第36話 小賢しき英断
「流石、わしのひ孫ぢゃ! そうこなくては!」
ぐぅ~、なんて調子の良い、
もしかしてこうなることは初めから折り込み済みだったのでは?
……まあ今はそれどころではないが。
「戦況は?」
ぼくの質問に、美國は「こふぉん」と咳を払い、
「最悪です。1階にある1年生の教室は全滅。退避してきた1年生を交えて、現在、2階にある2年生の教室で防衛線を張っていますが、すでに半分の教室が落とされ、撤退する者、迎撃する者で、一切の連携が取れずでわちゃわちゃです」
「わちゃわちゃか~」
各階を回って、侵入した魔物を殺し尽くせば良い、という話ではなさそうだ。
「いちいち殺す暇も惜しいか……なら、せめて無力化できれば、――そだっ! 状態異常系の魔法を学校中にばらまけば――」
「賛同しかねます」と、美國。
「……理由を聞いても?」
「第一に、今のチビ精霊の力では敵味方の識別が出来ません。状態異常系の魔法をばら撒いたが最後、もれなく学校中の誰も彼もが無効化できるでしょう」
「非常時だからやむを得ないのでは?」
「そうかもしれませんが、仮にゴブリン・オーガを無効化できるレベルの状態異常をばら撒いた場合、魔物より先に、まず2年生や1年生がただでは済みません」
ぽりぽりと痒くもない額を掻く。オチが読めたような気がした。
「ゴブリン・オーガは、主にB級のダンジョンに生息し、C級下位やD級上位のダンジョンでは量産型魔王を担うこともある魔物です」
「う、うん……」
「能力値は、どんな低く見積もっても2年生や1年生よりも上です。3年生で同格くらいでしょうか。そんなやつらに効果がある状態異常となると相当なものとなるでしょう」
「か、かもね……」
「能力値の低い2年生や1年生は堪ったものではありません」
んぐっ、と生唾を飲みこう。
「『麻痺』なら一生涯残り続け、『睡眠』なら永眠となり、『毒』なら障害が残るレベルの損傷を与えることでしょう。まさに無差別テロです。いえ、無差別テロ精霊です」
「そ、そんなことない、――で、す!」
にぶるは泡ぶくを飛ばして反抗するけど、
「これじゃあどっちが悪者かわからなくなるな。――却下だ」
「あう~」
にぶるは打ちひしがれ、その場に四つん這いで項垂れた。
――ん?
にぶるから流れた水が小さな筋となってその場にいあわせた不運なアリンコを押し流す。
「――あっ!」
「どうしました?」
「めっちゃ良いこと思いついた~♪」
鏡がないからわからないが、ぼくは滅茶苦茶悪い顔をしている自覚だけはあった。
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