第4話 出口を求めて(立体迷路はマジで迷う)

 という訳でダンジョンの出口を求めてさ迷っています。

 けれどなんというか探している時に限って見つからないよね。

 そして代わりにどうでも良いのがいっぱい見つかる。


「グギャギャ」


 ゴブリンを隠れてやり過ごし、


「ぷめー」


 羊のぬいぐるみ魔物と遭遇したら練習を兼ねて色々な戦い方を模索する。

 その結果……


『レベルアップしました▼』


「あ、来た」


 再びレベルアップした。


※※※※


Lv4→5


体力6→7

魔力3

筋力6

敏捷力5→6

器用さ4→5

知力4

直感4

隠蔽4→5

回復力3

幸運3



 あれ? 色々やってたのに今度はそんなに能力値上がってない。

 うーん、やっぱ能力値の上昇はランダムなのかな?

 ともあれ、女神様のメッセージの確認だ。


『ョンを作る為に力を消耗することになります。これを繰り返す事で大神達の力を削ぐ計▼』


『画なのです。そして十分に大神達の力を削いだところで、我々神々が力を合わせて大神達▼』


『を封印します。そうする事で世界を平和に導くことが出来るのです。▼』


 成程、とにかくダンジョンをクリアしまくって、大神達を消耗させろって事ね。


『その為に貴方の肉体は、人間の限界ギリギリまで性能を高めてあります。とはいえ、大神▼』


『達に悟られない様に、転生直後の性能は同年代の人間よりも多少は高い程度に抑えてあ▼』


 と、ここで文章は途切れてしまった。

 うん、また肝心なところで終わっちゃったなぁ。


「うーん、私の体はかなり強いっぽいけど、戦った感じ漫画みたいに凄い動き出来る感じはしなかったよねぇ」

 寧ろ今までの体と大差ない感じだ。

 いや、動きやすいと言えば動きやすかったけど。

 きっとメッセージに書かれてる通り、最初はわざと弱くしてるっぽいね。


「レベルを上げるとそのうち最強になるって事かな?」


 つまりレベル上げは必須って事かぁ。


「まぁ、レベル上げは最初から予定してたし、やることに変わりはないかな」


 うん、レベル上げをしっかりしてからダンジョンの最下層に挑む。変わらないね。


「よーっし、それじゃ見るもんも見たし、ダンジョンの出口探しを再開するかー!」


 ◆


「うーん、全然出口が見つからない」


 本当に、さっぱり、ダンジョンの出口が見当たらない。


「これ、本当に出口ってあるの?」


 もしかして、このダンジョンって一度入ったらクリアするまで外に出られない設計とか!?


「いやいやいやいや、いくら何でもそんな地獄みたいな仕様は流石にないよね!?」


 でも……今まで戦ってたぬいぐるみ羊の魔物もめっちゃ弱かったのってもしかして、上のフロアで雑魚相手にしっかり戦い方を覚えて、必死で下を目指せって事なんじゃ……


 自分の考えにゾクリと背筋が寒くなる。


「はははははっ、まさかねぇ」


 もしそうなら私はリュックの中にツナマヨおにぎりとジャムパンと水だけを入れて片道切符のダンジョンに潜った大間抜けだ。

 女神様にリコールどころの騒ぎじゃない。


「大丈夫、ちゃんと出口はある筈!」


 自分に言い聞かせるように声を張り上げると、私は出口を求めて気持ち足早に歩きだす。  けれど、出口はまったく見当たらない。


「っていうかこのダンジョン、広すぎじゃない?」


 ふと自分がどれだけの時間潜っていたのかと疑問を抱く。

 レベル上げの為に魔物を求めてさ迷ったり、出口を求めての移動を初めてからそれなりの時間が立っている筈だ。

 なのに出口が見つかる気配はない。

 いや、ダンジョンなんだから、入った人間を迷わせる構造をしてるんだろうけど、それにしたって私みたいな素人が戦えるくらいのフロアでガチに入ってきた人間を遭難させる鬼畜難易度の迷路になってるとは思えない。


「でも、遊園地とかの立体迷路ってマジでどこにいるのか分からなくなってギブアップする人いるらしいしなぁ」


 だから地図で見れば本当はそんなに大した構造じゃない可能性だってある。

 まぁ、地図が無いから全く無意味な予想なんだけどね。


「そうだ、こういう時って右手か左手を壁に付けて移動すればいつかはゴールにたどり着くって何かで見た覚えが!」


 それだ! 私は左手に手を付けながら移動を再開する。これでいつかは出口に着く筈!

 そして遂に見つけた!


「やったー! 下のフロアへの階段だー!」


 そう、地下に降りる階段を見つけたのである!!


「って逆だぁーっ!!」


 下に行ってどうするよ! 上だって! 私は上に行きたいの!!


「くっ、何でこういう時に限って下に行く階段が見つかる訳!!」


 私は泣く泣く地下への階段を諦めると、来た道を戻ってゆく。

 いやだって、準備が整ってない状態で下になんて行ける筈ないじゃん。

 敵だって強くなってるだろうし。


「はぁ……」


 なんかめっちゃ疲れた。

 肩透かしを食らった事で、メンタルのダメージが大きい。

 もしかして本当に出口なんて無いんじゃ……

 その時だった。


「キャーッ!!」


 絹を裂くような女の子の悲鳴が響き渡ったのである。

 いやまぁ、絹を裂いたことないから本当にそんな音するのかわかんないけどね。


「って、そうじゃない! 人の声!!」


 人の声がした、それはつまりこのダンジョンに私以外の人間がいるって事!

 それはつまり、


「出口があるか知ってるかもしれない」


 うぉぉーっ! 私が行くまで生き残って居ろぉーっ!!

 というかどっちだ! どこにいる!?


「こ、こないで!」


「っ! こっちか!」


 私は音のした方向に向かって駆けだす。おっと、行き過ぎた。

 慌てて通り過ぎた十字路をバックすると、右に曲がった先に女の子の姿を発見する。


 その前には、青色のぬいぐるみみたいな人型の姿が。


「青いゴブリン?」


 女の子は壁際でへたり込んでいて、武器は彼女から離れた場所に落ちていた。

 仲間らしき姿は見当たらない。彼女一人だ。


「グギャギャ」


 青いゴブリンは前回戦った緑のゴブリンと違って、なんていうか禍々しい笑い声をあげる。

 緑のゴブリンが原始人なら、青いゴブリンは邪悪な魔物って感じるくらい別物だ。


「まぁでもゴブリンには変わりないよね!」


 私は青いゴブリンに向かって駆けだす。


「あっ、そうだ」


 でも途中で考え直して、足音を消すような走り方に変えると、青いゴブリンの視界に入らない様に女の子とは反対側の壁際を走る。

 そして青いゴブリンまで十分に近づいたところで、一気に跳躍して青いゴブリンに切りかかった。


「てぇぇぇぇいっ!!」


「グギャッ!?」


 私の全体重がかかった一撃が青いゴブリンの体に食い込み、切り裂いた。


「グギャァァァァァッ!!」


 そのままぐるりと体を反転させると、もう一撃叩き込む。


「ギャウウウッ!!」


 けれど青いゴブリンを倒しきる事は出来ず、敵は手にした剣をブンブンと振り回して反撃してくる。


「すぅっ」


 浅く息を吸い込むと、私は青いゴブリンの攻撃を回避する。

 羊のぬいぐるみ魔物相手にギリギリで攻撃を避ける練習をしていたから、あの時ほどギリギリじゃないけど、前よりは落ち着いて避けれてる!


「はぁっ!」


 そして攻撃を外して隙だらけの青いゴブリンの背中に小剣を振り下ろす。


「グギャァァァ!!」


 それでもまだ死なない青いゴブリンが反撃しようと振り返る。


「しつこい!」


 けれど、ゴブリンが完全に振り返る前に、私は青いゴブリンを大上段に切り裂いた。


「ガッ!」


 そうして、遂に青いゴブリンは力付きで地面に崩れ落ちたのだった。


「ふぅ、ふぅ……はぁ~」


 ぷはーっ! やっと倒せた!!

 ダッシュで近づいてから攻撃の連続だったから、息が苦しい。



『レベルアップしました▼』


 数度大きく息を吸い込んで、呼吸を整えていると毎度のようにレベルアップの文字が目の前に現れる。

 前のレベルアップから意外に早くレベルアップしたなぁ。

 こんどはどの能力値が上がってるだろ?


「あ、あの……」


 と思ったら、女の子が話しかけて来た。


「はい?」


 そういえばこの子を助けに来たんだっけ。正しくは出口を知ってるか聞く為だけど。


「っ!? か、可愛ぃ……」


「え?」


 女の子が急に驚いた顔でこっちを見て来たんだけど、なんか声がはっきりしなくて良く聞こえなかったんだよね。


「あ、いえ、なんでもありません! えと、助けてくれてありがとうございます!」


「いえ、気にしないでください。たまたま通りがかっただけなので」


 うん、事実だからね。

 それにしてもこの子不思議な格好をしてるなぁ。

 見た目は中学生か高校生くらいかな?

 ただその服装が凄い。


 なんというか、ゲームに出てくるようないかにもファンタジーっぽい衣装なのだ。

 色鮮やかでカッコいい実用性? 何それって感じのデザインの鎧。

 さらにその下に着ている服はこんな所に着てくるような衣装じゃないでしょってくらいヒラヒラしてて、イベント会場のコスプレイヤーさんかな? って感じだ。


 ついそれと比較する様に自分の装備をみてしまう。

 私の装備は武骨でシンプルな茶色の革鎧。

 武器も地面に落ちているこの子の装備と違って飾り気のない無骨なものだ。

 っていうか落ちてる武器のデザインも凄い! なんか羽根飾りとか、宝石とかも付いてる!

 もしかしてこの子ってお金持ちのお嬢様だったりする!?


「あ、あの、お礼をしたいんですけど」


 お礼! お嬢様からのお礼!?

 一体どんな大金を貰えるの!?

 その言葉に思わずワクワクしてしまう。

 

「そ、それと、もしよければ、同じソロ同士で一緒に下のフロアに行きませんか?」


「っ」


 その言葉を聞いた途端に浮足立っていた心がストンと静かになる。

 駄目だ、下のフロアはいけない。


 何せ装備が足りない。今鞄に入ってるのはジャムパンと天然水だけなんだから。

 ツナマヨおにぎりは食べた。

 そんな状態で下のフロアに降りるなんて自殺行為だ。


 強くなった魔物との戦いで怪我でもしようものなら、回復する手段がない。

 何より、そんな用意もせずにダンジョンに潜ったのかと言われてしまう。


「それは無理」


「そんな!! 貴方となら凄い撮れ高が期待できるのに!!」


「撮れ高?」

 

 何それ?


「あっ、いや何でもないです! えっと、ほら、貴女、じゃなくて二人なら二層の魔物相手でもやり合えますし!」


 だからそれが無理なんだって。

 とはいえ、ダンジョンに回復アイテムも持ち込まずにやってきたヤツなんて思われなくないしなぁ。

 なんかいい説得方法は……

 ふとそこで私は足元に転がっていた青いゴブリンの死体に気付く。

 そうだ!


「貴方には無理」


「え?」


 私は彼女が反論する前に青いゴブリンの死体を指差す。


「この程度の魔物相手に手も足も出ないんじゃ論外。もっとレベル上げをしないと下層じゃ通用しない」


 うん、完璧な論破。

 ダンジョンの事を何も知らない私でも倒せたような魔物を倒せないんだもん。

 間違いなくこの子は戦い慣れていない。

 そんな子を連れて見たことも無い魔物と戦うとか、自殺行為だよ。


「大人しく羊のぬいぐるみ相手にレベル上げをしたほうがいいよ」


「ま、待って、あのゴブリンは……」


「出口の場所は分かる?」


「え?」


「出口の場所、ちゃんと覚えてる?」


「う、うん。大丈夫」


 やった! 出口はあるんだ!

 よし、この子に教えてもらおう!

 あーでも、馬鹿正直に教えてって言ったら、この子に足元見られて一緒に下の階層に行こうなんて言われそうだしなぁ……よし!


「じゃあ言ってみて。ここからどう進めば帰る事が出来る?」


 ちゃんと覚えてるか確認する体で聞いてみる!


「それは地図を見れば……」


 地図! 地図なんてあるんだ!

 あっ、でも地図に頼られたらマズい。何か良い言い訳は……あっ、そうだ!


「……魔物から逃げて現在地が分からなくなったら地図なんて意味ない。ちゃんと頭の中に道が叩き込まれているかの方が大事。地図を見ずに答える事」


 よし、完璧!!


「え!? え、え~と……たしかあっちの十字路を右に曲がってきたから、その逆で……あっちに向かっていって、十字路を左に曲がって、突き当りまで行ったら右に曲がって二つ目の横道に入ったら地上への階段です」


 おお! 結構近いっぽい!


「うん、ちゃんと覚えてて偉い」


ポンポンと肩を叩いて褒めてあげる。


「ふわっ!」


 え? 何? 急に変な声をあげたんだけど?


「もしかして、怪我してる?」


 おいおいおい、怪我なんかしてたのならなおさら下になんて行けないじゃん!

 大丈夫かこの子!?


「あ、はい、大丈夫です! ちょっと良い匂いでサラサラでビックリしただけです!」


「そ、そう?」


 サラサラ? もしかしてゴブリンに襲われた事で、まだパニックが収まってないのかな?


「本当に大丈夫?」


「はい! もう大丈夫です!」


 うーん、ちょっと心配だけど大丈夫って言ってるから良いのかなぁ?

 まぁ装備は豪華だし、回復アイテムも色々持ってそうだし、大丈夫かな。

 一度怖い目に遭ったら流石に慎重になるだろうし、私が居なくなれば流石に一人で下のフロアに行こうなんて思わないでしょ。


「じゃあ私は行くから。まだ残るなら気を付けてね」


「は、はい! ありがとうございました!」


 彼女と別れた私は、さっきの会話を思い出して出口を目指す。


「ふぅ、ようやく地上に上がれるよ」


 あー、出口が見えてきたらどっと疲れが押し寄せて来たよ。

 ホント今日は色々あったからなぁ。


 神様と出会って異世界に行くことになって、ダンジョンに潜ったらいきなり魔物と戦って死にそうになって吐きそうになって……


 私は初めて出会った魔物であるゴブリンの事を思い出す。

 あれは本当にびっくりしたし怖かったなぁ。

 羊のぬいぐるみの魔物との戦いはそれほどでもなかったけど、さっきの青いゴブリンは……


「あれ?」


 そこまで思いだして私は気付く。


「ゴブリンとの戦い、怖くなかったな」


 それは、人の命がかかっていたからだったのか、それともダンジョンをさ迷い続けて疲れ果てていたからだったのか、私はあの青いゴブリンを相手にしたにも関わらず、恐怖や嫌悪感を感じる事なく戦えていた事に今更ながらに気付いたのだった。


「慣れた……のかな?」


 そんな事を思いながら、私はダンジョンを出る為の階段を上り終えたのだった。

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