第29話 不都合な答え
「ねぇ、どうしてぼくの精霊はみんは下着姿なの?」
ぱんぴ~しかり、にぶるしかり、挙げ句の果てにこの子まで、どこに出しても恥ずかしい下着姿で作成されたのだ。これはもうただの偶然とは思えなかった。
「そりゃ無防備な姿の方が、お前さんは付き合いやすかろう?」
「――んがっ!」
セシルちゃんに簡単に言われ、思わず鼻で変な答え方をしてしまった。
「ソ、ソンナコトナイヨ?!」
「人間不信の表れが精霊の姿に影響された結果ぢゃろて」
……ぐぅ、の音もでない。
確かに、ぼくには人間不信の気がある。肉壁にされたり、罠解除のための捨て石にされたり、魔物をおびき寄せるための囮にされたことがあるからだ。
そのとき、ぼくが逃げ出さないようにと後ろから剣で脅されたり、麻痺毒で動けないようにされたり、酷いときなんか魔物と一緒に魔法に巻き込まれたりした。
……ゆるすまじ!
思い出すだけではらわたが煮えくり返る。あと必ず復讐するとして……なるほど。
剣も毒も魔法も装備してない下着姿なら、確かに付き合いやすい、か?
「もしかしてみんなちびっ子なのも……?」
セシルちゃんの顔から表情と呼べるものが消えた。
あとには、阿呆を見る目と半開きになった口が呆れの極致を物語る。
「わからんか?」
「わかる。けど、わからん」
「わしの口から聞きたいか?」
「聞きたくない。けど、聞きたい」
セシルちゃんは「う~む」と小首を傾げた。
「本当は自分で気づくのが一番ダメージが少なくてよいのだがの……」
「――?」
「まあ一種の成長痛だと思えば、よい、……か?」
「もったいぶらないで教えてよ」
「よかろう、とくと聞け」
ごきゅん、と喉が鳴る。
「お前――」
「うん」
「家族以外ぢゃ、幼女としかしかまともに話せんではないか」
「――!!!!」
今度は変な答え方はでなかった。ただただ、頭の上に雷が落ちたかのようだった。
「そんな……馬鹿なっ! ぼくを馬鹿にしすぎ!」
「せいぜい、
「そ、そんなことないよ? 近所のおばちゃんとは普通に挨拶しているしさ!」
確かに……同級生に話すより、ぱんぴ~たちとおしゃべりしていた方が気楽だし、楽しいけどさ、それって……ふつ~、じゃない? ふつ~、だよね?
「その程度で威張るな!」
「――あっ、そうだ。もうひとり精霊がいたんだった!」
「逃げるな!」
都合の悪いことはからは逃げるに限る。三十六計逃げるにしかず、と言うしね。
さて、もうひとりの精霊はどんな子かな。よちよちでも歩けると良いんだけど。
「……あれ?」
「どうした?」
「もうひとりは?」
「いるではないか」
「んん?」
いるではないか、と偉そうに言われても……、
ぼくには低級の火の精霊っこしか見えな、……ん?
「まさかっ――」
これが間違い探しなら恐ろしい難易度だ。何故なら何の違和感もないから。
低級の火の精霊っこがいつの間にか熊のぬいぐるみをだっこしているのである。
衣装同様、「精霊作成」によって作られた可愛いオブジェの可能性もあるが、ならば作成された当初から抱っこしていたはずだ。さっきまではなかった。
さらに、ぼくの確信を深めたのは、熊のぬいぐるみの毛並みだ。
燃えているのである。
火の精霊っこのツインテールと同じに、先端の方が弱火加減にメラメラと。
「――このぬいぐるみみたいなのが?」
「よかったの、幼女じゃなくて」
ししししっ、とセシルちゃんはほくそ笑むけど、
……酷い皮肉だ! そして酷い侮辱でもある!
「ぐぬぬぬっ、ぼくが幼女とぬいぐるみくらいしかまともに付き合えないと?!」
「おや、違ったかなの? 『精霊作成』にバグでもあったか?」
「もう馬鹿にして!」
完全に頭にきたのでまだ名前のない火の精霊っこを思いっきり「高い高~い」してやった。
「どうせ、幼女とぬいぐるみくらいしかまともに付き合えませんよ~だ!」
きゃっきゃっ、と喜ぶ火の精霊っこに、底知れぬ幸せを感じてしまうのは……、きっとありふれた父性に違いない。決して幼児趣味ではないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます