年明けガチャ

石動 朔

このガチャに俺の命運がかかっている

 毎年、年を越した瞬間にポストに投函される封筒にはその年1番の出来事が書かれている。


 ちなみに2023年の俺の1番の出来事は「失くした財布が戻って来る」だった。

 実際大阪で財布をなくし、1ヶ月後、丁寧に包装された状態で戻ってきた。


 それ以上も以下もなく、ただただ平穏な1年だった。

 この年明けガチャで、1年のなんとなくの運勢がわかる。神社のおみくじよりも当てになっていた。


 そして今、俺は目の前にいる彼女と年を越そうとしている。

 クールな目と落ち着いた性格で、付き合うまではそりゃあもう苦労したが、それを超えると今や俺が支えられているほどスパダリならぬスパヨメとなっている(まだ貯金が足らず結婚はできないが)


 自分が心配なのは俺なんかが独り占めして良い程の者でない彼女が、他の人に取られてしまうのではないかという心配だった。

 彼女の心の内はたまに読み取れないこともある。だからこそ年明けガチャで、「失恋」なんて出てしまったら、、と考えると今にも失神してしまいそうだった。


「年明けたよ」

「え!」

 テレビではハッピーニューイヤーの豪華な文字と共に、指揮者が大観衆の中何回も挨拶している姿が映されていた。

 まさか考え事をしている最中に年が明けてしまうとは、、

 元々年越しに興味のなかった彼女は、パジャマ姿で眠い目を擦りながら俺を見ていた。


 その時、玄関の方からノックする音が聞こえる。ついにこの時が来たと俺は思った。

 半同棲で住んでいるマンションだから1階の郵便受けに入れられると思っていたが、玄関の方へ行ってみるとどういう原理かわからないが靴を脱ぐタタキのところにそれは置いてあった。


 俺等は少しの間見つめ合い、息を飲んだ。

 俺の名前が書いてある方を拾い、彼女宛を渡した。

 意を決して開いた中にあった紙には、こう書いてある。


『(彼女の名前)は今年中に結婚をする』


 途端眼の前が真っ暗になった。

 俺は結婚のためのお金を今年中に貯めることはできない。つまりこの紙が意味することは、、、


「ねぇ」

 彼女が紙を見つめてつぶやく。

 俺は黙って、続きを待つ。


「さっき言い忘れたたけど、宝くじ一等当たったんだよね」

 そう言って澄ました顔をした彼女が俺に見せた紙にはこう書いてあった。



『サプライズプロポーズが成功する』

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

年明けガチャ 石動 朔 @sunameri3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ