第28話 火の精霊と、とある疑問
そして、その日の夜は、お待ちかねの「精霊作成」。
にぶるのときとは違い、おかしな月も浮かんでいないので絶好の「精霊作成」日より。
場所は、にぶる同様、自宅の庭先。
魔王から採った微精霊でどんな精霊が作成されるのかわくわくが止まらない。
「次はどんなの子なのだ~? 楽しみなのだ~、楽しみなのだ~」
と、わくわくのあまり足踏みが止まらない、ぱんぴ~。
「お姉ちゃんと、にぶるで、十分、なの、――に~!」
と、なんでか頬を膨らませる、にぶる。
「ん~……」
そして、ここにも「精霊作成」のアプリ画面を睨みながら苦い顔をする幼稚園児がひとり。――セシルちゃんだ。
「ちぃと量が多いな」
「微精霊の?」
「左様」
「何か不都合が?」
「うんにゃ、悪いことは何一つない。ただ、この量だと一気に『中級』の精霊が出来てしまうのでな」
「いいんじゃないの?」
「火の精霊は二体でひと組が基本ぢゃ、二体いれば炎の精霊になれるからの」
……どういう理屈?
「それなら初めから炎の精霊を作ればよいのでは?」
「混色精霊は汎用性に欠ける。原色の六精霊を状況に応じて合体させ、混色精霊にした方が利便性は遙かに高い。ちぇ~んじ、なんとか~、って感じぢゃ」
「ちぇ~んじ、――何? 何それ?」
「まさかっ!! ゲッター○ボを知らんのか?!」
「知らん」
「これを知らんと上手い説明ができんのだが……」
「精霊はね、原色の子を合体させることで、色んな子に変えることができるのよ」
と、なんとなくわかりやすく説明してくれたのは、うちの母親だ。
「原色の六精霊とは『火』『水』『土』『風』『光』『闇』の6属性のこと。この六精霊が2人ないし3人で合体することで『炎』や『雷』『氷』や『霧』といった混色の精霊になるの。精霊学の基本だと思うんだけど……今の学校では教えてないのかしら?」
「精霊の属性は習ったけど……合体で混色の精霊ができる、ってのは初耳」
「あら? 『精霊合体』は必修じゃないの?」
「……『精霊合体』?」
なんとも男の子心をくすぐるワードではあるけれど、なまもので合体、となると、真っ先にぼくが思い浮かべたのは、女神が転生する、某有名ゲームのアレだ。
「え? それは……あれかな? 『今度ともよろしく』しちゃうと、もう元の姿に戻せなくなったり、合体に失敗したりするとスライムなっちゃうやつかな?」
「なにそれ、違うわよ」
くすくす、と母親に笑われた。
……よ、よかった。
「合体ですもの、当然、分離はできるわ」
「なら炎の精霊を作って分離させればよいのでは?」
「残念だけど、最初から混色の精霊だと分離はできないのよ。微精霊の集合人格――魂のようなものを二つ三つに分けることになるからね。『精霊作成』も『精霊合体』も、昔と違ってアプリ一つで事足りるけど、流石に魂までどうこうできないのよ」
「なるほど」
自然とぱんぴ~たちに目が行く。
「ぱんぴ~とにぶるも合体できるの?」
「基本は3人必要だから、水か土の精霊が、あとひとりは必要ね。ちなみに『水』『水』『土』で『沼』、『土』『土』『水』で『泥』の精霊に合体できるわ」
「火の精霊が増えたら?」
「そうね……にぶるちゃんと合体した場合『火』『火』『水』で『蒸気』、ぱんぴ~ちゃんと合体した場合は『火』『火』『土』で『岩漿』の精霊になるわ」
「おおっ! 色々やれることが増えそうだね!」
確かに原色の精霊の方が利便性は高そうだ。
「うん! 俄然、やる気になった! 早速、火の精霊を作ろう!」
「問題はどう配分するかぢゃな」
セシルちゃんが「精霊作成」の画面を睨み、うむぅ~、と猫のように唸る。
「折半じゃダメなの?」
「悪くはないが……それだと最低級の火の精霊が2体できるぞ?」
「何か問題が――」
はっ、と気づいた。
低級のぱんぴ~たちでさえ小学校に入学しているのかさえ怪しいロリっこなのだ。
最下級となったら、いったいどんな精霊が作られるのか。
はいはいか、よちよちか。
もしも赤ん坊のような精霊が作成されたら。しかも2体。
(戦闘どころじゃなくなるかも!?)
火の精霊のふたりをおんぶとだっこしながらゴブリンと戦う自分を想像した。
冷や汗が止まらなくなった。
戦闘中におしめを替えたり、ミルクを上げたり……。
さあ魔法を使おうって時に泣き出されたり……。
ゴブリンが邪魔で寝かせつけられなかったり……。
年の離れた妹の面倒を見たことがあるからその苦労が嫌というほどわかる。
育児という戦場に身を置きながら、ゴブリンとも戦闘なんて……冗談じゃない!!
何かのついでにできるほど育児は甘くないのだ。
「せっ、せめて1人は低級にしない?」
「それが良かろう。――では、ひとりはぎりぎり低級を維持できる最大量で作り、残りでもうひとりを作ろう」
「赤ちゃんとかできないよね?」
「さあな、ひょっとしたらそれに近しいものができるやもしれんが、どっちみちふたりでひとりなのだから、低級の方に面倒を任せれば良かろう」
「ちゃんと面倒を見られる子だといいけど……」
不安は果てしないないけど「案ずるより産むが易し」だ!
(――ええい、ままよ!)
アプリ上の「精霊作成」ボタンを、――ぽちっ! とな。
赤く輝く粒子が天の川銀河のように渦巻き、ふたつの人型を……人型を、
(……何か違うような……)
ひとつは確かに人型なのだ。しかしもうひとつは……ぬいぐるみの、熊?
「……」
「……」
「……」
ほどなくして赤く輝く粒子はふたつの影を残して弾けて消えた。
「……ゾ?」
5人の視線に迎えられ、愛らしく首を傾げたのは、やはり……というか、ぱんぴ~、にぶる同様のロリっこだった。
くせっ毛の強いぽわぽわの髪を綿飴のようなツインテールにまとめた女の子で、とんでもなく可愛い顔立ちで、ちょっとつり目がち。偏見かもだけど、気が強そう。
赤毛で、ポニーテールの先端をお洒落に暖色系の色合いでグラデーションしているのかと思ったら、本当に燃えていた。本人に慌てた様子がないから仕様なのだろう。
……それよりもだ。
ロリなのは百歩譲って「低級」だからで説明がつく。
しかし、しかしなのだ。
「……なんで下着?」
具体的には、キャミソールにペチパンツ。お外には出られない格好だ。
「今度の子は『テデイ』なのね、可愛い~♪」
「『テディ』?」
「キャミソソールとフレアパンツが一体になった下着のことよ」
「ふ~ん……」
どうでもいい。
それよりもいい加減、この疑問に決着をつけるべきだろう。
思い切って聞いてみた。
「ねぇ、どうしてぼくの精霊はみんは下着姿なの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます