第15話 未成年がお金を得るのって難しいよね(なので裏技を駆使)
「という訳でポーションの補充もしたし、三層で魔物退治だよ!」
三層の階段を降りたところで待機していた私は、たまに顔を出す魔物を見つけては倒す事を繰り返す。
お婆ちゃんの服のお陰で防御の心配がだいぶ軽減したので、回避の練習に重点を置きながら戦闘を行う。
「やっぱ小剣だとダメージ低いなぁ」
ライフリーフ相手でも幹には2,3発当てないと倒せなかっただけに、毛皮で守られている獣タイプの魔物は防御力が高く感じる。
なお、ポップシープはチュートリアルなので例外とする。
「せいっ!」
なので図書館の戦士の訓練書に書かれていた力のかけ方や、角度、当てる部位などを意識しながら攻撃を繰り返し、効率的なダメージの与え方を勉強する。
曰く、魔物は多種多様だが、基礎となる技術を極めれば、どんな魔物にも応用が利く。
小手先の技を数多く覚えるよりも、基礎を磨けとの事だった。
なんか漫画に出てくる師匠が言いそうなセリフだけど、実際に色んな形をした魔物と戦ってると、確かにその通りだわと思わずにはいられない
一種類の魔物相手の効率的な戦い方を極めても、他の種類の魔物相手には何の意味もないしね。
そんな風に戦いを繰り返していたら、ダークウルフと遭遇する。
ずっと戦い続けて臨戦状態だったおかげで、レアモンとの遭遇でも冷静な気持ちで戦えた。
ダークウルフの戦い方は、見た目こそブラウンウルフと同じものだけれど、明らかに考えて戦っているような印象を受けた。
「ダークウルフの方が頭が良いのかな?」
私はダークウルフの攻撃を回避しながら戦うが、時折こちらが予想もしていなかった挙動をする事で巧みに攻撃を当ててくる。
「うむむ、お婆ちゃんの防具が無かったらヤバかったなぁ」
けれど、そんなダークウルフの巧みな戦い方も、慣れてくればパターンが読めてくる。
ぶっちゃけ賢いと言っても動物レベルの賢いだ。
慣れれば逆にこちらが相手の攻撃を誘って罠にかける事も出来た。
「これで止め!」
そして、幾度もの戦いを経験し、三度目のダークウルフとの戦いでは遂に一度の攻撃も貰うことなく倒すことに成功した。
『レベルがあがりました』
▼
「おっ、レベルが上がった」
まるで私が三層の魔物との戦いを完全にマスターしたのを狙ったかのようなタイミングだ。
そう言えばレベルって、どういう条件で上がるんだろう?
経験値を一定数貯めると? それとも何かしらの条件を満たすと上がるとか?
私はメッセージに触れ、上昇した能力値を確認する。
アユミ Lv8→9
体力9→10
魔力5→6
筋力7→8
敏捷力9→10
器用さ8→9
知力6→7
直感6→7
隠蔽7→8
回復力3→4
幸運3
▼
おお、中々上がってる。
やっぱり格上相手に色々試したお陰かな。
「あっ、回復力も上がってる!」
なんと今回のレベルアップでは、今まで上がらなかった回復力も上がっていた。
「でも回復力が上がる様な行動ってなんだろ?」
考えられるのは、ポーションを飲んだ事くらいかな?
あとは回復に関する行動っていうと……魔力を使い過ぎてぐっすり寝た事とか?
とりあえず明確に何かを回復させる行動が回復力を上げると仮定しておこう。
「それじゃあ女神様のメッセージを確認しますか。確か前回は女神様が何かやらかして、途中で切れちゃったんだよね」
メッセージに触れると、女神様のメッセージが流れる。
『なりますが、眠る事で魔力を回復できます。ただし心身に不具合があると、魔力の回復量』『が著しく減るので気を付けて下さい。早寝早起き、困ったら人に相談、それでもだめなら』『お賽銭を入れて神頼みですよ。もしかしたら良い事があ※※※※※※※※※※※※※※』
『神々のルールに抵触しました。現在お仕置き中です』
……あー、女神様、また何かやったのか。
『……魔法は便利ですが、頼りすぎると接近戦になった際の対応がおろそかになりますの』『で注意してください。貴方の場合、特定の技術に特化するのではなくまずは万能型を目指』『すべきでしょう。なお、その世界の魔法は術者のイメージ次第である程度応用が効きます』
『魔力の消費量は増えますが、鍛錬次第では温風やお湯を出す事も出来るようになるでし』『ょう。貴方の成長を期待しています』
よほどキツイお仕置きをされたのか、その後に表示された女神様のメッセージは妙にキビキビとしていた。
今回はメッセージが終わらなくて良かったぁ。
それに魔法を上手く使えばドライヤーやお湯が再現できるのが分かったのは朗報だ。
「ところでまた文章が飛んでるよね」
確か三層で酷い目に遭った時にレベルが上がったような覚えがあるから、その時の分が飛んでるんだろう。
「多分魔法関係の説明っぽいけど、図書館で読んだ内容に近いから大丈夫かな?」
やっぱこれまでの文章が読めるログ機能が欲しいなぁ。
「さて、それじゃあ今日はもう帰ろ……ん?」
と、隠し部屋に帰ろうとしていた私は、何者かが近づいてくる足音に気付く。
新手の魔物かと思った私だったけど、話し声が聞こえるから人間っぽい。
「見つかると面倒そうだし、ここは逃げ……いや待てよ」
危険な三層に私の様な子供が一人だけで居たら、変な勘繰りを受けそうだからと逃げようと思った私だったけれど、この世界の探索者の事が気になった私は曲がり角を曲がって隠れる。
やってきた方向から、彼等は地上に帰る為に階段を目指してきたのだろう。
なので階段から離れる脇道に潜んで彼等の会話を聞かせてもらおう。
もしかしたら何かいい情報が手に入るかもしれないしね。
「う~~」
最初に聞こえてきたのは、苦悩のうめき声だった。
「マジでどうするよ」
次いで何かに悩んでいると思しき言葉。
「そりゃ俺達のセリフだ。ダークウルフ、一匹も見つかってないんだぞ!」
ダークウルフという言葉に、私は懐の魔法の袋に視線を送る。
多分これの事だよね。
「どうするも何も、帰るしかないだろ。魔力もポーションも尽きちまったんだしよぉ」
「依頼はどうするって言ってるんだよ。今日が納期なんだぞ!」
「見つからなかったもんはしょうがねぇじゃねぇか。協会にもそう報告するしかねぇだろ!」
「アホか! このまま戻ったら違約金を支払わないといけないんだぞ!」
ふむ、どうやら彼等はどこかから依頼を受けてダークウルフを狩りに行ったものの、それが見つからないままに帰還。
このままだと依頼が達成できない事のペナルティを支払わないといけない状況のようだね。
違約金を支払わないといけないなんて、この世界の探索者って意外と世知辛いのかな?
「だから言っただろうが、そんな達成の見込みがない緊急依頼受けるなって」
「だって急ぎだからって素材の買取価格が相場の三倍だったんだぜ!」
「三倍とか、どう考えても詐欺かなんかだろ! それを勝手に受けやがって」
どうやら先頭の彼が迂闊なだけだったみたいだね。
けど一度依頼を受けてしまった以上、彼等は違約金を支払うしかない状況みたいだ。
「とにかくポーションを補充したらまた潜るぜ。協会の窓口が閉まるギリギリまで粘るぞ」
「無理だって。私達もう魔力がないんだよ」
「そうだよ、無理して大怪我したら目も当てられないって」
先頭の彼はアイテムを補充したらまた潜る気満々みたいだけれど、それを魔法使いらしきお姉さん達が止める。
確かに魔力が切れた時のあの感覚はきつかったもんねぇ。
あの状態で何時間も戦い続けるのは難しいんじゃないかな。
格好からして魔法専門っぽいし。
「魔力回復ポーション使えばいいだろ。甘い事言ってんじゃねぇよ」
「「は?」」
しかし、彼の言葉にお姉さん達が気色ばむ。
「アンタ魔力回復ポーションがいくらするか分かってんの?」
「それにアレ使った次の日はマジでキツいんだからね」
どうやら、魔力回復ポーションは本当にお高いらしい。
そして副作用も……
「いや、でも違約金が……」
「「そもそも残りの時間でダークウルフ三体なんて無理っっ!!」」
怒ったお姉さん達の剣幕に怯むも、違約金の金額で相当に困っているのか、なんとか意見を通そうとする先頭の彼。
でも仮に意見を通したとしても、彼等の状況じゃ目的達成は難しいだろう。
時間もなさそうだし。
「うう、360万円の報酬がぁ……」
「360万円!?」
「お、おい? 今何か聞こえなかったか?」
「っ!?」
やべっ!
「はっ? 何誤魔化してんのよ!」
金額に驚いて思わず声をあげてしまった私だったけれど、幸いにも彼の疑問をお説教から逃れるためのデマカセと思ったお姉さん達は無視する。
「いや俺も今……」
「だいたいアンタはいつもいつも!!」
もう一人のお兄さんが自分も聞いたと擁護しようとしたんだけど、お姉さん達のお怒りに巻き込まれては堪らないとそっと手を下ろす。
うん、正しい選択だと思うよ。
それにしても360万かぁ。
探索者って、儲かるんだね。
それだけあったら色んなものが買えちゃうよ。
さっき相場の三倍って言ってたし、一体120万円の三分の一で本来なら40万円ってところか。
「まぁその辺にしておけ。それより今は違約金の問題だ。全員の貯金とパーティ予算のプール金、それに装備をいくらか売れば違約金は支払えるだろう」
「っ、仕方ないわね」
違約金がいくらかはわからないけれど、報酬を考えれば決して安くはないハズ。
そんなお金を何とかかき集めれば用意できるあたり、探索者ってお金あるんだね。
けれど、お説教を受けていたお兄さんがおずおずと手を上げる。
「俺、貯金ない……」
「「「……」」」
その宣言に全員の目が鋭くなる。
前言撤回、探索者にお金があるんじゃなくて、他のメンバーの金銭感覚がしっかりしてただけみたい。
そしてあのお兄さんはとても残念な人のようだ。
「ほんとアンタって……足りない分は私達が支払った分と一緒に後で返して貰うからね!」
「はぁっ!? 何でだよ!?」
「「「お前が勝手に依頼を受けたからだろ!!」」」
「うぐ」
ぐうの音も出ない正論に、完全に撃沈するお兄さん。
うーん自業自得。
「ふむ」
彼等の方針が決まった所で私は再び懐の魔法の袋に視線を戻し、ある事を考える。
「これならいけるかもしれないね」
そうと決めた私は、襟のボタンをはずしてフードを被ると、彼等の前に姿を現す。
「ねぇそこの人達」
「え?」
最初に反応したのは一番後ろに居て周囲をよく見える位置にいた女の人だった。
次いで他の三人が私に振り向く。
「子供? 三層に?」
相手が声を掛けてくる前に、私は再び口を開く。
「ダークウルフが欲しいんでしょ。売ってあげようか?」
「「「「え?」」」」
突然の申し出に彼等は間の抜けた声を上げる。
でも考える暇は与えない。ここは勢いで押していくよ。
「貴方達の欲しいのはこれでしょ?」
と、私は後ろ手に持っていたダークウルフの足を振り回して彼等の前に投げ捨てる。
「これ!?」
「まさか!?」
明らかに真っ黒な狼の姿に、彼等が驚きの声を上げる。
「え? マジ? 本物!?」
「……多分本物」
「どうする? 買う?」
戸惑う彼らに私はあくまで平淡な口調で問いかける。
「君、これをどこで? 仲間は? 親御さんと一緒じゃないのか?」
すぐに我に返ったもう一人の男の人が矢継ぎ早に訪ねてくるけれど、それに答えたりはしない。
「質問は受け付けないよ。買うか、買わないか。それだけ。要らないなら持って帰る」
「「「「っ!!」」」」
持ち帰ると言われた瞬間、あからさまに彼等が動揺する。
「ま、待って待って、探索者同士の素材の直接の売り買いは禁止されてるって」
あれ? そうなの?
「いや買おうぜ! 違約金を支払うよりマシだろ!」
「で、でももしバレたらヤバいよ!」
え? そんなに怯えるくらい問題があるの? もしかして探索者免許取消しとか、犯罪で警察に捕まったりしちゃう?
それだと私の計画丸つぶれなんだけど。
「それに必要なのは三体分だ。一体だけじゃ意味がない」
「何言ってんだよ、これを買えばあと二体見つけるだけで済むんだぜ!」
「見つからなかったら無駄金を使うだけだ。それに最悪違反がバレる危険もある。何より三体揃えなきゃ違約金は満額だ。意味がない」
ふむふむ、違約金の契約も厳しいみたいだね。
「そういう訳で悪いが、断らせてもらうよ。君もこんな危険な真似は止めて……」
「あと二体欲しいのならあるよ」
でも私はイケイケで押していきます。
残り二体を通路の向こうから引っ張ってきた振りをして魔法の袋から取り出し、彼等の前に放り投げる。
「三体、これで足りるんでしょ?」
「「「「っっっ!?」」」」
今度こそ彼等が絶句する。
「ダークウルフが三体……マジかよ」
「うそ、三体なんて初めて見た」
「そもそも私、実物見たの初めて」
「……俺も」
よしよし、良い感じに驚いてるね。
「で、買うの? 買わないの?」
「「「「っ!」」」」
私の言葉に我に返った彼等は、円陣を組んで内緒話を始めた。
「か、買うしかねぇだろこれ! 違約金どころか報酬が手に入るぜ!」
「待って待って、違反行為なんだよ!?」
「それにこんな都合のいい話、絶対裏があるって」
「そうだぞ、ここはよく話し合って相手の情報を引き出してだな……」
うん、よほど興奮してるみたいで、全然内緒話になってない。
「と、とにかく金額を聞いてみようぜ! どうするかはそれから考えれば良いって!」
さっきまで叱られていた彼が話を強引に決めると、ニゴォとすっごい下手くそな笑顔で私に笑いかけてくる。
私が普通の子供だったら泣いて逃げるぞその顔。
「な、なぁ、このダークウルフっていくらで売ってくれるんだ?」
うん、これについては彼等の会話を聞いている間に決めておいたんだよね。
「全部で360万円」
「「「「さっ!?」」」」
そう、私が要求するのは彼等が本来貰える報酬と同額だ。
「「「「っ!!」」」」
彼等はすぐに互いの顔を見合わせると、また相談を再開する。
「360万なんて無茶苦茶だって! ダークウルフの相場は40万だよ! ぼったくりだよ!」
「いや、しかし違約金を払うよりは安い」
マジか、違約金めっちゃ高いな。
それともその依頼主との契約だけの話なのかな?
「けどそれじゃタダ働きだぜ!?」
「マイナスよりはマシなんじゃないの!?」
金額を示した事で、彼等のは話題は買うか買わないかの二択となり、もはや違反がどうのといった反論は無くなっていた。
そして反対と賛成が正面衝突を繰り返す。
「あんまり時間をかけるようなら帰りますよー」
「「「「もうちょっと待って!!」」」」
ふむ、全員で止めるって事は、かなり心が傾いているね。
そろそろ条件を追加してあげるか。
「足りない金額は物で支払いでも良いですよ」
「物?」
「ええ、便利なアイテムや消耗品とかを提供してくれれば、私の気分で値段を下げます。あくまで私の主観なので、相場とか希少性とかは配慮しませんけど」
「「「「……」」」」
すぐに彼等は顔を見合わせて自分達の荷物を確認しだす。
「今回手に入った素材とかどうかな。私達にとってはハズレだったけど、売ればそれなりにお金になるし」
んー、素材は私が売れないから、薬の材料になる物以外はあんまり意味ないかなー。
「ポーションは使い切ったから、他の消耗品となると魔力回復ポーションとか?」
おっ、それは嬉しいかも。
「未使用の調味料とかいけるかな?」
「まぁ無いよりはマシじゃないか?」
寧ろ下手な素材よりもめっちゃ欲しいです。足元見られるから言わないけど。
「あっ、ダンジョンで見つけたデカいカブトムシとかどうよ。めっちゃ角がカッコいいぜ!」
「男子小学生かアンタは!」
寧ろなんでダンジョンにカブトムシがいるの?
そうして、話を終えた彼等は、こちらに振り返る。
「ダークウルフ三頭、買わせてほしい。提供できるだけのアイテムを出すから、その分割引きしてくれると助かる」
「良いですよ」
取引が成立すると、彼等はお金を用意する為に一旦ダンジョンを出て、私は階段付近で彼等を待つ。
そして戻ってきた彼等からお金と、提供できるアイテムを受け取ると、アイテム分の割引きを……適当に切りの良い金額で纏める。
「はい、まいどありー」
「うおおー! これで違約金を払わずに済むぜぇー!」
「装備を売らずに済んで良かったぁー!」
「それよりも早く窓口に持ってかないと! 閉まったら結局違約金だよ!」
「そうだった!」
彼等はダークウルフを担ぐと、慌てて出口へと駆けてゆく。
そんな中、最後尾を走っていた男の人がこちらを振り向く。
「本当に助かった。良かったら君の名を……あれ?」
けれど、その頃には私はその場を離れ、彼等から見えない場所に移動していたのだ。
「本当に……居たんだよな?」
そんな茫然とした呟きを背中に受けながら、私は隠し部屋への帰路へとつく。
「ふふふ、遂に念願のお金を手に入れたよ!」
私の心は喜びに沸き立っていた。何しろ遂にお金を稼ぐ方法が見つかったんだから。
なにより……
「今日のお肉は塩コショウと醤油味だぁー!」
調味料が手に入るという大快挙を成し遂げたのである。
「これで単調な味のご飯からおさらばだぞー!」
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