第5話

 予定の時刻に目的であるロードシアの屋敷に到着し、中に通される。父親に連れられ、スクリアが対面したのは、先程の金髪の青年だった。

「おぉ、何と先程の青年がそうだったとは。挨拶もせずに失礼を」

 にこやかに挨拶する父親姿を、スクリアは目を細めてじっと見つめる。次いで、その視線はアメトリウスに向かった。

「先程ぶりです、アメトリウスさん」

「えぇ、助けていただき、ありがとうございました」

 まさか、見合いが嫌で逃げ出している最中であったとは言えないアメトリウスである。整った微笑みを、スクリアたちに向けるしかなかった。スクリアが唇を開くより先に、父親たちが「あとは二人で」だのなんだのと言って二人を部屋に置き去りにしてしまう。まぁまぁと乾いた笑みを浮かべながら、一方的に己が希望を押しつけて去っていく、こびりついた面の皮。彼女はそれを冷めた深緑の眼差しで見送った。応接間に残されたのは、二人と、壁際に控える女中のみ。静かな面持ちで紅茶を口にする彼女に、どうしたものかとまごつく青年。しばらくの沈黙の後、口を開いたのはアメトリウスの方だった。

「……しかし、驚いたな。君が、今日の見合いの相手だったとは」

「こちらも、まさかあの場に偶然、貴殿がいらっしゃるとは思っていませんでした」

 さて、どうやって断るかとアメトリウスが思考を重ねる。目の前にいる義眼の彼女に恨みはないが、彼は最初から見合いも婚姻もする気が無いのだ。どうしたものかと彼が思案していたそのとき、スクリアの方からその言葉は投げ寄こされた。

「貴殿も、私との見合いなど本意ではないのだろう。今のうちに、適当な断りの手紙など書かれては?」

 え、と乾いた音が整ったアメトリウスの口許から零れ落ちる。続けざまに、彼女は紅茶を飲み干してこう告げた。

「先程の様子を見るに、縁談が嫌で逃げ出していたのだろう? あの少年を助けるために飛び出して、目立ったことで家の者に見つかって連れ戻された。違うか?」

「それは……いや、参ったな。実際、その通りだ。父が勝手に話を決めてしまってね。だから適当に、ほとぼりが冷めるまで家から離れようとしていたんだが」

 長い髪に手櫛をかけつつ、アメトリウスは視線を他所へ向ける。その紫色の双眼を、スクリアが追うことはなかった。

「なら、この場は適当に済ませるといい。私の方も貴殿と似たようなものだ」

「あぁ、そういうことなら――」

 言いかけた言葉が、ぷつりと途切れる。妙な間に、彼女は訝し気に彼の方を見た。

「スクリア・エブロスト、一つ取引をしないか」

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