第15話 次の精霊は?

 次の日。

 今日も今日とて快晴なので、屋上の貯水タンクの上で昼食を取る。

 今日のご飯は、御珠家特製のナポリタン。


「ふわ~」


 ナポリタンをフォークでくるくると巻きながら、春空の口から大あくびが溢れ出す。


「昨日は随分遅くまで灯りがついておったようだが精が出るの」


 麺の一本をちゅるちゅるとナビ妖精に喰わせながら、セシルちゃんが聞いてきた。


「なかなか切りの良いところがなくて……」


「よいよい、わしなんぞ、三年三ヶ月寝ずにやったこともある」


「流石にそれは無理っぽいけど……」


 ふぁ~、と大あくび。


「……今日はこれからどうしようか?」


 冒険実習をサボって昨日の続きをやりたい気持ちもある。だが、サボるのは何かと不味い。特に、母親。「サボる=不良」という認識でもあるのか、頑なにサボらせないのである。


「ぱんぴ~強化のためにゴブリン退治かな? 3日連続ゴブリン退治になるけど」


「一属性の偏重も悪くないが、まずは精霊を揃えた方が良いぞ? 戦術に幅ができる」


「お勧めは?」


「風の精霊ぢゃ、風の精霊は何かと便利使いできるから、1体と言わず、4体は欲しいの」


「でも、風の精霊を原材料にした魔物って……」


「鳥の魔物がそうぢゃ」


「鳥の魔物ぉ? ちなみに一番弱い鳥の魔物って?」


「大スズメぢゃな」


 春空の顔がてきめんに曇った。


「あの、デカい奴?」


 春空は前に大スズメと戦ったことがある。まだみんなに期待されていた高校1年のときだ。思い出すだけで冷や汗が溢れ出す。

 みんなに期待されて、調子に乗って、スズメだと侮って、いざ生息ダンジョンに行ってみたら、大岩ほどの大きさのスズメが数十もの群れをなしていたのだ。

 焦った、ただただ焦った。そして、一も二もなく逃げ出した。

 多くの生徒や先生は「しょうがない」と笑って許してくれたけど……。

 彼らの瞳の奥に、色濃い失望があったのを春空は見逃さなかった。


「すずめ怖い……」


 思い出した途端に震えがきて、春空はがらぶるふるえながら言った。


「はぁ? ハイエルフがスズメごときを恐れてどうするか!!」


「怖いものは怖い、……パスで」


「しょうのないやつだ。まあアレを当てにするにしても不安ではあるが……」


 ふたりの視線の先には、穴を掘るべく屋上のタイルと戦うぱんぴ~の勇姿があった。


「こんにゃろ! こんにゃろなのだ! ぱんぴ~の穴掘りを邪魔するなんて、ふてえ野郎なのだっ!」


 逆手に持ったスコップで、親の敵を滅多刺しするみたいに、タイルを叩き付けている。


「次のお勧めは?」


「水ぢゃな。解毒、回復、攻撃……、あらゆる点で応用が利く。ただ――」


「ただ?」


「――原材料持ちが『スライム』系ぢゃ」


「いいね、スライム!! スライム好きだよ、ぼくでも倒せるから!!」


「現金な奴め。本来のスライムはお前が考える何倍も恐ろしいというのに……、まあよいわ。どうせ、低級のダンジョンにいるのはちっこいのばかりだし、大事になることはあるまい」


「そ、そうだね……」


 何やら変なフラグが立ったな~、と春空は思ったが、とりあえず苦笑いで誤魔化した。

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