第18話 新装備と魔法の特訓(新しいものは存外慣れるのに手間がかかる)
「おはよう! そして朝ごはんだ!」
翌朝、目が覚めた私は顔を洗い、着替えを終えると朝食の準備に入る。
今日のご飯はコンビニで買ってきた野菜の入ったスープとオムライス、あとホットのミルクティー。
「素晴らしい、とても文化的です」
探索者達に素材を売った事で、私の生活は劇的に変化していた。
用意した食料を折り畳みテーブルに乗せ、折り畳み椅子にクッションを敷けば、殺風景な隠し部屋が一転モダンな雰囲気の食堂に早変わり。
「お金の力って素晴らしい」
お金は全てを解決する。
大抵のことはお金があればなんとかなる。
それは無一文で今日まで生きてきたからこそ強く実感できた事実だ。
「とりあえず今日も三層でレベル上げがてら素材集めかな。お婆ちゃん達からもらった装備のお陰で防御と回復の心配はなくなったけど、まだ攻撃を喰らう時があるからね」
お婆ちゃん達から貰った防具の性能は素晴らしいけれど、下の階層に潜って敵が強くなれば、あれでも耐えきれない敵が現れるのは間違いない。
その為にも、純粋な実力を鍛えないといつまた命の危険に晒されるかわかったもんじゃない。
「もうあんな思いはこりごりだよ」
食後のお茶を楽しみ、お腹がこなれた事で隠し部屋を出る。
「さて、それじゃあ新装備の試し切りだよ!」
私は腰に装着していた鞘から剣を抜く。
しかしそのデザインは今まで使っていた小剣ではなく、新しいものだった。
そう、冒険者達に素材を売った私は、そのお金で新しい剣を新調したのだ。
女神様が用意してくれた小剣は壊れた革鎧と同じでごく普通の物だったみたいで、もうだいぶ状態が悪くなってたんだよね。
なので買いました。具体的には可愛くてカッコいいの!
防具が可愛い系になったから、剣もそれに合わせた方が良いかなって思ってさ。
でも今の防具にあったデザインにしようと思うとそこそこいいお値段がするんだよね。
というか、可愛い系は同レベルの装備に比べるとデザイン料みたいなのが発生するのか、何割か割高になるみたいだった。
いわゆるコラボ商品のデザイン利用料みたいなものだろう。
それだと皆お財布事情を考慮して無難なデザインの品を買うんじゃないかなって思ったんだけど、意外や意外。
皆普通の装備よりもデザインを重視した装備を選ぶんだって。
なんでもダンジョンで動画配信する人達が視聴者アピールのために見栄えを重視した装備を欲しがるんだって。
なるほど、確かに動画配信をするなら見栄えの良い装備の方が良いよね。
ついでなので、お婆ちゃん達から貰った可愛い服のランクを店員さんに聞いてみたんだけど、なんとこの服、市販されていない装備らしくて、店員さんにも正確なランクはわからないと言われてしまった。
おかげで店員さんから、どこのブランドの新商品なんですかって逆に質問攻めにあっちゃったよ。
お婆ちゃん達、一体私に何をくれたんだ……
ただ、使ってる素材や製法から、結構良い性能なのは間違いないっぽくて、性能に不足を感じるようになるまでは下手に買い替えない方が良いとも言われたんだよね。
なので防具はそのままで手入れの仕方だけを聞いて、後は武器と盾を買うことにしました。
うん、盾も買ったんだ。
もちろん服に合わせた可愛くて綺麗なカラーリングの奴。
はい、こちらもデザイン割り増しのお値段でした。
でもいいんだ! だって素材を売ったお金は沢山あるもん!
てなわけで、一層と二層の魔物はもう相手にならないので、新装備の慣らし運転と行きます。
とくに盾を使った戦い方を覚えないとね。
「ぷめ~」
さっそくポップシープと遭遇したので、まずは盾の練習。
攻撃力の上がった剣じゃ一発で倒しちゃうからね。
「ぷめ~」
まずは相手の攻撃を真正面から受ける。
私の体格に合わせて小さめの盾だから、ちゃんと相手の動きを見て受けないと。
「ふん!」
私は体当たりをしてきたポップシープの頭についた丸い角を盾で受け止める。
するとポップシープの体重がかかっているからか、ダメージはないけど結構な重さを感じる。
「真正面から受けるとポップシープが相手でも無駄に体力を消耗しちゃうかも」
んー、馬鹿正直に受けずに、直撃を受けないように反らした方が良いのかな?
それが受け流しとかパリィって呼ばれる盾の基本技術とは知らず、私はポップシープ相手に盾を使った防御の練習を繰り返す。
「よし、とりあえずこんなものかな。そろそろ反撃させてもらうよ!」
剣を構え、封印していた攻撃を解禁する。
「ええーい!」
するとこれまで使っていた剣とは段違いにあっさりとポップシープの体が真っ二つになった。
「うわぁ、さすがお高い剣。切れ味すごーい」
これはいいね。漫画みたいに切れ味が良すぎて使いづらい! みたいなトンデモ武器って感じでもないし、ちょうどいい具合に切れるよ。
「よーし! このまま一気に三層までいくよー!」
道中遭遇した、いつもなら複数攻撃を行わないと倒せないライフリーフも一撃で倒して興奮しつつ三層へと降りる。
「新しい装備にも慣れてきたし、そろそろ魔法の練習もしようかな」
女神様のメッセージでも、術者のイメージで同じ魔法でもいろんな事が出来るって言ってたし、新しい戦い方を考える上でも魔法の練習は必要だろう。
「まぁ、お金が入ったからドライヤーや電気ケトルみたいな魔法の使い方をする必要はなくなったから、そこまで焦ってはいないんだけどね」
何しろ魔法は使えば使うほど魔力を消費して調子が悪くなる。
出来るなら日常生活で魔法は使わないようにしたいところだ。
うん、そっちもお金で解決したいです。
「さて、それじゃあ魔物を探して……あ、いた」
さっそく見つけたのはオオカミの魔物ブラウンウルフだ。
「アォーン!」
けれど見つけたのは向こうも同じで、ブラウンウルフは雄たけびを上げると私に向かってくる。
ブラウンウルフはこれまでの魔物と比べると足が速いから、逃げるのはまず無理だ。
「そういう意味でも魔法で先制攻撃を当てたいね。『火花より生まれし者よ 我が敵を焼き尽くせ ファイアブリッド』」
けれど私の放った魔法はあっさりとブラウンウルフに避けられてしまった。
「げげっ!」
「グォウ!」
飛び掛かってきたブラウンウルフの攻撃を盾の受け流しで回避する。
盾買っといてよかったぁー!
「このっ!」
剣を振って攻撃するも、ブラウンウルフは後ろに飛びすさって回避する。
「装備を変えると意外と当たらなくなるんだなぁ」
ポップシープ達格下相手だと分からなかったけど、思った以上に重心とかの微妙な違いが実戦では影響してくるみたいだ。
「何度も使って慣れるしかないか! 『火花より生まれし者よ……」
剣を振ってブラウンウルフを警戒させつつ、私は呪文を唱える。
けれど同じ魔法を使ってもまた回避されてしまうだろう。
魔法が馬鹿正直にまっすぐ進むこから、敵に避けられたら終わりってことだ。
なら、まっすぐじゃなければいい!
「……我が敵を焼き尽くせ ファイアブリッド』」
呪文を放った瞬間、いつもよりも魔力が多めに消耗した感覚に襲われる。
「いけぇー!」
私の放った炎の球は先ほどと同じようにブラウンウルフに向かってゆく。
当然ブラウンウルフはそれを回避、けれどそれに追従するように炎の球がブラウンウルフの避けた方向に曲がる。
「っ!?」
魔法が追いかけてきて、ブラウンウルフが明らかに驚きの顔を見せる。
そして見事炎の球はブラウンウルフに命中した。
「ギャウン!」
「いまだ!」
私は悶絶するブラウンウルフの懐に飛び込むと、その首に小剣の一撃を叩き込む。
すると、ブラウンウルフは首を一刀両断にされて崩れ落ちた。
「やったー、無傷で勝ったぞー!」
何気に初快挙である。
「よーし、引き続き魔法の練習だぁー!」
でも同じ内容ばかりだと意味がないから、毎回違う方法を考えてみる。
「『……焼き尽くせ ファイアブリッド!』」
今度は敵が複数だったり、追尾する魔法でも避けてしまうような速い相手対策として、炎の球が敵の前で破裂する、炎の散弾をイメージで魔法を発動させる。
「うぉっ!?」
すると予想外に魔力を吸い取られる感覚を受けた。
「どうやら便利にするほど魔力をたくさん消費するっぽいね」
なるほど、これは使い方をちゃんと考えないとあっという間に魔力が空っぽになっちゃうぞ。
「なら一撃で倒せるだけの威力ならどうだ!」
敵との距離を詰め確実に当てれる状況を作った私は、逆に威力だけを追求した魔法を放つ。
するとこちらも相応に魔力を消耗したものの、ブラウンウルフを一撃で倒すことに成功した。
「なるほどね、まず魔法は元の攻撃から大きく離れた効果は発揮できない。だからファイアブリッドを回避できないように炎の膜として広げたり、沢山の炎の球を生み出すことは無理と」
だから別の魔法書を読んで、違う種類の攻撃魔法を覚えないといけないんじゃないかな。
女神様のメッセージにあった応用方法からも、元の用途から大きくは変えられないんだろう。
「で、威力も多少はあがるみたいだけど、一定以上になるといくら魔力を注いでも意味がないっぽいと」
こちらに関しては、初級攻撃魔法だからだと思う。
中級攻撃魔法を覚えれば、威力も挙げられるんじゃないかな。
「あと、あんまり威力をあげるとせっかくの素材が台無しになっちゃうか」
事実、威力を上げた魔法で倒したブラウンウルフは真っ黒こげになってしまい、毛皮と表面のお肉は使い物にならなくなってしまった。
「このあたりも要検証だね」
ただ、やっぱり魔法を使い過ぎると気分が悪くなっちゃうもんだから、今日は適当なところで切り上げてお家に帰ることにしたんだよね。
◆
翌日、ぐっすり眠ったことで魔力が回復した私は、気分スッキリ目を覚ました。
「よーし、今日も元気にレベル上げだー!」
という訳で今日は武器の慣らし運転もないのであっさり三層にやってきました。
「今日は探索しながらレベル上げ、魔法は控えめで行こうかな」
魔法は便利だけど、魔力切れになった時が怖いのは変わらずだ。
なので今回は魔法に頼らない方向で探索を行おう。
「とりあえず目的は四層の階段の発見!」
暫定の目的を設定したら、探索開始。
すると早速魔物と遭遇、しかも相手はレアモンのダークウルフさんだ。
「ウォォォン!!」
「そりゃあーっ!」
幸い、お婆ちゃん達の防具のお陰でダメージらしいダメージが受けないのと、剣と盾を新調したことで、総合的な戦力が上がっていた事からそこまで苦戦することなく倒せた……という訳でもなく、以前は前回は密室での取っ組み合いという限定的な戦い方だったけど、今回は広い通路での戦いということもあって、敵も動き回る。
「ウォォォン!!」
「うぉーんじゃないってーの!」
盾で相手の攻撃を受け流しつつ、私はチャンスを見つけた時だけ攻撃を放って確実にダメージを与えてゆく。
いくらダメージを受けないからって、慢心してたらもっと強い敵が出てきたときに防御がおろそかになっちゃうからね。
「安全第一でいくよ!」
そんなこんなで堅実さを重視した戦い方をしたことで、私は大したダメージを受けずにダークウルフの討伐に成功した。
けれど戦いはこれだけでは終わらなかった。
「「ウォーン!!」」
なんと立て続けにダークウルフの襲撃があったのだ。
更に驚いたことに二回も。
「君らレアなんじゃなかったんですかぁーっ!!」
などと文句を言っても敵が加減してくれるわけじゃない。
私は複数出現した魔物達に紛れて襲ってくるダークウルフを優先的に攻撃して、他の魔物達の攻撃は回避に専念する。
そうする事でダークウルフを倒してから、残った魔物達を撃破していった。
その結果、なんか妙にダークウルフの素材が集まった。
「んー、とりあえず素材を回収するかぁ」
まぁせっかく倒したので、素材を頂いておくことにする。
皮を剥ぎ、未使用のゴミ袋に突っ込むとそれを魔法の袋に詰め込む。
更に細かい素材は100均で買ったジップロックやタッパーに詰め込んでゆく。
うん、魔物の素材って、小さいものは100均で売ってる容器を使うと良いんだよね。
特にジップロックやタッパーは密封してくれるから、持ち運ぶときに隙間から血が滴ったりしなくて済むって初心者から熟練まで大人気なんだって。
あと使った後にすぐ処分できる気軽さも良いみたい。
こういうところ、現代のありがたさだよねぇ。
まぁ特殊な素材は専用の容器に入れないと劣化しちゃうみたいなんだけど、このあたりはまだ上層部だからそんな特殊な容器を買う必要はないみたいなんだよね。
「素材もたくさん集まったし、また欲しがってる探索者がいたら売りたいなぁ」
その際は相手の足元を見たぼったくり価格で売るけど、そこは貴重な品を他人の力で手に入れる手間賃だと思ってほしいところである。
と、そんな事を考えながら探索を続けていたら、遂に四層の階段が見つかった。
「まぁまぁ移動したかな」
一層と違い、三層は階段までそこそこ歩かされたあたり、ダンジョンの迷路としての難易度も上がってるのかもだ。
ともあれ、目的を達したので今日は帰ろうと踵を返した私だったが、ふと階段の奥から聞こえてきた音に足を止める。
「……っ」
これは人の声だ。
どうやら下の階層から誰かが登ってきたらしい。
すぐさま私は来た道とは反対側の通路を曲がって身を潜める。
いつものように、私をただの子供と勘違いして、善意で保護されないようにね。
あとは彼等が私のお目当ての人物達かどうかの確認もしないとね。
「ふぅ、ようやくここまで戻ってきたな」
現れた探索者達は、4人組のパーティだった。
彼等は全員が疲れ果てた様子で、足取りは重い。
「このパターンは……」
彼らの様子に、私はチャンスが来たと直感する。
「まさかここまでアレの確保にここまで手間取るとは」
探索者達は通路の壁に寄り掛かると、座り込んで休息を取り始める。
「残る素材はダークウルフだけだな」
どうやら彼らはこれからダークウルフを狩るつもりらしい。
見た目からしてボロボロだけど、大丈夫なのかな?
「けどどうする? 下の階層で魔力もほとんど尽きちまったし、今日のところは戻って明日の朝から潜りなおすか?」
「いや、ダークウルフはレアモンだ。見つからない時は全く出会えない。納期も近いし、今日は泊りがけで探そう。睡眠は魔法使いを優先的する」
「マジかよ。キツくね? この状況で夜の見張りが俺達だけだと、お目当てのダークウルフが現れたら耐えきれんぜ」
「その時は最悪魔力回復ポーションを飲んでもらう」
「あれ、次の日がキツいから勘弁してほしいんだけどなぁ」
「我慢しろ。納期は明日の昼までなんだ」
会話を聞いた感じだと、彼等は万全の状態ならダークウルフを倒せるっぽい。
でも今の疲れて魔法が使えない状だとキツいみたいだね。
「うん、これなら売れそう」
チャンスと判断した私は、フードを被って彼らの前に姿を現す。
「ねぇ、素材が欲しいの?」
何度も言ったので、既にこの問いかけにも慣れてきた気がする。
「「「「っ!?」」」」
探索者達は、突然現れた私の姿に驚きを見せる。
「フードを被った子供、まさか本物か!?」
「おいおい、本当に出たぞ!?」
ん? この人達私の事知ってるっぽい?
まぁ、そこそこ色んな人達に素材を売ってきたし、そろそろ話題になってもおかしくはないか。
それにそっちの方が話が早いしね。
「もしかして、君はダンジョンの妖精かい?」
「何それ?」
ダンジョンの妖精? 初耳なんですけど。
「違うのか? ダンジョンを歩いていると、素材を売ってくれる女の子が現れるという話なんだが」
うーん、聞いた感じだと私の事っぽいけど、妖精って部分はどこから来た訳?
あれか、私が妖精のように可愛いってことか? それなら許す。
「妖精ってのはわかんないけど、素材が欲しいなら売ってあげるよ」
「「「「おおっ!!」」」」
私の発言に、探索者達が色めき立つ。
どうやら相当に困っていたみたいだ。
うんうん、そんなに喜んでもらえると私も嬉しいよ。
「ならダークウルフの牙を売ってもらうことは出来るだろうか?」
ダークウルフの素材ならさっき沢山出たばかりだしね。
「あるよ、これでいい?」
私はリュックから出すふりをしてジップロックに入ったダークウルフの牙を取り出すと、リーダーらしき男の人に差し出した……その時だった。
「ああ、確認させてもらうよ」
ガシッと腕を掴まれたのである。
「え?」
そして男の人は私の手からダークウルフの牙が入ったジップロックを取ると、それを仲間に渡す。
「それと君にも話を聞かせてもらいたいんだ」
え? 話って、どういう事?
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