第4-2話 vsゴブリン
セシルちゃん妖精と言い争っている間に、あっという間に半包囲された。
ゴブリン、ゴブリン、ゴブリンの汚き顔でできた壁が悪夢のように立ち塞がる。
「魔力全開ってどうすれば?!」
「内奥の魔力を解き放つのぢゃ! 『ク○リンのことか~!』みたいな感じで!」
例えはよくわからなかったがやってみた。
でろ~、でろ~、で出たから、今度はもっと強めに、でろや! って感じで。
「――っ!」
でた。
七色を帯びた何かが突風となって吹き荒れる。
「よし! 根切りにしてしまえ!」
とはいえ、どうしろと? 「死ね」と命じればいいのかな? かな?
「……む?」
迷っている間にゴブリンの団体さんの間に喧噪が広がる。
ゴブリンが動揺して――いや、違う。もっと剣呑な音だ。
ぎゃー、ぎゃー、と酷く五月蠅く……仲間内で罵り合っている?!
「――え?!」
唐突に仲間内での取っ組み合い争いが始まった。
初めは団体さんの一部だったが、見る間に団体さん全体に伝播して、殴る蹴る噛みつくだったものが、お互いに得物を持った殺し合いに発展していく。
ぼくは、完全に蚊帳の外だ。
「――何事?!」
「ゴブリン語はわからんが、大方、お主の魔力に恐れを成した個体が恭順を誓おうとして、それに反発した個体と争いになったのぢゃろう」
「んなっ、馬鹿な……魔力を全開にしただけなのに!」
「相対するものにとってはそれほど恐ろしい魔力だと言うことぢゃ」
最後には、ひときわ大きな個体と、満身創痍の数体の個体が残った。
このまま最後まで殺し合ってくれれば楽だが、そう上手くいくはずがない。
と思っていたら、ぼくをガン無視で「大きな個体VS満身創痍の数体」との事実上の決勝戦が始まり、最後には大きな個体が勝ったが、胸を短剣で貫かれていてすぐに死んだ。
ぼくは最後まで間抜けな傍観者のままだった。
「ぼく、なんかやっちましたかね?」
「厳密には何もしとらんな。魔力でとち狂って勝手に自滅しただけだしの」
「――このゴブリン、他の個体よりでっかいんだけど……突然変異か何か?」
「普通に、魔王ぢゃろ?」
「――え?!」
「ホブゴブリン・ソルジャー……量産型魔王ぢゃが、魔王は魔王ぢゃ」
「うっそ……」
何も手を下さずに魔王を退治してしまった……。
上手くいきすぎて怖い。きっとこれは夢に違いない。
だから、壁に頭突きしても、痛く……痛くない?! 本当に夢!?
ごぉん! ごぉん! とお寺の鐘みたいに突いてみるけど、
壁にクレーターが出来上がるばかりで、ちっとも痛くないんですけど!?
「何やっとんぢゃ? いきなり壁に頭突きを始めて」
「うぅぅ、痛くない! 痛くないよぉ~!」
「当たり前ぢゃろ? 魔力――」
セシルちゃん妖精が何かを言いかけたとき、ダンジョンの奥の方から、ずどどどどっ! と地鳴りを上げて何かが近づいてくる気配があった。
「何か来る!」
格好つけて言うけど、察しはついた。
このダンジョンで、こんな足音を鳴らして移動する魔物は1種類しかいない。
――オークだ!
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