ダンジョン暮らしの転生少女~ゆるっとダンジョンで暮らしながらガチ攻略します~

十一屋翠

第1章 初めてのダンジョン編

第0話 ダンジョンの中は快適(住めば都)

「おっ、居た居た」


 暗視スキルと遠見スキルを併用した私は、遥か先の通路の曲がり角から出て来た魔物の姿を確認する。


「狙って狙って……今!」


射撃スキルによる補正を受けた私の放った矢は、寸分たがわず魔物の眉間を貫き、後ろの壁に突き刺さった。


「よっし倒した!!」


 倒した魔物を回収すると、解体スキルでササッとバラバラに分解し、魔法の袋に収納してゆく。


「いつ見ても不思議だよね。こんなに小さいのにどんな大きなものでも入るんだから」


 私の生活を成り立たせてくれる要である魔法の袋。この子がいなかったら今みたいな生活は絶対できなかっただろうね。


「さぁて、売り物も溜まってきたし、そろそろ放出に行こうかな」


 狩りを終えた私は、新たな標的を求めてダンジョンの中を彷徨い歩く。

 ただし今度の獲物は狩る為の獲物じゃない。


「見ーつけた」


 私が見つけたのは、鎧やローブを纏った4人の男女。

 彼等はこのダンジョンで魔物を倒して金になる魔物の素材を集めたり、ダンジョンの奥に隠された宝を求める探索者達だ。


 けれど、彼等はそんな華やかな肩書とは裏腹に、沈んだ顔をしていた。


「それじゃ売り込みますか」


 私はフードを目深に被ると、彼等に近づいてゆく。


「はぁ、どうするよ」


「……そりゃこっちのセリフだっての。どうすんだよ、今日が納期なんだぞ!?」


「分かってるよ! でもエルダーワイバーンが一匹も見つからなかったんだからしょうがないだろ!!」


 項垂れていた彼等が口論を始める。


「あったりまえだ! エルダーワイバーンがそう簡単に見つかる訳ないだろ! なのにお前が勝手にエルダーワイバーンの素材蒐集の依頼を受けるから! しかも3個も!」


 エルダーワイバーンって言うのはドラゴン型の魔物の事だね。

 名前に長老って付くだけあって、それなりに強い。

 ただ、怒ってる人が言うように、3個は無謀かな。

エルダーワイバーンは普通のワイバーンに比べて数が少ないから、まず見つけるだけで大変だ。


「だってよ、3匹倒せば1匹あたりがソロで売るよりも高く売れるんだよ!」


「そんなの詐欺に決まってるだろ!」


 あー、どうやらあの人は騙されちゃったみたいだね。

 探索者が受ける依頼の中には、違約金目当てで絶妙に達成が不可能な依頼をしてくる依頼主が居るんだよね。

 一応は探索者協会がそういう依頼を弾くらしいんだけど、どうしても急ぎで必要とか言えば、ゴリ押しできるみたいだし。


「でも、それなら絶対買ってくれるね」


 私は隠形スキルで気配を消すと彼等に近づいて囁く。


「なら、私の持っている素材を買いますか?」


「「っ!?」」


 突然耳元で囁かれた二人が、ビクリと体を震わせて勢いよくこちらに振り返る。


「なっ!? いつの間に!?」


「だ、誰だ!?」


「どうも~」


私に警戒した彼等は、慌てて後ろに飛びのく。


「おい! 何で何も言わなかったんだよ!」


「わ、私達にも何が何だか……」


「この子、急に眼の前に現れたのよ!」


 二人の口論を少し離れた位置から見ていた仲間達が、私が突然現れたように見えた事で動揺の声を上げる。


「で、どうします? 素材、買います?」


「素材?」


 私の言葉に、口論していた男の人の片割れがハッとした顔になる。


「突然目の前に現れて素材の買取を提案してくる少女……まさか、ダンジョンの妖精か!?」


「「「ダンジョンの妖精!?」」」


 男の人の言葉に、仲間の人達が大声を上げて驚く。


「マジかよ! 実在したのか!?」


「初めて見た……」


「これがダンジョンの妖精……」


「……」


 私は無言で魔法の袋からさっき狩ったエルダーワイバーンの素材を取りだす。


「それは!?」


「相場は50万。3体で150万。ダンジョン価格で250万でどう?」


「「「「250万!?」


 250万円と言われ、探索者達が目を丸くする。


「い、いくらなんでも高すぎない!?」


 確かに相場よりは高いかもね。でも、それ以上に安いと思うよ。


「だが、250万で手に入るのなら、違約金を支払わずに済む」


「だな。依頼を達成できなかったら、違約金だけじゃなく、探索者ランクも下がっちまう」


 値段に驚く仲間に対し、口論していた二人は揃って買った方が得だと答える。

 そうだね。この世界の探索者にとっては、冒険者ランクの維持って重要だもんね。


「分かった。買おう」


「交渉成立ですね。あっ、私の欲しい素材やアイテムを提供してくれれば、その分割引きますよ」


 ◆


「ふんふふーん」


アイテムを売って懐が温かくなった私は、スーパーで買ったちょっとお高い料理の入った袋を手にダンジョンを歩いていた。


 そして行き止まりにやってきた私は、通路の壁に手を当ててある操作をする。すると……


ゴゴゴゴッ


 鈍い音を立てて、ダンジョンの壁に穴が開いた。

 私は躊躇うことなくその中に入ってゆくと、そこには家具が揃えられた部屋が広がっていた。


「ただいまー」


 帰還の声をあげながら内壁を操作して穴を塞ぐと、料理をテーブルに置いてソファーにお尻から飛び込む。


「ふぃー、今日も疲れたー」


 鎧を脱いで、剣をベルトから外すとソファーの端に投げ捨てる。


「さーて、今日のご飯を頂きますかー」


 テーブルの上に買ってきた料理をズラリと並べる。


「おおー、奮発しただけあって美味しそー!」


 もう見た目からして美味しそうだ。


「いっただっきまーす!」


 手を合わせてお約束の一言を言うと、さっそく目についた料理から口にしてゆく。


「……うん、美味しい!」


 今日は儲かったから、何時もより高い品をチョイスしたけど、正解だったね!


「これもいける。こっちも美味しい!」


 高いものなら何でも美味しい訳じゃないけど、まぁ高いものにハズれは少ないよね!


「ぷはーっ、美味しかったぁー!」


 食後のペットボトルのお茶を飲み干すと、私はソファーに横たわる。


「いやー、ダンジョンで暮らし始めた頃はどうなるかと思ったけど、住めば都だねぇ」


 私は隠し部屋を彩る家具やアイテム達に視線を送る。

 ホント荷物が増えたなぁ。


「ふぁ~、お風呂入ったら寝よっと」


 部屋の片隅に設置された簡易バスで体を洗うと、パジャマに着替えてベッドに飛び込む。


「そろそろ……かなぁ」


 眠気に襲われてウトウトしながら、私は今後の事を考えて眠りに落ちた。


 ◆


 翌朝、目を覚ました私は朝食を食べ、着替えを済ませると鎧を身に纏い、剣をベルトに装着する。


「さーて、それじゃあそろそろ行きますか」


 そう言いながら懐から取り出した小箱を床に置くと、隠し部屋を彩っていた家具が一瞬で消える。


「よし、準備完了!」


 小箱を回収すると、私は隠し部屋を後にする。


「そろそろこのダンジョンもクリアしますか!」

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