第1話 異世界に転生ってだいたい選択肢ないよね(マジレス)

 私は薄暗い場所に居た。

 周囲は照明もない密閉空間なのに何故か周りの景色が見える。

 長い通路、時折見える横道はここが地下鉄の構内のような人工建造物の中だと分かる。


「ああ、そうか。私、本当に異世界に転生したんだ」


 ようやく落ち着いた私は、自分が異世界にやってきた事を自覚し、それまでに起きた出来事を思い出す。


 ◆


「唐突ですが、貴女は死にました」


 それは本当に唐突な宣言だった。

 突然の事に何事!? と思ったけれど目の前の光景を見ては、はい、と言ってしまいそうだった。

 だって私の前には、とっても大きくて物凄い美人が居たからだ。

 いかにも神様っぽい薄い衣装を着て、手には金色の長い杖を持っている。

 何より物凄い美人だ。全てのパーツが奇跡的なバランスで組みあがっている。

 文字通り神がかった美貌という奴だ。

 それ以上に驚いたのは、その美人さんの大きさだ。

 見上げる程大きいというか、もうビルみたいな大きさ。

 お台場にある国民的ロボットアニメの像くらい大きい。

 うん、間違いなく人間じゃないよね。

あと足元は雲で、見渡す限り周囲は真っ白な世界だった。

 

「えっと……はぁ」


 目の前のショッキングな光景が凄すぎて、正直何と答えればいいのか分からなかった。

そうなんですね、じゃあ私はあの世に行くんですか? それともええと、貴女は女神様ですか? とか?


「いいえ、貴方には冥界ではなく、異世界に行ってほしいのです」


「異世界!?」


 いかにも漫画みたいな展開に驚き半分戸惑い半分。

 異世界ってマジ!?というワクワクと、一体どんな世界に送られるのっていう不安だ。

 まぁ単に夢を見てるだけって可能性もあるけど。


「いいえ、夢ではありません。まぁ夢と思い込んでいたとしても、時間が立てば現実だと理解するでしょうが、夢と思い込んだまま迂闊な行動をされても困りますからね」


 成程、たしかにどうせ夢だからと無茶をして死んだら間抜けにも程があるからね。

 とりあえずホントに現実だと思う事にしよう。

 もしこれが夢だとしたら、私は超巨大な女の人に異世界に送られる夢を見るおかしい奴って事になっちゃうしね。


「では説明を続けます。実は貴方が死んだのは、これからゆく世界を管理する大神達の諍いが原因なのです」


「神様の諍い……それって喧嘩が原因って事!?」


 何それ!? 私は他人の喧嘩のとばっちりを受けて死んだって事!?


「その通りです。大神達の諍いは凄まじく、管理する世界だけにとどまらず、周辺の世界にまで多大な影響を与えてしまったのです」


 それで沢山の人間が死んで、私はその中の一人だったと。ホント迷惑な話だなぁ。


「いえ、死んだのは貴方一人です」


「え?」


 死んだのは私一人?


「大神達の諍いを察した全ての神々が迅速に制止に動いた事で、大規模な災害や多くの負傷者こそ出たものの奇跡的に死者は一人で済みました」


 その死者って言うのが……私ぃぃーーーっ!?


「ええ、奇跡的な確率の不幸でした。いくつもの世界の合計数京人の被害者達の中で、たった一人の死者が貴方です」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!?」


 何それ! 運が悪いにも程があるでしょ!!


「そうですね、100回人生をやり直して毎年宝くじで一等を当てるくらいの確率といえば伝わるでしょうか?」


「そんな事に運を使いたくなかったぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 運の使い方おかしすぎぃぃぃぃぃぃっ!!


「ですが捨てる神あれば拾う神ありですよ」


「え?」


「貴方の世界の言葉ですよね? つまり悪いことがあれば良い事もあるという事です」


 お、おお! 何かフォローしてもらえるって事ですか!?


「貴方が大神達の諍いに巻き込まれた事で、私達神々も大神の諍いに介入できるようになったのです!」


「良い事ってそっち側ぁぁぁぁぁ!?」


「大神達は神々の中でも最高位の神格の持ち主。それ故に私達では彼等が本気になって争った時に止める事が出来ないのです」


 予想外に神様世界のヒエラルキーが極端だった件。


「しかし貴方という存在を介する事で、大神達の力を削ぐことが出来るのです」


 はぁ、つまり神様達のマウントの取り合いってことですね。


「勿論貴方にも利益はあります」


 そりゃまたどんな利益が?


「まず大神達の戦いで粉々に砕けて物言わぬ魂の残骸になっていた貴方を私の権能で修復し、ちゃんと自分の意志で物を考え、行動できるまでに回復させました」


「なんか私凄い事になってたーっ!?」


「ええ、もう魂のミンチですよミンチ。私が神でなかったら貴方は冥界に行くことも出来ず時空の狭間で存在が霧散していた所です」


 ひえぇ、良く分かんないけど滅茶苦茶ヤバかったのは分かった……


「さて、ここからが本題です。私達神々は貴方を救った対価として、大神達の世界にいってある事をしてほしいのです」


「ある事ですか?」


「それは大神達が作ったダンジョンを攻略する事です」


 ダンジョン? それってファンタジーゲームとかに出てくるモンスターがうじゃうじゃしてる場所の事?


「そう、そのダンジョンです。貴方には大神達が作ったダンジョンを攻略し、彼等の力を削いでほしいのです」


力を削ぐ? ダンジョンを攻略して? それでどうやって?


「そろそろ大神達の世界に干渉する為の制限時間が来てしまいます。なので詳しい説明はまた後程。とにかく貴方が協力してくれたらそれが出来るという事です。あとは貴方にそれをやってくれる意思があるかどうかの問題なのです」


「断っても良いんですか?」


「その場合貴方の送られる世界がエスカレートした大神達の諍いで滅びます」


「元の世界に帰してください!!」


「元の世界も大神達の諍いで酷いことになっていて、大神達を放っておけばどのみち巻き添えを食って滅びます」


「それ選択肢ないじゃないですかー!」


「それだけ迷惑な神々という事なんですよ。けれど貴方が協力してくれれば、世界は滅びることなく存続します。貴方にはそれだけの力を授けました。あとは貴方の意思だけです」


 それだけ言うと、女神様は言葉を切った。

同時に、私の足元から光が立ち上って来る。


「時間です。このタイミングを逃せば大神達の世界に貴方を送る事は出来なくなってしまうのです」


 これ以上説明を聞くのは無理かぁ。

 まぁ後で説明するって言ってたし、詳しい話はホントに後で聞かせてもらえる……のかなぁ。


「ええと、私が何とかしないと世界が滅びちゃうんですよね?」


「はい」


「……分かりました」


 世界が滅びるって言うのなら、やるしかないじゃんねぇ。


「ありがとうございます。貴方の協力に心から感謝を。そして向こうの世界に付いたら、まずは魔物と戦うと良いでしょう。最低限の装備は付け……


 と、そこで私視界は完全に光に包まれ、意識もまた光に飲まれてゆく。

 ああ、まさか死んじゃった上に神様の騒動に強引に巻き込まれちゃうなんてなぁ。

 ……でも、実を言えば、ちょっとだけ、いやかなりワクワクしていたのは事実だったりする。


 だって世界を救うために君の力が必要なんだ!って言われたらねぇ……?

 どうやら私の中にも、厨二病の魂は宿っていたみたいだ。


「異世界って、どんなところなんだろう」


 そして、私の意識は完全に途絶えた。


 ◆


「行きましたね」


 少女の魂が消えた世界は、真っ暗な漆黒に包まれていた。

 そんな世界に、一人ポツンと輝くのは彼女を送った女神の姿。


「数京人に一人の奇跡的な確率の不運」


 彼方を見つめ一人呟く女神。


「すなわち、類まれな不運の揺り戻しを期待できる魂」


 誰かに伝える訳でもなく、女神は言葉を紡ぎ続ける。


「期待していますよ。私の――」


 その言葉を最後に女神の姿は消え、世界は完全な闇に包まれたのだった。

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