第18話 交差する関係者達の想い
その日の夜…
「男と女の関係って《偶然と打算と必然の産物じゃん(笑)そんなものだよ》って秀幸のやつ言ってただろう?」
「まぁ〜そうだけど…さ…」
ここは鬼無里夫妻の自宅マンション…
溶けかかった氷が軽く音を奏でながら少しだけ崩れると、グラスの中に満たされていただろうウイスキーの琥珀色に染まっていく。
冴子は涼の言葉を黙って聞きながら、それをじっと眺めている。
そして向かい側のソファーに座り同じ様に酒を酌み交わす鬼無里夫妻に、ポツリと溜息混じりでそんな事を呟いた。
実は太郎の上司でもある鬼無里涼は…
太郎自身には《理由は敢えて聞いていませんが》と言っていたのだが、本当はある程度の事は事前に華恋自身から聞いており、色々と今後の事の相談を受けていたのだ。
だから今回母親にナイショでこんな大胆なリアクションを取った華恋の為、冴子を自宅に呼び、妻である薫と相談の上で少しだけ聞いた話の内容をぼかしながら彼女の説得を試みていたのだった。
「あのね、貴女が
空になった夫のグラスにウイスキーを注ぎながら、沈み込む冴子に向かって薫はそんな言葉をかけていた。
「自分もそう思いますよ…恐らくですが、彼女は色んな意味で自分の本気を見てもらいたいんじゃないですか?」
そう言葉を足し促す涼…
そんな二人は華恋本人から…
何がきっかけで…
何をもってして、そこまで太郎に固執するのか聞いていた。
そしてそれが今回のコンテストに挑む自分自身にどんな弊害をもたらしているのかも聞いている。
要は彼女の一目惚れらしい…
何気に薫が《何処に惚れたの?》と尋ねたら《何処なんだろう(笑)》と笑いながら首を傾げていた。
つまり何処と特定出来ない位好きなのかもしれない。
確かにきっかけは些細な偶然と、どうしょうもない空腹せいだ(笑)
しかしそれでも…
見た目とか…性格とか…
良い所とか…悪い所とか…
歳の差とかも…
そんなのどうでもいい位独占したいらしい。
だからなのか日に日にそんな感情が強くなる反面、離れていると仕事も目標も段々上の空になっていく自分が解る…
それじゃダメだと思ったそうだ。
結果…
【うん♫離れているのが良くないなら、近くにいればいいじゃん♡】
という答えにたどり着いたらしい。
なんというか短絡的というか、華恋らしいというか…
それで今回こんな大胆なリアクションで太郎を困惑させているのだった。
「そうそう♡その上で貴女に認めて貰いたいんじゃないかしら?」
そんなフォローもしっかりと忘れない薫♪
流石あの本部長の妻君である♡
「…でもね…華恋はそうだとしても、肝心の太郎君はどう思っているのかしら?私から見たらあの娘の気持ちに対して真剣に向き合おうって姿勢がいまいち感じられないんだけど…」
そこは痛い所をついてくる冴子。
実際そうなのだろう…
「あ〜確かにそれはあるわね…」
薫自身、はたから見てもそう感じてしまっていたらしく、そこは口どもってしまった。
「でしょ〜」
そう言いながらグラスに残ったウイスキーを飲み干す冴子。
「ん〜やっぱりあれですかよ…あの年齢になるまで他人から《純粋な想い》ってものををぶつけられた事が無いんでしょうね…だからそれを自分が持つコンプレックスにすり換えて信じていない…」
おそらく確実に当たりである。
「容姿とか体型とか?」
「後、社交性や内面的なものにも…でしょ?」
他の二人も彼の憶測に同意した。
確かにそうなのだ。
太郎は《高校・大学》と親元を離れて寮で暮らしていた。
それまで片田舎の農村でのんびりと生活をしていた彼にとって、寮暮らしとはいえ初の大都会での生活…
見るもの知るもの総てに彼は唖然となった。
それに自分とは真逆の人々と接する機会が多くなる事で、カルチャーショックというか、容姿を含め自分とのあきらかなギャップにすっかり萎縮してしまったのだ。
それでも勉学に勤しみ経済学科を卒業したのだが、その間も萎縮感は拭いきれず自分を卑下したまま現在に至るのであった。
まぁ〜社会人となってからは、幾分そんな傾向も緩和された太郎…
だが根っこの部分でまだまだその感があるからか《俺みたいに都会に馴染めなくて頼りないデブでチビな男を好きになる変わり者なんていない》と自ら決めつけているのである。
だからだろう…
華恋の自分に対するリアクションに対して、あんな中途半端な態度を取っているのだ。
「真面目なんですけどね〜仕事はできるし、性格も悪くない、からかいがいもある…お酒は嗜む程度で酒癖も悪くないし、それこそ変な素行の悪さも見当たらない…」
「あら涼、太郎君って煙草やギャンブルはやんないの?」
「そうみたいだけど」
『『なんか…変にマニアックな性癖とか持ちあわせてるんじゃないの…?』』
それで今まで浮いた話しの一つも出ない事に、よからぬ妄想がフルスロットルで加速する冴子と薫(汗)
「ほら確か…彼料理が趣味だろ?なんでも味覚が変になるからって吸わないらしいよ、それにパチンコや麻雀、競輪競馬なんかも何が面白いのか解らないって言ってたな〜」
どうやら二人の妄想は希有らしい(笑)
「あ!もしかして…二次元にしか興味が無いとか…」
そこで薫は、はたと思い当たる事を口走った!
痛車の件もそうだが、太郎が妙にそっち方面にあかるい傾向が見受けられたからだ。
しかし…
「いやいや(笑)確かに漫画や小説とかは好きみたいだけど、本人曰く《たまに姪っ子(さわこ)に誘われてコミケとかに顔を出す程度らしいよ♪」
そういう事らしい…
実は太郎の故郷には、農業を営み生計を立てている祖父母や両親の他に、実家を継いだ姉夫婦と華恋の一つ下で受験生の娘が一緒に住んでいたのだった。
その姉夫婦の娘 《紗和子》が漫画やアニメを好きらしく、コミケに行く際、時々太郎をボディガード替わりに付き添わせているのである。
そんな会話を三人でしている時…
薫から空になったグラスに新しくウイスキーをロックで作ってもらっていた冴子は、それを今度はイッキに飲み干した。
そして意を決した様に立ち上がり、握り拳を作りながらこう宣伝するのだった。
「……よし決めたわ!結果はどうあれ、やっぱりあの娘の思うようにさせてみる♪だってここで反対しても絶対に聞く様な娘じゃないしね!!」
「まぁ〜そうだわね♡兄貴もそうだけど、冴子も頑固だし、その二人の娘なんだからそうじゃない訳ないもんね(笑)」
ここでもうお解りだろう…
華恋の実の父親は、なんと薫の実の兄 《武川秀幸》なのである!
ちなみにこの事を華恋は知らないし、冴子も言う気は無かった。
勿論当然籍も入れてはいない。
それについては、ちょっとばかり色々と訳ありだったりするからだ。
※その辺は後日改めて書こうと思う…
「薫!アンタね〜(怒)」
「そう言えば…秀幸の奴は今何処にいるの?」
「あ〜アイツね、二年位前だったかな…中東辺りのTV中継中に偶然映り込んでたけどさ…今は知らないわ」
「あ〜あ、なんか相変わらずだね(笑)」
「…バカよ…アイツ…ホントにバカ!あーーなんかムカつくわ!!」
最後は冴子のぶちギレ気味なセリフで幕引きとなったこの宅呑みは、いつの間にか華恋本人の話から秀幸という彼女の父親の話にすり変わっていた。
…結論…
・今回の華恋の暴走行為は不問にする。
・無責任な行為に至っても自己責任。
・避妊をするかしないかも然り。
・太郎に関しては今後も要監察。
以上になったのだった♪
…続く…
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