第9話 食事のバランスは大切だよね(野菜と生活)
「はぁーっ!」
翌日、私は地下二層で魔物と戦っていた。
目的はレベル上げと食材探し。
そう、食材探しだ。
ポップシープのお陰で飢え死には回避できたけれど、お肉だけでは体に良くない。
人間は様々な栄養素を取り込まないと、体に不調をきたしてしまうのだから。
なので私は図書館で新たな情報を求めた。主に食事に関する情報を。
ダンジョン攻略の情報はどうしたって? 美味しいご飯が無いと元気でないでしょ!
その結果、ダンジョンではフロアごとに一種類、食材になる魔物が出現する事が分かった。
一層は羊肉、二層は野菜、三層は鶏肉といった具合に。
肉をゲットしたなら、次に目指すのは野菜。
そして野菜があるフロアは二層。
という訳で私は二層を目指すことにした。
幸い既にレベルは5まで上がってる。一層の魔物はもう敵じゃないし、二層に降りて敵の強さを確かめる丁度いいタイミングだろう。
という訳で二層に降りて来た私は、階段近くを捜索してさっそく魔物に遭遇したのである。
現れたのは根っこで二足歩行をする私と同じくらいの背丈の観葉植物。
ただし左右に大きな葉っぱが一枚ずつ付いていて、シルエットはまるでデフォルメした腕のよう。
「さっそく居た!」
この観葉植物こそ私が探していた食ざ…魔物、ライフリーフだ。
ライフリーフは私に気付くと、腕の葉を振り回して襲ってくる。
「よっと」
ライフリーフの攻撃を避け、反撃を行う。
するとライフリーフの体を彩る小さな葉っぱが宙に舞う。
けれどライフリーフは攻撃されたにも関わらず、躊躇うことなく反撃してきた。
「うーん、葉っぱじゃ体の表面の体毛を切った程度なのかな?」
だとすれば葉っぱじゃなくて枝や幹を切らないと効果はなさそうだ。
あと足が細いからなのか、ゴブリンやポップシープよりは機敏に動く。
「ファイアブリッドが効きそうだけど、燃やしたら意味ないしなぁ」
食材として狩りに来たんだから、焼いて炭にしちゃだめだよね。
「なら、エアウォーク!」
エアウォークの魔法で移動速度を上げた私は、ライフリーフの周囲をグルグル回って葉っぱを切り裂き、本体をむき出しにする。
ホントは死角に入って攻撃したいところだけど、木の死角ってどこか分かんないし。
ちなみにこの魔法、移動速度が上がるだけで攻撃速度が上がったりはしないんだよね。
ただまぁ、ライフリーフも序盤の敵だからそんなに脅威を感じないのは幸いだ。
表面を覆う葉っぱの大半を切り飛ばして狙いやすくなったライフリーフの本体に攻撃を放つ。
するとライフリーフは大きな葉っぱだけでなく、枝を槍のように突きだしてきた。
「あわわっ」
突き怖い! 尖ったものがスッと向かってくるから、なんか凄く早く感じる!
私は慌てて枝の突きを回避すると、急いで枝を切り落とす。
「このこの!」
枝の突きを慎重に回避しながら、枝をカットしてゆく。
すると枝を失ったライフリーフは再び大きな葉っぱで攻撃してくる。
「それは怖くない!」
攻撃を回避しつつ、大きな葉っぱを根元で切り落とす、遂にライフリーフは攻撃手段を失ってオロオロしだす。
「とどめー!」
反撃の手段を失ったライフリーフの幹を、私の小剣が真っ二つに……
ガッ!
「あっ」
真っ二つに出来ずに途中で止まった。
「こ、この!」
私は慌ててライフリーフの幹に食い込んでしまった小剣を引っ張る。
するとライフリーフも私から逃れようと体をウネウネと動かす。
「って、動くなーっ! 抜きづらいでしょ!」
ライフリーフを黙らせようと蹴りを加えると、それが功を奏したのか小剣がとれる。
「ととっ、やった!」
私は今度こそライフリーフを切り倒すべく、同じ場所に小剣を力いっぱい叩き込んだ。
すると、今度は食い込むことなく、バキバキと音を立ててライフリーフの幹が斜めに切断された。
「ふぅーっ」
幹を割られた事で力る尽きたのか、ライフリーフの根がグニャッと曲がってそのまま床に倒れ込む。
どうやらライフリーフの弱点は胴体である幹だったみたいだね。
「よしさっそく採取開始!」
私は床に散らばったライフリーフの葉っぱを回収する。
ライフリーフの部位で食べられるのはこの葉っぱなのだ。
「よーっし、これで野菜ゲット!」
生でも食べれるみたいだから、鍋もフライパンも無い身にはありがたいよね。
「調理器具として使える魔物っていないかなぁ」
ほら、亀の魔物なら甲羅を剥がして鍋にするとかさ。取っ手を付ければ盾にも使えそうだし。
……まぁ、亀の甲羅を抱えて戦うキャラってなんというか、主役っぽくはないけどね。
食用になる部位を回収した私はそれらをリュックに詰め込む。
「これで使える素材は全部……あっ、そうだ」
私は戦闘でカットした枝と武器として使われた大きな葉っぱもリュックに詰め込む。
「よし、そろそろ上に戻ってお昼にしよっと」
一層に戻ってきた私は、ポップシープを倒すと、自分が食べる分のお肉を確保する。
あっ、そう言えば前回剥いだポップシープの毛皮が消えていた理由が分かったよ。
なんでもダンジョンに長時間物を置いておくと、消滅してしまうんだって。
これは魔物の死体も同じだったから、多分ダンジョンの清掃機能なんじゃないかって言われてるらしい。
その時間は6時間。
ただし人間が傍にいる場合は12時間保つんだって。
多分人間が近くにいる時は使う為に置いている判断するけど、12時間経ったら使わないからゴミなんだなって判断してるんじゃないかって話らしい。
らしいばかりなのは、ダンジョンで得たデータから学者さん達が推測したものだからだ。
「でもダンジョンに最初から置いてあった宝箱は消えないみたいなんだよね」
このあたり、宝箱とその中身はダンジョンの中身はダンジョンの一部って扱いっぽい。
ただ宝箱から出した中身はやっぱり6時間経つと消えるみたい。
隠し部屋に戻ってきた私は、拾ってきた枝の中でも細い物をリュックから取りだす。
そして小剣で表面を削って、樹皮を剥ぎ取る。
「うーん、ナイフとか欲しいなぁ」
流石に小剣で枝を削るのはちょっと難しい。
あっ、ちょっと失敗した。
「よしっと」
削った枝にカットしたポップシープの肉を刺すと、今度は太い枝を床に置いて魔法で火をつける。
「これなら直接お肉に魔法を撃つよりも綺麗に焼けるよね」
そう、私は薪や串として使う為にライフリーフの枝を回収してきたのだ。
火にあぶられたお肉がジュージューと音を立てて焼けていく。
時折ポタポタと滴り落ちる油で、火がボッと燃え上がる。
「できた! それじゃいただきまーす!」
今日のご飯はポップシープのステーキと洗ったライフリーフのサラダ!
しかも今日は食器があるのだ!
ポップシープのステーキの下には、大きな葉っぱが敷かれている。
ライフリーフの葉っぱは、大きくなると食用に適さなくなるけど、分厚くなって曲がりにくくなるから、洗えば使い捨ての食器になるんだって。
「ふふふ、食器とサラダが付いた事で一気に文明人になった気分だよ」
さて、それじゃあメインのステーキの前にサラダを頂きましょうか。
私はサラダという名の葉っぱを口に入れる。
「モグ……っ!?」
その瞬間、口の中を駆け巡る渋み。
「~~~っ!?」
な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!?
まるで渋柿を食べたような感覚に悶絶する。
た、食べれるんじゃなかったのーっ!?
「ペッペッ」
とても食用とは思えない味に、私は思わず吐き捨てる。
「うぇぇ、口の中がニブニブするぅー」
すぐにペットボトルの水で口をゆすいで水を吐き出す。
「何これ、全然美味しくないじゃん」
口直しにポップシープのステーキを齧ると、素材の味そのままではあるものの、キチンとした食材の味に安堵を覚える。
「これじゃとても食べられないよ。下のフロアの野菜に期待するしかないかなぁ……でも他の野菜もこれと同じだったら意味ないし……もしかして食べられるって、美味しくないけど毒は無いから食べられない事は無いよって意味?」
不味い、いや確かに不味いけどそう言う意味の不味いじゃなく不味い。
真面目な話、食生活の改善は死活問題だ。
野菜も確保できるなら、ダンジョンで一人でも何とかなるでしょと思ってたけど、それが難しくなると、やはり国に保護を求める事を視野に入れた方が良いかもしれない。
何せ別の魔物野菜をゲットしたいなら、もっと下層に降りないといけない。
野菜魔物は一フロアに一種類と魔物図鑑に書いてあった。
と言う事はレベル上げを頑張らないとお目当ての野菜に出会えるまで延々潜り続けないといけない。
最悪、上層の魔物野菜は不味くて、食べられるのは中層か下層という事すらある。
浅い階層ならともかく、一人で下の階層に行くにはどれだけレベルをあげないといけないか判断がつかないのが不安だ。
「うわぁ、マジでキツいかも」
こういう時、お金が無いって本当にキツいなぁ。
現代社会の本当に便利なところって、お金さえあれば誰でも大抵の物は手に入るってことだったのかもしれない。
「でもやるしかないか。どのみちダンジョンは攻略しないといけないんだし……どうしても野菜を食べなくちゃいけなくなった時は、ガマンして水で流し込む!」
私は悲壮な決意を胸に、レベル上げを決意する。
「よーし! まともに食べれる食材をゲットする為にレベル上げを頑張るぞーっ!!」
なお、実はライフリーフの渋みは、お湯で煮込むか火で炙れば簡単に解消できたのだけど、私がそれを知るのは、栄養を得る為にはやむを得ないと数日後に涙交じりで無理やりライフリーフを食べた後の事だった。
……うん、料理の本も読んでおけばよかったよ。
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