第12話 母として、経営者として

その日の昼食後…

太郎は鬼無里と共にELITE日本支部に向かう途中、第二営業部の面々に、携帯で個別にある指示をメールした。

そして…

華恋を介してブティックの店長であり彼女の母でもある冴子にもアポイントをとってもらていた。

その後…

鬼無里が無事ELITEとの契約書交わすと、一人その足でそのままブティック《HANAKO》に顔を出すのだった。


ただ…

ね…

「出会って数十日しか経っていない貴方に娘を嫁がせるわけにはいかないわよ!!」

「へ?」

華恋達からSTAFFルームに誘導されるまま、中に入るなりにこれである(汗)

開口一番冴子からあらぬ疑いをかけられ頭ごなしに怒られた太郎は、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

「だから!貴方にはまだまだ聞きたい事が山の様にあるの(怒)それに百歩譲って交際位なら認めてあげても良いけど、あくまでも百歩譲ってであって…」

「ちょ、ちょっと待って下さい!何か勘違いされてませんか?」

いまだ一方的に捲し立てて話す冴子をなだめる様に太郎は彼女の話を遮ると…


「え?だってわざわざ華恋を通してアポイントとったんでしょ?だからてっきり…その話だと…違うの?」

「ハイ(汗)」

言いたい事を言ったからか、少しだけ冷静になり始めた冴子は、辛うじて太郎のセリフに耳を傾け始める。

それを確認して安堵するも束の間だった。

「華恋!そこに隠れてんでしょう!出てきて説明なさい!!」

「ハイハイ、でもママ…」

いたんだ…

しかもドアの所に…

渋々返事をしてドアを開き中に入ってくる華恋だが、入る早々なにかを反論しようとした。


しかし!

「お店では店長!」

再び冴子には怒られる華恋(汗)

そして多少不貞腐れながら反論し始めた。

「(怒)ハイ店長、お言葉ですが〜確か私は《タッくんからアポイントを取って欲しい》と頼まれたって伝えただけじゃなかったでしょ〜か?」

「!!」

…形勢逆転である…


「他は何も言ってないし〜」

「…そ、そう言えば〜そうだったわね…ごめんなさいもう仕事に戻っていいわよ…ただし!盗み聞きはNGだから!!」

思い当たるフシがあるのか?

冴子はバツが悪そうな冷汗を一筋流しながら、華恋に売り場に戻るよう促した。

辛うじて威厳を保つ為、一言注意を添えてだ(笑)

「ちぇ〜!ハ〜イ…」

不満そうな顔をしながら指示に従う彼女だが、それでも太郎に投げキッスとウィンクを忘れない所はさすがである。


「ゴホン!お騒がせしてごめんなさい、それで…御要件は何かしら?」

「あ、ハイ…実は…」

一度咳払いをしながら冷静さを繕う冴子は、太郎にソファに座る様促すと、自分も彼の向かい側に座り本題に入った。

そこで太郎も今回の一連の案件を最初から事細かく彼女に説明し始めた。

そして時間を掛けて詳しく経緯を聞いた冴子は、納得した様に頷きながら口を開いた。

「…成る程…それでコスプレイベントの主催者にツテがあると踏んだ訳ね…」


そうなのだ。

実は彼…

昨夜店内を珍しげに見渡した際、壁に様々なコスプレイベントの告知ポスターが貼ってあったのが目が止まっていたのだった。

それをふと思い出した太郎は、なんの確証も無いにも関わらず冴子に今回の話を持ちかけたらしいのだ。

「ハイ、こちらとしてはコスプレイヤーさん達の協力のもとモーターショーを盛り上げたいと思っています」

「………」

「勿論こちらから配布する規約さえ守って頂ければ、ロビーを開放しますので即売会会場として使用して頂いても結構です♪ただしブースごとの設営に関してはサークルの責任において取り行って頂きますし、違反者はその場で退場して頂きます」

「主催者へのメリットは?」

「それもこちらが配布する規約さえ準じて頂ければ本来イベント主催者に請求される会場使用料等、原則無料に致しますしイベント宣伝用の告知ポスターやCM料金も勿論無料にさせて頂きます」

「………」

「ただ…参加サークルに関しましてはイベント主催者の方で厳選して頂ければ助かりますが…」

「それで結果利益が出た際の報酬は?」

「それは《主催者》《メーカー》《我が社》での会議を踏まえた上で取り決め、各サークル代表にその旨を通達する方向でどうでしょうか?」

「…了解したわ、いくつか信頼のおけるイベント主催者に話を持ちかけてあげる」

「ありがとうございます!!」


ここまで話の中で…

冴子は太郎がいざ仕事になる際の、営業マンとしてのプレゼン能力の高さに感心し…

太郎は太郎で、冴子の経営者としての才能と目に見えない経験値に警戒心を抱いていた。


そして…

「ところで…つかぬ事を聞くけど…貴方、私が一体何者でどんな女か知ってるかしら?」

「え?それは…華恋さんのお母さんで、このお店のオーナーという事しか…スミマセン、自分…ファッション関係には疎くて…勉強していません…」

すると突然太郎としては予期せぬ質問を冴子から投げかけられた。

だからなのか、何時もならしない言い訳を、思わず口にしてしまった。

「そうみたいね、だったら自分のコンプレックスを言い訳の材料にせず勉強なさい、それはきっと貴方の糧になる筈だから♪」

「ハイ!」

《迂闊だった…》

太郎はそう反省せざるを得なかった。

何故ならそれが咄嗟に出てしまった言い訳だと見抜かれたから…


一方冴子は…

『成る程こういう男なのね…まぁ〜悪くはないわ♪』

そんな太郎と直接対峙し話をして、色々と得るものがあったらしい…

どうやら悪い印象を少しは払拭したようだ。


その二日後…

太郎は鬼無里に明言した通り、ちょっと厚めの企画書と詳細を記したデーターを提出した。

そして翌週…

各メーカー側の担当者達と冴子がチョイスしたコスプレイベントの主催者を交えて、猫丸社長、鬼無里本部長、山田課長との間で綿密な打ち合わせが行われたのであった。



…続く…

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