全に回って体は満足に動かなくなっていた。


「っ、はぁ……」


 これでボスが動き出したら、私死ぬな。

 ほんのわずかに身じろぎしただけで、潰されてお陀仏ですよ。


 まるでテストの答案が帰って来て、点数を確認する瞬間の様な緊張感のなか、それは現れた。


『レベルアップしました▼』


「っ!?」


 その瞬間、私は賭けに勝ったのだと確信した。

 私はボスを本当に倒したのかの確認をすることなく、魔法の袋に手を入れる。

 急いで並毒消しを作らないと!


『レベルアップしました▼』


「って、画面邪魔!」


 視界の前を塞ぐメッセージを何度もタップしてメッセージを飛ばしていく。


『おめでとう、遂にレベル10になりましたね……』


 マジでこういう時うっとおしいな! 早く終われ!


『それでは、もう一つの世界に貴方を送るわ。健闘を期待しています▼』


「ん?」


 一瞬、なにか妙なセリフを読み飛ばしたような気がしたけれど、それどころじゃない私は魔法の袋から荷物を取り……出そうとした瞬間、周囲が光に包まれた。


「え!? 何!?」


 けれど光は私の疑問に答えることなく周りの全てを白で塗りつぶしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る