第3話 女神様のメッセージ(ブツ切り)
女神様からのメッセージを読んでいた私だったけれど、突然文章が消えてしまった。
「ど、どういう事ぉーっ!?」
まさか女神様の送信ミス!? 神様も送信ミスってするの!?
「お、落ち着け私! こういう時は何か原因がある筈だ!」
そう、何もしてないのに壊れたって言う時は大抵なにかやらかしてって、それ機械の話ぃ!!
「それよりももう一度メッセージを受け取る方法を探さないと」
女神様のメッセージ、現れたのは多分……
「レベルが上がったから?」
私はわずかな時間逡巡すると、覚悟を決めて、床を見る。
するとそこにはゴブリンの死体、私が殺したゴブリンの死体が転がっていた。
青い色の、けれど匂いはしっかりと私の知っている匂いがする血に塗れた死体。
「私がやった……んだよね」
これと同じ事をする? 私が?
もう一度? 出来るの……?
いや分かってる。やらなきゃ女神様のメッセージは見れない。
でも、今度こそ私はゴブリンに殺されるかもしれない。
そう思うとお腹から酸っぱいものがこみ上げて来そうになる。
「っ! ゴクン!」
それを必死で飲み込むと、私はゴブリンの死体を直視する。
「ごめんなさい!」
しっかり90度腰を曲げた謝罪。
うん、分かってる。こんなの自己満足だ。
でもやらずにはいられなかった。
「だって、これからも私はゴブリン達と戦わないといけないんだから」
きっとこれが後で説明するって言ってたヤツなんだから。
だから戦って、とにかく女神様からのメッセージを読んで情報を集めないと。
でないと何をすればいいのかも分からないままだ。
女神様はダンジョンを攻略してくれって言ったけど、ただダンジョンに潜って戦い続ければいいのか、それとも何か特別な事をすればいいのかもわからない。
「だから、戦わないと」
レベルを上げて、情報を得て、強くなる。
強くなれば生き残る可能性は高まる。何も間違ってない。
「だから、とにかく戦う!」
私はもうやってしまったんだ。
ここでもう出来ないなんて言って逃げだしたら、一生このゴブリンの事を夢に見るだろう。
それに、そんなのはこのゴブリンにも失礼だ。
「だから……怖くても戦う!」
覚悟を決めた私は、その場を後にする。
新たな敵を求めて、レベルアップする為に。
◆
「ぷめー」
「なんだこれぇーっ!!」
ゴブリンの死体の下を離れた私は、新たな魔物と遭遇していた。
それは、大きな羊のぬいぐるみみたいな生き物だった。
……うん、ぜんっぜん迫力ない!!
羊のぬいぐるみはぽてぽてと私に向かってくるけれど、全然早くないから避けるのは簡単だ。
そして除けざまに剣を思いっきり振り下ろすと、あっさりと羊のぬいぐるみは死んだ。
「ぷめめめぇーっ!」
ただし、手ごたえはしっかりお肉を切ってる感じがした。あとデカい。私の背丈と同じくらいデカい。
なんか、悪趣味だなぁ……
なんていうか、ゴブリンに比べれば殺気みたいなものも感じなかったから、なお拍子抜けだ。
いや、殺伐とした戦いがしたい訳じゃないけどさ。
その後、何匹も羊のぬいぐるみ魔物と遭遇しては危なげなく倒してゆく。
「もしかして、本当はこの魔物を倒して経験を積んでからゴブリンと戦うのが本来の攻略法なんじゃ……」
事実、同じぬいぐるみっぽい見た目の割に、ゴブリンの方はマジでこっちを殺すべく襲い掛かってきた。
それに対してこの羊のぬいぐるみは練習用って感じのゆるい動きだ。デカいけど。
ロールプレイングゲームでも一つのエリアで何種類も敵が出て来るし、この羊のぬいぐるみは弱くて、ゴブリンは強い敵って事なんだろうね。
『レベルアップしました▼』
「来たっ!」
10匹ほども羊のぬいぐるみ魔物を倒したところで、待望のレベルアップが表示された。
よく見ると文章の周りに半透明の枠が見えるので、これはゲームのメッセージウインドウってヤツっぽい。
興奮を押さえながら矢印に触れると前回と同じようにステータスが表示される。
※※※※
Lv2→3
体力4→5
魔力3
筋力4→5
敏捷力4
器用さ3
知力3
直感3
隠蔽3
回復力3
幸運3
▼
よ、よし、それじゃさっそく女神様のメッセージの続きを確認だ!
『達の力の欠片が付着した状態です。その力で、貴方は大神達に気付かれず、彼等の世界に▼』
そこで女神様のメッセージが不自然なところで終わる。
「まただ」
そして点滅するマークを押すと、次の文章が表示される。
『侵入する事が出来るのです。ですから私達は、貴方の魂を修復して事態を解決する為の使▼』
そしてやっぱりメッセージが途切れる。
「……1,2,3」
私はメッセージに触れない様にゆっくりと数を数えていく。
「……39、40。多分これって、一行40文字までって制限がある?」
何で神様なのにそんな中途半端な制限がある訳?
うーん、謎だ。
なんか神様達のルール……というか、メールの仕様?
「いや流石にそれはないか。とにかく続きを」
点滅するマークに触れ、次のメッセージを確認する。
『徒とすることにしたのです。どうか全ての世界を救うために協力してください。▼』
念の為文字数を確認すると、今度は40文字になる前に文章が終わっていた。
「切りのいいところで終わってるし、改行したら文字数が余っていても終わりって事かな?」
そして再度マークを押すと、メッセージは消えてしまった。
メッセージは一度に3行まで? それとも言いたい事を全部書き終えたから終わった?
「うーん分からん。とにかくもっと戦ってレベル上げをしながら検証しないと」
という訳で私はレベル上げを再開する事事にした。
ただし戦うのは羊のぬいぐるみ魔物メインだ。ゴブリンと戦うのはまだ心の準備が……。
「プメメー」
うん、やっぱりこいつは全然怖くない。
それに動きも大したことないから倒すのは楽々だ。
ただその分経験値は少ないんじゃないかな。
ゴブリンは一発でレベルが上がったけど、コイツは10匹近く戦って漸くだったし。
レベル1と2からのレベル差もあったけど、多分必要な経験値は誤差範囲だと思う。
「なら今のうちに色々練習しておいた方がいいかも。
折角なので、敵の攻撃をギリギリで回避する為の練習をしてみる。
「おっとっと」
動きが遅いとはいえ、やっぱり動く生き物の攻撃をギリギリで避けるってちょっとドキドキするね
それに弱いとはいえ、攻撃が当たったらどれだけダメージを受けるか分かんないからやっぱ緊張する。
「てい!」
今度は狙った場所に当てる為練習だ。
ゴブリンの時はなるべく当てやすい場所に当てようとしたから上手くいったけど、これからの戦いじゃ当てにくい場所に当てないと倒せない敵も出てくるだろうし。
私は羊のぬいぐるみ魔物の足首を狙ってみるけれど、場所が下の方だけに当てづらい。
うっかりすると周囲の毛に巻き込まれて剣が引っかかっちゃう。
「ふー、集中集中」
ちゃんと狙った場所に当てれるように集中して、攻撃を放ってゆく。
「ぷめめぇ~!」
「よし、当たった!」
その後、何度も羊のぬいぐるみ魔物を探しては色々な戦い方を模索する。
「えい!」
今度は剣を使わず、遠くから石を投げての攻撃だ。
ダンジョンなんだし、そのうち弓とかの遠距離攻撃が手に入るかもしれないし、ゾンビみたいな近づきたくない敵と戦う時が来るかもしれないからね。
スカッ
けれど私の投げた石は明後日の方向に飛んでいく。
「……! ぷめー!」
そして地面に落ちた石の音で私の存在に気付いた羊のぬいぐるみ魔物が私に向かって突進してくる。
とはいえ、脚が遅いからまだ余裕がある。
「今のうちに!」
私は手にした石を羊のぬいぐるみ魔物に狙いを定めて投げ続ける。
「ぷめぇぇっ!
そして何発も外した末に、ようやく一発が命中した。
けれど敵はかなり近づいて来ていて、もう石を投げている余裕はない。
「なら接近戦!」
私は羊のぬいぐるみ魔物の突進を回避しつつ、腰の剣を抜く。
「えーい!」
そしてよこからバッサリと小剣を振り下ろして羊のぬいぐるみ魔物を倒した。
はー、それにしても5,6回投げて1発だけ命中とか、飛び道具の練習はマジでしておいた方がいいねこりゃ。
再びレベルを上げる為にダンジョンをさ迷っていた私は、新たな獲物を発見する。
「よし、次……げっ!」
だったのだけど、相手の姿に気付いて慌てて物陰に隠れる。
「ギャギィ……」
そう、発見したのはゴブリンだったのだ。
ゴブリン、私が初めて戦った魔物。
そして初めて殺した命。
「っ!」
あの時の事を思いだして胃の中から何かが逆流する感覚を思い出す。
「っ~! ごくん!」
なんとか我慢して飲み込むと、ゴブリンに見つからない様に息をひそめる。
「……」
幸い、ゴブリンはそんなに目が良くなかったのか、私の姿に気付かなかったらしく、そのままどこかに行ってしまった。
「っ、はぁ~」
危なかった。いや、色々練習したし、戦えば今度は危なげなく勝てたと思うんだけど、それでも羊のぬいぐるみ魔物とは比べ物にならないくらい生き物っぽさのあるゴブリンとはもうすこし自分の中の何かが落ち着くまで戦いたくない。いずれは戦わないといけないとしてもね。
「とにかく暫くはゴブリンを見つけたら隠れる事にしよう」
うん、自分でも驚いたけど、結構なトラウマになってたみたい。
『レベルアップしました▼』
「あ、来た」
20匹ちかく羊のぬいぐるみ魔物を倒したところで、再びレベルアップのメッセージが表示される。
※※※※
Lv3→4
体力5→6
魔力3
筋力5→6
敏捷力4→5
器用さ3→4
知力3→4
直感3→4
隠蔽3→4
回復力3
幸運3
▼
「おおっ!?」
なにこれ、めっちゃ沢山能力値上がった!
「さっきは確か二つか三つしかレベルが上がってなかったのに。なんだろ、ランダムで上がるのかな?」
いや、ランダムだったら運の悪い人は全然能力値が上がらずにレベルが高くなっても弱いままって事になるから無いんじゃないかな。多分だけど。
「じゃあ何か能力値が上がる条件があるとか?」
おっといけない、その前に女神様のメッセージだ。
何か重要な情報があるかもしれない。
『さて、それでは実際に貴方にしてもらいたい事を説明します』
「来た来た!」
やっとチュートリアルっぽくなってきましたよ! チュートリアル女神様、略してチュ神様!
『貴方の目的はダンジョンを攻略する事です。具体的にはダンジョン最下層にあるコアを▼』
「コア!?」
何だそれと逸る気持ちで点滅するマークを触る。
『破壊してもらいたいのです。コアとは文字通りダンジョンの核で、これを破壊されるとダ▼』
『ンジョンを攻略した証となります。攻略されたダンジョンは消滅し、大神達は次のダンジ▼』
そこで今回も文章が途切れる。
「成る程、ダンジョンの一番下にコアっていうのがあるんだ」
壊せばクリアなら、とにかく一番下のフロアに行って怪しい物を片っ端から壊せば解決って事だね!
「よし、目的が見えて来た!」
となれば後は最下層に行くためにレベルを上げまくるだけだよね!
「あっ、レベルって言えば、さっきのレベルアップでなんか妙に沢山能力値が上がったんだよね」
最初はそんなに何種類も上がらなかったのにね。
1種類か2種類なら誤差だけど、前のレベルの時はたった2つだったしねぇ。
「やっぱ能力値が上がるには何か条件があるのかも」
でもその条件が分からない。
もしかしたら女神様からのメッセージでその内説明されるのかもしれないけど、いつになるか分かんないしなぁ。
「あー、ネットで攻略まとめとか見れればなぁ」
ゲームとかだと誰かが攻略情報を乗せたサイトとか作ってくれるのにね。
いやこれは現実の話だから攻略サイトなんて……
「いや寧ろ現実だからあるんじゃ……」
そうだ、この世界はダンジョンのある世界。
つまり日常的にダンジョンの話が出てくる世界の筈。
だとすれば、このレベルアップ現象に関してもなんらかの情報があるかも!
「まぁこれが神様の頼みを受けた私だけの能力とかだと詰むけど」
でもそうだね。そろそろダンジョンを出てこの世界の人の住む場所を見ても良いんじゃないかな。
ゲーム序盤のレベル上げは十分にしたと思うし。いやゲームじゃなくて現実だけど。
「よし、次の目的は地上にあがる階段か何かを探すこと!」
新たな目的を見つけた私は、気合を入れて地上への出口を求めるのだった。
ぐーっ
そんな時、私の体の真ん中から絞り出すような音が鳴った。
「……その前にご飯にしようかな」
ツナマヨおにぎり美味しかったです。
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