第8話 叡智の集まりし館は無料開放中(住所不定ダンジョン娘爆誕)

「ほぁぁ! 寝てた!!」


 目が覚めた私は、自分がダンジョンの中で無防備に寝ていた事に気付いて愕然とする。


「あ、危なかったぁ、もしゲームみたいに魔物が突然出現するような世界だったら、寝ている間に襲われてたぞ私……」


 幸い、隠し部屋の中は魔物が現れない場所だったらしく、私は無事だった。


「ん~っ、あぁー、結構頭すっきりしてるなぁ」


 ぐぃーっと体を伸ばして簡単なストレッチをすると、私は天然水を軽く飲んで立ち上がる。


「そろそろご飯をなんとかしないとね」


 まずは町の散策だ。

 情報収集をしないと。


 ◆


 再び地上にやってきた私は、町の中を散策する事にする。


「といってもどうしよう。情報収集するにしても、お金が無いしなぁ。やっぱ警察に頼るしかないか?」


 うん、漫画喫茶でネットを使うにも会員登録や料金が必要だし、見た目が子供な私は警察の厄介になる事を本格的に考えた方が良い。

 なにより食べ物が無いから。


 この肌寒さだと、これから野宿とかも無理だ。

 ついでに昨夜倒して剥いだ羊のぬいぐるみ魔物の毛皮は無くなっていた。

 誰かが回収したのか、それともゲームのように倒した敵は一定時間が経過すると消えてしまうのか……


「んーと、あ、あった!」


 私は歩道の脇に設置された近隣のマップを確認する。

 とりあえず緊急避難先である警察の場所を確認するかな。


「ん? これは」


 と、その際に私はマップに書かれた図書館の文字に気付いた。


「図書館、そうか、それがあった!」


 図書館ならお金を使わずに情報を手に入れる事が出来る!


「警察に保護を頼むにしても、この世界の情報をある程度は知っていないとね」


 よし、図書館で情報収集だーっ!


 ◆


「やっと着いた」


 うん、土地勘のない町を記憶頼りの情報で歩いたらそりゃ迷うよね。

 何度も地図のある場所に戻って、場合によってはそこにすら戻れなくなりそうになったけど、なんとか私は図書館にたどり着いた。


「図書館に行くのすら大冒険って、初めてのOH!使いか!」


 昔見ていたテレビ番組の事を思い出しながら、私は図書館へと入って……いやその前に鎧は脱いでおこう。

 フル装備だと流石に周囲の視線が気になるからね。


 という訳で鎧をわきに抱えて改めて図書館へゴー!

 他の人の迷惑にならないよう、なるべく端っこの席を選ぶと、そこに鎧を置いて席取りをする。

 人の通りの多い席に鎧が置いてあったら迷惑だからね。


「えーと、歴史……は流石に時間がかかるから、ダンジョン関連でいいか」


 私はダンジョンに情報を絞って本を探す。


「えーと、ダンジョンダンジョン……あっ、あった!」


 ダンジョンと書かれた棚を発見した私はさっそくめぼしい本を探す。


「とりあえずダンジョンの歴史みたいなのを……うっ、これは……!?」


 それらしい本を見つけた私だったのだけれど、ある重大な問題に直面してしまう。


「高い……」


 そう、お目当ての本は本棚の上の方に差し込まれれていたのだ。

 つまり私じゃ手が届かない!!


「んにゅうー!」


 つま先立ちになって手を伸ばしても、お目当ての本には半分も届かない。

 ぬぉー! 何で子供の体にしたの女神様ぁー!

 こうなったら……登るか?


「あの、お客様」


 私が最終手段を模索していたその時、背後から声がかけられた。

 振り返れば、そこには優しそうな眼差しをしたエプロン姿の女性が立っていた。

 図書館の職員さんかな?


「どの本をお求めですか?」


「え、あ、えっと……ダンジョンの歴史を」


「これですね。……ええと、こちらは専門用語が多く、お客様にはちょっと難しいかと。初めて読むのなら、こちらから読まれるのをお勧めしますよ」


 そう言ってお姉さんがしゃがみ込むと、床に近い下から二段目の棚に差し込まれていた『よくわかる子供ダンジョンの歴史』と書かれた本が差し出された。


 よくわかるこどもだんじょんのれきし!

 子供向けの本じゃんかー! いや確かに今は子供だけどさー!


「あ、ありがとうございます」


 むぐぐ、めちゃくちゃ不本意だけど、ぶっちゃけこの世界に来たばかりの私にはこの本の方がありがたいのは事実。

 お姉さんの好意を無下にするのも悪いので、素直に本を受け取ると席に戻ることにした。


「……じゃあ読みますか」


 本を開いた私は、ダンジョンについての情報を得るべくその内容に目を通した。


『今から200年前、突然世界中に不思議な階段や建物が現れました。誰が作ったのかも分からない建物を警察が調査すると、中には物凄く広い迷路が広がっていたのです』


 子供向けなので、めっちゃひらがなを多用してて読みづらいけど、だいたいそんな感じの事が書かれていた。


「っていうか、200年前にダンジョンが出来たんだ」


 ん? でも神様がダンジョンを作ったのって、私が喧嘩の巻き添えを受けて死んだ後だよね?

 じゃあ今って私が死んでから200年も経ってるの!?

 って事は今の私って200歳!? お婆ちゃんじゃん!!


「……いやいや待て待て、私は転生したからノーカン。寧ろ今の私は0歳。ヤングOF若い。世界一の若々しさだよ」


 200年と言う数字の大きさを一旦横に置いた私は、続きを読み進める。


『迷路の中にはみたことも無い怪物が住んでいました。魔物はとても強力で、国は慌ててこの迷路に人が入れないよう封鎖したのです。そして化け物は『魔物』と名付けられ、迷路は『ダンジョン』と呼ばれるようになりました』

 

「ふむふむ」


『しかし平和は長くは続きませんでした。なんとダンジョンを封鎖した壁が破壊され、中から大量の魔物が出て人々を襲ったのです』


「まじか!?」


 大事件じゃん! ダンジョンから魔物が出てくるのなら、外も安全じゃないって事じゃん!


『突然の災害に各国は軍隊を出動させ、魔物を撃破しましたが、被害はとても大きなものとなりました。魔物の中には恐ろしく強い魔物も居て、軍隊の兵器が全く効かなかったのです』


 軍隊の兵器が効かない!? それって鉄砲やミサイルが効かなかったって事!?

 滅茶苦茶ヤバいじゃん! 一体どうやって魔物を倒したの!?


『けれど世界中が絶望に包まれたある日、何故か魔物達は突然ダンジョンに戻って行ったのです』


 へっ? 戻った? 魔物が?


『突然訪れた平和に人々は安心しました。けれどまたいつ魔物が襲ってくるか分からないのはとても恐ろしく、各国はダンジョンに軍隊を派遣し、魔物退治とダンジョンの探索を大々的に行ったのです』


 だよね。そんな事があったのならダンジョンを破壊したいだろうし、最低でも魔物を間引いておきたい筈。


『そうしてダンジョンから様々な情報が手に入りました。情報だけでなく物も手に入ったのです。魔物から得られる素材は武器や防具、薬の材料に。肉や野菜は食用に』


「食用!? 魔物って食べれるの!?」


 これは朗報だ! 倒した魔物を食べられるのなら、食料問題は一気に解決だよ!

 ゴブリン……は流石に無理だけど、あの羊のぬいぐるみ魔物ならラム肉として食べれるんじゃないかな?


 うん、これは希望が見えて来たぞ!

 あとで魔物図鑑があったら見ておこう。


『さらにダンジョンには、誰が置いたのか不明ですが宝箱があったのです。宝箱の中には、科学では解明できない不思議な力を持った道具『マジックアイテム』が入っていました』


 ふぉぉー! マジックアイテム!! ファンタジー来ました!

 私はワクワクを堪えきれず次のページをめくる。


『しかし、ある日再び魔物大量発生が起きたのです』


 ふえっ!? また!?

 でも今度は魔物をある程度間引いていたし、被害は少なかったんじゃないかな?


『恐ろしい事に、二回目の魔物の大量発生は最初の大量発生以上の数で、更に多くの被害が出てしまいました』


 何で!? 魔物を間引いていたのに何で!?


『この事態を恐れた各国は、なりふり構わずダンジョンを破壊する事を決定しました。ダンジョンを町ごと破壊する為に、とても強力なミサイルを撃ち込んだのです』


 ちょっ!? それってもしかしてか……


『ですが、その作戦は失敗しました。ダンジョンから現れたドラゴンの放ったブレスという攻撃で、ミサイルを一瞬で破壊してしまったのです』


 ドラゴン出たぁー! 流石ファンタジー世界!


『皮肉な話ですが、町はドラゴンによって守られたのです。そして多くの被害を出したのち、再び魔物達はダンジョンへと戻っていったのです』


 マジか。一体魔物達は何を考えてる訳? 地上に生活圏を伸ばすでもなく、ある程度暴れたらダンジョンに戻るってどういう事?


『二度目の魔物の大量発生によって、軍隊は大きな被害を受け、再びダンジョンの探索を行うのは難しくなりました。しかしダンジョン探索を続けない限り、三度目の魔物の大量発生の危機は消えません。多くの人々が魔物の脅威に怯えていました』


 だよねぇ。軍が使い物にならなくなったって事は、次に魔物が現れたら守ってくれる人もいない訳だし。

 いったいどうやって今のこの平和な町になったんだろう? それとも今も魔物の大発生が起きてるの?


『追い込まれた各国は、ある法案を決断しました。それは民間人のダンジョン探索を認めるというものです。そう、皆さんもご存じの探索者です』


 なるほど、この探索者ってのが町を歩いていたファンタジーな人達の正体だね。


『探索者達は多くの成果を上げました。ダンジョンで多くの魔物素材を回収する事で、食料不足を解決したり、新薬の開発に貢献してくれたのです』


 おお、夢のある話になってきた。


『何より大きかったのは、魔法の使い方が書かれた魔法書を回収してきた事です』


「魔法書!?」


 マジか!? この世界って魔法があるの!?


『この魔法が世界を変えたと言っても過言ではありません。これまで軍隊の武器が通じなかった一部の魔物にも攻撃が通じる様になったのです。更に戦う為の訓練を受けていない人間や体の弱い人間でも、魔法を学べば魔物と戦えるようになったのです』


 ふぉぉー! 魔法凄い!!


『しかし、魔法による犯罪も生まれてしまい、各国は魔法を使った犯罪を取り締まる法律を急いで決めました』


 あー、悪い人は何でも悪用するんだね。


『現在では、学校の教科書に魔法の使い方を記した魔法教科が制定され、更に図書館には魔法書のコピーが置かれるほどに魔法は世界中に広がっていきました』


 マジ!? 図書館にあるって事はここにも魔法書があるの!?

 絶対後で読まないと!


『そして不思議なことに、民間人の探索者がダンジョンに入るようになってからは、ダンジョンから魔物が現れる事が無くなったのです』


 へ? 何でまた? 探索者が魔物を沢山倒したからかな?


『それを知った人々は探索者によって魔物が予想以上に数多く退治されたからとも言われるようになったのですが、そうではありませんでした。魔物の脅威がなくなって50年が経過した頃、ある国でダンジョン探索を制限するべきではないかという運動がおこったのです。民間人が魔法を自由に扱い、武器を持って街中を歩くのは凶悪な事件を産み出す原因だと言われるようになったのです。世論の後押しを受けた事で、その国では民間探索者のダンジョン探索が禁止され、軍隊が魔物退治と調査を行うようになりました』


 んー、戦争が無くなった後の軍縮とかよりは、利権争いの匂いがプンプンするなぁ。

 ダンジョンの利益を独占したい人達が動いたのかな?


『ですがそれが悲劇の始まりでした。ダンジョンを封鎖して数か月後、再びダンジョンから魔物が溢れたのです。その結果、魔物に対応していた軍隊は大打撃を受けましたが、民間探索者が町に溢れた魔物を倒してくれた事で被害は最小限で留まったのです』


 おお、よかった。最悪の事態は避けられたんだね。


『しかし不思議なことに、魔物の大量発生が起きたのは、ダンジョンが封鎖された国だけでした。他の国では魔物の大量発生は起きなかったのです。その事から、ダンジョンには大勢の人間が潜る事で何らかの条件が発生するのではないかと考えられ、再び探索者によるダンジョン探索が許可されたのです』


 ふーん、不思議だねぇ。


「あ、いや待てよ」


いうかもしかしてこれ、神様達が原因なんじゃない?

 確か女神様の話だと、喧嘩をしている大神様達はお互いの世界にダンジョンを作って自分達の世界の人間がダンジョンをクリアできるか競わせているって話だった。


 それを考えると、国がダンジョンを封鎖しては本末転倒だ。

 それに軍隊だけが探索するのでも、一部の人間の能力しか確認できないから、良くないんだと思う

 つまり、魔物の大量発生は大神達からの警告なんじゃないだろうか。

 余計な事せずに沢山の人間に探索させろってさ。


「うわぁ、我が儘過ぎる」


 そう考えると、この奇妙な魔物達の行動は理解できた。

 というか、裏の事情を知っている私じゃなかったら、真相にたどり着くことはできなかっただろう。まぁ私の予想が必ずしも合ってる保証はないんだけどね。


 ともあれ、この世界でダンジョンがどういうものなのか、そしてダンジョンに潜る事がどんな意味を持っているのかは大雑把に理解できた。

 もう少し突っ込んだ情報も知りたいところだけど、ここらで息抜きをした方が良いだろう。

 具体的には……


「魔法書を読みたい!!」


 そう、魔法だ。

 異世界と言えば魔法、ファンタジーと言えば魔法です。

 という訳で魔法書を探す。

 魔法書って言うくらいだし、ダンジョン関連の本の近くかな? と思ったんだけど、意外にも魔法書は別の場所に設置されていた。

 他の本棚からぽつんと離れた場所に。


「何でこんな場所に?」


 首を傾げていた私は、しかしそこに張られていた張り紙を見て事情を察する。そこには……

『図書館の中で魔法を使わないでください』


 成程、そういう事ね。

 確かに魔法書を読んだ人間が次にする事と言ったら、魔法が本当に使えるのか実践する事だ。

 で、早く試したくてその場でやっちゃって大騒ぎになった事が少なからずあったんだろうなぁ。


 うむ、正直私もはしゃぎ過ぎていたので、もしかしたらもしかしたかもしれない。

 ちょっとだけ自分を戒めると、魔法書のコーナーへと入ってゆく。

するとそこには、コピーを仕損じたと思しき裏に何事か書いてある紙の束と、ペンが設置されてこう書かれていた。


『ご自由にお使いください。魔法書のコピーの持ち出しはご遠慮ください』


 成程、魔法を試そうとしてやり方を覚えきれなかった人達が勝手に持ち出そうとしたんだね。

 なんとなく事情を察した私は、ありがたくコピー紙とペンを借りる。

 うん、きっと本を持ち出した人達は、魔法を使い終わったらすぐに本棚に戻すつもりだったんだろうなぁ。


 私は初級火魔法書コピーとルビの振られたファイルを手に取る。


「おお、マジで本の中身をコピーした奴なんだ」


 プリントした紙にパンチで穴をあけて、ファイルにまとめられたその姿は、とても魔法の本には見えない。

 けれどページを開けば、そこにはあきらかに現実離れした文字列が記載されていた。


『注意:魔法は大変危険な力です。

回復魔法と補助魔法以外の魔法を人間に使ってはいけません。

違反すれば、法律で重く罰せられます。


これは火の初級魔法書のコピーです。

 プリントに書かれた呪文を詠唱し、魔法名を唱えれば呪文が発動します。

 ただし魔法を使う度に体内の魔力が減っていき、魔力が足りなくなるか尽きると魔法は使えなくなります。

 魔力は寝る事で回復します。

 眠らない場合はどれだけ休憩しても回復しません。

 また睡眠時間が少ないと完全には回復しませんので注意してください』


 ……最初のページは注意書きでした。

 まぁうん。魔法は強力な力だもんね。注意を促すのは当然だよね。

 私は気を取り直してページをめくる。

 すると今度こそ、私の期待していた光景が目に入ってきた。


『初級火魔法:ファイアブリッド』


『火花より生まれし者よ 我が敵を焼き尽くせ ファイアブリッド』


 書かれていた文章はそれだけだった。

 その分の下には、手から放った炎の弾で魔物を焼く人間の絵が描かれていた。


「成る程、魔法書には魔法の名前と呪文、あと効果を説明する絵が描かれてるんだね」


 私は魔法書のコーナーで使えそうな呪文を見繕うと、それをメモしていく。

 メモしたのは火の攻撃魔法ファイアブリッド、水を生むクリエイトウォーター、風の移動補助魔法エアウォークの三つだ。


 もっとメモしたかったんだけど『一人で大量にメモをしておく方がいらっしゃるので、お一人様一日一枚でお願いします』という注意書きがされていたので自粛。

 まぁあんまり一気に覚えても使いこなせないだろうしね。


 ◆


「という訳でさっそく魔法を試すよー!」


 ダンジョンに潜った私は、さっそく魔法を試すべく魔物の下へ向かった。

 試すのはおなじみ羊のぬいぐるみの魔物だ。

 いや、図書館の魔物図鑑曰く、ポップシープという名前らしい。


「えっと、まずはエアウォークから。『風よ 我が身を汝に委ねる エアウォーク』」


 その瞬間、体から力、というか気が抜ける感覚を感じる。


「これで魔法が発動したの?」


「プメー!」


 ポップシープが向かってきたので、これを斜め後ろに回避、しようとしたら、予想以上に体が後ろに飛ぶ。


「うわわっ!?」


 何これ!? これが魔法の効果!?

 思った以上に体が動いたことに驚いた私は、気持ち抑え目に動いて魔法の効果を確認する。


「な、成る程、走ったりジャンプした時の動きが早くなる感じかな。でも上へのジャンプはたいして高く飛べないと」


 前にや後ろに飛び込む際には早く跳べるから、あくまで移動速度を上げる専門の魔法なのかな。


「よし次はお待ちかねの攻撃魔法! 『火花より生まれし者よ 我が敵を焼き尽くせ ファイアブリッド』」


 呪文を唱えると、私の掌の先から野球ボールくらいの大きさの火の玉が生まれ、ポップシープ目掛けて飛んで行く。

 そして命中すると、一気に毛皮に燃え広がった。


「プメメェー!」


「ひえっ!?」


 そして火はあっという間にポップシープの毛を焼き尽くすと、後には焼け焦げた羊型のお肉の塊が残っていた。


「うわぁ、オーバーキルだよ」


 うーん、この魔物が火属性の魔法に特別弱かったのか、単純に魔法の威力がこのレベルの魔物に対して高すぎたのか……。


「でもまぁ、せっかく焼けたんだから、中も確認してみるかな」


 私は小剣で魔物の肉をカットして中身を確認すると、表面は焦げで黒くなっていたものの、途中から丁度いい感じに火が通ったのか茶色に、その先は生焼けなのか赤くなっていた。


「ふむふむ、直接当てると強すぎるから、何かに火を移して焼いた方が良いかもだね」


 私は魔物の肉を薄く切り分けると、小剣を水の魔法で洗い流す。


「『水よ 我が渇きを癒したまえ クリエイトウォーター』」


 すると空中に水の球が生まれ、プカプカとその場に留まる。


「ええと、飲み水にもなるんだよね確か」


 ペットボトルに水を補充すると、残りでナイフを洗い流す。


「あとは『火花より生まれし者よ 我が敵を焼き尽くせ ファイアブリッド』」


 私は焼け焦げたポップシープの死骸にファイアブリッドを放つと、小剣に突き刺した薄切り肉を立ち上る炎で炙る。

 そして肉の色が満遍なく茶色になったところで、魔物肉を口に入れた。


「……うん、ちょっと癖のあるお肉の味だ」


 図書館でポップシープが食べられる事を確認した私は、魔法の実験と共にポップシープを食べてみる事にしたのである。

 何しろ昨日からおにぎりとパンしか食べてなかったからね。そろそろお肉を食べたいと思うのは当然の事である。


「ただ、塩が欲しいなぁ」


 ダンジョンのお宝に塩とかないかな。あるとしたら岩塩?


「ともあれ、これで魔法も使えるようになったから、遠距離攻撃と飲み水に苦労しないで済むね」


 特に魔物が食べられるというのは朗報だった。


「うん、これならお金が無くてもダンジョンの中で暮らす事が出来るね」


 必要な栄養素の問題はあるけど、他の魔物を食べればその辺りの問題も解決するんじゃないかな。

 植物型の魔物はサラダの材料とかになりそうだし。


「図書館で情報と魔法を覚えて、ダンジョンを攻略しながら隠し部屋で寝泊まりする。必要なものが出来たらその時考える!」


 うん、なんかやれそうな気がしてきた!


「よーし、まずはダンジョン生活を快適にするぞー!」


 こうして、異世界に転生した私の、ダンジョン生活が始まったのだった。

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