第12話 ちょっと油断したらこれですよ(ダンジョンは死と隣り合わせの地獄ぞ)
タカムラさんのポーション教室を終えた翌日、私は第二階層の探索を再開していた。
回復アイテムを手に入れたことで、探索者として万全の体制が整ったので、ここらで本格的に冒険をしようって思ったんだよね。
「回復アイテムがあると、安心感が違うなぁ」
それにいざという時の予備武器にも使えるナイフも手に入った。
これなら遠距離攻撃の魔法もあるから、そうそう簡単に負けることはないだろう。
できれば盾とかも欲しいんだけどね。
「まぁダンジョンでアイテムが手に入ることもあるらしいし、運が良ければ盾も手に入るかな」
実際、私の見つけた隠し部屋には、超絶お宝である魔法の袋があったしね。
「おっ、ライフリーフ発見!」
さっそく前方からやって来るライフリーフを発見した私は、迎撃態勢を整える。
ライフリーフも私を発見したようで、こちらに向かって真っすぐに突っ込んでくる。
「よっと! 今回も葉っぱを貰うよ!」
武器になる大きな葉っぱを切り落とし、枝による突きを回避、さらにもう一枚の大きな葉っぱを切り落としたら、枝を使った突きを回避しつつ横一文字に剣を振りぬいてライフツリーの幹に食い込ませる。
しかし一撃では切り落とせないのはこちらも理解しているので、いったん剣を手放して枝の攻撃を回避すると、再び剣をつかんで引っこ抜く。
そして攻撃を回避したらもう一度幹に全力の一撃を叩き込んでライフリーフを倒すことに成功した。
うん、危なげなく倒せたね。
『レベルアップしました▼』
「あ、久々に来た」
ライフリーフを倒したことで、レベルがあがった。
アユミ Lv6→7
体力7→8
魔力3→4
筋力6→7
敏捷力7→8
器用さ6→7
知力4→5
直感4→5
隠蔽6→7
回復力3
幸運3
▼
「おおー! めっちゃ上がったー!」
しかも今回は魔力や知力が上がってる!
「やっぱり魔法を使ったり、図書館で勉強したお蔭かな」
きっとタカムラさんに錬金術を学んだことも関係してるんじゃないかな。
「あと今までは読めなかった部分が名前になってる」
これは私がお婆ちゃん達に名乗ったことでステータスに反映されたってことなのかな?
「でも、回復力と幸運ってステータスは上がらないねぇ」
なんでかな? 他の能力値は練習したことが関係してるっぽいけど、回復力はともかく、幸運とか練習しようもないしなぁ。
「ともあれ、女神様のメッセージだよね。前回は確か……そうそう、ダンジョンをクリアしまくる事で大神達の力を削ぐ事が出来るんだった。それでええと……そうそう、私の体はかなり強くしてくれたみたいなんだけど、転生直後は大神達に悟られないようにどうとかってところで文章が切れちゃったんだっけ」
あの続きを読むためにメッセージを進めるマークをタッチする。すると……
▼
『能力値もありますので注意してくださいね。そういった能力値は、特殊な条件を満た』
『すと上昇します。ただ今の貴方はまだ条件を満たしていない為、教えたくても神々の』
『ルールに抵触してしまうので教える事が出来ません。頑張って自力で条件を見つけて』
『くださいね。応援していますよ』
『あっ、でもヒントね。アイテムとか、特別な場所とか※※※※※※※※※※※※※※』
『神々のルールに抵触しました。通信を強制切断します』
「……え?」
突然の切断宣言を残し、メッセージは消えた。
「……女神様なんかやらかした?」
ルールがどうとか書かれていたし、多分なんかやらかしちゃったんだろうなぁ。
「ただ、今のメッセージを見る限り多分幸運や回復量がソレになるんだろうね」
ふむふむ、特殊な条件を満たすと上昇する能力値か。ちょっとワクワクするよね。
「幸運が上がりまくったら、宝くじを買うと毎回一等賞当たる様になるのかな?」
それはそれで凄く気になる。
「あとなんか前回のメッセージと内容が微妙に繋がってなかったような気がしたんだけど」
確か前回は私の肉体の性能が普通の人と比べてどうとかって話だった筈。なのに今回は注意しろとか、特殊な条件が必要な能力値の話に飛んでいた。
もしかして女神様が途中の文章消しちゃった? それとも私が読み飛ばしちゃった?
でもメッセージに触ると自動的に次の文章が出るから、読み飛ばす事なんて……
「あっ」
そこで私は前回のレベルアップの事を思い出す。
「そうだ、私青いゴブリンを倒した時にレベルアップしてたんだっけ」
でもあの時は助けた女の子に話しかけられて、そのままにしちゃってた筈。
もしかして、あの時にメッセージを読み飛ばしちゃった!?
「しまったぁー」
やっちゃった。女神様のメッセージは現状貴重なダンジョン攻略情報なのに。
しかもゲームの攻略本みたいに、この世界の住人が知らない裏情報や、レベルアップとかのシステム面でのメッセージが貰える。
「それを読み飛ばしちゃったのはマズかったなぁ」
とはいえ、もうメッセージは消えてしまった。
メッセージには▼マークしかないから、ログを読み返す事も出来ないしねぇ。
「しょうがない。分からないものは諦めるか」
うん、過去は戻らないんだから、前を向いて行こう。
「よし、レベル上げ再開だよ!」
気を取り直した私は、第二階層の魔物と戦いながら探索を続ける。
とはいえ、既に大勢の人が探索を繰り返してきた事もあって、宝箱とかは空っぽで、新しい驚きは無い
「モキャキャー」
第二階層は一層とはまた違う敵が配置されていた。
一つは植物魔物であるライフリーフ。
もう一体は丸いトカゲみたいな姿のビッグリザードだ。
「コイツもぬいぐるみみたいな見た目だよねぇ」
上層部の魔物は初心者の訓練用って感じらしくて、二層までの魔物は強さだけじゃなく、見た目も戦いやすい感じなんだって。
事実、ビッグリザードも、丸々とした姿に反せず、あまり足が速くない。
ただし地面を這うように移動するので、攻撃がちょっとやりづらい。
「てい!」
とはいえ、すでにLv7の私の敵じゃない。
ビッグリザードは大した苦労もなく倒すことが出来た
「ええと、ビッグリザードは背中の皮と魔石が素材になるんだっけ」
図書館の魔物辞典で情報を確認していた私は、ビッグリザードの素材を剥ぐ。
特に魔石は初級錬金キットを使うのに必要だからね。
そうして戦いながら進んでいると、下に向かう階段を発見した。
「第三層か、一応適正レベルではあるんだよね」
このダンジョンでは、一層ごとに適性レベルが2つあがる。
1層は1~2、2層は3~4、3層は5~6って具合に。
今の私のレベルは7,適正レベルよりも1多いことになる。
「今ならポーションもあるし、適性レベルよりも上なら戦えるかな」
ふむ、それなら試してみるのも良いかも。
「正直2層で戦ってても、全然レベル上がらなかったしね」
その理由は何となく分かってる。
まず最初の内はレベルが上がりやすいようになってるんだろう。
そしてもう一つは、私が青いゴブリンと戦った事だ。
どうもこの世界のダンジョン、たまに適正レベルとかけ離れた強さの魔物が出てくることがあるんだって。
で、青いゴブリンはブルーリトルゴブリンっていう滅多に出ない魔物だったみたい。
あれと戦った事で、私は沢山の経験値を手に入れる事ができたのだろう。
「これからはもっと強い敵と戦うだろうから、適正レベルの強さを確認しないとね!」
よーし、3層の探索も頑張るぞー!
◆
なんて思っていた頃が私にもありました。
「うぉぉーっ! 死ぬ死ぬ死ぬ!」
第三階層の魔物は一気に強くなっていたのです。
遭遇する敵の数も1体からいきなり3体と増えました。
そう、私は重要な事を忘れていたのだ。
適正レベルは5~6、けれどこの世界の普通の探索者は、パーティを組んで戦うものだという事を。
そして、二層までは単なるチュートリアルで、三層こそが真のダンジョンの厳しさなのだというこの世界の常識も、私は知らなかったのだ。
「うん、このままだと死ねるね!! って、死んでたまるかぁー! ぬぉー! 『風よ……』えーと、えーと『風よ 我が身を汝に委ねる エアウォーク』!!」
全力で逃げだした私は走りながら移動速度を向上させるエアウォークを発動させると、敵を引き離す。
すると私を追って来る魔物の動きにも変化が生まれた。
足の速い魔物が前に出て、足の遅い魔物が遅れだしたのだ。
「これで1対1っーっ!!」
急ブレーキをかけて振り返ると、追って来ていた先頭の魔物は間合いを取ろうとするも、突然の事ですぐには止まれず、つんのめる。
それを狙って私は魔物の足を攻撃。
後続に追いつかれる前に全力で逃げると、離れた場所から魔法を放つ。
「『火花より生まれし者よ 我が敵を焼き尽くせ ファイアブリッド』!! 『火花より生まれし者よ 我が敵を焼き尽くせ ファイアブリッド』!! 『火花より生まれし者よ 我が敵を焼き尽くせ ファイアブリッド』ぉぉぉぉぉっ!!」
素材の確保とかそれどころじゃないので、とりあえず全力で魔法を使いまくって魔物を攻撃すると、先頭の魔物がバタリと倒れる。
「よし次!『火花より生まれし者よ 我が敵を焼き尽くせ ファイアブリッ……』っ!?」
けれど魔法を発動しようとした瞬間、力が大きく抜ける様な感覚に捕らわれる。
「なっ!?」
何これ? 魔法を失敗した? もしかしてMPが無くなった!?
「ガォウ!!」
突然の事に困惑していた所為で、私は魔物の接近を許してしまう。
「しまっ!?」
慌てて後ろに飛ぼうとするも、めまいで膝がガクりと落ち、避け損なってしまう。
ザシュッ!!」
「つぁっ!?」
痛い痛い痛いっ!!
「こんっのぉっ!」
傷つけられた恐怖を、けれど死にたくないという思いで無理やり怒りに書き換えて私は反撃する。
「グギャアッ!!」
幸い魔法による攻撃が効いていたのか、魔物はそのまま崩れ落ちる。
「ギャオォォ!!」
最後の魔物が倒れた魔物の後ろから攻撃してくる。
「くっ!」
力の抜ける膝に喝をいれながら強引に後ろに倒れ込むように避けた事で、直撃は回避した。
けれど女神様から貰った革鎧はボロボロだ。
「このぉ!」
もう魔法は使えない。逃げる力もない。
だから倒れ込むように全体重をかけて魔物に小剣を突き立てる。
「グギャァァァァ!!」
それが止めになったのだろう。魔物は断末魔の雄叫びを上げて崩れ落ちる。
「ふぅ、ふぅ……勝て……た?」
全身が痛い。頭がボーっとする。
『レベルアップしました▼』
「……あ、勝った」
レベルアップのメッセージを見た私は、ゲームで戦闘が終わった際のシステムメッセージが表示された瞬間を思い出し、勝ったんだなと朧げに理解した。
ええと、これからどうすれば……
ズキンッ
体を動かした事で傷口が痛んだ事で我に返った私は、早く治療をしないといけないと気付く。
「ええと、包帯……なんてない! 何か薬か何か……そうだポーション!!」
タカムラさんとの授業で作ったポーションの事を思い出した私は、急いでリュックの中からポーションを取りだすと、ぐいっと勢いよく飲む。
すると、シュワァという淡い音と共に、体から痛みが無くなってゆく。
頭がぼーっとするのはまだ治らないけれど、体の傷はすっかり治ってくれた。
「助かったぁ……」
ああ、お婆ちゃん達には感謝だよ。
今度会ったらお礼を言わなくちゃ。
「けど、MPが切れたらこんな風になるんだ。魔法頼りの戦いしてる時にMPが切れたらかなり不味いかも」
ソロだから剣も魔法も均等に鍛えてて良かったぁ。
「とりあえず、上に戻ろう……」
ふらつく体に喝を入れ、私は安全で愛しい隠し部屋へと向かうのだった。
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