第11話 猫丸社長の無茶振りと鬼無里本部長からのヘルプ

猫丸産業の精鋭部隊である《第二営業部》では…

朝礼前の約十五分間、太郎に対し濃密な取り調べを行い、素早く報告書をまとめ本部長に提出していた(笑)

その流れる様なアクションに、他の部署のメンバーも【流石〜】と讃え、称賛の拍手を送っている。



そしてその日のお昼休み…

朝礼前のあのドタバタがウソの様にスムーズに進んだ第二営業部…

その辺の切り替えは見事としか言いようがない。

そんな皆は早田と北都、太郎の三人以外昼食を取りに外へ出ていった。

つまり残った三人はお弁当組である。


ここで余談なのだが、既婚者である早田と北都がお弁当なのは解るが、何故独身の太郎までお弁当なのか?

答えは至極簡単の事だったりする。

彼は洗濯や掃除は苦手だが料理は何気に得意…

というか、むしろ大好きだったりするからだ♪


…以上、では話を戻そう…


「あら課長、今日はお弁当じゃないんですか?」

何時もならもう机の上には見慣れた弁当バックが置いてある筈が、何故か今日は置かれていない事を不思議に思った北都は、何気にそんな質問をした。


すると…

「いや、弁当は確かに持ってきたんだけど…さっき本部長からお昼誘われてね、ちょっと今から行ってくるよ」

と、いう事らしい。

そう言いながら珍しく嫌そうな顔とまでは言わないが、変な笑い顔を浮かべていた。


「あらあら」

「そうだ、北都さんこれ食べる?」

ご愁傷さま的な表情を浮かべる北都。

ちなみに早田は内線が掛かってきたので受話器を取っている。

「また課長〜♪折角ですが私まだ恨まれたくありませんから(笑)」

「え?」

そんな太郎の申し出を北都は謎の理由で、しかも満面の笑顔で断った。


そしてゆっくりとある場所を指差す北都と…

「課長〜♪」

彼を呼ぶ早田…

太郎はその指差す先に目線をむけると、何故か早田が受話器を自分の方を向けてニヤニヤしていた。

そしていきなりスピーカーモードに切り替えると…

【タッく〜ん、私以外にやろうとするなし(怒)】

数時間前に聞いた筈の声が聞こえてきた(汗)

「え、え?」

「多分…今受付にいらっしゃいますよ♪」

ニヤニヤが止まらない二人…

「!!」

リアクションに困った太郎は、取り敢えず薄ら笑いを浮かべると、速攻で受け付けまで駆けつけたのだった。



…その後…

ここは《麺屋・タケ》♪

鬼無里と太郎のいきつけのうどん屋だ。

少し遅れはしたのだが、何とか彼と合流した太郎は、

立ったまま何時もの《ケツネ(要はキツネ)うどん+カシワおにぎり》を注文すると、失礼と思いつつも小さく深呼吸をして向かい側の席に座った。


「どうかしたの?」

そんなやつれた表情の太郎を心配する鬼無里…

実はあの後…

受け付けまで全速力で駆けつけた太郎は、何故華恋がまた会社に来たのか尋ねた。

すると華恋いわく…

「連絡先の交換忘れちったの思い出したら♡」

だそうだ(笑)

その時、自分が手ぶらだったのと上司を待たせているのを思い出した太郎は、再び第二営業部まで走って戻ってくると、華恋に理由を話し素早く連絡先を交換し、食べそこなったお弁当を彼女に渡すと、この店まで走って来たのだった。

要は走りずくめということだ。


「いえ…所で本部長、2ヶ月後に開催されるモーターショーの件なんですが…」

鬼無里の指摘に慌てて話題を変える太郎。

実は昼食に誘われた際、太郎は鬼無里にこの話題を振られていたのだった。

「おや♪もしかして社長の無茶振りを叶える何かが閃いたかな?」

鬼無里は太郎がこういう時に面白いアイデアを出すのを知っていた。

だから食事に誘ったらしい。


実は幹部達が集まる今朝の定例会議の時、猫丸社長から…

「2ヶ月後に行われる恒例のモーターショーなんだがな…ど〜も去年辺りからマンネリ感が漂ってると思わんかな?」

と、溜息混じりで変な問いかけが出てきたのだ。

『は〜?またこの土壇場でそんな事を言う?!』

え〜と…

誰が聞いても解るだろうが、この呟きは役員全員の総意である(笑)


ちなみに時々思い出したかの様にこの手の無茶振りをするのが猫丸社長の必殺技だったりする(困)

しかも《ナイスミドルな恐妻家》というお茶目なキャラなものだから、みょ〜に憎めない上に、副社長時代大手企業との契約が九分九厘決まっていたのにも関わらず《うちの社員の事を馬鹿にした!》と言う理由で契約を破棄し相手を怒鳴り散らかしたという武勇伝があるのだ。


それ自体時期経営としてはどうかと非難されたのは当然だか、当時周りの役員からも責任を取って進退を決めなければならないのではとの声も上がっていたらしい…

そんな中、ある日フラ〜と営業部にやってきてその馬鹿にされた社員を引き連れて、その大手企業のスポンサーとなっている親会社に出向き、なんと別件で大口契約を取ってきた挙げ句、その親会社の担当窓口をその社員に任せたのだった。

その時一言…

「君になら任せても大丈夫だから後ヨロシク♪」

と笑いながら言ったらしい。

結果その一年後、例の大手企業のお偉方達の首が全員一新されたそうだ(怖)

そんな性格&無茶で突拍子もない事をしでかす社長は、今もこんな調子だからか、何だかんだ言って社員に愛されているのだった。

※ちなみにその馬鹿にされた社員というのは、この定例会議で一番頭を抱えている現専務だったりする♪


「え〜ご要望に添えるかどうか解りませんが…確か《マンネリ感を払拭する様な何かがないか》でしたよね」

「そうだけど…」

「でしたらいっその事コンパニオン・ガールの人数を極端に減らしてみませんか?」

すると太郎は、なんというか鬼無里が予測もしない斜め上の提案をしてきた。

「ん?その真意は?」

「本部長は《痛車》ってご存知ですか?」

「あ〜知ってるけど…」

そう、あの推しのキャラを車体全体に表現した例の車である。

余談だが、昨今そのニーズは右肩上がりに増加していた。


「でしたらマンネリ気味なイベントブースを無くしてそこに痛車コーナーと、コスプレ好きの有志を集めてミニ撮影会も同時開催してみるのは如何です?」

要はモーターショー&コスプレイベントのコラボを提案しているのだ。

実はこのアイデアは、華恋が勤めるブティックへ行った際、取り扱っている商品や壁に貼られていたコスプレイベントの宣伝ポスターがヒントになっていた。

それと太郎自体、昔よくコミケ等に行って売り子の手伝いをさせられていたせいか、そっち方面も結構詳しかったりする。


「ホ〜♪面白いね♡でも客層に隔たりが出るかもしれないけど、その辺はどうフォローする?」

「撮影会はあくまでも展示されている車を利用するコンセプトでなら、SNSなんかで拡散されてそのメーカーの宣伝にもなりますし、それ以上に事前告知やCMの影響で来場客の年齢層も幅が広がって、広く購買意欲を求められるかもしれません」

「…つまり客層に隔たりが出るかもしれないのをあえて無視するかわりに専門知識を持つ人員を増員して各メーカーに隔たりを補ってもらう…結果的に長い目で見て経費節減にもなる…か」

「コンパニオン・ガールの様なプロを利用するのではない…あくまでもコスプレイヤーは素人ですし来場客もマナーが悪い者が出てくるであろう怖さはありますが、その辺は来場規約の事前配布等内容を密に取り決めてこちらで対応すると…」

確かに割と高額なコンパニオン・ガールのギャラを抑える事ができる。

確かに通信広告費・印刷費等はその分上がるが、三日間に渡る大勢のコンパニオン・ガールのギャラに比べれば是非もない事だ。


「勿論必要以上に露出が過激なコスプレは禁止等コスプレイヤーの方にも規約を設けて…だね」

「ハイ、明日のELITEとの契約が済み次第こちらで本格的に取り掛かれば何とか間に合うかと…」

「イベント性も上がる…か…解った、帰社次第社長に進言してみるから正式な企画書を明後日までに…持ってこれるよね課長」

色々詰める部分はあるものの、鬼無里はそのアイデアなら社長の無茶振りも解消出来ると踏んだ。


ただそんな思いつきから始まった企画をたった一日半でまとめ上げる事が出来るのか、普通なら誰もが危惧するのだが…

「勿論了解です♪」

これが太郎が課長に抜擢された理由の一つだ…

確かに多少の無理はするものの、彼の《了解》は《出来る》と同意語である。

しかもほぼ完璧にだ。


画して社長の無茶振りから始まったモーターショーの《企画やり直しプロジェクト》は、今切って落とされたのだった!



…続く…

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