第20話 刻を奏でし鐘が鳴る

映画を見終わったその日の夜… 

真っ直ぐ二人で自宅へ帰り、大好物の《おジャガゴロゴロチキンカレー》と《大根と水菜のサラダ》をしこたま食べた華恋は、重くなった身体を引きずる様に歩きながらリビングのソファーまで向かうと、崩れる様にそこに座り幸せそうな笑みを浮かべていた。

一方太郎は、食べ終わった食器を台所の流し台に総て持っていくと…

「先にお風呂入ってくるから〜」

と彼女に伝えた。


すると…

「じゃ〜その間に(食器)洗っとくし〜♡」

「うん、ありがとうね♪」

何時もの様にそう返す華恋。

太郎もそんな彼女に感謝の言葉をかけると、そのままバスルームに向かうのだった。

それから…

太郎と入れ替わりに食器を洗い終わった華恋が入浴しボディケアを済ませた後、二人共向かい合ってリビングで腰を降ろすと、帰宅前に太郎が言っていた相談事の本題に入る事にしたのだった。


…だけどね…


その前に…

「…華恋さん…」

「ハイな♡♡♡」

神妙な面持ちで彼女に話しかける太郎とは対象的に、満面の笑顔で返事をする華恋。

「本題に入る前にパジャマ着ろうね…」

よく見るともの凄く気合が入ったセクシー・ランジェリーを枕を抱きしめながらわざとらしく隠し、他は何も羽織っていない。

ちなみに褐色の肌を最大限引き立てる純白のランジェリーである(汗)

「………何故に?」

「何故でも」

そんな彼女の姿を見て、いい加減目のやり場に困った太郎は、うなだれながらそう指示した。

「でもタッくん今夜は満月だよ♪」

オイオイ…


「それは関係ありません!それに今抱きしめているその《YES枕》も寝室に戻してきて下さい」

それでも敵もさる者というか…

さも当然の様に今夜が満月なのを強調し、トドメにそんな欲望丸だしな枕を抱きしめている華恋…

「え〜〜〜そんなのイミフだし〜(ウソ泣)」

「…華恋さん…《パーラー陽誉太(ぴよた)》の特製濃厚プリン…食べたくないんですか?」

「あーー!忘れてたし!!」

つくづく胃袋を鷲掴みされている(笑) 

 

彼女はそれを聞くやいなや慌てて立ち上がると、YES枕を抱きしめたまま自室に駆け込んだ。

そして…

「…華恋さん…」

「ハイな♡♡♡」

再び神妙な面持ちで彼女に話しかける太郎とは対象的に、満面の笑顔で返事をする華恋。

「それはパジャマじゃなくてネグリジェだと思うんですけど…」

「ウン♡」

「しかもおもいっきり透けてるし!それにさっきはブラをしてたと思いますけど!!」

確かによく見ると、さっきまでしてた筈のもの凄く気合が入ったあのセクシー・ランジェリーのブラを着けていない上に、それが解る位胸の先端が見えるシースルーのネグリジェに再び枕を抱きしめて太郎の目の前に座っている(汗)

「それはタッくんの気の所為だと思うし♡」

ちなみに絶対確信犯だと思う。

まぁ〜実際確信犯だけど(笑)

「……却下……」

だから静かに…

本当に静かにそう華恋に告げる太郎…

「え〜〜〜〜!!」

「ちゃんと着替えて下さい」

「ブーーーだし(怒)」

そんな抗議の訴えを頑なに否定する太郎に尚も食い下がる華恋。

だが!

「……いらないんですね…じゃ〜食べちゃいますよ」

伝家の宝刀を振りかざすと…

「着換えてくるし!!(汗)」

あっさり引き下がり自室に戻っていた(笑)


それから数分後…

「これで良い?」

今度は逆にlovelyなセキセイインコ柄のパジャマに着替えて太郎の向かいに座った華恋。

その顔は獲物を逃した獣の様に悔しそうだ。

でもそれを見た太郎はやっと本題に移る事にした。


「…では華恋さん、実は相談って言うのはですね…」

「実はマニアックな性癖を持ってるとか?」

何故いきなりそっちの話になるのだろうか?

と、おそらく太郎は思っているのだろう…

表情がそれを物語っている。


「…違います…」

「じゃ〜アレが大きいから入るか心配だとか?」

「…見た事あるんですか?」

「無いけど…う〜〜ん…女の勘かなだし♡」

おっと、またもや変化球の一投が投げ込まれた。

「…そうですか(怒)」

段々とリアクションをとるのに困り始めてきた太郎は、少しも本題に入れない事に段々と怒りを感じ始めている。


「それで…タッくん大きいの?」

「ノーコメントです!そうじゃなくてですね、相談と言うのは引っ越ししませんかの相談です!!」

※ちなみにコンパクトな体型の割に、結構凶悪なサイズの持ち主の太郎だったりする(笑)


「へ?引っ越し?」

それを聞いて驚く華恋に太郎は黙って頷いた。

やっと本来の話筋に戻っていったみたいである。

「まったく…本気でそっち系の相談だと思ってたんですか(汗)」

「ウン、マジでそう思ってたし♡だってさ〜タッくんてば一ヶ月以上も一緒に暮らしてるのに全然襲ってこないんだもん♫それに一人でしてる風も無いし…おリン達も特殊なフェチか趣味を持ってるかもってさ…」

「そ、相談したんですね…(汗)」

流石についていけなくなった太郎は少し後ずさり気味でドン引きしていた。

そんな太郎にお構い無しで話を続ける華恋…

「だってさ…」


【〜回想〜それはある日、暇な店内で繰り広げられた井戸端会議での事…】

「もしかして…極端な幼児愛好者(ロリコン)かも?」

by凛夜

「それかさ、NTR(寝盗られ)趣味が合ったりして?」

by茅野

「ん〜まさか、SM(倒錯的加虐被虐性愛)愛好者?」

by麻音

「あら、案外熟専(熟女好き)かもよ(笑)」

by冴子

…ちなみに何故かこの話題の輪の中に母親の冴子もいるらしい…(汗)

でも良いのだろうか?

実の母親が娘を不安がらせるのは…

しかも想い人の性癖に関する事で(汗)

よく見るとを華恋本人は、冴子のそのセリフを聞いて滝の様な冷や汗を流していた。

何故なら…

年齢もそうなのだが、母親と太郎の距離が《妙に近くねぇ?》ではないかと、前々から危機感を感じていたのである。

しかし当の冴子はというと…

実は、正直今だ二人の間に肉体関係が成立していないのが不思議でならなかったらしい。

特に華恋がである(笑)


「ゴホン!全部違います!!」

それを聞き、一旦咳払いをして総てを否定する太郎。

しかもちょっと強めにだ。

「な〜んだ〜良かったし〜〜♡」

それを聞き心底安堵した雰囲気の華恋。

どうやら内心引っ掛かっていたらしい(笑)


「あのね…(汗)まぁ〜その話は後で誤解だと皆さんに伝えて貰うとして…華恋さん、ちょっと尋ねたいんですが、3月に引っ越した先のアパートはどうなってるんですか?」

「ん?家財道具なら結構こっちに持ってきたけど、まだまだあるし…でもなんで?」

それを聞いて確認した太郎は、数枚の紙をテーブルに置いて華恋に提示した。

「実はこのマンションを管理している不動産屋の店長さんから提案されたんですが、何でもここの最上階にあるルーフバルコニー付5LDKの部屋が空いてるらしくて、《そっちに移ってみませんか?》と言われたんですよ」

そう言いながら彼は指で1枚目の紙を指差した。

そこには今二人が住んでいるマンションの全体的な景観の写真が載っている。

【築20年セキュリティ付自動ドアのエントランス】

【一階と二階はワンルーム】

【三階は2LDK〜3LDKS】

【四階はテラスor小さめのバルコニー付4LDK】

【五階はルーフバルコニー&ウッドデッキバルコニー付5LDK1戸のみ】

※10年前にマンション外装リフォーム済


店長曰く…

なんでも前の入居者がこの土地とマンションのオーナー夫妻だったらしいのだが、けっこう御高齢の為親族と相談した上で、医療機関と併設している九州の有料老人ホームへ入居する事にしたらしい。

結果、五階が空き物件になったのだが、管理運営販売は不動産屋に委託・一任する事が決まり…

それならと鬼無里と親交がある店長が《フィアンセがいるなら近々結婚するだろう》と勝手に思い込み、太郎に話を持ちかけた次第なのである。

勿論先々子供が出来た時の事も考えてだ。

と、まぁ〜最後付近のくだりは彼女には秘密だったりするが(笑)


「え♪でも…家賃とか凄〜く高いっしょ?」

あくまでも外観のみでの感想なのだが、確かにそう思わざるを得ない位高級感がある。

「まぁ〜確かに高いのは確かですが…華恋さんが向こうで払っている家賃と自分が払っている家賃の事を考えたら払えなくはないのかな〜って思いまして…」

「どの位なん?」

「え〜と、これを見て貰えれば…自分は今この位払ってますので、これに華恋さんが払ってるいる家賃等を足したと仮定して貰えれば…」

太郎はそう言いながら懐から一ヶ月平均で割り出した家賃や水道光熱費等の支出を記した明細書を取り出し華恋の前に置いた。

「フムフム♪」

「ちなみに駐車場代や管理費、共益費、ルーフバルコニーの使用費を含めての家賃提示です」

「月々…ねぇねぇ何気に安くない?これなら二人が払ってる家賃とかを足したよりもかなりお得だし…あ、もしかしてあの店長さんかなりサービスしてくれてるかもだし♪」

「やっぱり華恋さんもそう思いますよね…でもこれなら購入価格からボーナス払い無しで算出しても月々この位払っていくと約15年で完済できますよ」

するとそんな何気にサラッと流した太郎のセリフを聞いた途端、突然華恋はこれでもかという位目を見開き驚くように叫び立ち上がった。


「!!ちょ、ちょい待つ…し…タッくん…それって…」

「え…まぁ〜その……つまり…そういう事ですけど…」

「なに!ちゃんと言うし!!こういうのはちゃんと言わないとダメなんだし!!!」

怒りにも似た華恋の非難の声…

しかし褐色の顔を真っ赤にして銀髪をなびかせる彼女目には、何故か大粒の涙が浮かんていた。

「…そうですね…確かに華恋さんの言う通りですね」

そしてパニックになりながらも溢れる涙を手で拭う…

そんな華恋の姿を見た太郎は、微笑みながらも意を決したかの様にゆっくりと立ち上がると、彼女の前に片膝を立て膝まつき、その顔を見上げた。

「…(泣)…」

「本来なら…色んな過程や段階を順に踏んだ上で言うべきなのは解っていますが、あえて言われせて下さい…華恋さん、自分なんかが相手でも構わないなら結婚しませんか?」


それは太郎が今言える精一杯の言葉…

それは焦りやその場の勢いで発したものでもない…

それは自ら貼ったレッテルを剥がせるだけ剥がした…

それは彼が示した彼女への本気の気持ち…


奇しくもその想いは、祖母が言っていた…

あの日の…

あの言葉…

あの想いと酷似しているのかもしれない。


すると…

「コラ!タッくん!!《しませんか?》じゃなくて《しよう》だし!!!」

予想していなかった彼女の言葉がそこにはあった。

「あ、ごめん(汗)」

「謝る無し!!じゃなくてもするに決まってるし♡」

「ありがとう♡」

「お礼なんかいらないし〜〜嬉しいし〜〜泣くし〜〜もう〜ナイトケアし直しだし〜〜責任取れだし〜〜あ〜何言ってるか解んないし〜〜(号泣!)」

「…本当にありがとう♡」

「だからお礼言うなし〜〜♡♡♡」

怒りながら…

泣きながら…

そしてまとまりのないセリフを言いながら太郎に抱きつく華恋…

それをしっかりと優しく受け止める太郎…


…この瞬間…


二人で紡ぐ刻の羅針盤…

その針が歩むべき路を指し…

二人の砂時計かゆっくりと季節をきざむと…

その耀が足元と道標を照らすのであった…


【P・S】

それとこれは本当に余談なのだが…

その後泣き疲れてナイトケアをし直す途中で寝てしまった華恋と…

血圧爆上がりの中、缶酎ハイ大3本で思いっきり潰れてしまった太郎…

まぁ〜本来ならこの後、ケダモノ様に盛り上がりまくるであろうエキサイテな夜を迎える筈なのだが…

しかしこんな感じなものだか、ら当然そのイベントがある筈も無く…

そのまま目覚まし時計が鳴り響くまで爆睡していた二人なのだった(笑)



…続く…











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