第19話 それはデートの帰り道

流れ星が走り出す

今宵の空は賑やかに

漆黒の闇が二人を照らす

今宵の空よ賑やかに


流れ星よ起こしておくれ

闇に隠れる神々を

星座に例えし神々を


闇夜に怯える二人のこころ

魔夜に凍える二人のこころ

救っておくれ煌めきよ


目覚めを伝えて流れ星

今宵の空よ踊っておくれ

流れ星が紡ぎ出す

星の祭りを始めておくれ


流れ星よ

流れ星…

貴女の合図で始めておくれ



「お母さん、その歌は誰に教えてもらったの?」

「お母さんのおばあちゃん♪つまり貴女の曾おばあちゃんよ」


【ナレーション】

息を呑む位に星々達が夜空を照す…

今日という日は特別な日ではないのだ。

しかしこの親子にとってはとても大切な記憶の1ページになっていた。


既に人類の歴史が終わりを告げて数ヶ月…

荒廃した大地に残されたこの親子の様に…


今宵…

天を仰ぎ、様々な想いを巡らせる者達が一体何人いるのだろう?

それでも星の歴史はまだ続く…

人成る者が滅びても…


星の歴史は続くのだ…

すれ違う多くの流れ星はそう告げている様だった…


〜fin〜


「ウゥゥ〜(涙)ラスト本気マジパネェだし〜!もう〜泣くし〜〜(号泣)」

映画館の暗がりの中、結構後ろの座席でハンカチを握りしめながら滝の様な涙を流す華恋と…

「ウンウン(涙)」

コンセッションスタンドで買ったホットチリドッグのあまりの辛さに滝の様な涙を流す太郎(笑)


まだまだ夜になっても蒸し暑い九月初旬…

残り一週間と迫ったコンテストに出展する作品が無事完成した華恋に《映画が観たい》とせがまれた太郎…

仕事終わりで良かったらと言ったもんだから、早速その日の夜にと約束を取り付けられていた。

二人は会社の近くで待ち合わせし、そのまま映画館で上映されている【ラスト・サマー・レイン】という映画を観に来ていたのだった。


「あ〜〜見れて良かった♡」

パンフレットを握りしめ、いまだ映画の余韻に浸る華恋…

「華恋さんこれからどうします?久しぶりに外食でもする?」

そんな彼女に微笑みかける太郎…

「ん〜〜タッくん昨日カレー仕込んでたじゃん、やっぱそれ食べたいから帰るし♡」

「了解♪」

まぁ〜こんな感じていつの間にか距離が縮まったこの二人…

実はここまでの一ヶ月半弱…

それはまさに怒涛の日々の連続だったのだ。



以前にも話したが、あの日食事の後に商店街まで買い物をしに出かけた二人は、それはまぁ〜男衆からのやっ込みと嫉妬、はたまた羨望の眼差しで羨ましがられ、奥方衆からはお人形さんみたいな娘をGETしたんだと驚き喜ばれ、中には嬉しさのあまり薄っすらと涙を浮かべる老夫婦の店主までいる次第だった。


そんな光景が、今年の三月にこの町に引っ越してきたばかりの華恋にとってとてもまぶしく、また普段の太郎の人柄が出ているからこその光景だなぁ〜と改めて実感していた。


特にこういった下町の気さくな人同士の繋がり等、TVドラマの中だけでしか知らないし、正直憧れていた華恋…

そんな意外とレトロな雰囲気も好きな彼女にとって、このシチュエーションがウザいとか思うどころか堪らなく嬉しくてしょうがなかった。


更に…

「ここ…パラダイスじゃ〜ん♡」

昭和初期から続くここ《紐釦屋はいからさん》…

この店の前で足が止まった華恋が中を覗いた途端、彼女の目は、お目当てのお人形を見つけた幼児の様に輝やいていた。

「おや御嬢ちゃん、こんな古臭い紐釦屋ボタンヤを気に入ったのかい?変ってるね〜♪」

「だって〜♡こんなに沢山の種類見たの初だし〜♪」

「そうかいそうかい、じゃ〜ゆっくり見ていっておくれ♪」

「はいな♡」

お客の気配を感じたのか、店の奥から顔を出す店主の奥さん《琴代》おばぁちゃんは、華恋のそんな元気な返事に目を細めて喜んでいた。

その後職業柄なのか、単なる趣味なのか解らないが、しこたま店内を散策し、トレイ一杯に色んな種類のボタンを乗せていた。

太郎はカウンターに出してもらっていたお茶を

飲みながら、そんな光景を眩しそうに眺めている。


そして在庫の事やオリジナルのボタンの事等、華恋は買い物をしつつ色々と質問した後…

「はい、ありがとうね〜」

ちょっぴり小ぶりな和紙の紙袋に彼女がチョイスしたボタンを入れて渡す琴代おばぁちゃん。

「琴代ちゃん、今度は友達連れて来るし〜♪あ、その時は布生地も選ぶし〜♡」

「そうかいそうかい♪土日以外は何時も開けてるから気軽に寄っとくれ」

そう言葉を交わすと満足気に店を後にする華恋だった。


更に更に…

朝の出勤時の受付ブース前…

「お〜山田課長♪」

不意に背後から呼び止められた太郎…

振り返ると、そこには今日もダンディに決めている我社の名物社長が秘書を連れて笑顔で立っていた。

「あ、猫丸社長おはようございます」

「課長、本部長から色々聞いてるが、仲人の相談なら喜んで引き受けるからな、何時でも言って来なさい♪ハハハハ♡」

…どう〜も本人同士の預かり知らぬ所で何かが勝手に進行しているらしい(汗)

「………はい〜〜?」

上機嫌でその場から立ち去る猫丸社長の後ろ姿を見送りながら、太郎の脳裏には何故か鬼無里の菩薩の様な笑顔が浮かぶのだった…


更に更に更に…

ある日、珍しく実家の母の着信番号が携帯のディスプレイ画面に表示された太郎。

何事かとロックを外すと…

「どうしたの?かぁ………」

「太郎!アンタ今同棲してるんだって!!」

…開口一番、いきなりそんな怒鳴り声が携帯の向こうから聞こえてきた!

「………え?」

思わず思考が停止する中…

「こんなチャンスは二度と無いんだから絶対逃がすんじゃなかよ!!」

流石母親、下手したら一生息子が結婚できないだろう事を熟知している…

方言混じりのそのセリフは、かなり真剣な願いなのだと伺えた。

「そ、それよりも誰から聞いたんね!」

「紗和子よ紗和子!」

思わずつられ無意識に故郷の方言が出てしまった太郎は、何処からこの事が漏れたのか尋ねると…

『あの娘は………(怒)』

ついこの間こっちで開催される推しのアイドルイベントに参加する為に顔を出した受験生姪っ子だった(汗)

※オイオイ…


以前からお小遣いをせびりにちょくちょく顔をだしていたのだが、今回はタイミングが最悪だった。

何故なら自宅にやって来た際、丁度残業で帰宅が遅くなった太郎の代わりに、先に帰って来ていた華恋が玄関のドアを開けたからである!

結果…

いつもなら事前に来る事を連絡する筈の紗和子が太郎が帰って来た時には既に部屋にあがり、目の前で二人してギャルトークに花を咲かせていた…

しかも何気に盛り上がってる(汗)

その日紗和子には重々含みを持たせ、賄賂まで持たせて帰らせた筈なのだが、もうバレていた(笑)

まぁ〜そんなこんなな出来事もだが…


それ以上に太郎が改めてさせられる事があった。

それは華恋の姿勢である。

見た目やその言動、リアクションだけで言えば必要以上な偏見にさらされ誤解される事だろう…

太郎自身も年齢的な差もあるだろうが、正直そんな偏見や誤解が心の片隅に無かったと言えばウソになる。

要は多少色眼鏡で見てしまっていたのだ。

しかしこの一ヶ月半弱…

華恋は仕事から帰って来ると、夜遅くまで部屋に籠もってコンテスト用の作品製作に没頭していた。

その集中力たるや凄まじいものだ。

それでも料理以外の家事は手を抜かず逆に精力的にやっていたし、食事も太郎と向かい合ってきちんと食べている。

勿論仕事の方もダラけてなんていない。

また深夜…

様子見がてら太郎がミルクティーを差し入れすると嬉しそうにしていたし、時々お互いの昔話なんかに花を咲かせていた。

そしてそれでも無事コンテストに間に合う様に作品を仕上げたのだった。

それが二日前の事である。 


そして… 

最初は見た目のコンプレックスと恥ずかしさ、歳の差等を言い訳に、一緒に出掛ける事に凄く抵抗があった太郎だが、今では二人こうして肩を並べて普通に歩いている。

ちなみに交代制での週休二日な華恋の職場…

折しも明日は二人共休みが重なっていた。


【太郎や…一緒に暮らしてみて初めて解る素顔もあるんだよ】

そんな逢瀬の帰り道…

太郎はふと、幼い頃祖母と二人縁側で涼んでいた時に言われた言葉を思い出していた。

その時は何の事だか解らなかったし、何があってそんな事を自分に言ったのかももう記憶に無い。

ただ親同士が決めた相手とろくすっぽ顔を合わせることも無く祝言を挙げた経緯があった祖母だからこそ、当時何かあった時にそんな言葉を自分に投げかけてくれたのだろう。


不器用で無口だが、実直で働き者の祖父…

一見取っ付きにくくて頑固そうな怖い顔をしている祖父だが、本当はとても優しく、祖母に何かあった時は何を差し置いても直ぐに駆けつけ側に寄り添う様な人である。

だからこそ言えるあの日の祖母のその言葉…


そして今になってこの言葉の意味を痛感する太郎…

すると…

「華恋さん、帰ったら相談したい事があるんですが」

「?なんか改まってるし…難しい話なん?」

「いえ、難しい話じゃ無いのは確かですよ(笑)」

「じゃ〜聞くし〜♡」

前々からある事を考えていた彼は、意を決して今夜華恋に話そうと決心するのであった。


「あ〜もしかしてエッチ〜事〜?だったら何時でもウェルカムしょ♡」

「あのね〜違いますってば(汗)」

そんな華恋のツッコミに顔を真っ赤にする太郎なのだった…



…続く…













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