第17話 鍛冶の神ヘパイストスの愛 2

 僕が鍛冶のハンマーを鍛冶の神ヘパイストスのハンマーにパワーアップさせるのを見て驚愕するガンツ。

 声が裏返るほど驚いちゃってる。


 ……って、そりゃ驚くか。

 9歳の子供が神のハンマー作ったんだから。


「なんというか、僕はいろんな神様の力を使うことができるんです。それで水の神様の力で水に潜ったり、鍛冶の神様の力でハンマーをパワーアップさせたり。魔法みたいだけど魔法じゃないちょっと魔法な力って感じです」

「いや全然意味分かんねえよ……いやお前がただ者じゃないってことは少なくともわかった。アダマンタイトは手に入れるは、神の鍛冶用ハンマーを再現するは、やりたい放題すぎるだろ。まったく、とんでもないガキと知り合ったもんだな」


 驚きあきれた表情で、ガンツは僕を見つめる。


「だがまあ、とんでもないことは嫌いじゃねえ」

「やっぱり。ガンツさんはそういってくれる人だと思ってましたよ。それで、このハンマーならアダマンタイトを鍛えられそうですか?」

「誰に言ってるんだ? こちとらお前より小さい頃から鍛冶場に出入りしてたんだ、耐えられる道具さえありゃどんなもんでも鍛えてやるさ! やるぞ! てめえら!」


 ガンツは弟子二人とともに剣作りを始めた。


 っていうか弟子今までどこにいたの?

 気配に全く気づかなかった。一流のアサシン並の気配のなさだ。


「ずっと見ててもそんなにすぐには完成しねえぞ。明日また来い、完成した剣を見せてやる。ま、見学したいなら飽きるまでいていいけどな」

「だいたい見たから帰ります。じゃあ」

「っておい! 0秒で飽きるんじゃねえ! ここは喜んで仕事を見るところだろうが!」

「あはは、ジョークですよジョーク。しばらく見学させてもらいまーす」


 剣作りなんて珍しいしね。

 アダマンタイト関係なくても見てたら面白い。


 コーン! 


 ハンマーを振るうと、驚くほど澄んだ音が響き、青白い火花が飛び散った。


「これが鍛冶の神ヘパイストスの力か……今ならとんでもない剣が打てる……打てるぞ!」


 興奮した様子で、一心不乱でヘパイストスのハンマーを振るうガンツ。

 僕はその剣作りの様子をしばらく見学させてもらった。




 そして翌日、剣はそろそろ完成しているだろう。

 僕は再びガンツの鍛冶場へとやってきた。


 入り口に近づいただけで、コーン! コーン! とハンマーの澄んだ音が聞こえてくる……あ、音が止んだ。


「こんにちはー……」

「っふう……おう、アダマンタイトのガキか」


 ハンマーを手に持ったガンツが、鍛冶場に入ってきた僕に振り返った。

 目には隈ができていて疲れた様子だが、しかしその双眸は爛々と輝いている。

 めっちゃハイだ。


「ちょうどできたところだ! 見ろ!」


 ガンツが手の上に乗せて僕に見せたのは、薄紅色の刀身を持つ細身の剣。

 僕は剣に詳しいわけじゃないけれど、それでも薄刃とは思えない迫力を感じる。


「これが」

「ああ、アダマンタイトの剣。アダマンブレードだ。振ってみろ」

「ハイ! …………お、重っいっ!?」


 渡された瞬間、ずしりと前に倒れかけてしまった。

 大型の剣でもないのに、見た目とは桁違いの重量感だ。


「ははは、しっかり腰をいれろ! 並の金属じゃねえんだぞ。密度も規格外よ」

「す、すごいなあ」

「ま、しっかり稽古してまともに振るえるようになりな。剣は飾り物じゃねえ。使ってこそだ」

「はい! ……あれ、ガンツさんの分のアダマンタイトはどうしたんですか?」


 たしか半分こしようって言ってたはずだけど、何を作ったんだろう。いや、とっておいてまだ加工してないのかな?


「何言ってるんだ、アダマンタイトは全部そいつにした」


 ガンツは顎で僕がなんとか持っているアダマンブレードを示す。


「えっ……ええ!? それじゃ全部これに? それを僕がもらうんじゃ悪いですよ」

「別に俺は剣士でもなきゃ宝石コレクターでもない。俺がアダマンタイトが欲しかったのは、それで何かを打ちたかったからだ。つまり、こいつを作った時点で俺の目的は達成されてるんだよ」

「そうは言ってもこんな貴重なものだと……」

「うるせえ! ガキが大人に遠慮するんじゃねえ! 馬鹿みたいにわーいって喜んでりゃいいんだよ」


 ガンツはそう言って僕の胸をとん、と押した。

 ……そうだな、それが一番か。


「わかりました。だったら、ありがたくもらっちゃいます!」

「おう、それでいい」

「そのかわり、この剣をしっかり使えるところをいつか……いや近いうちに! 見せますね」

「わかってるじゃねえか。鍛冶屋の一番のツボは、自分の作ったもんをしっかり使いこなすのを見ることだからな」


 僕はアダマンブレードを鞘に大事にしまう。


 これまでは魔法のような神の力の練習ばかりしてたし、ちょうどいい機会だ。剣と魔法のファンタジーの世界に転生したなら、やっぱり剣も使わなきゃもったいないもんな。

 明日から素振り1万本だ!


「ありがとよ、リイル。神の金属アダマンタイトで鍛冶をするっていう長年の鍛冶屋の夢がお前のおかげで叶った」


 鍛冶場を出る際に、ガンツがぼそりとそういった。

 僕は手を高く上げて大きく振ってこたえながら、鍛冶場を後にする。

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