第18話 武の神フツヌシの愛
そしてアダマンタイトブレードを手にして、僕は家族とともにエンターレ旅行を終えてグリーンティアの自宅へと帰った。
水中探索や鍛冶や色々新体験ができて実り多い旅行だった。
でも色々あって疲れたし、明日からまったり日常に戻ろう。
帰り着いた日は家族全員お疲れモードでだらけていたが、次の日からは早速日常に帰還。サリア母さんは魔法店の商品を作り、シュターク父さんは素材を採りに行き、妹のクラリアは元気に遊び。
僕は――。
「ヤーッ!」
素振りをしていた。
せっかく作ってもらったアダマンタイトブレード。
これを重すぎるからってことでそのままにしとくわけにはいかない。
しっかり稽古をして、まともに扱えるようにならなきゃ宝の持ち腐れ、猫に小判、馬の耳に念仏、あとなんかその他諸々だ。
「ヤーッ! ……おっとととっ」
力を入れて素振りをしたら、体が剣に持って行かれて前のめりに転びそうになってしまう。この剣本当に重たい。単なる質量以上に振る時の抵抗を感じるほどだ。
これが伝説の剣の重みってやつなのかな、と思いつつ、下半身に力を入れて、重心を安定させて再び素振りをする。
「98……99……100! ……っはー、疲れたー!」
素振り1万歩のなんてとんでもない。
100回でも全身汗だく、腕はプルプルになってしまった。
恐るべしアダマンタイトブレード。
「まあ、僕も鍛えが足りないか」
神の力を使いこなすための練習はしていたけど、体は鍛えてなかったからなあ。ちょうど良い機会だし、体力もつけよう。
それから僕のアダマンブレード生活が始まった。
毎日朝起きたらアダマンブレードで素振り。
昼になったらアダマンブレードで素振り。
夜は早く寝なさいと言われるので布団の中で素振りのイメージトレーニング。
三日経ったら手にまめができて、十日経ったら全身筋肉痛で、一ヶ月経ったらどっちもなれてきて。
調子に乗って素振り回数倍増したらまたどっちも再発して。
そしてひたすら剣を振ること三ヶ月の時が過ぎた……。
「ヤーッ! ……よし」
力一杯踏み込んで素振りをしても、体が持って行かれない。
素振りも一日100回といわずもっとずっと多くできるようになってきたし、着実に力はついている。
剣を振るうのも疲れるよりも楽しくなってきた。
このままさらに稽古をして剣と魔法のどちらもやれるようになっていきたいね。
「さてもう一振り」
アダマンブレードを構えて……「ヤーッ!」振り下ろ――瞬間、光が天より差し込んだ――すと、刀身が輝き剣先から衝撃波が放たれ、前方にあった低木を刈り取った。
え? と思っていると、体が昔から知っているように、動き、縦一文字の素振りから流れるように横薙ぎ、切り上げ、袈裟斬りの四連続攻撃を行ってしまった。
「こ、これは……」
もう一度アダマンブレードを振ると、再び蝶が舞うような華麗なコンビネーションをしてしまう。
「剣の神様の力を手に入れてしまった……!」
ずいぶんいきなりだ。
その割には3ヶ月間特に何も起きなかったし、どういうタイミングでおきるんだこの現象は。
神様によって違うのかもなあ。
毎日剣の練習をしているから、よし一つ神の力をやるかって思ったのかもしれない。今神様の力が欲しいと願ったわけじゃないし。
まあ、いずれにせよもらえたものは大事に使わせてもらおう。
アダマンブレードを自由自在に使えたら楽しいしね!
「……………………」
そんな僕の剣技を物陰からじっと見つめる姿があった。
「精が出てるなあ! 父さんと手合わせしないか?」
僕が素振りをしていると、シュターク父さんがスタスタと近づいてきた。
ひょっとして前から見ていたんだろうか?
「父さんと? ええー絶対負けるじゃん。剣士なんだし」
「負けを経験して強くなっていくもんだ。……それに、案外やってみるまでどうなるかわからないだろう。そら!」
シュターク父さんは木剣を僕に向かって投げてよこした。
そして自分も木剣を構えている。
うーん、これはやるしかないのか。
なんて、むしろあの力がどれくらいかはかるいいチャンスだ。
シュターク父さんは元冒険者の剣士で、今も剣一本で野生の獣を倒しながら素材を集めている人だし。
僕は木剣を拾い、両手で握りしめる。
「じゃあ行くよ父さん!」
「ああ、来い!」
僕は木剣をまずは横一文字に振るう。
シュターク父さんは体を横に向けつつ、木剣のへりで軌道をそらせて回避する。
でもそれで終わりじゃなく、地面を蹴って体を回転させながら斬りあげる。
シュターク父さんは軽やかな足さばきで最小限の動きでそれもよける。
と次はシュターク父さんの反撃が来た。
勢いのいい上段からの振り下ろし。
僕は身をかがめながら、思いっきり後ろに跳んでそれを避けるが、さらにシュターク父さんの追撃がくる。
さっきよりも小さい幅で素早い振り下ろし。
まともに受け止めては力負けしてしまうが、僕は自然と一番軽い場所――剣の先端部分を強くはじいて軌道を反らせて回避した。
お互いの剣が弾かれ、体が開く。
同時に体勢を崩しながらも相手の胸に向かって木剣を突き出し、ピタリとそこで剣を止めた。
………………。
しばしの静寂。
…………………………。
「はっはっはっは!」
それを破ったのはシュターク父さんだった。
「やっぱり凄いな俺の息子は!」
ぐしゃぐしゃと頭を荒っぽく撫でてくるシュターク父さん。
なんだかめちゃくちゃ上機嫌だ。
「最近剣の練習を結構してただろう? 父さんもちょっと教えたり、見守ったりしてたからわかるが、最近一気に動きがよくなったよな。リイル」
「ああ、うん。実は――」
「神様の力、か」
僕は頷いた。
「お前はこーんなちっちゃい赤ん坊の頃から、なぜか神様に愛されて神様の力を手に入れちまう体質だからなあ。多分これは、武の神フツヌシ様の寵愛ってやつだな」
「武の神フツヌシ……」
「ああ。剣技や武道に弓術……まあおよそ武術を志すものなら、皆があがめる神様だ。父さんも子供の頃道場の師匠に連れられて一度神殿に行ったことがある」
父さんは昔を思い出すように、しばし遠くを見つめていた。
が、再び僕の方に顔を向けると、膝を折って頭の高さを僕にあわせる。
「リイル、お前はアカディウスの学院に行け」
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